先月連載した「シン・令和阿房列車で行こう」に数多くの反響をいただいた。5歳のお孫さんの代筆でファンレターを送っていただいた方もいて感謝感激している。中には「次回は存亡の機に立っている大井川鐵道に乗ってほしい」というリクエストもあった。SL列車で知られる同鉄道は、昨年9月の台風15号によって甚大な被害を受け、いまだに一部区間は不通のままだ。
静岡県は、同鉄道に関して「公共交通のあり方検討会」を発足させた。初会合で県側は「必ずしも全線復旧を前提としない」と明言した。一部区間はそのまま廃止になりかねない。同県の川勝平太知事は、リニアに限らず、鉄道には厳しい。万年赤字の富士山静岡空港には湯水のごとく税金を投入し続けているのに。
1日千人も乗らぬ静岡空港
同空港は、県が約1655億円を投じて14年前に開港した地方空港だが、令和4年度の利用客は約35万2千人しかいなかった。1日の利用客は千人にも満たない。国内線は福岡便など1日9往復、国際線は同1往復しか飛んでいないのだからむべなるかな。当初予測では年間約140万人の利用を見込んでおり、詐欺といわれても仕方あるまい。
空港運営会社も毎年、赤字続きだ。それでも県は、空港振興関連事業に今年度も31億2100万円もつぎ込む。うち国際線(海外旅行商品)を対象に1席5千円、総額3億円もの支援金を大盤振る舞いする。鉄道への対応とは大違いだ。
同空港は、川勝氏が知事に就任した年に開港したこともあって思い入れが深い。就任翌年の平成22年には、尖閣諸島沖で中国漁船の衝突事件が起こり、日中関係が緊張状態に陥っていたにもかかわらず、4度も訪中し、トップセールスで中国各地と静岡空港を結ぶ航空路新設につなげた。そのかいあって同空港の年間利用客は一時、70万人を超えた。
ところが、コロナ禍で中国便は全路線休止となり、利用客は激減した。しかも「再開のめどは立っていない」(県関係者)という。
知事は、過去の成功体験に酔い、中国頼みが過ぎるのではないか。そもそも需要がないのに、税金で客を呼ぼうとするところに無理がある。
空港問題だけなら「知事を選んだ県民の責任」なのだが、リニア建設に無理難題を吹っ掛けて全国民に迷惑をかけているのは見逃せない。
口先だけの「リニア賛成」
5月31日、川勝知事はリニア沿線の知事が一堂に会した「期成同盟会」総会で「静岡県は一貫してリニアに賛成している」といいつつ、水や掘削土処理問題などでは従来の立場を変えなかった。出席者からは「速やかに工事が着工されることを強く、強く期待する」(山梨県知事)など川勝知事に翻意を求める意見がほとんどで、まさに孤立無援。
私は知事の学者時代から存じているが、あの頃のシャープさはすっかり影を潜め、自説に固執する頑迷固陋(ころう)な言動が目立つ。14年近くも知事の椅子に座り続けていると、周りはイエスマンだらけになり、「お山の大将」になるのも世の常か。
知事を日々取材している地元メディアは、いろいろとしがらみがあるだろうから代わって申し上げる。
「知事、もう引き時ですよ」と。(コラムニスト) 産経新聞