熊ノ平駅跡の「アプトの道」は、最初に信越線の新線跡の上下線の間を通り、上図のように右側の上り線を踏切で渡ってその右側の旧線跡へとそれていきます。作中で、各務原なでしこは旧線跡まで行ってあちこちを撮りまくっていましたが、瑞浪絵真は踏切の手前で立ち止まってスマホで調べていたようです。
このシーンです。原作コミック第16巻66ページ3コマ目です。各務原なでしこは3ヶ所で撮影していますね。2ヶ所はトンネルを、もう1ヶ所は旧線跡脇の神社あたりを撮っていたようです。
踏切の上から信越線新線跡の上り線の横川方面を見ました。左に下り線が並び、いずれも奥のトンネルに続いていますが、トンネル入り口に安全対策のための防護柵が設けてあります。
踏切付近で反対側を見ました。変電所跡の白いコンクリート施設、プラットホーム、作業小屋などが廃線となった時点よりそのまま保たれています。これらの施設は一括して「旧碓氷峠鉄道施設」の件名で国の重要文化財に指定されているため、文化財保護法でいう「現状維持および保存」が図られているわけです。
各務原なでしこが撮っていた、旧線跡脇の神社です。左隣には殉難碑もあります。大正七年(1918)にここ熊ノ平駅構内で発生した列車脱線事故の犠牲者、および昭和二十五年(1950)に駅構内で発生した土砂崩壊により熊ノ平駅舎、鉄道官舎等が埋没した事故の犠牲者、の慰霊のために設けられたそうです。
神社付近から見える横川方面のトンネルは4つあり、上図の2つの左側はいま「アプトの道」として整備されている旧線跡、右側は俗に「突っ込み線」と呼ばれる引き込み線のものです。
熊ノ平駅ではいわゆるスイッチバック方式が採られて列車の切り替えや交換が行われていたそうですので、その際にいったん列車を引き込み線に「突っ込んで」方向の入り替えを行なっていたそうです。その引き込み線はトンネルの向こうで行き止まりになっています。
そして右の「アプトの道」として整備されている旧線跡のトンネルの向こうに、新線跡の上下線の2つのトンネルが並びます。
駅構内の大体の施設と景色を見て撮ったので、「アプトの道」の旧線跡に進むことにしました。上図は一度振り返って駅構内を望んだところです。
今回の「アプトの道」の最初のトンネル、碓氷第十トンネルです。明治二十五年(1892)9月竣功、全長約102メートル、御覧のよう石製の笠石および帯石を除いてポータルの全てがレンガで造られています。
旧線のトンネルは、横川駅側から順番に番号が付けられており、熊ノ平駅までに10のトンネルがあります。それで今回は熊ノ平駅から横川駅までのルートを進みますので、十、九、八・・・の順にトンネルをくぐることになります。
第十トンネルの中を歩きました。空気がひんやりしていて気持ち良かったです。内部は築造当時のレンガ壁面とコンクリート補修跡とが混在していました。上図左に見える退避抗と呼ばれる、保線員がトンネル内にて列車の通過時に避難するための窪みが等間隔で配置されていました。
第十トンネルを抜けようとする地点で、奥に次の第九トンネルが見えていました。いい雰囲気の廃線跡です。大井川鐡道井川線のトンネル群も似たような感じだなあ、と思い出しました。こういう雰囲気の山の中のトンネル群をNゲージのジオラマで作ってみるのも面白そうです。
碓氷第九トンネルです。明治二十五年(1892)9月竣功、全長約119メートル。ポータルの造りはさきの第十トンネルと共通です。一般的なトンネルにみられるピラスター(付け柱)が無いので、ポータルがスッキリして見えますが、反面どこか弱弱しい感じがします。構造材としてのピラスターが有るか無いかで、印象も左右されます。
第九トンネルを抜けると、長い橋があります。旧線跡ではトンネルと同じく橋梁も幾つか築かれていまに残っていますが、普通に「アプトの道」を歩いていると、橋梁の上をたどるだけになりますので、橋梁の姿や規模や文化財的価値といったものは分かりにくいです。道からそれて橋の横や下へ降りたりしないと、橋の姿を見られません。
橋の上から右下の谷筋を見下ろすと、横川駅からタクシーで登ってきた国道18号線の旧ルートが見えました。タクシーの運転手さんが「あれが2番目に大きい橋ですよ」と指さして教えてくれた、その橋をいま渡っているのでした。
旧線跡にて1番大きい橋は、作中で各務原なでしこ達も見上げた第三橋梁で、「めがね橋」の愛称でも知られる有名なスポットです。それに続いて2番目に大きい橋をいま渡っているのでしたが、その全容を見られませんので、いまひとつピンときませんでした。
その橋は碓氷第六橋梁といい、明治二十六年(1893)3月の竣功で、全長は約51メートル、高さは17.4メートルありますが、アーチは一つだけであとは全てレンガ積みで構築しているため、ピラスターも付けられて堅牢な造りになっているということです。
トンネルと同じように橋梁も横川駅側から順番に番号が付けられており、熊ノ平駅までに6の橋梁があります。したがって今回の「アプトの道」ではこの第六橋梁が最初の橋にあたります。 (続く)