化学系エンジニアの独り言

時の話題や記事の備忘録

アルバータ・オイルサンドの増産

2006-10-19 | 石油
アルバータ州はオイルサンドの生産量が今後10年間で3倍になると発表しています。EUB(Alberta Energy and Utilities Board)は5月に発表したレポートで今後の見通しの詳細に言及しています。現在のオイルサンド(正確にはビチューメン)の生産量は1.06 million b/dですが、2015年には2.90 million b/dまで増産するというものです。

アルバータ州には北部のFort McMurrayを中心とするAthabasca、その西側のPeace River、Edmontonに近くCold Riverの三つの鉱区があります。これらをあわせた原始埋蔵量は1.69 trillionバレル、確認埋蔵量は173 billionバレルといいます。

現在開発中の鉱区では10.2 billionバレルの総生産が期待されています。ちなみにこれまでに5.0 billionバレルを累積で生産してきました。オイルサンド生産で最大のSyncrude社のHPをみるとトップページに操業開始以来の生産量(約1.69 billionバレル)の数値が表示されます。秒を刻むようにその数字が増加しており、この数値の増加具合が彼らの誇りだと良く分かります。

オイルサンドの生産方法にはsurface miningとin situ法とがあります。Surface mining
は地表からオイルサンドを掘りだし、これよりスチームや溶剤を使ってビチューメンを抽出します。回収率は80%と高くなりますが、土を掘り起こして、また埋め戻すという手間がかかります。

これに対してin situ法は地中(深度10-15m)に水平方向に上下に2本の管を配置し、上方管よりスチームを土中に挿入します。周囲のビチューメンは粘度が下がり下方に移動してきますので、下方管よりそれを吸い上げる方式です。土を掘るのに比べてランニングコストは小さくできますが、土中のビチューメンを完全に回収することはできず、回収率は20-50%と低くなります。

EUBは2015年にminingで1.8 million b/d、in situで1.1 million b/dを生産すると予想しています。MiningではSyncrude, Suncor, Albianといった会社が、in situではPetro-Canadaが主なプレーヤです。現在、 in situ法では8,000本のwellが稼動しており、一本あたりの平均生産量は56b/dだそうです。

ビチューメンは超重質油ですから、そのままでは既存の製油所で処理することができません。そこで、水素化分解や熱分解により低粘度で水素分の多い人造原油に転換します。

North American社では2016年までに16万b/dの人造原油プラントを建設予定ですが、その中核になるのがコーカーとガス化プラントです。コーカーによりビチューメンを熱分化し、生成したコークスをガス化してスチームや電力を得ます。最終的に排出されるCO2は原油回収(EOR)に利用することもできるとしています。

またin situ法で大規模な開発を進めているPetro-Canadaもエドモントン郊外に人造原油プラント(32万b/d)を2014年に完成させるとしています。同社はオイルサンド開発の老舗であるSyncrudeに出資しているのでSyncrudeの技術と経験を導入できる点が優位です。Petro-Canada社のオイルサンド生産コストは6ドル/バレルだそうで、同時に1 Mcfの天然ガスが生産できるそうです。足元の原油価格から見て十分に採算が取れ、それゆえ多くの石油会社などがこぞってオイルサンド開発を加速していることが理解できます。

アルバータ州は人口320万ですが、そこでこれだけの化石燃料資源が生産されることはうらやましい限りです。

原油価格の動向

2006-10-18 | 石油
2005年のハリケーン・カトリーナの時には70ドルに迫った原油価格は、その後60ドルまで下がったものの、2006年に入って上昇を続け7月中旬には75ドルをはるかに上回りました。しかしその後は下落を続け、足元は60ドルを割り込んでいます。今夏にはこのまま行けば100ドル越え、という論調も聞かれましたが、今はやや落ち着いている感があります。しかし、2003年-4年は30ドルでしたから、下がったとはいえ消費者の感覚からすればまだ高いといえます。

原油価格の予測はできませんが、FACTS(Fesharaki associates Consulting & Technical Service Inc.)レポート要約を見ながら、原油価格がどのような要因に影響されるのか考えてみました。原油は翌月渡しなどの先物価格で表されますので、現在よりも将来のことを重要視します。そこで個々の要因の解析も今度どれだけ増加(減少)するかという言い方になります。

世界の需要では2006年に1.2 million b/d増加し、2007年には1.6 million b/d増加するとIEAは予想しています。今後5年間で年平均1.5 million b/d増加するとしていますので、最終的には7.5 million b/d増加することになります。言うまでもなく中国やインドなどのアジアパシフィックでの消費増大が大きな要因です。日本は近年の経済回復が消費増加要因ではあるけれども、既に充分成熟した国、成熟した産業構造で今後は人口が減少していくことを考えると、長期的に見て石油消費は増大しないと考えられます。

原油は精製して初めてガソリン、軽油などの商品になりますから、精製能力(余力)は石油製品の価格に関係し、ひいては原油価格にも関係します。2005年の米国ガルフ地域がハリケーン被害にあったとき、原油価格とガソリン価格は上昇しました。しかしそれは原油生産が減ったことが主因ではなく、精製設備がダウンしたためガソリンの供給不足となりガソリン価格が上昇し、原油価格も上昇しました。1990年代の原油価格低迷期に精製設備に対する投資を行なわなかったため、米国の精製能力(余力)が全くなかったためです。また、備蓄原油があるのにガソリンが不足したということからも精製設備能力(余力)の重要さがわかります。

