化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

原油高直撃の航空業界

2008-06-12 | 石油
国内出張で乗る機会は程ほどにあります。しかしここ数年は海外出張からはとんと遠ざかっているのですが、飛行機の話題にはなぜか関心があるものです。

飛行機はジェット燃料、いわゆる灯油と同じ燃料で飛びます。なぜにガソリンを使わないのか? 自動車の燃料タンクスペースは限られているので、同じ体積でなるべく発熱量の大きい燃料が都合が良い。これに対して、飛行機は空を飛ぶので重さの軽い燃料、つまり重量あたりの発熱量の大きい燃料が好ましい。というわけで、自動車はガソリン、飛行機はジェット燃料なのです。

そのジェット燃料ですが、当然ながら昨今の原油高騰のあおりを受けて価格が大幅に上昇しています。それによって、航空会社は収益の悪化が著しいそうです。
以下は、NYTの記事からです。

8年前なら航空運賃の15%が燃料代だったものが、今は40%に跳ね上がっているそうです。燃料価格の高騰で、911以降搭乗者数は減っているのに燃料費は大きく増加しているとのこと。当然航空会社としては燃料費を減らす方策をあれこれ採っている。とにかく機体の重量を軽くする方法です。

機体の汚れを落とすためジェットエンジンの水洗頻度を上げる。(洗車のようなものでしょうか)
トイレ用に積み込む水を減らす。トイレに行っても水が出ないと困るのですが、通常は満タンの50%から75%くらいしか使われないのが実績だそうです。

座席を軽量なものに変える。ついでに多くの乗客が乗れるように座席の間隔を狭くしている、かどうかは知りません。
飲み物を缶入りからコップに注ぐように変更する。

古い機種を飛ばすのを止める。古い機種はやはり、燃費が悪いのだそうです。ノースウェストならDC-9、AAならMD-80s、UnitedならB747sといった機種を休眠させるそうです。

更に、飛ぶスピードを落とす。具体的には500mphから480mphといいます。但し、飛んでる時間は若干延びるのですが、時刻表の時間は変わらないとのこと。地上のタクシーイングの時間を短縮するのでしょう。

機長と副操縦士が操縦席に持ち込む重たい運行マニュアルを止める。それでは乗客は不安ですが、モニター上にいつでも必要なマニュアルを映し出せるシステムをとるそうです。但し、連邦航空局の許可が必要とか。

色々なことを考えるもんですね。そのうち、乗客の荷物にも厳しい制限がかかるかも知れません。

ところで年をとるごとに飛行機のゆれを怖く感じるようになっているのは、私だけでしょうか?別に墜落とかの恐怖を感じるわけではないのですが、とにかくゆれるのが気持ち悪いのです。

インドネシアがOPEC脱退

2008-05-31 | 石油
インドネシアがOPECから脱退するそうです。
石油の輸入国になった国がOPECに加盟しているのはおかしいから、という至極もっともな理由です。確かにそうですが、世の中変わったと感じます。

インドネシアはOPECの中では2億人という多くの人口を抱えています。中国と同じように、人口の多い国が経済発展していくと、資源を浪費することになりますから石油需要の増大が著しいのでしょう。
さらには、スハルト政権崩壊後の政情不安のため、外資系の石油資本が原油開発投資を抑えた結果、原油生産量が近年急速に落ち込んできたという事情もあるようです。

インドネシアといえばSLC(スマトラ軽質原油)に代表されるように、中東系原油に比べて、軽質で低硫黄の良質な原油です。
かつて日本軍の南方作戦といえば、このSLCを確保するための戦争でした。
2006年の統計では日本の原油輸入量の5%程度はインドネシアからです。80年当時はこれが15%もありました。特にオイルショック後、中東原油への依存度を下げるためインドネシア原油の輸入に、石油会社は力を入れたと思います。こぞって、プルタミナ詣でをしたんじゃないでしょうか。

いろいろ議論はありますが、依然としてエネルギー供給の主役は石油です。しかしその原油調達も今後は容易でないことが想像できます。

それにしてもこれだけの原油高になったのだから、石油需要はこれから相当に落ちていくことになると思うのは、単純すぎでしょうか。かつてのオイルショックと同様に石油代替燃料(エネルギー)の重要性が増すのではないでしょうか。

原油価格

2008-05-24 | 石油
原油価格の高騰が続いている。週末には135ドルで一旦はdipしているが、依然として高いレベルで、引き続きの上昇の気配を見せている。

週末のDipは連休を控えての様子見によるもの。ここ2週間というもの一本調子で上昇してきましたから、一旦は調整になるのは当然でしょう。
5月の最終月曜日はMemorial Day、戦没者追悼記念日ですから、アメリカは3連休というわけです。

余談ですが、アメリカの祝日は10日しかありません。これに比べると日本の17日というのは多い気がしますが、どんなもんでしょうか。
また、日本の祝日には戦没者に関するものはありません。靖国問題に深入りするつもりは毛頭ありませんが、やはり戦没者に追悼の意を表することは必要です。
もっとも、日本では戦没者といえば第二次世界大戦のときのみを思い浮かべますが、アメリカは毎年戦没者が増えて言っているのですから、こういう日があるのは当然かもしれません。

