“今日は何時ごろ帰るの?” と、母に聞かれて “夕方の新幹線”と答えた私は
久しぶりの京都をゆっくり楽しもうと思っていた
その昔、叔母がカフェのマスターである 杉山 寛之さんと佇んだであろう鴨川のほとりも散歩した
ふと思い立って、行くはずだった大学の近くまで行ってみた
御苑には、少し早咲きの枝垂桜がある 久しぶりに玉砂利を歩いてみる
学生たちがジョギングしていたり、観光客がゆったり歩くその場所で、高校生の頃を思い出した
あの時・・・・・
あんな事がなければ、私はそのまま親の思う通りにこのあたりで大学生活を送っていただろう
その出来事は、今考えると本当にばかばかしく なにもあんなことで
“自分が逃げ出さなくても良かったのだ”と、思えるような出来事だった
高校2年のバレンタインの日 私は勇気を持ってある男子に告白した
その子も私のことを気にしてくれていたようで即 OKの返事が来た
私は嬉しくて、その彼との時間に夢中だった 周りなんて見えなかった
3年になった頃、ある女子から
“自分の方が早くから彼とつき合っていたのだから別れてほしい”と言われた
“何言うてるん?この人・・・” と思ったが、それは本当のことだったらしく
その彼女がいるにもかかわらず、その男子は私とのことにもOKしたらしかった
周りの男子には、“野村を連れて歩くと見栄えが良くて周りの男の視線が気持ちいいから”
などと言っていたらしい
はっきり言って、私は遊ばれたようなものだった 連れて歩くだけの女
しかも“アイツおれが、初めてやってんて”と自慢げに言いふらすような最低の男だったことがわかった
私はこのままここで過ごすのは無理だと思い
親の反対を押し切って必死の思いで京都から逃げ出したのだった
良い思い出ではないが、私もあれから少しは大人になったと思う
今では、あの経験も人生においての勉強だったと思える
もしアイツに出会ったら、けっ飛ばしたろか? ひっぱたいたろか? などと心で思い
ふっ・・・と笑いがでた。

雨が降り出したので、急いで駅へ向かうバスに乗り
結局私は、けっ飛ばすことも 引っぱたくこともなく
無事その日の夕方には東京行きの新幹線に乗っていた。