今後見込まれている世界の精製能力増強は、中国2.3 million b/d、インド1.3 million b/d、中東3.0 million b/d、その他1.2 million b/dで合計7.8 million b/dです。これは石油消費量の増加とほぼ見合う値ですので、今後精製能力(余力)が原油価格に与える影響は小さいといえます。

原油生産能力(余力)はどうでしょうか。Non-OPECは現在53 million b/dの生産量ですが、2006年で1.1 million b/d、2007年には1.7 million b/dの増加を予想しています。しかし予想通りに生産能力は増えておらず、予想は毎月下方修正されているそうです。Non-OPECで不足する分をOPECの増産で補完できるかといえばむしろ逆で、OPEC能力は毎年 1.2 million b/d減少するとの予測がなされています。2010年までに世界で新たに10 million b/dの原油生産能力を増加させる必要がある、というのが専門家のひとつの見方です。このようにみてみるとColin Cambellのpeak oilの様相を呈しているといえます。最も、今後の生産能力増加は可能とする専門家の意見もあります。

原油が北米や北海、オーストラリアなどで充分に生産できれば良いのですが、残念ながら中東や南米といった地域の原油に頼らなければならないのが実情です。つまり、常に供給不安にさらされているということです。いわゆる地政学リスクとか、カントリーリスクといわれるやつです。政情不安、テロ、労働争議、住民争議、事故などにより原油はあるのに市場に供給されないかもしれないという不安です。この不安の度合いの大小も原油価格に大きく影響します。特に昨今の市場でのキープレーヤーであるヘッジファンドは、原油供給のサプライチェーン、ハード面よりもこのリスク面に強く関心を払っているのではないでしょうか。

原油への依存は供給不安との戦いとなります。いきおい、もっと安定でクリーンなエネルギー、例えば再生可能エネルギーへ移行するという話になります。自給率の向上に努める必要はあるでしょうが、そうかといって石油以外の地下資源(鉱物)や食糧のすべてを自給することは不可能です。当たり前ですが、付き合いにくい石油とも当分の間、付き合う覚悟は必要です。

原油の重質化

2006-10-05 | 石油
今週に入って下げを続ける原油価格(WTI)ですが、ついに60ドルを大きく割って57ドルまできました。最も、昨日アメリカの石油精製・販売大手のValero Houston Refで硫黄酸化物ガス漏洩事故があり、製油所が操業停止とのニュースで59ドルまで上がっています。ちなみにバレロはテキサス州を中心に北米に17の製油所を持ち、330万BDの精製能力を持つ会社です。

70年代のオイルショック以降、原油の重質化と重軽価格差の拡大が見込まれたことを背景に、日本の製油所は分解装置、二次装置の増強を進めてきました。これは世界に先駆けた公害(大気汚染防止)対策とも密接に関係していました。しかし、80年代、90年代を通じて原油価格は下落基調にあったため重軽価格差も広がらず、石油代替燃料の開発が進んだことともあいまって、結果として生産される原油は軽中質のものが主でした。

これに対して2000年以降は経済成長、とりわけアジアにおける経済成長により原油需要は大幅に拡大し、生産される原油は重質化の傾向にあるようです。

CGES(the Centre of Global Energy Studies)とい機関が、2000年と2004年の原油生産を比較検討しています。CGESは1990年にサウジのヤマニ石油相によってイギリスに設立された機関ですから、OPECびいきの情報とは思われますが、統計の数値はすなおに見てもよいでしょう。

2000年と2004年を比較するとNon-OPECで生産された原油は中・重質系が23%の増産、軽質油は10%の減産です。このレポートでは軽質原油はAPI比重35以上、重質原油は26以下、中質原油は26から35と定義されています。平均するとNon-OPEC原油のAPI比重は33.2から31.5へと重質化しています。API比重で2変化すると密度(g/cm3)で0.01の変化に相当します。

その理由として以下のことがあげられています。
カナダ、ブラジル、メキシコなどの重質原油の増産
ロシア・ウラル(API比重33、硫黄分1.3%)原油の増産
北海、オーストラリアなどの軽質原油の減産

同様の変化は北米だけを取ってみても起きており、API比重は28.4から27.7に重質化しています。これはWTIが減って、ガルフ産の原油が増えたことによります。

一方、OPEC原油ではベネズエラ等の減産により重質系が80万BD減り、アルジェリア・リビアの増産により軽・中質原油が190万BD増えています。最も、今後も増産の余地を残しているのはサウジの重質原油のみとのコメントも付け加えられています。

Non-OPECとOPECを合計すると、軽質原油は90万BDの減少、中質原油は500万BDの増加、重質原油は70万BDの増加となっており、重質化の傾向が顕著だということになります。

今後の世界の石油需要は量的には一層の増加とともに、現状と同じあるいはより軽質な製品へシフトしていきます。一方原油は重質化をたどることになるので、精製設備と原油性状のミスマッチがこれからの問題となるだろうと指摘しています。


