“ エリー 君を見つけたのは いつだったかな ”
高校に入って間もない頃、
いつものように杉山のオジサンの店へ遊びに行った時だ
コーヒーの良い香りが漂うその店で、
一人ひっそりと本を読む後ろ姿
肩にかかる髪を時々手でかき上げる仕草にドキッとした
顔が見たくて
わざと大声を出して笑ってみたり ふざけて見たり
そんな声に怪訝そうな顔を向けて、
いかにも “うるさい”とでも言っているような
気の強そうな顔を見せてくれたね
それが初めて君の顔を見た時だった
ひとめぼれって言うのかな・・・・
僕の心で、何かが動いた ジッとしていられなかった
それからも幾度となく君を見かけたが
いつも決まって同じ席にいる
何度目かにあった時
思い切って“こんにちは!”
と声をかけた僕に
静かに頭を下げて
“こんにちは” と言ってくれた。
僕はとても嬉しかったんだよ
そんな一言で もう知り合いになった気がしていた
それから何度目かに
もう少し勇気を持って声をかけたんだ
“外を見たことがありますか?” ってね
だってオジサンの店からは海が見える
僕はそこからの眺めが気に入ってた
空気が澄んでいて
よく晴れた日は舟の汽笛だって聞こえるんだ
君はとても驚いた顔で僕を見ていたよ
そのあと“海がとても好きだ”
ということを知った
僕はいいことをしたと思って有頂天だった
本ばかり読んでいる君を連れ出したくて
水族館へ誘ってみた あの時はちょっと強引だったかな
“どうして私なんかを誘うの?”
って言ったよね
“私なんか”
なんて後ろ向きな言葉
使っちゃだめだよ
素敵な君がぼやけて見える
君を近くに感じた出来事があったよ
それは母さんとよく似たイントネーションで話すということ
言葉の端々にそれを感じて
とっても嬉しかったんだ
安心した
君に初めて触れたのはいつの日だったかな
女性に触れたのはその時が初めてだった
それまでも頭の中ではいろんな想像をしていたけどね
実際に触れた肌はとても柔らかかったし暖かかった
やさしく受け入れてくれたね
君は初めてじゃなかったようだったけど
それは仕方ない
だって僕より少しだけ長く生きているんだから
それからは、会うと君に触れたくて 夢中だったよ
こんな僕のことを子供のくせにって
思ってるかもしれないね?
いつも我がままを言うから
君のせつない声を聞きたくて
君を抱きしめる
僕だけのものにしたくて印をつける
もう知ってるよ君が悦ぶ場所を
だからいつも優しい顔を見たくて悪戯なことをしてしまう
最近少し様子がヘンだと感じるのは気のせいだろうか
会うたびに求める僕の事、怒ってる?
でも “嫌だ” と言われたことはないから
僕の勘違いかな?
僕だって早く大人になりたいんだよ
いつまでも子供扱いされると悔しくなる
一気に君の年を追い越して
大人の僕で接したい・・・・・
でもそれはかなわぬこととわかっている
だから、もう少し時間をください。
気長に僕のことを見ていて欲しい
先の事なんてわからないよ、ほんとはね
でも、この先もしも会わない日が来たとしても
それはちょっとだけ回り道も必要だって
神さまが与えてくれた試練かもしれない
もしそんな風になっても
きっと僕は君の事を “特別枠” として忘れたりしない
僕だけがそう思っていても、君の気持はわからない
勝手に特別だって言っても迷惑かもしれない
最近時々感じるんだ
エリー 君が “どこか遠くへ行ってしまうんじゃないか”ってね
勘違いだと思いたいけど
わかるんだよなんとなく
僕には見えない誰かの影が
君の気持を揺るがしているってことをね