さて、100ドルを超えて原油が上昇していることについて、その要因については様々に言われています。

石油会社側の言い分では、原油高騰の要因は供給不足によるものではなく、市場の予想による。それは心理学的なもので、石油会社には心理学の責任はない、となります。

逆に政府側は、タイトな供給と世界的な需要の増大が原油高の背景にあり、マーケットの期待感によるのではない、としています。したがって、石油会社はもっと供給を増やす、具体的には原油の生産を引き上げるような行動をとるべき。そのためには、環境には配慮しつつも国内の探鉱を推し進めるべき、ということになります。

どちらが正しいかはよく分かりません。一つだけいえるのは、市場の参加者がこれからも原油は上がる、上がる理由があると思えば上昇を続けるということです。そして、石油市場参加者が今後も増えるのか、あるいはこの先は減っていくのかは他の市場、主には株式や債券、不動産などの市場と石油市場のどちらが魅力的に見えるか、によります。

しかしながら原油高の影響が実体経済にも大きく影響しているのですから、のんびりとはしていられません。
フォードはピックアップやSUVの売れ行きがまた一段と落ち込んでいる、といっています。もっともフォードの車が売れないのは、燃費の良い車を作ることが出来ない彼らの技術力に一番の問題があるはすですが。

それにしてもHighwayの交通量も2004年以降、最低のレベルにあるということですからやはり原油だか、ガソリンの高騰は確実に実体経済に影響を与えているといえそうです。

原油価格

2008-02-02 | 石油
昨年には100ドルをヒットした原油価格ですが、このところは90ドルを下回るあたりで大きな変化は見せていません。そろそろ暖房用ヒーティングオイルの需要ピークを過ぎ、さらにこれから製油所は定期修理のための石油製品の作り貯めの時期に入ります。製品在庫は積みあがっていくので、価格は下がっていくという年間を通じてのサイクルのみが現状の原油価格に影響しているためでしょうか。

アメリカでのサブプライム問題を引き金とした景気減速あるいは後退の予感で、消費一般が冷え込んでいることも、原油価格にとっては下方圧力です。
先に発表された景気刺激のためのアメリカ政府の財政出動も、発表直後は安心感を与えたものの消費を拡大させるところまでは行かない、という憶測が強いようです。

ところで原油価格といえばWTIで代表される場合がほとんどです。これはいわずと知れたWest Texas Intermediateのことです。別名Texas Light Sweetです。これはテキサスで産出される軽質で低硫黄の原油ということです。ところがWTIと標記された後にat Cushing, OKとかかれることがあります。これは何のことだろうと少し調べてみました。

テキサス州の北隣のオクラホマ州にCushingという町があります。話はそれますが、オクラホマというと中年世代にはオクラホマミキサーなるフォークダンスが有名です。確かに、オクラホマなどの南西部ではカントリーミュージックが盛んではあります。しかし、オクラホマの人にオクラホマミキサーというフォークダンスを尋ねても、知っている人はいませんでした。

Cushingに戻ります。Cushingはオクラホマ州の中央部、オクラホマシティーとタルサの中間、もっと正確に言えばStill Waterのすぐ東隣にあります。大部分の日本人はStill Waterという地名を知らないでしょうが、Eskimo Joeというカジュアル用品店があり、通の人ならば知っているかもしれません。オクラホマ州立大学もあります。

さてCushingをはじめ、オクラホマ州は古くから原油が生産されていた土地です。API(全米石油協会)が原油の組成分析のプロジェクトを行ったとき、対象原油としてオクラホマ州産の原油が選ばれたことから見ても、オクラホマ州は古くから石油産業と関連が深いのです。

しかしオクラホマ州の埋蔵量はそれほどは大きく無く、原油生産とその精製の主体は次第にテキサス州などガルフ地域に移っていきました。いまではCushingはこのガルフ産原油を北の消費地に向けて輸送するパイプラインの中継点となっています。WTIの価格は産出されるテキサスでの価格ではなく、このCushingでパイプラインで引き渡されるときの価格ということになります。




オイルサンド開発のコスト

2007-03-19 | 石油
アルバータのオイルサンド開発のブレークイーブンコストは$28/bb(Ca)だといいます。これはピーク生産時のコストとして表されます。足元の状況では開発に向けられた投資利回りは16%で、既存の資源開発に投資した場合に比べて少々リターンが悪いそうです。

但し、in situ法と呼ばれる地面を掘り返さない効率の良いビチューメン回収法では投資利回りは22%とのことですから、既存の資源開発と同レベルなのでしょう。オイルサンド開発はそれほど歴史の古いものではありませんから、今後さらに資源開発や生産技術の進歩により効率向上が見込めます。今オイルサンド開発に投資しているのは今後の投資利回りの向上を期待しているということでしょう。

ところが開発のコストが上昇傾向にあり、総投資額は今後とも増加せざるを得ない状況にあるといいます。ピーク時のコストは2005年に55%も上昇し、2006年にも32%上昇しているといいます。