ドリリングコントラクター

2006-09-21 | 石油
自民党総裁選はあっさり安倍氏が過半数を獲得してしまいました。2位3位連合の逆襲などの権謀策術ははるか昔の話です。もう小説・吉田学校の世界には戻らないのでしょうか。個人的には将来への明確なビジョンと実行計画を示しているビジネス感覚あふれる麻生氏に期待していたのですが、残念です。

タイのクーデターはそれほど大きな衝撃を与える間もなく、首相の亡命とクーデター軍の民主主義制度における改革団宣言、近い将来の選挙ということで落着です。アメリカの新聞HPを見て、このクーデターが大きく取り上げられていないのは不思議でしたが、そういうことかと納得しました。

さて、カナダでは原油高を背景に石油掘削が2年続けて増加する見込みです。これに対してガス掘削は価格が変動しているため、やや減少すると予想されています。

石油井の数を見ると、2004年が4,427、2005年が4,822と9%の増加です。また1月から6月の上半期で比較すると2005年が1,746、2006年が2,235で実に28%の増加になっています。

一方、ガス井は2005年に比べて2006年は2%の減少だそうですが、コールベッドメタンについては増加しており、ガス井全体の30%に達するそうです。

原油高により石油掘削数が増加するのは容易に理解できますが、もう一つの理由としてgrowing rig fleetというものがあげられています。rig fleetとは日本ではなじみの薄い言葉です。直訳すれば掘削リグの一団ですが、要するに石油掘削会社が保有する掘削リグ装置一式といえばよいでしょうか。

10年前のリグ数は460だったそうですが、2006年は800に増えているそうです。リグですから文字通り石油井を掘る機械です。これが増えるということは石油会社が井戸掘りを増加させている、つまりは原油開発を進めているということです。

油田の権利を持っている石油会社は、自分で油井を掘るのではなくこの石油掘削会社(Drilling contractor)に仕事を発注するわけです。ところがリグ機械の数が不足していると、いくら石油会社が原油開発をしたくてもできないことになります。
逆に言えば、リグ数の増加により石油会社の原油開発が順調に進んでいるということになります。

原油生産量と並んでリグカウントという数値が石油業界では使われています。リグカウントとはこの掘削井のことですから、これが増加しているということは将来の原油生産井を増やしていることで原油生産量増加に直結します。いわばリグカウントは原油生産量(原油生産能力といったほうがよいか)の先行指標ということになります。

ガソリン中のベンゼンの低減

2006-09-12 | 石油
ガソリンへのバイオエタノールの混合は、ただ単純に混ぜればよいというものではなく、その他のガソリン性状の規格を守らなければなりません。
一例としてベンゼン濃度についてみてみます。

ベンゼンの発がん性が指摘されて、日本では2000年にガソリン中のベンゼン含有量の規格が5vol%から1vol%に変わりました。また、関連して蒸発エミッションを低減するため2001年から夏場の蒸気圧(RVP)は78kPaから72kPaに低減されました。つまりRVP(37.8℃)規格は44から72kPaとなりました。但し、寒冷地用のものの上限は93kPaです。

アメリカではハイオクガソリン(Reformulated gasoline)中のベンゼン濃度を1vol%以下に規制しています。しかし2011年1月1日から全ガソリン中のベンゼン濃度は0.62vol%以下になろうとしています。ハイオクガソリンは全ガソリン中の35%程度を占めています。

それでは今のガソリン中のベンゼンの濃度はどれくらいになっているのでしょうか。規制が無いのではっきりとした実績は分かりませんが、ハイオクより高いのは間違いないでしょう。ガソリンの主な基材であるリフォーメートのベンゼン濃度は0.2から8.0vol%、FCCナフサは0.5から1.3vol%です。ガソリン中のベンゼンを0.62vol%以下にするには、この基材中のベンゼンを下げなければなりません。

リフォーメートのベンゼンを減らすには接触改質装置原料からベンゼン前駆体を分離することです。また、FCCナフサではFCC装置の運転条件、すなわちシビアリティ、触媒、原料ならびに添加剤を調整してやる必要があります。例えば、FCC運転をガソリンモードからプロピレンモードにするとベンゼンは0.5%から1.3%に増加します。

ガソリンの品質に関する規格は厳しくなる一方です。オクタン価はRONとMON平均で85から87に増大すると予想されています。オクタン価をあげるにはリフォーメートをたくさん入れればよいのでしょうが、それではベンゼン含有量も多くなってしまいます。

VOC規制も厳しくなる方向です。さらにエタノールの混合義務化の影響もあります。エタノールはリフォーメートと同じオクタン価ですが、RVPが1.3psi(9kPa)上昇します。このRVPの上昇を大目に見てもらえるのか、あるいは現行のRVP規制そのままなのか、はたまたVOC低減の観点から低くなってしまうのか、これらによってベンゼン含有量を低減する量やその方策が異なってきます。

また、ヨーロッパをはじめカナダや日本のガソリンはベンゼン1%規制のままです。アメリカでは夏場のガソリン需要期には10%を輸入に頼っています。この輸入品を0.62vol%規格を適用することが可能かと言う課題もあります。

