「あるある!」。思わずうなずいてしまう日常のふとした光景に、つぶやくような言葉を添えた浮世絵風イラストが人気を集めている。インスタグラムのフォロワーはいまや20万人超。福岡市のイラストレーター山田全自動さん(35)の独特の世界をのぞいてみた。

 「手を差し出したら トレーにお釣りを置かれた時の 切なさ」(イラスト①)

 「四人がけの席で進行方向とは 逆の席に座ってしまったけど はじめから知ってましたよ みたいな雰囲気で座り続ける」(②)

 現代の風景に、まげを結った着物姿の人物。山田さんがiPadとタッチペンを使って描く浮世絵風イラストのなんともいえない空気感の投稿に多くの人が共感する。毎日1枚投稿すると、1、2万人の人が「いいね」をクリックする。

 「素振りをしていたら、そこに球が飛んできて、ヒットになったような感じ」。現状をそう例える。

「北斎漫画」を見本に

 インスタに浮世絵風イラストを投稿し始めたのは2016年12月のこと。

ログイン前の続き 4年ほど前、ウェブ制作会社代表の傍らで、「イラストができればもっと仕事が来るかもしれない」とイラストの練習を始めた。

 元々、子どもの頃から人気漫画「ドラゴンボール」を一冊まるごと模写したりと、イラストを描くことは好きだったが、本格的に習ったことはない。

 浮世絵師・葛飾北斎が弟子のためにつくったという絵手本集「北斎漫画」を見本にして、好きなバンドの絵を描いてみると周りからの反応がよく、浮世絵風のイラストを描くように。

 自身のブログにも投稿はしていたが、今ほどの反応はなかった。

 2年ほどが過ぎ、インスタでイラストを投稿している人たちが人気を集めていることに気づいた妻が、投稿を勧めた。

 始めてみると、ネットメディアなどで取り上げられ、一気に人気を得た。イラストレーターとして山田全自動と名乗るようになった。全自動は、自宅近くに出身地があり、明治~昭和初期に活躍した俳人吉岡禅寺洞にあやかった。

 テーマになるのは「あえて言わないけれど、言葉にされたら恥ずかしい」光景だ。

 「ライブ会場で モニターばかり見ていたら これってテレビ見てるのと 同じじゃないかと思えてきた」(③)

 「『ここは私が払いますから』 『いえいえ私が』というやり取りを 冷めた目で見つめる店員さんを観察」(④)

「人の目を気にする性格なので」

 紳士服店で働いていた頃に見た同僚や上司の姿も参考になった。日頃、そういった様子を目にしたらメモも欠かさない。「自分が人の目を気にする性格なので、人のことが気になるのかもしれない」

 その観察力は「まち歩きの達人」としても生かされている。Y氏と名乗り、「Y氏は暇人」というサイトで珍スポットやレトロな場所などを紹介し、書籍も出す。那珂川町にある巨大タマムシの造形物など不思議なものを展示する私設博物館「不思議博物館」や、大野城市の鏝絵(こてえ)の私設博物館などが登場する。

 昨年は東京や大阪といった国内だけでなく、リトアニアでも作品が展示された。外国人観光客が多く訪れるという地元佐賀の忍者村「肥前夢街道」には、常設展もオープンした。

 「せっかく海外の人に興味を持ってもらえる作風。海外の人がぱっと見て、『面白い!』と思ってもらうような作品をつくっていけたら」と話す。ただ、「これからも素振りを続けるだけですが」(