好きな音楽をただ語れ(4) 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」
by |2015-01-27 23:54:21|
好きな音楽、というか映画のお話です。
「ベルリン・天使の詩」「時の翼に乗って」「パリ、テキサス」などの作品で知られるヴィム・ヴェンダース監督の映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が公開されたのは1999年のこと。
ヴィム・ヴェンダース監督の作品は前述の3作しか観ていませんが、この映画はそれらの作品とは趣を異にする音楽ドキュメンタリー。
監督の友人でギタリストのライ・クーダーがプロデュースを手掛けたアルバム『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の世界的ヒットを受けて制作されました。
映画の舞台はキューバ。
自国でも既に忘れられた存在となっていたミュージシャン達を再び見出し、そして呼び覚ましたライ・クーダー。
彼と老人達によるセッションやインタビューの光景を挟みながら、カメラはキューバの路地を淡々と映し出していきます。
音楽の素晴らしさは言わずもがな、「パリ・テキサス」に勝るとも劣らない映像美には感嘆するばかりです。
埃っぽい日常、虚ろに剥げた塗装、愛すべきラテンアメリカ。
ラストは夢の舞台、カーネギーホールにおけるコンサートの模様です。
リードヴォーカルは、2005年に他界してしまったイブライム・フェレール。
音楽から身を引いたのちライ・クーダーに「発掘」されるまでの長いあいだ、彼は靴磨きなどをしてささやかな日々を送っていました。
張りのあるスモーキーな歌声は彼の人生そのもののように切なく心を揺らします。
紅一点(だったかな?)、バンドの花はオマーラ・ポルトゥオンド。
キューバの歌姫は80代の半ばを迎えた今なお現役で歌手としての活動を続けているとか。
近年の映像を観ましたが、とても可愛いお婆さんです。
でっぷりと太った身体に往年の力は感じられないものの、艶のある歌声は健在。
「女は女である」というのはジャン=リュック・ゴダールの映画タイトルですが、彼女もまたいくつになっても女性であることを表現し続けたいという強い意志を感じさせる真のディーヴァだと思います。
それからそれから、ピアノを担当するルーベン・ゴンザレスの哲学者めいた佇まい、小枝のように細く長い指が紡ぐ流麗な旋律。
彼こそは、僕にとってのこの映画のハイライトです。
オマーラ同様、カッコ良く歳を重ねている感じがたまりません。
その他のメンバーも皆強い個性と確かな表現力を存分に発揮し、若い世代を凌駕する熱いパフォーマンスを繰り広げます。
ところでキューバ起源の音楽と言えば、マンボやチャチャチャ、サルサなどが有名ですが、それらに共通するルーツが19世紀に生まれたとされる「ソン」と呼ばれる音楽形態です。
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が演奏する曲も殆どがソンで、パーカッションを多用しながらも、例えばブラジルのサンバやジャマイカのレゲエなどのような陽気さ、思わず踊り出してしまわずにはいられないような軽さよりも、何処か哀切な響きを持つメロディラインが際立っています。
まあ、ブラジル音楽はラテン音楽ではないという向きもありますが、同じラテンアメリカ音楽の中では、タンゴなんかの方が近しい雰囲気を有しているかもしれません。
リズムは違えど、物哀しいメロディは何処かソンに通じるものがあるような気がします。
映画作品に話を戻すと、ドキュメンタリーにありがちな退屈さは正直否めません。
キューバ音楽に愛着を覚えることが出来れば良いのですが、そうでない方には厳しいかも知れませんね。
その意味では、アルバムを先に聴くべきか映画を先に観るべきかというのは愚問でしょう。
嫌いな人はどちらも嫌いだろうし、好きな人はきっとどちらも好きだろうから。
日々衰えてゆく身体に嫌気が差すこともありますが、歳を取らなければ会得出来ない味わいもあるわけで、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』はそんな僕に素敵な老い方なるものを提示してくれる確かな教本のようであります。
若くてカッコ良いのは当たり前の話。
人の真価は老境に達した時にこそ問われるのではないでしょうか。
素敵なお爺さん、お婆さんになるためのヒントが散りばめられた映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。
特に中年以上の方にオススメしたいです。