ところでアメリカでのガソリン消費量はどれくらいなのでしょうか。
1日当り360 million galといいますから131 billion gal、つまり500百万kLです。きりのいい数字ではあります。石油全体の消費は1,090百万kLで2,080万BSD(330日)です。これは世界の25%に相当します。ちなみに石油は一次エネルギーの40.2%ですから、一次エネルギー全体では2,711百万kL(原油換算)になります。

話題の2006年のエタノールのガソリンへの混合量は4.0 billion galと予想されているので、3%に相当します。

2005ハリケーンの後遺症

2006-09-08 | 石油
昨年アメリカ・ガルフ地区を襲った大型ハリケーン(カトリーナとリタ)は記憶に新しいところです。ニューオーリンズの町は一瞬にして洪水で破壊されてしまいました。と同時に石油施設も甚大ならざる被害をこうむりました。
石油生産設備の95%、ガス生産設備の85%の操業がストップしました。

被害の全容はいまだ集計中とのことですが、前例の無いものだったのは間違いないところです。8月29日に上陸したカトリーナによって44の石油プラットフォームが破壊され、20のプラットフォームが損傷を受けたと報告されています。一方、9月24日にテキサス州とルイジアナ州の境に上陸したリタによって、オフショアの69のプラットフォームが破壊され、他に32箇所が損害を受けたそうです。
復旧工事は続けられているものの6月末時点でまだ、10%近くの設備は運転再開できていないといいます。

被害額としては、石油とガスの生産がストップしたことで$16B、掘削リグ・プラットフォーム・パイプラインなどの損害として$31Bという集計がなされています。さらにハリケーン後に保険額が$13M/四半期から$20M/四半期に上昇したといいます。

このようが大型ハリケーンへの対応策としてBPではプラットフォームとの通信のための光ファイバーケーブルを新たに$100Mかけて施設するといいます。これまでは人工衛星を利用して通信を行なっていたそうですが、それだと嵐の中では通信が出来なかったそうです。プラットフォームの足を長くして海面との間隔を大きく取り、高波による被害を減らそうという措置もとられるようです。あるいは海底パイプラインにコンクリートバッドの補強を施すことも検討されています。

この二つのハリケーンは異例中の異例というものでしょうが、心理的には大きな影響を今年も与えています。それはハリケーンと原油価格の関係に見られます。
カトリーナ被害が発生した直後の9月3日にガソリン価格はガロン当り$3.05と最高値を付けましたが、これは前週よりも37セントの上昇でした。しかしハリケーンが去った後は徐々に価格は低下し、10月21日にはハリケーン前と同じ$2.61まで戻りました。

今年も先日のハリケーン・アーネストに気をもんだようですが、熱帯低気圧になった途端にガソリン価格は11セント下落して$2.98になりました。この11セントという下落幅は昨年のハリケーン後以降ではもっとも大きなものです。
夏休みのガソリン消費シーズンも終わり、ハリケーンの懸念も遠のいてガソリン価格は下がってきたということでしょうか。ドライブをするならば今だ、という声も聞こえます。もっとも、原油高の影響はそのまま残っていますから、ロングドライブとは行かないでしょう。

パイプラインのリークによりアラスカ原油生産停止

2006-08-08 | 石油
アラスカのPrudhoe Bayパイプラインで腐食による原油リークがあり、パイプラインでの送油を停止しているという。ここはアラスカノーススロープと呼ばれる油田地帯で、1967年にエクソンモービル、コノコフィリップスとBPにより開発されてきました。現在はBPがその操業に当たっています。原油生産量は40万BDといいますから、全米生産量の8%に相当するようです。このニュースを受けて、WTI価格は77ドル/バレルまで上昇しました。6月の最高値を更新することは無かったようですが、2ドル以上の上昇といいます。

40万BDは確かに少なくは無い量です。米国エネルギー省はBPやその他の製油所からの要請があれば備蓄原油を融通すると発表しています。また、西海岸の製油所には充分量の在庫があるので、このBPアラスカの生産停止が直ちに原油供給不足につながりはしないといえます。したがって、WTI価格が上がったのは、相場が上がりたがっていたから上がったのであって、BPの事故はその口実にされたに過ぎないという見方があります。

細かいことを補足すればアラスカノーススロープ原油は重質で高硫黄分(Dirty and sour)なので、この原油を精製している製油所ならば代替のLight and sweet原油の処理は容易です。逆にWTIをメインに処理しているような製油所に大量のノーススロープ原油を処理しようとしても出来ない相談になります。

WTI価格について、見掛けの最高値は本年6月の77.30ドル/バレルですが、インフレ調整後の価格で言うと1981年の86ドル/バレルが最高値だそうです。つまり、81年当事に比べれば原油価格は安いということになります。確かに日本でも、当事はガソリン1Lが160円位していたように記憶しています。今はまだ140円ですし81年当時の物価で価格を調整すれば160円は200円近い値になるのかもしれません。

BPはまだ当該地区の全パイプラインの検査を終えていないので、復旧にどれくらいの日数がかかるのかを公表していません。少なくとも16kmに及ぶ部分のパイプはすべて交換する、ということを表明しているようです。そもそもBPのこの地域では3月に5,000バレルの原油リークがあったという前科があります。この事故を受けて米政府よりパイプラインの総点検を要請されて、5月以降に順次実施してきたなかで今回の事故を見つけたようです。