開発コストの主なものは土地代(正確には土地と採掘権をあわせたものでしょう)と労働力です。原油価格の高騰によりオイルサンド開発プロジェクトが次々と計画され、これにより土地代はうなぎのぼり、英語的に言えばrocketing highです。

また平均的なプロジェクトではピーク生産を達成するまでに5,000人の労働力がいるそうです。オイルサンド以外の既存の油田やガス田の開発も原油高騰と需要増加により盛んになっているわけで、アルバータの労働力は逼迫し、その結果として賃金の高騰を招いています。

今後2015年までのオイルサンド開発に投資される額は125 billion$(Ca)と見られていますが、これは一昨年の推計額よりも42%の増加だそうです。

2000年には10ドルを下回っていた原油価格がその後30ドル台になって、オイルサンドの開発は一気に進みました。しかしさらに原油価格が高騰してしまったことで、開発コストの上昇にいたり、これが逆にオイルサンド開発を抑制する方向に働くかもしれない、というわけです。

環境保全と企業利益の関係

2007-02-01 | 石油
公害問題に始まり地球温暖化にいたるまで環境保全と企業利益、あるいは社会的コストとはどのような関係があるのかは興味深く、さまざまに議論されてきたところです。環境対策のためには、何らかの装置を新たに設置したり、規制に違反すれば罰金を払わなければいけないので、企業利益は明らかに低下すると考えられます。一方で、環境保全対策をとらなかった場合、国民の健康が損なわれる、経済的には医療費の上昇や平均寿命の低下、気候変動による農業生産量低下などがあり、結果として企業利益も低下するというとらえ方もあります。
もっともみんなが早死にするのではそもそも企業利益も何もあったものではありません。

この様な環境保全と企業利益の量的関係についてOGJ誌に記事がありました。記事ではカナダの製油所について、有害物排出量、原油処理量、運転のための資金と純利益の関係について重回帰分析をしています。カナダ国内の15の製油所について過去10年間のデータ、総計51データを利用したといいます。

データはすべて公表されているものを用いており、有害物排出量はNPRI統計値、その他の数値は各企業のAnnual reportによっています。

純利益の計算式は以下のとおりです。
純利益=a+b*有害物排出量+c*原油処理量+d*資金+e*西暦年
最後に西暦年を入れているのがこの解析の味噌とも思われます。この西暦年の中に説明できない要因を全部入れ込もうという狙いです。51個のデータを用いて重回帰分析によりaからeまでの係数とt値を求めています。T値により各変数と純利益の相関が統計学上有意であるかどうかを判断しています。分析結果から有害物排出量と資金は危険率5%で、原油処理量は危険率1%で純利益と相関があると判断しています。

例えば、有害物排出量が1トン減ると純利益は2,000カナダドル向上するそうです。これは随分と大きな影響で、CO2排出権取引で1トンあたり1,000円から2,000円ですから、これと比較すると2,000カナダドルという数値が随分と大きいことが理解できるでしょう。

一方、原油処理量が大きくなると利益が向上するという関係が得られていて、これはリーズナブルです。しかしその係数は2,700BDアップで1,000カナダドルです。つまり、10,000BDの処理量アップを達成しても年間の利益向上はたったの4,000カナダドルにしかなりません。これは明らかに小さすぎます。

これらの結果については記事の中でも矛盾というか、合理的でないと指摘しています。重回帰分析の結果は変数と変数間の因果関係を与えるものではなく、二つの変数が同時に変化しているかどうかの関係を与えるものです。

有害物排出量が減少すると純利益が向上するのは、環境規制に適合するように精製装置を改造したり運転方法を変更したりすることで、同時に生産効率の向上が達成され、それにより純利益が増大したものと考えられます。
逆に言えば、93年から2002年にかけて、カナダの製油所は有害物排出量を減らしながら同時に生産性の向上を技術開発により達成し、利益を向上させたということでしょう。

さらに環境保全に積極的に取り組む企業は社会的評価も高く、株価が上昇すると予想されます。それにより資本調達コストが下がり、利益向上につながったとも考えられます。

環境保全のための製油所コストとしては93年当時、全米の製油所で環境規制への対応で152ビリオンドルが投資された、あるいは最近のガソリンや軽油のサルファーフリー対応のため、カナダの製油所では全体で5.3ビリオンドル投資したなどが上げられます。

これらの投資は直接的には利益を生まない投資といわれますが、実は直接、間接に生産性の向上につながっていると考えられます。
通常技術屋は、精製装置の改造や新設を検討する時、ただ単にCO2を減らす装置だとか硫黄分を減少させる装置を考えることはしません。同時に総合的に生産性が向上するような工夫や改善を盛り込むように努めるわけです。この様な技術開発や改善の積み重ねが結果として、環境保全と収益向上の両方に寄与していると考えられます。