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「ベルリン・天使の詩」「時の翼に乗って」「パリ、テキサス」などの作品で知られるヴィム・ヴェンダース監督の映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が公開されたのは1999年のこと。
ヴィム・ヴェンダース監督の作品は前述の3作しか観ていませんが、この映画はそれらの作品とは趣を異にする音楽ドキュメンタリー。
監督の友人でギタリストのライ・クーダーがプロデュースを手掛けたアルバム『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の世界的ヒットを受けて制作されました。
映画の舞台はキューバ。
自国でも既に忘れられた存在となっていたミュージシャン達を再び見出し、そして呼び覚ましたライ・クーダー。
彼と老人達によるセッションやインタビューの光景を挟みながら、カメラはキューバの路地を淡々と映し出していきます。
音楽の素晴らしさは言わずもがな、「パリ・テキサス」に勝るとも劣らない映像美には感嘆するばかりです。
埃っぽい日常、虚ろに剥げた塗装、愛すべきラテンアメリカ。
ラストは夢の舞台、カーネギーホールにおけるコンサートの模様です。
リードヴォーカルは、2005年に他界してしまったイブライム・フェレール。
音楽から身を引いたのちライ・クーダーに「発掘」されるまでの長いあいだ、彼は靴磨きなどをしてささやかな日々を送っていました。
張りのあるスモーキーな歌声は彼の人生そのもののように切なく心を揺らします。
紅一点(だったかな?)、バンドの花はオマーラ・ポルトゥオンド。
キューバの歌姫は80代の半ばを迎えた今なお現役で歌手としての活動を続けているとか。
近年の映像を観ましたが、とても可愛いお婆さんです。
でっぷりと太った身体に往年の力は感じられないものの、艶のある歌声は健在。
「女は女である」というのはジャン=リュック・ゴダールの映画タイトルですが、彼女もまたいくつになっても女性であることを表現し続けたいという強い意志を感じさせる真のディーヴァだと思います。
それからそれから、ピアノを担当するルーベン・ゴンザレスの哲学者めいた佇まい、小枝のように細く長い指が紡ぐ流麗な旋律。
彼こそは、僕にとってのこの映画のハイライトです。
オマーラ同様、カッコ良く歳を重ねている感じがたまりません。
その他のメンバーも皆強い個性と確かな表現力を存分に発揮し、若い世代を凌駕する熱いパフォーマンスを繰り広げます。
ところでキューバ起源の音楽と言えば、マンボやチャチャチャ、サルサなどが有名ですが、それらに共通するルーツが19世紀に生まれたとされる「ソン」と呼ばれる音楽形態です。
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が演奏する曲も殆どがソンで、パーカッションを多用しながらも、例えばブラジルのサンバやジャマイカのレゲエなどのような陽気さ、思わず踊り出してしまわずにはいられないような軽さよりも、何処か哀切な響きを持つメロディラインが際立っています。
まあ、ブラジル音楽はラテン音楽ではないという向きもありますが、同じラテンアメリカ音楽の中では、タンゴなんかの方が近しい雰囲気を有しているかもしれません。
リズムは違えど、物哀しいメロディは何処かソンに通じるものがあるような気がします。
映画作品に話を戻すと、ドキュメンタリーにありがちな退屈さは正直否めません。
キューバ音楽に愛着を覚えることが出来れば良いのですが、そうでない方には厳しいかも知れませんね。
その意味では、アルバムを先に聴くべきか映画を先に観るべきかというのは愚問でしょう。
嫌いな人はどちらも嫌いだろうし、好きな人はきっとどちらも好きだろうから。
日々衰えてゆく身体に嫌気が差すこともありますが、歳を取らなければ会得出来ない味わいもあるわけで、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』はそんな僕に素敵な老い方なるものを提示してくれる確かな教本のようであります。
若くてカッコ良いのは当たり前の話。
人の真価は老境に達した時にこそ問われるのではないでしょうか。
素敵なお爺さん、お婆さんになるためのヒントが散りばめられた映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。
特に中年以上の方にオススメしたいです。
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