“ちょっと苦手だな”
と思いながらも
叔母や叔父の姿が見つからなかったので
仕方なくその場に座ってると
叔父がどこからかやってきた
「絵里子ちゃんこんなところにいたんだね
何か食べたかい?
ここの料理はおいしいよ
何か取って来てあげようか」
「いえ、叔父さん
さっき少しいただきました。
えっと この方が取ってきてくださったので」
隣りに座る人を
見ながらそう話すと
「絵里ちゃんもなかなかやるね~」
となんだか嬉しそう
隣りにいる総一郎は立ち上がり
叔父に会釈すると
“わたくし森下 総一郎と申します”といいながら
名刺を差し出した。
受け取った名刺を見て叔父は
ぱっと笑い顔になり
「そうでしたか、君は森下さんのところの
ん?ご長男さんかな?」
「あ、はい 父をご存知ですか?」
「お父さまには、仕事の上で
いろいろお世話になっているんだよ
今日はおいでにならないようだが」
「ええ、本日体調を崩しておりまして
わたくしが代理で参りました」
「そうでしたか、お身体お大事に
よろしくお伝えください」
といいながら名刺交換をしている
私は“ふぅん” と思いながら
その様子を見ていたが
ふとしたことが気になった
聞こうか聞くまいか迷ったが
聞いてどうなるものでもないと思い聞かずにいた。
その日帰ってから
叔父は嬉しそうに
叔母に先ほどのことを話していた
「加奈子さんとはぐれてから、
絵里ちゃんなかなかの好青年と
一緒にいたんだよ
ああやって、若い人は
出会わなければならないね
何かのきっかけになる」
「まぁ~そうやったのねぇ
絵里ちゃん楽しかった?
話し相手になるような人は
少なそうやったから
絵里ちゃんを連れて行ったはいいけど
退屈やったのと違うかなって
ちょっと心配やったのよ
よかったわぁ」
叔母も叔父もホッとした様子だったが
実のところあの人と話したといっても
実際は、楽しいという会話ではなかったし
一方的に相手が話していただけで
私は聞かれたことに答えたくらいで
大学の話を少ししただけだった。
それでもせっかく社交場へ
連れて行ってもらったのに、
楽しくなかったというわけにもいかず
「うん、お料理も美味しかったし
いろんな人がいて
大人の仲間入りしたようで楽しかったよ
TVで見るような場所かと思っていたけど
おもしろかったわ、ありがとう
でも、久しぶりの着物で疲れたから
部屋に行くね」
そう言って早々に自室へ引っ込んだ
学校も始まり
啓太にもひさしぶりにカフェで会った
休みの間母親のいる神戸へ行っていた啓太は
その時の様子を楽しそうに語っていた
私も初めて過ごしたこちらでの様子や
パーティに行った話をしたが
総一郎に声をかけられた事は黙っていた
後期の試験も終わり2年生になる前のある日
この日も学校の前には
“いかにもお迎えに来ました”的な
高級外車が何台か止まっていた
私の通っている学校では
お金持ちのおぼっちゃまを彼氏に持つ人が多く
校門前はたびたび車が列をなす
私には全く関係のない話なので
この日も車の列には目もくれず
立ち去ろうとしていたところ
「おーい 絵里子ちゃん!
絵里子ちゃんだろ?
こっちこっち」 と大声が聞こえた
私が驚いたのは言うまでもない
それでも私が呼ばれる訳もなく
“同名のエリコちゃんがいるんでしょう”と
無視して通り過ぎた
すると再び「絵里子ちゃん!
野村絵里子ちゃん!?」
とフルネームで呼ばれ慌てて振り向いた
振り向いた先に止まっていた車の中で
森下 総一郎が
にこやかに手を振っていた