バスは、長野原草津口駅を予定通りの10時57分に発車し、新須川橋の交差点を右折し、旧太子線の廃線跡の築堤と鉄橋を左手に見つつ、国道292号線へと進みました。この国道292号線は草津温泉へと続きますので、野反湖へは途中の分岐からの国道405号線をたどります。
道は上図の白砂川に沿ってくねくねと続き、右手に赤岩の養蚕集落を見、同じく右手に旧太子駅跡の入口の黒い貨車を見つつ、緩やかに登っていきました。
乗客は私だけで、一番前の席に座っていましたから、気さくで親切な運転手さんが時々見どころを説明して下さいました。白砂川は野反湖から流れているのではなくて源流が別にあること、赤岩の養蚕集落は重伝建になっていて古い養蚕農家の建物が多い事、旧太子駅跡には、日本でそこにしかない貴重な貨車が多く保存されていること、等でした。
途中で上図の道の駅のバス停に停まりました。運転手さん曰く「もとは応徳温泉という一軒宿がある場所でして、そこをこのように広げて、販売所とか食事処とか便所を揃えて道の駅に整備したところですよ」との事でした。
この道の駅も作中に登場します。
このシーンですね。道の駅の看板は同じですが、「六合」が「小雨」に変えてあります。
それから分岐にて左折して国道405号線に入り、カーブが増え、坂道の上り勾配もきつくなってきました。上図は途中の花敷温泉バス停に停まる直前の橋から見た白砂川の流れです。
国道405号線に入ってから、左右の道端に上図のような赤いピラミッド形の設置物をよく見かけました。作中でも斉藤恵那が見ていて「謎の赤い三角錐が」と話しています。
このシーンですね。続きのコマで瑞浪絵真が防火用水の標識である旨を指摘していましたが、各務原なでしこはキャンプ場への道標だと主張していましたね。
でも、運転手さんに訊いたところ、「防火用水の印ですけどね。このへん冬には雪が積りますんでね、積もると防火用水の場所が分からんようになりますでしょ、雪が積もっていても、万が一の時に場所が分かるように赤く塗ってあるんですね・・・、えっ、初めて見たんですか、そうですか・・・この辺りではどこでもありますけどね」と話してくれました。
花敷温泉を出て白砂ダム横の橋を渡った後は、道がずっと登り坂になり、九十九折のカーブが連続で続き、視界がだんだんと広がって行って、上図のように山並みが下に見えるまでになりました。運転手さんが「もうすぐ標高1000メートルを超えますよ」と言いました。
「1000メートルを超えるんですか」
「ええ、これからもっと登りますよ。野反湖は標高1513メートルですから」
「そんなに高いんですか、それで気温が低いとか言われてるわけですね」
「ええ、今あたりですと、下は暖かいですけど野反湖まで行くとずっと寒くなりますね。春は5月から山開きですけどまだ雪は残りますし、6月になっても夕方になれば寒くなりますよ、夏でも夜は涼し過ぎるぐらいですよ」
「はあ・・・」
周囲の景色も、杉林から広葉樹林に変わり、木が疎らになって地面を熊笹が覆い、標高1000メートルを過ぎてからは熊笹が千島笹に変わりました。野反湖へ近づくにつれて周囲の地形がなだらかになり、青空が広がってゆきました。
12時1分、目的地の野反峠バス停で降りました。入れ替わりに3人の登山客が乗ってゆきました。
野反峠バス停から北には、あおあおとした野反湖の湖面が見えていました。ついにやってきたな、と込み上げてくる深い感動をかみしめました。京都からは550キロあまり、本当に遠い、とても遠い、最長距離を測るゆるキャン聖地でした。
バス停から西には、観光駐車場があり、その奥に「野反峠休憩舎・花の駅」の建物が見えました。作中のアングルそのままでした。
このシーンです。「そして約一時間後」とありますが、その通り、長野原草津口駅からバスに乗って1時間3分かかりました。つまり、各務原なでしこ達は、長野原草津口駅でバスに乗ってここで降りるまで、どこにも立ち寄っていないことが分かります。
なので、この聖地巡礼の後で公開された連載最新の第98話にて、瑞浪絵真がスマホにて旧太子駅跡に立ち寄った際の写真を見ている場面を見てびっくりしました。
あれ、旧太子駅跡に立ち寄ってるじゃないか、上図の「約1時間後」と矛盾してるじゃないか、と思いました。現実のバスのダイヤでは旧太子駅跡に立ち寄ることが不可能であることを運転手さんにも確認したばかりでしたので、また原作者あfろ氏ならばでの適当なストーリー展開になってるな、と思いました。
ゆるキャンの第1話から見ていていつも感じるのですが、キャンプに向かう道中などの描写が最低限で、どこへ行くにも途中の行程や経路をほとんど描写しないケースが普通であるため、実際に聖地巡礼で行くと道中の長さに驚かされたり、山道の険しさにビビらされたり、作中にないポイントに出くわして混乱してしまうことが多いです。四尾連湖しかり、赤沢宿しかり、早川奈良田しかり、高ボッチ高原しかり、畑薙大吊橋しかりでしたが、今回の野反湖はさらに斜め上を行ってるな、と感じました。
おそらく、旧太子駅跡に立ち寄った云々は、実際のバスのダイヤでは行きでも帰りでも立ち寄るのが不可能であるため、後から思いついて適当に追加されたストーリーかもしれません。
原作者あfろ氏自身はツーリングが趣味だそうで、だいたいの取材はバイクか車で行くそうですので、野反湖へもバイクか車で行ったものと思われます。バイクか車であれば、野反湖への途中に旧太子駅跡に立ち寄ることは簡単だからです。 (続く)