ノーススロープでの更なる油田開発については、下院で承認が取れたのに上院で承認されなかったという状況があるそうです。もともとこの施設は米アモコの所有でしたが、BPがアモコを合併したことでBPの所有となった経緯があります。米国石油資源をイギリスの会社に開発させていいのか、という論調が議会の決定に影響しているのかもしれません。

日本のガソリンはアメリカよりも安い

2006-07-25 | 石油
このところ原油価格が77ドル/バレルという高値を更新している。油田を持っている人にとってはありがたいのだろうが、一消費者としてはガソリン価格の上昇が気になるところです。今のガソリン価格は高いのか、妥当なのかは評価の仕方によって見方は変わるでしょうが、日米のガソリン価格を2005年と2006年で比較してみました。

まずはアメリカ。2005年は$2.38/gal、2006年は$3.00/galです。これは全米の平均値です。値上がり率は26%にも達しています。為替を116.64/$として日本と同じ円/Lで表示すると73円/Lが92円/Lになったことになります。一見して日本の価格よりもぜんぜん安いと実感します。

ついで日本です。2005年は125円/Lで2006年は137円/Lですから、値上がり率は10%弱です。アメリカに比べれば、値上がり率は低く抑えられています。これからガソリン価格に占める原油コストの割合が小さいと類推されます。逆に言えば、日本のガソリン製造コストはアメリカよりも高いということです。原油価格がさらに高値を追うことになると日本のガソリン価格の値上がり率もアメリカ並みになっていくものと予想できます。ここで価格そのものはアメリカよりも随分と高くなっています。その違いは税金や自前の油田がないことにあるといわれています。そこで税金を比較してみます。

アメリカのガソリンの税金は全米平均で38セント/ガロンです。円/Lに直すと11.7円/Lです。アメリカのガソリン税は州によって異なります。最も安いのが、Gulf Coast地区です。ここはテキサス、ルイジアナ、オクラホマなで石油産業が強い地区です。逆に最も高いのがWest Coast地区でカリフォルニアがその代表でしょう。ここでは環境問題に関心が高く、高税率によりガソリン消費抑制と税金を環境対策資金にするという政策と思います。
アメリカのガソリンを税抜き価格で表示すると2005年は61.3円/Lだったものが、2006年では80.3円/Lと31%の値上がり率となります。

一方日本のガソリンにかかる税金には2種があります。ガソリン税53.8円/Lと石油石炭税2.04円/Lです。2006年から石油関税はなくなりましたので、現在はこの二つですが、合計で55.8円/Lになります。さらにこのガソリン税の5%、2.8円/Lを消費税として払います(いわゆる二重課税)ので、ガソリンの税金は合計で58.6円/Lとなります。125円/L(内税)のうちの税金分は47%に達するわけです。このガソリン税と消費税を抜いた正味のガソリン価格は、2005年が63.2円/Lで2006年は74.7円/Lとなり、値上がり率は18%に跳ね上がります。といってもアメリカの値上がり率31%よりは大分小さくなっています。

2006年のガソリン価格を比べるとアメリカが80.3円/Lで日本は74.7円/Lです。驚くことに日本のガソリン価格が安いわけです。日本の石油精製会社は原油高騰にもかかわらずよくコストアップを吸収しているという見方も出来ます。
日本のガソリンは高い、それは税金が高いからだ、全量輸入に頼っているからだ、といわれてきました。これからは日本のガソリンが高いのは税金が高いからと言い切ってしまいましょう。

アメリカのガソリン消費は920万BDです。一方、日本のガソリン消費は106万BDに過ぎません。人口が日本の倍ということを割り引いても、アメリカ人(アメ車)は日本人の4倍以上のガソリンを使っているといえます。アメリカではほとんどディーゼル車が無い、国土が広いので走る距離も長くなるなどの事情はあります。事実、通勤に車で50マイルなんて人も田舎の方ではざらのようです。それにしても、ガソリン使いすぎでしょう。ガソリン価格の高騰は相当影響ありでしょう。こんなところからもGMやフォードの苦戦はよく理解できます。

世界の石油会社の勢力地図

2006-07-20 | 石油
国際石油会社・メジャーとは、原油の開発、生産、精製、販売といういわゆる上流から下流まで一環操業を行なう企業です。かつては、エクソン、モービル、テキサコ、ソーカル、ガルフ、シェル、BPがセブンシスターズと呼ばれ(何でブラザーズではないのか分かりませんが)た時代があった。しかし90年代の原油価格低迷期に大型合併があり、現在はエクソンモービル、シェブロン、シェル、BP、トタールの5社になり、スーパーメジャーと呼ばれている。さらにかつては独立系と呼ばれていたコノコフィリップスなどもメジャーと呼んでもよい位の規模になっている。

産油国いわゆるOPECとこのメジャーが原油価格の主導権を争うという図式がしばらく続いていたが、ここにきて国営石油会社という新たな勢力が台頭してきており、石油会社の勢力地図は大きく変化している。特に中国やインドなどのアジアの国営石油は積極的にM&Aを仕掛けており、中国のCNOOCがアメリカ・ユノカルをシェブロンと争ったのは記憶に新しい。結局国防上の理由から議会の反対に合い、CNOOCのもくろみは達成されなかった。しかしその後CNOOCはペトロカナダの持っていたシリアの利権を買い取るなど、積極政策に変更は無い。

