ウクライナが東部ドネツク州の要衝マリウポリをロシア軍との激しい攻防の末に占拠されて1年が経過した。露軍の捕虜となったままの兵士は約2千人に上るといい、親族らは「非人道的な拷問が行われている」と焦燥感を募らせる。ウクライナのゼレンスキー大統領は先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で捕虜らの解放を含む和平案の重要性を訴えたが、早期解放の見通しは立たない。 マリウポリはアゾフ海に面した工業都市で、露軍が昨年2月の侵攻直後から包囲した。ウクライナ側ではアゾフスタリ製鉄所を最後の拠点に「アゾフ大隊」などが籠城。2万人以上が死亡したとされ、昨年5月16日に投降を始めた。露側は20日に完全制圧を宣言し、2439人が投降したと発表。投降者を捕虜としてドネツク州の支配地域や露国内に移送したとみられる。 今月16日には捕虜の妻や親族らでつくる団体「鋼の女性」代表のナタリヤ・ザリツカ氏ら5人がキーウ市内で記者会見。ザリツカ氏は「あらゆる努力にもかかわらず、過去1年で帰還できた兵士はわずか約500人。残りは今も地獄の日々を送っている」と涙ながらに語った。 今月6日にも新たに45人のウクライナ兵が帰還したと明かしたが、「1年前の丈夫で健康な姿に永遠に戻らないかのようなひどい状態だ」と嘆く。露側に電気ショックで尋問、暴行されるなどし、昨年9月に帰還した215人は体重が平均で40キロ減少。背骨の骨折や腎臓の損傷、視力・聴力の低下がみられたという。 ウクライナ政府に対し、拘束したロシア人捕虜が自国の家族と連絡が取れるように求め、実現したことも紹介。ロシア側にも同様の人道的な配慮を要求し、ウクライナ兵への拷問の停止や十分な食事の提供を求めた。 ゼレンスキー氏は製鉄所の部隊全員の生還を目指し、これまで露側との捕虜交換に複数回成功した。だが、ロシアは部隊の中心を担ったアゾフ大隊を「ネオナチ」と敵視し、露最高裁は昨年8月、大隊を「テロ組織」に認定。全員の早期解放は厳しい情勢だ。
産経新聞