英国のトラス首相は目玉政策の大型減税が挫折し、就任1カ月余で辞任に追い込まれた。この苦境を岸田文雄首相は人ごととして眺めていられるだろうか。「国葬」後も内閣支持率の低下傾向は止まらぬ折、長男、翔太郎氏を政務担当の首相秘書官に起用した人事がすこぶる不評だ。
悪評の主な理由を拾うと①政権の信頼が落ちている時期に「身内人事」を優先させた②まだ31歳と若い長男には力量的な疑問がある―に集約されよう。物価高や旧統一教会との関係など、支持率低下を招いた案件に首相が示す答えには、まどろっこしさがつきまとう。「いま行うべき人事か」と批判が出るのは当然だ。一方、長男の力量は未知数で、直ちに批判の対象とするのは早計にも思える。政務の首相秘書官は身内や金庫番が務めた例もあり、どれだけ役に立つかは起用した首相が判断し、自らリスクを負えばよい。
むしろ問題は、いまや「何をやってもケチがつく」モードが永田町内外で加速しだしているのに、首相自身がそれに気付かずにいたことではないか。長男起用について国会で問われた首相は「政権発足から1年という節目をとらえ、適材適所の観点から総合的に判断した」と答えた。およそ説明にはなっていないが、若いうちに政権中枢で勉強させておきたい親心もあっただろう。ただ、主眼は信頼できる「身内中の身内」を近くに置くことにあったはずだ。そうでなければ文字通りの情実人事、公私混同とのそしりは免れまい。
産経新聞