穴の上に少し草が被いかぶさっていたが
それをどかして仕掛けを垂らす。
まずはタモロコ、モツゴがかかる。クチボソと
呼ばれる奴ら。そしてなぜかそれらの後に釣れ始める
タイリクバラタナゴ。
そこに1台の軽トラが来てじいさんが二人乗っている。
じいさんの割には口調がしっかりしている。
「メダカか?」
「いえ、タナゴです。」
「バラが結構居るだろ?」
「そうみたいです。」
「(大きく頷いて)アカヒレ(在来種)もここにはいるよ。」
「そうなんですか?」思わず声が弾む。その素堀りの水路を
指して「そこが残ってるからな。」
そう言って走って行った。
その後、バラタナゴのフィーバーが始まって
1時間ほどで40匹ぐらいがバケツに収まった。
静かで、何にも聞こえない。お茶を飲み、おにぎりを
三つ食べる。
バラタナゴは釣れるけど…。
もしかしたらおじさん達はウソをついている。
始めにメダカか?と聞き、タナゴと答えさせる。
そうすると在来種はいないこの場所に留めさせる。
おじさん達にもタナゴ釣りの趣味があるのか
行政の人でパトロールをしているのか。
他所から来た者に可愛い土着の貴重な魚を根こそぎ
獲られて持っていかれるのは許せないと。
陽が傾いた頃、もう一度そのおじさんと軽トラがやって来て
今度は何もいわずに車も止めずにちらっと見て
走り去った。 確認かな…。
霞ヶ浦まで来て湖を拝んでいない。
川でダメなら本湖の船着き場でやってみようと
思っていたが、でもアカヒレタビラが本当だとしたら…と
手を替え品を替えしてみたが、その都度タイリクの
フィーバーが始まるのだった。
あと、30分で陽が暮れる。この小さいマスの中に
本当に在来種がいるかどうか調査しよう。
「びんどう」の中に練り餌を入れて静かに沈める。
ペットショップに流したり、ネットで売る為に
獲り子と呼ばれる人達がこういう方法で魚を
一網打尽にして持って帰る。
私程度の知識と観察力で見つけられるポイントからは
とっくの昔に持っていかれている。
結構澄んで見える水中のびんどうの中に魚たちが
入っていく。そのびんどうのまわりに集まって来る
バラタナゴがまたハリにかかる。
おしまいにしよう。
びんどうをゆっくりと上げて
一匹たりとも死なないように傷つかないように
丁寧に一旦バケツに移して手のひらに乗せ
一匹一匹確認して行く。その入った数100匹は下らない。
でも、すべてのタナゴはタイリクバラタナゴであった。
無事、みんな生きて穴の中へ帰っていった。
竿をたたんで片付けている所へ
犬の散歩のおじさんがやって来た。
「こう寒けりゃ、何にも喰わねっぺ。何釣れたぁ?」
「バラタナゴです。結構釣れましたよ。」
「ああ、タナゴかぁ。ここは川いじってまっすぐに
してからダメだよなあ。隣の何とか川の方が
本タナゴはいるんじゃねえかなぁ。」
本タナゴとはマタナゴつまり在来種の事である。
「埼玉から来て、よっぽど好きなんだなぁ(笑)」
いろいろ情報を教えてくれたが、今日の所はもう
おしまいである。また来て探そう。
次に楽しみが延びたって事だ。
イチという名の犬で、おじさんが呼ぶと
「こら、イヅ、 いぐぞ、イヅ。」となる。
イチという名前の犬であるが、私たちが「イチ、」と
呼んでも自分が呼ばれているとは思わないかも知れない。
でも茨城でも、犬は普通に ワン と鳴く。