gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

忘れえぬ女 -(その8 心の変遷)

2014-11-22 10:03:38 | 小説
 十二月の初め、達也はゆみを伴って実家を訪れ、母と祖母に会ってもらった。
母からはいきおい彼女への質問が多くなり可愛そうになり早々に帰ることにした。

 達也は彼女が愛しく二人きりになりたく、
「二人だけになれるところに行こう」と言ったら
「留守だから家へ行こう」との提案に乗りゆみの家に向った。
途中彼女のことが愛しくてたまらず車を止めて手を握り合ったり、キスを求めたりしながら彼女の家に初めて入った。

 明るい時に見るゆみの家は旧家のたたずまいであった。
達也の家も主立ちの家柄であり、今まで紹介していただいた方は本人だけでなく家のバランスも考慮していただいたことが分かった。
 先祖の姻戚関係はまさに家と家との関係に重点が置かれており、当時はそれなりの秩序が保たれていたのであろう。
 達也の伴侶を求める判断基準は当然のことながら本人の人格そのものであるが、育った家はその人の価値観、習慣にも影響しており出来れば似通った家柄にこしたことがなくありがたかった。
 さらには、達也とゆみの遺伝子なら先祖に恥じない家庭を築けそうに思い、二人で両家を守って行かなければならないという義務感よりは、いけるという確信を抱くことができた。
 それは、以前にゆみが達也に「良い男(ひと)は皆、長男なんだから」と言っていたし、恩師に「姉はサッサとお嫁に行ってしまった」とも言ったそうである。このことから察するに、ゆみは出来ることなら婿養子を迎えて、実家を継ぎたかったのであろう。達也は長男であり婿養子にはなれないが、二人の子供の一人をゆみの両親と養子縁組するなどしてゆみの気持ちに応えなければと思うのであった。

 部屋にはピアノがあり、ゆみに弾いてもらっていた。
演奏しているゆみを見ていて、何気なく彼女の足に目が留まった。
その足は達也の甲高な足とは違い、脚に続いて細くスラッとしていることに初めて気付いた。
ハイヒールを履いたら綺麗だろうなあと想像していると、愛しくさが込み上げてきて思わずゆみを抱き締めてしまった。
ところがゆみは達也の意に反して嫌と言って達也の腕から逃げてしまった。
 それからコタツに入るにも二人並んで入りたいと言っても拒否され、コタツの周りで鬼ごっこのように走ったが捕まえられずに諦めてしまった。
 仕方なく対面に入り今度は足を伸ばしてゆみの足に触ろうとした、これは彼女も許してくれ子供の頃のように互いの足を蹴りあって戯れた。
 また、スタイルが良いゆみの水着姿が見たく写真を見せてくれと要求したが、とうとう見せては呉れなかった。
 
 話も他愛ないもので特に内容は思い出せないが、只二人一緒に居るだけで楽しく時間の経つのも気づかずにご両親が帰宅されてしまい、正式にご挨拶に伺う前に挨拶する羽目になってしまった。
 結局夕食までご馳走になり夜の九時ころ漸く辞することにし、
「車まで送って欲しい」と要求したところ
「キスするからダメ」と言われ玄関で別れた。

 今日は出来ればゆみを抱き、二人で結婚を約束しようとしていた達也としては最後まで“おあづけ”で何か気持ちが満たさなかった。
 独身寮への帰途、戴いた“自家製のなめこ”を届けるため実家に立ち寄ったところ、母もゆみに対する印象がよく「いい人だね」と言ってくれた。


 その後こんなこともあった。達也が車の中で愛おしさのあまり彼女の手を弄んでいると肉体的にも反応し我慢できなくなってしまった。そこで、ゆみの手をそっとズボンの上へ誘導したら、激しく抵抗し達也の手を抓り
「そういうことは結婚している人がやることでしょ! 抓ってやるから」と厳しく拒絶されてしまった。

 達也は相手への愛しさが増すにつれ、肉体的にも互いに接触したい気持ちが高まると思っていたのに。
せめてゆみが「あなたの気持ちは分かるけど、結婚までは我慢してね」などと言ってくれていたら、また可愛さが増したのに。

拒絶されることが続くと、理性的には結婚相手として申し分のないゆみであったが、

    ゆみには接触していたいという気持ちが湧かないのかな?
    ゆみは本当は達也のことををあまり好きではないが、客観的な条件が良いという理由か
      ら結婚してもよいか位に考えているのではないだろうか? 
    甘く蕩けるような新婚生活は期待できないのかな?