ベネズエラよ、お前もか

2007-01-22 | 石油
ベネズエラのチャベス大統領が石油資源を武器にUSに激しく対抗しています。また、先日は中央銀行の自主性を終わらせるなどと発言したもので、ベネズエラ株式市場は銀行株を中心に大暴落し、あわてて別の閣僚が否定的な発言をするなど、いろいろとお騒がせです。

ベネズエラからUSへの原油、石油製品輸出は1.5ミリオンBDもあります。これはUS輸入量の11%に相当しますから、USにとっては重要な原油供給元です。ベネズエラの原油生産量は2.6ミリオンBDですから6割近くがUSに輸出されています。さらにペドベサ(ベネズエラ国営石油)は子会社のCitgoを通じてUS国内に5箇所の直営製油所と共同運営の製油所を4箇所持っています。USとベネズエラの繋がりはかなり強固といえます。

一方、エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップスなどの企業は総計で60万BDに上るオリノコタールの開発を行なっています。これらは1990年代に始まったもので、外国企業を誘致して石油資源開発を先行させて、国家経済を発達させてきたわけです。

ここにきてチャベスはオリノコベルトの超重質油開発を国有化すると宣言しています。さらにUSへ輸出している石油を中国やインドなどの石油を浴している国に振替えようとしています。2004年に1万BDあまりであった中国への輸出は、2006年には15万BDまで増大しています。今後5年間で50万BDまで増加させる計画です。

一方、インドへの輸出も計画されており、手始めに2006年4月には2ミリオンバレル/月の契約を結んでいます。さらに、イランと協同でインドネシア、シリアやベネズエラに製油所を建設する案も検討しているようです。とにかく反USとなる施策を次々と遂行しています。

これに対して国際石油会社、メジャーは今のところコメントせず事の成り行きを見守っています。最も石油アナリストからは、ベネズエラとUSは石油取引量も大きく製油所を運営しているなど関係が深く、中国やインドに振替えるといっても一朝一夕には実現しないとの意見もあります。

ロシアといい、ベネズエラといい、資源国が国家として資本主義市場に参入してきたことで、これまでの市場のルールや経験が適用できなるケースがこれからも起こるものと予想できます。

原油価格の下落

2007-01-15 | 石油
原油価格の下落が止まらない。この一ヶ月間で既に$10/バレル下がって52ドルを下回っています。1998年に$10.35と低価格にあえいでいた原油は、その後ほぼ一本調子で上昇し2006年8月には$78になりました。しかし、そこから下落に転じ10月11月の一時期$60付近で落ち着き、12月に一旦$65になったもののここひと月で再度急落しています。

かつて$70を越えていた時期にはピークオイルが声高に叫ばれ、このまま$100まで上昇するという意見も飛び出しました。しかしマーケットは皮肉にもその時期をピークに下落し始めています。

昨年夏以降の大幅下落の一番の要因は、それまで大量に原油を買っていたヘッジファンドが一転して売りに回ったからと見られています。さらに、この冬、北米地域は暖冬との予想が出、ヒーティングオイルの在庫が積みあがっているという事実が伝わると下落に拍車がかかりました。

最も北米地域でのヒーティングオイルの消費量は全世界の石油消費量に比べれば小さなもので、それがここもとの石油価格下落の主要因になるわけではありません。いわゆる「マーケットがそれを口実にした」というやつでしょう。

原油価格、一般にはNYMEXのWTI(翌月渡し)価格ですが、これが1ドル下がると全米のガソリン小売価格は2.5セント下がるといわれています。2005年のハリケーン・カトリーナ後にガロン3ドルだったガソリン価格は、先週2.28ドルまで下がっています。原油価格が26ドル下がってガソリン価格が72セント下がっていますから、およそ原油1ドルはガソリン2.5セントに相当します。

今後はどうなるのでしょうか。ヘッジファンドが石油市場から撤退し別の市場にその活躍の場を完全に移すとは今だ考えられません。従って彼らの思惑が注目されるところです。NYMEXデータによれば大規模なヘッジファンドやコモディティーファンドは、買いの3倍を売りにポジションしています。逆に一般の会社(メーカーなど)は売りの2倍の買いポジションを持っているといいます。

つまり、ヘッジファンドは現在の価格よりもさらに下がる方向に賭けている、というか自分たちの力で下げようとしているわけです。逆に石油を使う側は今の価格で買っておきたい、また上がるのは勘弁というところでしょうか。

どっちに転がるかは分かりませんが、今後も石油価格が実需給だけではなく、ファンドの流入によってボラティリティーが上がった状態、つまり価格の上下変動が大きくなった状態が続くのは確かなようです。

原油のEOR回収法

2007-01-10 | 石油
温暖化ガスの抑制と原油の生産性向上の両方に寄与する方法として、CO2圧入による原油のEOR回収法があります。もともと地中にあった石油、石炭を燃焼させることにより発生するCO2を再び地中に戻すことは、それほど無謀なことでもないと考えられます。

これが経済性をもって普及するようになれば、化石燃料を使っても大気中のCO2濃度は増加することはありません。さらに原油生産量の減少している油井にCO2を圧入することで原油生産量が増大するのであれば一石二鳥ともいえます。