中国の国営石油にはSinopec、CNPC、CNOOCがあるが、いずれも中長期的なエネルギー確保という中国共産党の政策要求に答えるため、積極的な買収を継続しているのであろう。

国営石油は政府という強いバックアップを受けて、国際石油市場で大きな影響力を持つようになってきている。ロシアのガスプロムが天然ガス価格交渉でガス供給停止という強硬手段をいともたやすく使ってきたのも、国営石油会社ならではである。もっとも、ロシア政府の意向によりガスプロムが動いたと考えるのが普通ではあるが。

国営石油会社の資産買収に当たっては、政府のエネルギー安全保障・確保という政策に沿って、買収価格が高かろうと経済性を抜きにして進めている、したがって国際石油会社はその割を食って、石油資源・資産価格が上がってしまっている、という指摘がある。

Wood Mackenzie社のアナリストはこの意見を否定している。確かに油田資源資産の買収価格は2004年当初は22ドル/バーレルであり、2006年初では40ドル近くまで高騰はしている。しかし、国際石油会社と国営石油の買収価格を比較すると、むしろ国際石油会社のほうが買収価格は高くなっている。というわけで、国営石油会社がなりふり構わず石油資源を買いあさっているという言い方は、妥当では無いだろう。

とはいえ国営石油の勢力が台頭していることには間違い無い。このような中にあって、日本の会社は世界の中の石油資源確保という競争に伍していけるだろうか、という問題提起がある。脱石油、石油代替エネルギー開発と確保は待ったなしの状況ではあり、進めていかなければならないが、これはあくまで中長期的な課題であって、この冬の灯油の確保も怠ってはならない。

原油高が石油会社にプレッシャー

2006-07-18 | 石油
石油会社といえば日本ではENEOSなどのガソリン販売・精製を思い浮かべますが、世界でOil companyといえば原油を生産している会社のことです。日本のENEOSももちろん原油を生産してはいますが、むしろ帝国石油や石油資源開発という社名を上げたほうが分かりやすいでしょう。原油価格が上昇して石油会社は売り上げが直接伸びるのですが、このことが大きなプレッシャーとなっているそうです。

それは、消費者から見ると原油が値上がりし、ガソリンが値上がりし、石油会社は莫大な利益を得ているのに、もっと原油生産を増やしてガソリンの供給量を増やして、価格を下げるようにすべきという考えです。

しかし石油会社にも数々の言い訳があるようです。
(1)油田の開発は長期投資
鉱区の採掘権を取り、油層を探し当て、原油を生産するには長い時間がかかります。ここ1,2年原油が高いからといって、その価格を当てにして開発に着手すると原油価格が急落し原油が余った時のリスクが大きすぎるというものです。石油会社は過去何回もこのoil glutを経験していて、学習しているというわけです。

DOEの2006年長期原油価格見通しでは、昨年見通しより大幅に上昇しているといっても2010年で45ドル、2020年で46ドルです。足元の価格水準に比べて随分と低くなっています。最もピークオイル説を主張する人は、こんなもんでは済まされんと反論するでしょう。しかし、私企業が行なっている以上、過大なリスクを抱え込むことは出来ません。

(2)国営石油の台頭と鉱区の奪い合い
近年では石油会社を国営にするところが増えました。ガスプロム(ロシア)、ペメックス(メキシコ)、ペドベサ(ベネズエラ)、ペトロナス(マレーシア)、ペトロブラス(ブラジル)などです。これら国営企業はひどい時には契約を一方的に破棄し、開発コストの低い鉱区を占有し、外国メジャーには開発コストの高いあるいはリスクの大きい鉱区を割り当てるという状況になっています。

(3)過去の利益と開発投資
2004年以降、石油会社の収益は向上していますが、2000年から2003年にかけては収益が減少していく中にあって、収益以上の開発投資をしてきたという事実があります。例えば、2002年は利益30Billion$以下ですが、開発投資は60Billion$を超えています。つまり、以前から利益を確保せず原油開発には当然取り組んでおり、これからも同様ですということでしょう。

(4)業界の構造
エクソンモービル、BP、シェル、トタール、シェブロン、コノコフィリップスなどのメジャーは100Billion$を超える資産(油田)を持ってはいますが、これらメジャーの合計は全合計の半分以下です。半分以上はいわゆるIndependentと呼ばれる中小の石油会社であり、彼らはその規模ゆえ短期の開発行動しかとりません。メジャーだけで石油供給を担っているわけではありません。

(5)油田開発に必要な要人と機材
油田開発には専用の機材と技術者が必要です。しかし95年以降の原油価格低迷により2003年まで石油会社は従業員を減らしてきました。直ぐに油田開発を拡大しようにも技術者がいません。さらに2004年以降は人件費が10%以上も上昇し、機材の価格は5倍です。機材はリースされるのが普通ですが、機材が足りないという状況です。

というように油田開発を大幅拡大して原油生産を増やせという世論に、直ぐに対応できるわけではなく、これが大きなプレッシャーになっているということです。
油田開発投資をめぐるこの辺の状況は、ピークオイル説を勢い付ける一つの要因とも言えるでしょう。