などと、否定的な思いが次第に頭をもたげ、結婚しようという気持ちも確信から迷いへと移ってしまった。

忘れぬ女-(その7 愛の深まり)

2014-11-21 09:18:48 | 小説
[お断り]
この小説はOCNのマイHPで発表してきたが、OCNでは個人のHP、ブログを廃止することになりました。
そこで、gooのブログに移行しつつあります。
----------------------------------------------------

その日を境に、達也はいつもゆみと一緒に居たくなった。
また、一緒に居れば居ったで彼女に触れていたくなっていった。
 人目につくところでは触れられない反動から、車を運転しているときは常に左手で彼女の手を握っており、運転操作が必要なときは慌てて手を離し、用が済めばまた握るのであった。


 あるとき、達也がゆみを抱き寄せたとき偶然におっぱいに触れてしまった。
彼女はすまなそうに
「小さいのよ」と言う、達也はおっぱいの大きさに関心がなかったので
「大きい女は頭が良くないと聞いたことがあるから、小さくていいよ」
と言い、彼女のいじらしさがまたたまらなくなった。

 また、ゆみの手をもてあそんでいると、
「学校で土方みたいなこともするのよ、あなたの手のように綺麗ではないわ」と言う彼女に
「きれいな手だよ。僕だって油まみれになることもあるし、こんなに大きなホクロがあってみっともない手でごめん」と、愛おしく彼女の手の甲と指に口づけするのであった。
 さらには、達也はゆみのものは何でも受け入れたいと言う気持ちになり、あるときなど肩を抱き寄せると「風邪がうつるわよ」と言われたのに
「ゆみさんの風邪ならうつりたい」と言って唇を寄せるのであった。


 達也はゆみと結婚したいという気持ちが増して来るのとは逆に、こんなに浮かれて本当に大丈夫なのかと言う気持ちも頭をもたげるのであった。
 今はいいけれど将来にわたって相性がいいんだろうか?
気懸かりになり、相性に関する本を調べているうちに、血液型に関して達也のA型と由美のO型は不適合な場合があるという記述に遭遇してしまった。

 達也とゆみの血液型の組み合わせは達也の両親と同じであった。両親の夫婦仲が必ずしも良い様には思われなかった小学生の頃の記憶がまた達也を不安にした。
 早速、知合いの産婦人科医に電話で相談したところ
「血液型不適合に関して学会では定説になっていないし余り気にすることはない。それより遺伝的な問題がないか調べなさい」
との見解をもらい安堵したが、彼女にも手紙で内容を伝えた。

 ゆみからは、綺麗な文字で
「出会った直ぐの頃でまだ好きにならないときなら、問題があるなら止めればいいだけなんだけど」と言う趣旨の返信があった。
 達也は字には劣等感を持っていたので、ゆみの綺麗な文字を見て改めて好きになるのであった。
 最近の統計的な男女の相性は、男性のA型と女性のO型は最高に相性が良いとされている。当時も最近のようなデーターがあれば二人の関係は違った形になっていたかも知れない。


 あるとき、達也は行き付けのスタンド割烹のママさんに
「愈々私も結婚しようと思っている」と言ったところ、
「お相手はあなたと同じくらいの歳で、学校の先生か何かでないの」と言われ、商売柄とは言えさすが人を見る目が鋭いなと感じいった。
あるいは、何気なくゆみのことを話の端に出していてママさんのデーターベースに蓄えられていたのかもしれない。

 また、以前に交際していた会社の受付をしていた美人と言うよりも可愛い女の子を店に連れていったことがあったが、後でママさんから
「彼女はあなたに合わせるのに、いじらしいくらいよ」と言われたことがあった。
事実交際を重ねるにつれて価値観の違いが意識され、なんとなく終わったことを思い出し、ママさんの観察洞察力によればゆみとは似合いの夫婦になれそうに見えるのかなあ、と期待を膨らませるのであった。


 この頃になると、結婚後についての話題も多くなっていった。

「新婚の一年間は親とは同居しない」
「家事は交替にして欲しい」
「でも帰宅は七時過ぎになっちゃうよ」
「子供が出来たら育児に専念するため勤めを辞めて欲しい」
「転勤になったらどうする?単身赴任なら浮気しちゃうかも」
「そうしたら私も遊んでやるから」
などと真剣なものでなく楽しい言葉遊びみたいなものであった。