ところでこのCO2圧入によるEOR回収法によりどれくらい原油は余分に回収できるのでしょうか。O&GJのコラムに参考になる記事があります。

West TexasのWasson fieldは1935年に発見された油田で、確認埋蔵量は4 billion bblとのことです。1946年に生産量50,000BDのピークを打った後、生産量は減少したので1964年から水圧入法に切り替えて1972年から80年までは150,000BDの生産量を維持していました。その後、生産量が減少したので84年からCO2圧入を開始し生産量の減少は緩和されて35,000から40,000BDになり、現在でも29,000BDの生産量を維持しているそうです。

この記事では水攻法により生産が増大したことは分かりますが、CO2圧入によりどれくらい余分に原油が生産されているのかが分かりません。そこで、大雑把に年代別の原油生産量を推定計算してみました。

1935年:確認埋蔵量 4Billion bbl
1935年から1946年:ゼロから50,000BDに単調に増加、生産量90.8x10^6bbl
1946年から1964年:50,000BDからゼロに単調に減少、生産量148.5x10^6bbl
この間の累積生産量は確認埋蔵量の3.5%

1964年:水攻法開始
1964年から1972年:ゼロから150,000BDに単調に増加、生産量198x10^6bbl
1972年から1980年:150,000BDで一定、生産量396x10^6bbl
1980年から1984年:150,000BDから40,000BDに単調に減少、生産量125x10^6bbl
この期間の合計生産量は確認埋蔵量の18%

1984年:CO2圧入開始
1984年から2005年:40,000BDから29,000BDに単調に減少、生産量239x10^6bbl
この期間の生産量は確認埋蔵量の6%に相当

一般に確認埋蔵量の2割くらい生産したところで油田の生産量は低下するといわれています。この油井の場合、水攻法を使って21.5%の累積生産量になった時点で生産量が急激に低下しています。1984年以降、CO2圧入により生産量の増加こそ見られませんが、生産量の減少は明らかに抑えられていて20年以上生産を続けています。確認埋蔵量の6%というCO2圧入による累積生産量、水攻法の最大生産量の4分の1程度の生産量が多いのか少ないのかは、議論のあるところかもしれません。現在までの累積生産量は確認埋蔵量の27.5%です。換言すればまだ3分の2の
原油は油井に残っていることになります。

この推算は全くの素人がやったものですから、的外れかもしれません。しかし、CO2圧入法はこれから技術的にも発展していくものですから、温暖化ガスの削減と原油の生産維持は期待できそうです。

ガソリン消費量の減少

2006-12-22 | 石油
フォードやGMの経営不振は主力のSUVが売れない、あるいは売れ筋の燃費の良い小型乗用車を作れないことにあるといわれています。その影響でしょうか、USではガソリン消費量が減少してきていると、O&GJの記事に出ています。

USのガソリン消費量は90年代において年率1.6%の伸びを続けてきましたが、2005年は0.3%の伸びに落ち込み、2006年も1%に留まっているといいます。この25年間で初めて平均走行距離が減少しました。その原因は何でしょうか?

自動車会社の販売不振から想像すると自動車の数が減少しているのではないかと思われます。しかし、フォードやGMは販売不振ですが、トヨタや本田は米国での販売数量を伸ばしており自動車数が減少しているわけではなさそうです。統計によれば、USでは自動車免許人口以上に自動車があるそうです。免許を持っている人、一人当たり1.15台の車を保有しているそうです。一家に一台どころか一人一台以上あるというのは、ちょっと贅沢すぎます。

次に考えられるのはガソリン価格の高騰により、ドライブの距離が短くなったことです。2003年のガソリン価格はガロン当り$1.5ですが、2006年のピーク時には$3と実に二倍になりました。確かにこれが一番大きい原因でしょう。特に燃費の悪いSUVに好んで乗っていた米国人にとっては、ガソリン価格が上昇した分、ガソリン購入数量を減らしていると予想されます。

ところでSUVは一体どれくらい売れていたのでしょうか。75年には新車の16%だったものが2004年には56%まで増加しています。新車の半分以上はSUV(ミニバンや小型ピックアップを含む)というから驚きです。GMでは小型乗用車で日本車に売り負けている時、ローンの金利0%というサービスをしていましたが、SUVの販売ではこのローン金利ゼロを付けなくても売れていたといいます。しかし、2004年以降は減少し、今は53%だそうです。ハイブリッドが爆発的に売れていることをみても、SUVの販売減少は理解できます。

ガソリンの消費量が減るということは、その分温暖化ガスの排出が減っているということに他ならず、それはそれでよいことです。需要と供給をバランスさせるのが価格の役目、というのは経済学の初歩です。ですからガソリンの価格上昇はガソリンの需要を抑えます。これを広く解釈すると、エネルギー価格の上昇はエネルギー消費量の抑制を通じて直接的には温暖化ガスの排出を減らす働きがあります。ひいては過熱している経済を調整する役割もある、原油価格は経済成長のビルトインスタビライザーと呼ぶ人もいます。