コノコフィリップスとサウジアラムコ

2006-05-25 | 石油
コノコフィリップスとサウジアラムコが合弁で新規に製油所を建設するというニュース。

精製能力は40万BD、日本で一番大きい製油所は新日石根岸で34万BDなので、それよりもはるかに大きい製油所である。2011年のスタートアップを予定している。アラビアンヘビー原油から米国や欧州の規格に合うようなUltra-Low Sulfur製品を精製する。製品は全量輸出される。アラヘビという重質油を想定原油にするところがポイント。

アラムコとコノコフィリップスで50:50の合弁会社を作り、この会社が製油所を所有し運転する。アラムコが原油を全量調達し、出来た製品は両社が半々で販売する。コノコフィリップスはイギリスにも製油所があり、コノコブランドのSSを運営しているので、このルートでの販売になるのだろう。

コノコフィリップスはWorldwideな精製能力引き上げのための投資の一環として、本製油所建設を計画している。

イランの油田開発

2006-05-23 | 石油
イランのAzadegan油田開発に関して、米国とイランの板ばさみにあっている。

米国、UK、フランスはイランの核開発を止めさせるべく、安保理での経済制裁を主張している。一方ロシアと中国は経済制裁には賛成していない。米国は日本に対して、経済性が発動されるかどうかにかかわらず同油田開発を中断するよう要請している。油田開発はイランの核開発を金銭的に後押しするものとしている。

これに対してイランはこの問題を安保理からIAEAの場に引き戻すよう日本に協力を要請している。Azadegan油田は日本のエネルギー安全保障上重要であり、日本が経済制裁に加わるようであれば、その影響はテヘランよりも東京の方が大きい、と脅しているわけである。

この開発はInpex、トーメン、Japexが日本側コンソーシアムとなり、2004年2月にイランと調印している。総開発費は$2Billionで日本が75%を負担する。
イランのように地政学的リスクの油田の利権を持つことが本当に安全保障上、重要かどうかは意見の分かれるところ。しかし、自前の油田を持つことは重要であり、イがあることだ。しかし、イランではかつでホメイニ革命の時、日本イラン石化プロジェクトが破綻して手痛い被害をこうむったこともある。まー、日本側の事業会社はその辺のリスク管理・ヘッジはしていることではあろうが。

日本がこのPJから手を引けば、代わりに中国が乗り出すだけだろう。そもそも中国は経済制裁に反対しているのだし、油田は欲しくてしょうがないわけだから。米国の一部には中国の技術ではAzadegan油田は開発できないと主張する学者もいるようだが、多少効率は悪くなるかもしれないが、油田の開発は出来るだろう。

米国ではイランの油田開発に協力する外国企業に対して、米国として何らかの制裁措置を課す法案が審議されている。米国への輸入差し止めを食らうのは痛いところではあるが、一体日本からのどんな輸入品を差し止めるのだろうか。そしてそれらを日本以外から簡単に調達できるのだろうか。このあたりについては疑問が残る。

核の拡散は防がなければならないが、すでに持っている国は良くて、後からついていくのはだめよ、というおきまりの理屈はやはり通らない。

日本はイランから全原油輸入量の15%を輸入している。2004年の全輸入量は242millim kL で約417万BDで有る。これの15%は62.5万BDだ。Azadeganの推定埋蔵量は260億バレルといわれており、このうちの75%の利権を日本が得るとすれば、62.5万BDで割り返して85年となる。これだけの量を黙ってほおっておけといわれても出来る相談では無い。

シェルカナダのオイルサンドオペレーター買収

2006-05-15 | 石油
シェルカナダがオイルサンドオペレーターのBlackRock Venture社を買収する。買収額は2.4Bカナダドル。一株当り24ドル(市場価格は18.88ドル)となり、27%のプレミアがついていることになる。
この買収によりシェルカナダは14,000BDのSSBを増産させることとなる。

BlackRock Venture社は7年前に設立された会社でPeace River、Cold LakeとLloydminster地区での生産をしている。今後5年間でSeal地区での開発とHilda LakeでのSAGDプロジェクトを進める。SAGDはSteam Associated Gravimetric Drainageの略で、地中にスチームを注入してBitumenを軟化させて回収井戸で回収する方法で、オイルサンドを掘ってBitumenを抽出する方法に比べて安上がりな方法である。前者はIn situ法、後者はSurface mineとも呼ばれる。

原油価格の上昇に後押しされてオイルサンドの開発は活況である。3月にはアルバータ政府が日本でオイルサンド開発への参画を募る講演会を実施している。アルバータ州にはPeace River, Athabasca, Cold Lakeという3つのエリアがあるが、合計で14mヘクタールに上る。このうち開発されているのは3.5mヘクタール、25%に過ぎず、まだまだ開発の余地がある。

オイルサンドから生産されるBitumenは超重質油なので、Upgradingが必要である。コーキングとハイドロクラッキングを組み合わせて、軽質化と脱硫がなされる。アルバータのオイルサンド埋蔵量はサウジの原油についで世界第2位(イラクの埋蔵量よりも多い)と見られており、カナダという地政学的リスクの全く無いところで開発できることは、非常に有利なところであろう。