忘れえぬ女-(その6 愛の芽生え)

2014-11-20 11:10:16 | 小説


 そんな付き合いの後、十一月三日文化の日に二人で宇奈月温泉からの黒部峡谷トロッコ電車で紅葉狩りに出掛けることになった。

達也は迎えのためゆみの家の近くで車を停めて待っていた。
 しばらくして乗り込んできたゆみはいつものスラックスではなく、スカート姿であった。

「弁当持ってきてくれた」
「持ってきていない」
「残念だな、貴女の手作り弁当が食べたかったのに」などと話しながら車を走らせていた。
 話の中で、ゆみが
「職場の同僚が『今日は結納じゃないの?』と言うのよ」と言うし、
スラッとした脚が見たく要求していたスカートも履いてきてくれたことから、達也は「嫌われてはいないんだな」とうれしくなった。

 途中の景勝地親不知で、達也がゆみの写真を撮りたいと言ったら、
「脚を撮るんでしょう」と
言って自慢の脚のポーズをとるのであった。
以前、達也が「綺麗な脚ですね」と褒めていたことが嬉しかったのであろうか、達也も嬉しい。

 現在この写真は存在していない。それはゆみに限らず、別れた女性の写真や手紙はすべて焼却処分し、後日迷惑が及ばないようにしているためである。


トロッコ電車宇奈月駅 昼前には宇奈月温泉に到着した。
いざ、トロッコ電車に乗ろうとしたら、午後三時以降の発車しか席が空いていなかった。
 当日は祝日の上、天候もよく行楽客が多いのは当然で事前の準備不足が悔やまれた。
 三時以降では帰りが遅くなってしまうが、折角の機会であり待つことにした。
 発車時刻までの時間を、途中で買ったサンドイッチを川原で食べたり、温泉街を散策したりして過ごした。
達也は手を繋いで歩きたかったが、まだ二人はそこまで打解け合えるような雰囲気ではなかった。


秋のトロッコ電車 いよいよ窓ガラスのないトロッコ電車に乗りゆみを窓際に二人ならんで席に着いた。
 峡谷に沿ったり、鉄橋を渡ったりするトロッコから見る連続した紅葉と峡谷美に、

「ほら、あそこ見て、綺麗だよ」
「本当ね、あそこもすごいわ」
などと二人は感嘆の声をあげるのであった。

 互いに感動を共有しているうちに一体感が醸成され相手の存在に違和感を感じなくなっていった。隣にゆみが居ることがごく自然で、二人の間のぎこちなさが取り払われたような気持ちになった。

 午後の遅い時間帯でこれほどの美しさなら、燦々と太陽の光を浴びる時間帯ならもっと素晴らしいい紅葉が見られたであろうに。
 時間が経ち夕方になると、寒さを感じ達也はコートを脱ぎスカートで寒そうなゆみの膝に掛けてやった。達也はコートにまぎれてゆみの手を握りたい誘惑に耐えなければならなかった。

 終点の欅平に着いたときには薄暗くなり帰りの時間が気になりだした。
そこで達也は冗談混じりに
「明日は仕事を休んで二人でここに泊まろうか」
と言ってみたが、軽く受け流されてしまった。
還りは夕闇となり宇奈月温泉に戻ったのは午後の七時を過ぎてしまい、駅近くの食堂で簡単な夕食を摂り、ゆみの家への土産を買って帰路に着いた。


 宇奈月へ来る途中、ゆみがセカンドバッグを落とし、警察に紛失届けを出していたが、途中の交番に届けられており受け取りに立ち寄った。
交番では一応本人確認の一環として
「ご主人ですか」と問われた達也は
「いえ友達です」と答えた。

 交番を後にし、車に乗り込んだら突然
「夫婦と言ってもよかったのに」
と言い出すゆみに、達也は愛おしさが湧いてくるのを覚えた。

 スピードを上げて車を走らせたが、彼女の家に着いたのが夜中の十二時頃になってしまった。
ゆみの気持ちが分かった達也はそのまま彼女を帰したくなく、車の中で抱き寄せたかったがきっかけが掴めなかった。
 車から降りて玄関まで送ることにしゆみの後について歩くうち愛おしさが頂点に達し、堪えきれず、後ろから  


「ゆみさん、僕のこと嫌い?」と問うたところ、後ろを振り向き
「好きです」と言う言葉が返ってきた。
 達也は咄嗟に彼女を抱きしめ唇にキスをしようとした。はじめ唇が彼女の鼻の辺りに触れた後、彼女の方から顔を上げて達也の唇に合わせてきた。

