-写真の部屋-

奥野和彦

線路ぎわの作業場

2019-09-12 23:59:49 | 写真


長良川の強い流れの中から
鮎やアマゴを引き抜く
強さと粘りを持った郡上竿は
江戸の、粋でお洒落な遊びの為の
江戸和竿とは違って
実用本位の漁のための道具であった。
カーボンの竿が出来て、竹竿よりずっと軽くなり
魚は養殖技術が上がって安く安定して
供給されるようになったから
川の漁師も、古来からの竹竿も、無くなっていき
郡上でその竿を作る人はもう1人しかいない。



私達が昼過ぎて1時前に
開け放した作業場に着いた時
福手さんは
多分そんな風なんじゃ無いかと思った通りの姿で
リクライニング椅子に横になっていた。
車が着いても特に立ち上がるでもなく
ちらっとこちらを見てちょっと座り直したぐらい。
作業場の目の前に線路と国道があり
その向こうには長良川が流れる。



こんにちは、昨日お電話しました。
アマゴの塗り竿を見せてもらいに来ました。
5m前後のものはありますか?
てな感じで話が始まる。

おー、そうか、エサ釣りのでええかな。
ここにこれぐらいあるが、気にいる物があるかな。
と言って、何本か継ぎ始めて
持たせてくれる。



どんな所で釣りをするのかと
郡上弁で聞かれて
土地の事だと思って、埼玉の川です。と
うっかり答えた。
それは、広い川なのか、狭い川なのか
開けた場所なのか、生い茂った場所なのか
それを聞かれたのだとあとで分かった。
それで、薦める竿を判断してくれるのだろう。
しかも、埼玉じゃなくて栃木の川だし。



土間から座敷に上がるカマチに
5mとマジックで線が引いてあり
そこに竿を置いて
「ほい、ここが5mや。ちょっと越すぐらいやな」
と竿の長さの説明。
一本一本しなりも、バランスも違うので
やはり実際に手に取ってみないと分からない。
そして、それはそれで迷ってしまう。
みんな、いい。
施された簡単な装飾も少しずつ違う。

次男も持たせてくれと振ってみたかと思うと
車の中からいつものカーボン竿を出して来て
それと比べてみたりしている。

ほほう、どや、違うか?
とおじいさんはニコニコしている。

最初に継いでもらった竿が
しっくり来たのでそれに決めると
穂先を2種類付けてくれる。さらに、
この竿にしか合わない穂先があった筈と
もう一本、束の中から見つけ出して
それをその場で余っていた竹に桐棒で栓を付けて
穂先ケースにして添えてくれる。



遠い所からお出でてくれて
ワシも85や。
いつまで出来るか分からんし
まぁ大事に使うてよ。
調子悪くなったらパイプに入れて
送ってくれたら見るから。

思い入れて物語的に考えれば
そこで何か託された様な気がしたし
そこに自分の息子が立ち合った事も
何かの縁のような気もするし。
したかった一つの事が叶えられた。

この季節、釣竿作りはせず
福手さんは天然鮎を釣り人から買い取って
料亭や全国に出荷する仕事をメインにしているので
埼玉へのお土産に鮎を買って帰ろうとお願いしたら
鮎が集まって来る(持ち込まれる)のは夕方で
翌朝までに出荷してしまうので日中は無いそうだ
鮎も、電話した時に頼んでおけば良かったが。



秋になったら値も下がるから
注文してくれたら送るよと
名刺をくれた。
そして工房を後に車を出す時には
継ぎを抜いてバラバラになった竿を片付けながら
軽く手を振ってくれた。
お元気でまだまだ頑張って下さい。

さあ、もうワンチャン。
あと一時間ほど郡上竿で
郡上の川を釣って
本当の郡上釣りをして帰ろう。



那比川

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