原油価格の内訳の解釈の一つに、OPECの目標価格$35/bbl、中国インドなどの需要増大と産油国の供給余力低下で$10/bbl、いわゆる地政学的リスクで$10/bbl、さらに投機資金の原油マーケットへの流入で$15/bblで合計$70/bblになる。これが2006年夏に付けた最高値の理由という説明があります。今は投機資金が減ってきているので、価格が60ドル台に下がったと解釈します。

USのガソリン消費量は減ってはいるのでしょうが、そもそもが多すぎます。その理由の一つに税金が安いということが上げられます。税抜きのガソリン価格は安い中国で$1.8、USや日本で$2.3、一番高いイタリアで$2.8です。(いずれも2006年3Qの価格) 税金はUSで15%、日本は45%、さらに高いのが欧州でUKは64%に達します。日本の小売価格はガロン当り$4.5になりますが、USは$2.8、UKはなんと$6.5に達します。ヨーロッパでディーゼル車が普及しているのはガソリンの税金が高いことも一因です。

話を戻して、平均走行距離の減少は人口構成が高齢化しているためとの説明もあります。確かに高齢になれば若者ほどは長距離ドライブをしないでしょう。これについては医療の進歩で平均寿命が延びているのだから、現在の60歳代は昔の50歳代くらい元気なので長距離ドライブをしなくなるわけでは無い。むしろ、リタイアして自由な時間があるのでドライブの距離は伸びるのでは、との指摘もあります。これはどっちが正しいのかは分かりません。

もう一つエタノールを代表とする代替燃料が増えてきたので、という理由もあります。確かにエタノールの生産量は伸びていますが、ガソリン消費量の減少をすべてエタノールのせいにするには量的に無理です。
但し、エタノールは温暖化ガス削減の観点からも確実に伸びてゆくでしょう。研究機関の報告ではガソリンの10%までは現在のコーンエタノールで代替できる可能性がある、としています。それ以上は、食料としてのコーンが足りなくなるのでコーンエタノールは増やせないようです。食料と競合しないセルロースエタノールならばさらに増産ができ、ガソリンの3分の1を代替できるそうです。但し、一番の課題は経済性です。価格が高いままでは需要は増えていきません。さらにはエタノールガソリンを多くのステーションで売るためには物流の課題を解決する必要もあります。

ガソリン税

2006-12-08 | 石油
連日、道路特定財源の一般財源化という議論が新聞紙上をにぎわしています。もちろん、政府と自民党との間でさまざまな駆け引きが行なわれているからでしょう。ところで、税金・ガソリン税を払っている納税者の視点からの意見がもっとあってしかるべきと考えます。

道路特定財源とは平たく言えばガソリン税です。ガソリンを給油した時に払う代金に含まれている税金です。払っているのはガソリンを買っている人、ドライバーです。

新たに建設されている道路の脇には、「この道路はガソリン税、自動車重量税で作られています」という看板が立っています。なるほど、自動車が通る道路というのは自動車に乗っている人の税金で作っていると納得できます。受益者負担というやつですか。

そこでこのガソリン税を一般財源化し道路建設以外にも使えるようにしようということですが、そうなると受益者負担ではなくなります。自動車を運転する人から道路を作るからといって集めたお金で、たとえば何とかセンターを作ってしまおう、あるいは公務員の給料にしてしまおうという考えです。ちょっと違うんじゃないでしょうか、と突っ込んでみたくもなります。

なぜ道路以外にも使えるようにしようと考えたかといえば、お金が集まってくるのにもう作る道路が無い。それなのに道路を作るので、牛しか通らない立派は道路ができてします。この無駄使いを止めるために、道路以外にお金を使えるようにしようといいます。つまりお金が余るから、他に使おうということです。
しかし余ったのならば返さなければいけないでしょう。あるいは、今年の分はもうガソリン税が充分集まったので、12月販売のガソリンにはガソリン税をかけない、というのが本来の姿です。

集まった税金は自分のものなので何に使おうと勝手だろうと、納税者に向かって言っているに等しい。
一般財源化するのも結構ですが、まずは税率を下げることが第一でしょう。それをしないのならば、ガソリン税を一般財源化すると消費税に換算して何%になるのかくらい試算して公表すべきです。

サウジアラビアという国

2006-12-07 | 石油
サウジアラビアで思い浮かぶのは、産油国、イスラーム国家、砂漠などです。近年の石油価格高騰の恩恵を受けて積み上がるマネーをどのような投資に振り向けようとしているのでしょうか。

サウジはこれまで親米路線でしたし、それを極端に変えることはないでしょう。しかし、イスラーム同胞意識を基盤として見れば、WTCの9.11テロやデンマークに端を発する風刺漫画事件など近年の欧米との関係は必ずしもよくありません。ここで中国が石油を求めて中東諸国に積極的にアプローチしていることもあり、アジア・日本にも目を向けているようです。