クリーンディーゼルエンジンの開発

2006-04-21 | 石油
アメリカのBorgWarner社とEPA(環境保護庁)はCDCと呼ばれるクリーンディーゼルエンジンの開発について協力する。EPAが持っているCDC技術を具体的な製品にするためにBorgWarner社が技術とノウハウを提供するというもの。
EPAが開発しているCDCはin-cylinder NOx controlといわれるもので、燃料室でのNOx発生を出力を落とすことなく下げる技術で、そのためには過給器が必要になるわけだが、BorgWarner社はターボ部品と空気制御技術を提供するものである。

ディーゼルエンジンはそもそもガソリンエンジンに比べて燃費が良いので、これの排ガスがクリーンになれば、空気がきれいになり、消費者のガソリン代も安上がりで、中東石油への依存度も減るという一石三鳥の技術である。

このような共同開発の動きが出てくる背景には米国の排ガス規制の強化ということがある。
先にも書いたが、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりも効率が高い。しかし、排気ガス(NOx、PM、NMHC)が汚い、振動が大きいなどの欠点が有る。
燃費が良いことからアメリカではバスや大型トラックはディーゼルだが、小型トラックLight Duty(ピックアップ、カーゴバン、ミニバン)や乗用車のディーゼルシェアは4%以下だ。

自動車に関連する規制には燃費規制、排ガス規制、燃料油規制の3種類がある。燃費規制はCorporate Average Fuel Economyと呼ばれ、各メーカーごとに作っている車の総平均値で規制がなされている。現行の規制では乗用車は27.5mile/gal(11.6km/L)、小型トラックは20.7mile/gal(8.7km/L)になっている。これは適時見直しされるが、乗用車と小型トラックの区別をなくして35mile/galに引き上げるという主張をしている議員さんもいるようである。いずれにせよ、燃費改善となるとディーゼルエンジンの活用という方策が注目される。

一方、EPAのTier2という化学物質全般の規制の中に自動車のNOx、PM,NMHC(non methan hydro-carbon)が定められていて、乗用車と小型トラックの適用車種が段階的に広くなっている。
大型ディーゼル車については2007年からNOxなどそれまでの90%に削減するという規制が始まる。規制値をあげれば、NOx0.2、PM0.01NMHC0.14以下である。こちらも段階的に適用比率を引き上げていき、2010年には100%実施としている。これらの規制はとくにPMが肺がんを発生させているという報告書が出されてことから勢いづいたと考えられる。
この2007年以降の規制を達成するためには後処理装置の装備が不可欠である。そこで、後処理装置に悪影響を与える燃料中の硫黄分を下げるという燃料規制が始まった。これは2006年9月から軽油中の硫黄分を500ppmから15ppmに減らすというものである。但し、燃料や潤滑油に含まれる添加剤には多量に硫黄分が含まれているが、こちらには着目されていない。燃料中の硫黄分は後処理装置の触媒を劣化させたり、サルフェートを生成しこれがPMの核になるといわれている。

ちなみに後処理装置にはNOX吸蔵触媒、Diesel Paticulate Filter,酸化触媒、SCR(尿素触媒)、プラズマ排気処理などがある。
このような後処理装置をつけるという現実的な対応を補完するために、クリーンディーゼルエンジン(CDC)の開発が進められているということだ。


ガソリン価格

2006-04-11 | 石油
アメリカのガソリン価格上昇が止まらない。AAAによれば全米平均価格は$2.61で昨年同時期に比べて36セントアップしている。

今は供給不足でもハリケーンが襲来しているわけでも無いのに、価格そのものは上昇している。これは、需要が高いこと、供給余力が限られていること、産油国政情不安などにより原油が高止まりしていることに大きく起因している。

2004年以降、ガソリン価格が上がっているにもかかわらず消費は落ちていない。むしろ2%の増加だそうだ。アメリカの生活は車と安いガソリンを基本としているので、価格が少々上がったからといって直ぐに車をやめるというわけにはいかない。

全米の精製能力は1700万BDで消費量は2050万DB(そのうち約半分がガソリン)である。その差はヨーロッパや近隣からの製品輸入で補われている。精製会社も2010年までに140万BDの能力増強を計画しているが、明日から増産が出来るわけではない。

もう一つ、今後の製品輸入には品質の問題が絡んでくる。今年からULSDがスタートする。Ultra-low-sulfur-dieselという硫黄分10ppm以下の規格だ。これはヨーロッパの規格よりも厳しいので、ヨーロッパから単純に製品輸入が出来なくなる。

さらにMTBEの使用禁止とエタノールへの移行が決められているが、エタノールの供給不足は13万BDに上るとのAPIの調査結果がある。
いずれにせよ、供給が追いつかない事情に変わりはなさそうだ。

ところで、アメリカのガソリン価格構成は60%が原油代、20%が税金、20%が精製と流通コストといわれている。昨年価格2.25$/galを基準にすると、$1.35が原油代、税金は$0.45、精製流通コストは$0.45となる。
これらはガロン基準なのでリットル当りに換算すると、$0.36が原油代、税金と精製流通コストはそれぞれ$0.12にすぎ無い。為替を117円/$とすれば、アメリカのガソリン価格は69円/Lであり、日本の価格に比べれば半分程度である。これならば多少価格が上がっても、ガソリン消費が減らないというのはうなずける。