心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

約束の行方・・・vol.21

2013-02-16 10:25:21 | 約束の行方


社会人一年生は、がむしゃらな一年だった


覚えることが沢山あった、事務的な仕事はやったことがなく戸惑うことも多かったが


先輩と一緒に外へ出る仕事も多く 私はこの外回りの仕事が好きだった


関西弁が役に立っていたのだ


取引先では、大抵標準語のニュアンスで話が進んで行くのだが


ふとした語尾に関西の言葉を感じ取ると、私はわからない程度に同じニュアンスで答える


そうすると、相手の方が “あれ?もしかして関西人?” と聞いてくる


そうなれば、こっちのモノだ 好きな野球チームや芸人さんの話で意気投合し


話が順調に進んでゆく


モチロンそれだけで仕事が出来るわけではなかったが、


人とのつながりが、そんなところから発展することもあったのだ


「“石の上にも三年” という言葉があるやろぉ 新人さんの間は恥ずかしいって思わずに

なんでも聞かなアカンよ、3年経っても同じことを聞くのはカッコ悪いけど、

それまでに仕事を自分なりに自分の物にしたらええねんよ、がんばってね」


と常日頃叔母に励まされていた。






啓太は相変わらず学生生活を楽しんでいたし、たまに会っても話がかみ合わず


そろそろ本当に潮時かもしれないと思っていた。


マスターのカフェにも長い間行ってなかったので


今度の休みは久しぶりにゆっくり海を眺めに行こうと考えていた


「今度の休み何か予定がある?」 総一郎からの電話に、この人ともしばらく会っていないと思った


時々電話をくれる相手だった 仕事での出来事を報告したり時に助言を受けたりしていた


「次の休みは横浜へ行こうかと思っていた」と伝えると即座に「一緒に行こう」と言われた







マスターは少しだけ驚いた顔で私たちを見たが、それは総一郎にはわからない程度だったであろう


「へぇ~やっぱりいいカフェだね、覚えてる?以前一度ここへ来ようって誘ったのを


あの時は、嫌だって言ったよね」 そう言いながら思い出し笑いをするその人を 見つめながら


“啓太も最近ではここへ出入りしていないのかもしれないな” などとぼんやり考えていた


ドアが開く音がして振り向くと、マスターの甥っ子の亮介くんが入ってきた


亮介は、私のことを一瞬じっと見たが相手が啓太でないこと確認すると フッとかすかに笑って


マスターの前のカウンターへと腰を下ろした


杉山 亮介くんは、モデルさんだった 


今はまだそれほど有名ではないが、きっとそのうち人気者になるだろう


と、私は密かに思ってたし実際雑誌で見かけることも増えていた


初めて彼を見た時は、正直固まった 八投身の素晴らしいバランスを保った姿に笑顔が素敵で


もし初めに啓太に声を掛けられていなければ、好きになっていたかもしれない


啓太の仲間内では群を抜く男前で、さすがに“モデル”というのも肯けるものだった


しかも、気取らず底抜けに明るい子 実は彼・・・啓太の妹 真理子ちゃんの彼氏だった


真理子ちゃんは、確か大学の2年生だったはず・・・・・・ 


啓太とはひとつ違いで、以前私と同じく“背が高いのがコンプレックスだ”と言っていたことがあるが


この亮介くんと並んで歩く姿は、周りが振り向く程 均整のとれた綺麗なものだった


「彼、啓太の友達かな? 背が高くていい男だね、男の僕から見てもわかるよ


もしかして? 絵里子ちゃんのお気に入りだったりする?」


総一郎は、ふざけてそんな風に聞いて来た


私は「うん、そうかもしれませんよ 好きかも」 なんてふざけて言い返した


総一郎が、この店へ来ると言った時から何か言いたいことがあるのだとわかっていた


啓太にここで遭遇してもいいと思っているに違いない


でもそんな時に限って上手く行かないものだ・・・・・・


「ねぇ絵里子ちゃんそろそろちゃんと話たいと思っていたんだけど・・・」


しばらく黙って海を見ていた私に業を煮やして総一郎が口を開いた


静かに流れるジャズの曲 その音は静かすぎて


このままでは、私たちの声はマスターや亮介くんに筒抜けだ


「そろそろ出ませんか?」 私は小さくそう言った 総一郎は頷き支払いを済ませると


“少し歩こう” そう言って車のカギをポケットに突っ込むと車を置いたまま歩きだした