日本との関係について、2004年に昭和シェル石油の10%の株をアラムコが取得したことで、サウジから日本への原油輸出は拡大し増した。それまで日本のトップ輸入先であったUAEを抜いてサウジがトップになっています。ちなみに日本の原油輸入先は、サウジ26%、UAE25%、イラン15%、カタール9%と続きます。日本にとって最も近い関係の中東国といえます。

石油マネーは石油へ還元というわけでサウジでは原油生産能力増強に力を入れています。現在の能力は1,100万BD(実際の原油生産量はこれよりも少なく、900万BDです。この差が増産余力と呼ばれるものです。)といわれていますが、これを2009年には1,250万BD、長期的には1,500万BDに引き上げる計画です。

石油が増産されるとエタンを主成分とする随伴ガスの生産も増加します。随伴ガスは発電用燃料に利用されます。サウジの発電量すなわち電力需要量は石油随伴ガスの増加ほどは増えないでしょうから随伴ガスに余剰が生じます。ガスとして輸出しても良いのですが、より付加価値をあげるためにこの随伴ガスを利用して石油化学産業を拡大しようとしています。

住友化学とアラムコは共同で1.1兆円を投じて石油精製・石油化学コンビナートを建設しています。2008年末にはエチレン年産130万トン、プロピレン年産90万トンが生産されるはずです。主要な部分の工事を請け負うのが日揮です。日揮の受注額は2000億円とも言われています。

このコンビナートは一定期間、公定価格で原料のエタンガスを購入できます。日本の石化工場での原料ナフサの購入価格は1トン600ドルです。これに対してサウジでのエタンガスの購入価格は1トン37ドルです。原料代が10分の1以下ということです。さらに原油価格が上昇すればナフサ価格も上昇しますが、サウジコンビナートは原料代が変わらない契約なので、原油が高騰すればするほど価格競争力が出てくるという仕組みです。

サウジではこれ以外にも石油化学プラント増設の計画があります。こんなに増産して供給過多になったらどうするのかと思いますが、先ほど言ったように圧倒的な価格競争力がありますから、供給過多によるオレフィン価格下落が起きても心配ないというわけです。

一方、オレフィンを生産しこれを原料に合成樹脂を製造する産業が広まることで雇用が創出されます。サウジでは20歳以下の人口割合が50%以上と、日本では考えられない数値です。この若年層を吸収するだけの国内雇用を生み出したいというわけです。

それにしてもアッラーのお陰とはいえ、石油が埋蔵しているというのは本当にうらやましい限りです。サウジ国内のガソリン価格は1リットル当り16円と破格です。石油輸出額は17兆円、国家財政は6兆円の黒字だそうですから、この様なことができるのでしょう。ちなみに日本の輸入額は60兆円、輸出額は70兆円です。日本はやっぱり、加工貿易の国としてこれからも生きていかなければなりません。

石油、ガス関連施設の建設計画

2006-12-05 | 石油
昨年の夏、USでのガソリンの高騰は原油高騰に加えてハリケーンによりUS内の精製能力が落ちたため、ガソリンの品不足になったことが大きな要因でした。USも含めて、世界の石油・ガス生産設備の増強や建設計画について簡単に見てみます。

US国内では引き続き石油製品の需要が高いことから、いくつかの大型プロジェクトが計画されています。テキサス州ポートアーサーにあるMotiva石油では既存の28.5万BDの精製設備に加えて32.5万BDの増強を計画しています。最新の技術を取り入れて精製装置からのエミッションの排出を極力抑えるという方針のようです。2010年完成予定ですが、現在のエクソンBaytown製油所(61万BD)を抜いて全米一の規模の製油所になります。

インドのグジャラート県のジャムナガー製油所では8基のディレードコーカーの計画があります。2008年に完成すれば世界で最も大きなコーカー装置になります。
サウジアラムコは2011年完成で40万BDの製油所を新規に2箇所建設の予定です。

石油化学プラントについては中東・アジアでの計画が目を引きます。サウジアラビアでは年産135万トンのオレフィンプラントを発注しました。一方、UAEでは年産8万トンのメラミンプラントを260億円で計画中です。メラミンは尿素とアンモニアから製造され、メラミンは耐熱、耐水性に優れ強度が大きいことから工業的に大量に生産されている熱硬化性樹脂の原料です。また、UAEは2010年完成予定でポリエチレンとポリプロピレンプラントも計画しています。アジアではシンガポールのシェルブコムが年産80万トンのエチレンクラッカーを建設します。2007年にも建設開始のようです。

GTLプラントについても大きなプロジェクトがあります。今年6月にカタールのオリックスGTLプラントが稼動を開始しました。建設費950億円のこのプラントは世界で最初の商業GTLプラントです。このプラントは南アフリカ・サゾール社のスラリー相技術を採用しています。一日に330百万cfのガスから34000バレルの超低硫黄軽油と24000バレルの軽油と9000バレルのナフサを生産します。

ドイツでは2009年完成の予定で石炭ガス化プラントの設計が進められています。熱量換算で100万kW相当といいます。また、Wバージニア州では規模63万kW相当、オハイオ州では60万kW相当のガス化プラントが計画されています。