 ゆみの家の照明が点灯され、
「母が来るから止めて」というゆみの言葉で至福の時も瞬く間に終わってしまった。
達也はゆみのお母さんに遅くなったお詫びを言って彼女の家を後にした。

 達也は、その夜独身寮の床に入ってからも、二人の会話を反芻し、彼女の唇の感触を感じながら眠りに着くのであった。


 翌朝早く、独身寮の達也に電話が掛かってきた。
昨夜遅かったので眠い目を擦りながら
「こんなに朝早く、会社からの呼び出しかな」と電話にでると、ゆみの声で

「わたし。昨日はびっくりしたわ、突然なんだもの」
「ごめん」
「どうしたの、こんなに早く、どこから電話しているの?」
「学校から」
「こんなに朝早く何で学校へ行ったの」
「バイクで来たの」
「夕べ遅く余り眠っていないのに、危ないから気をつけてくれなければだめだよ(僕の大事な人なんだから)」
「公民館にいた青年会の人に見られたみたいよ。母も気付いたようだし」
「ごめん」
「今度の土曜日どう?会える?」
「大丈夫と思うけど、あなたこそ忙しいと言っていたのに大丈夫?」
「大丈夫よ」。

 こんな会話が交わされ、達也は胸一杯に幸せを感じるのであった。

忘れえぬ女-(その5 再会)

2014-11-18 17:26:37 | 小説
その後一ヵ月くらい経ったころ、ゆみから勤務中の達也に電話が入った。
「高津駅に居ます。出て来れませんか」
「五時半に行けると思います」と勤務中でもあり、事務的に応対した。

 残念ながら、約束の時間までに仕事のケリがつかず、ゆみには申し訳なかったがそれ以外の連絡手段がなく高津駅の電話に呼び出し遅れる旨を伝えた。
 遅れて待合室に入るとゆみは長椅子に掛けて新書本か文庫本を読んでいた。
丁度夕食時間になっていたので高津川沿いの開店して間もない古民家風のレストランで食事をとることにした。
 電話での気不味いやり取りの後だけに会話もスムーズにいかなかった。
ゆみは出始めの”みかん”を薦めるなど気遣ってくれた。
その日は打ち解けずに終わってしまったが次回の約束はできた。

 その後は、主に退社後ゆみの勤務地に近い地域で食事をしたり、ボーリングをしたりして互いの理解を深めていった。ボーリングはゲームとしての楽しさも加わり打ち解けやすく、高得点が出たときなど自然と握手が出来るまでになっていった。
 しかしながら、まだゆみに対する愛おしいという気持ちが芽生えなかったためか、どんな会話をしたのか思い出せない。多分お互いのこれまでの生い立ちや家庭環境、職場環境、人生観などを話題にしていたものと思われる。

 ゆみは達也と会うときも職業柄落ち着いた服装ばかりで、若い女性特有の華やかさがなかった。同じ職業でも破談になった前の彼女は東京の大学を出て未だ二年目だったので、都会の雰囲気と華やかさを持っていたのに。
 その頃の達也は自分のどちらかと言うと地味な性格と対照的な快活で活発な女性に魅力を感じていた。
 ゆみは職業柄からか、真面目で奥ゆかしく賢い女性で、口数も多くなく面白いといった感じはなかった。
 達也は自分が不細工の上猫背で格好が悪いのを自覚していて、男は外見で無く頭と心だと強がりを言って、さらには服装も地味なものを好んでいた。

 然るにゆみに好意を抱き始めると身勝手にもゆみには外見も要求してしまい、ゆみを自分好みの女に変身させたい誘惑に駆られた。
 達也はスタイルが良いゆみの服装を変え、外見上も素晴らしい女性にしたいと思った。
そこで、地元から離れたN市のデパートへ連れて行き、店員に頼んで服装と色をガラッと変てみたかった。そして、知った人と出会う虞のない街でミニスカートを履かせて二人で歩いてみたかったが、実行に移せなかった。

 ゆみもまた、達也の外見を気にしていたのかも知れない。
と言うのは、ゆみが達也の誕生日に赤系のネクタイをプレゼントしてくれた。
当時の達也は「ゆみさんにしては大胆なチョイスだな」と感じていたが、今思えばゆみは達也の外見に物足りなさを強く感じていたのかも知れない。