石油精製設備の増強だけでなく、石炭やガスを利用するための新たなプロセスが計画されていることが良く分かります。

アジアパシフィックの石油需要

2006-11-28 | 石油
2004年に5%増加を示したアジアパシフィックの石油需要は、2005年には2%とその勢いを低下させました。しかし2006年には3%を越える需要増加になると、ホノルルに本拠を置くFACTS社はレポートしています。

2005年の減速の原因は石油価格高騰と各国の補助金廃止によります。アジア諸国では石油製品に補助金を出すことで内外の価格差が大きくなっていました。これにより密輸の横行や石油製品の不正使用がはびこっていましたが、各国製油は国内石油製品の値上がりにつながる補助金の廃止には後ろ向きでした。どこの国の政権でも国民から政治的非難を受ける政策は取りたくないものです。

しかしここにきてタイやインドネシアでは予算的制約から補助金の大幅削減や廃止を行なっています。これによって石油製品の国内価格は上昇し、それにつれて石油需要にブレーキがかかりました。さらに一部の国々では価格高騰に後押しされて代替燃料の導入、バイオ燃料や天然ガス自動車、が進んでいます。

よく言われることですが中国の需要増加はアジアパシフィック地域全体の需要増加の2分の3を締めています。しかし統計のとり方によってその増加量は変わるようです。IEAのレポートでは2005年の需要増は15万BD(2.4%)ですが、これを見かけの需要増加といっています。この数値はあまりに小さすぎで、2004年の在庫増加と2005年の在庫減少を加えた需要増加は80万BD(14.6%)に達しており、これが真の需要増加といえます。

中国では補助金により国内石油価格を低く抑えています。このため中国の製油所や石油ディーラーは、より大きな利益を得るために国外への輸出や密輸を行なっており、経済成長に必要な国内石油製品が不足することとなっています。

一例として香港の軽油需要の推移があります。2005年の香港の軽油消費は34,000BDの減少でしたが、トラック業者や軽油需要家が使用している軽油の実際の減少量は20,00BDに過ぎません。その差は広東から調達しているためです。その証拠に2006年に広東と香港の価格差が解消されると11,000BDの増加となりました。

日本の石油消費はどうかというと、1999年と2003年に8万BD程度の増加が見られましたが、それ以外の年はすべて減少しており、アジアパシフィックでは唯一の需要減少国です。

アジアパシフィックでの製品構成は軽油(30%)、ガソリン(17%)、燃料油(16%)、ナフサ(12.7%)、LPG(9.7%)、灯油(9.6%)となっています。日本の構成はガソリン(22%)、A・C重油(20%)、ナフサ(18%)、軽油(14%)、灯油(12%)、LPG(12%)です。アジアパシフィックでは軽油の需要がダントツに大きいのがわかりますが、自動車での消費はこれの半分以下ですから主として内燃機関で使用されていると推定されます。また、燃料油の割合が随分と低くなっていますが、日本で言うA重油は軽油と分類されているものと思われます。

今後の需要量の増加とともにこの需要構成は、モータリゼーションの進展、石油化学産業の発展により日本のパターンに似てくるものと予想されます。

巨大油田の発見は続く

2006-11-09 | 石油
ロンドンにあるCGES(Centre for Global Energy Studies)という機関が巨大油田の発見に関して調査レポートをまとめました。ひとことで言うと巨大油田の発見は近年も続いているというものです。

間違いなく限りある化石資源の代表である石油は5から10年の近い将来に生産量が頭打ちとなり、供給が需要に追いつかなくなるというピークオイル論者の根拠の一つに、近年ではかつてのような巨大油田の発見が少なく、今後の生産量の延びが期待できないというものがあります。

このCGESレポートはそれを否定するものです。これまでの巨大油田発見の数の推移は、1950年代に17、1960年代に29、1970年代に24、1980年代に15、1990年代に11となっています。確かに数でみると次第に減少しているのは事実です。

しかし近年発見された四つの油田はスーパー巨大油田とも呼ぶべきもので、埋蔵量ベースでは新規油田発見のペースは衰えていないといいます。四つの油田とは、メキシコのクマルーブサープ、カザフスタンのカスハガンで二つ、イランのヤダバランです。それぞれのピーク生産量の推定値は80万BD、120万BDならびに30万BDとなっています。

1990年代に発見された巨大油田のピーク生産量の総計は351万BDですが、近年発見され2020年までに生産開始が期待できる大油田のピーク生産量の総計は464万BDで、1990年代に比べて増えています。この数値をもってCGESレポートはピークオイル論者の、《近年大油田の発見が少なくなっている》という主張は正しくないと反論しています。

しかし将来の原油生産量の予測には不確実な要因が含まれていることも考慮してお金ければなりません。1999年に発見されたイランのアザガデン油田はピーク生産量40万BDを期待される大油田です。しかし日本の国際石油開発がその権益を当初契約していたものから大幅に減らしたことからも分かるように、カントリーリスクの大きい国での開発が順調に進むとは考えられません。
この様な不確実な要因を織り込みながら予想を立てることには常に困難が付きまといます。