啓太のことを気持ちの端に置きながらも
私の心は総一郎が来ていたことを素直に喜んでいた
総一郎が久しぶりに来たのは
私が大学の2年になり梅雨時の
雨が気分を憂鬱にする頃だった。
「最近仕事が忙しくてね
なかなかこっちへは来ることがなかったんだよ
でも今日は久しぶりにこちらへ来る仕事があってね
絶対に絵里子ちゃんの学校へ行ってみようって
朝から考えていたんだ
さっきね港が見える高台に素敵なカフェがあるんだって
仕事先の人が教えてくれたんだけど
そこへ行ってみよう」
私はどきりとした
“もしかするとあのカフェかもしれない”
「あの、もしかしたらそのお店には
その、えっと・・・」
「何、どうしたの?
何か都合でも
あっ、もしかして」
「はい、たぶんそこは私がよく行くお店で
啓太君も来ると思います
出来れば一緒にいるところは
見られたくないというかなんというか
せっかく車なんだし
どこか他へ行きませんか?」
私は自分自身 “ずるい”
と思いながらも
まだ啓太には総一郎のことを知られたくなかった
総一郎も
“それもそうだね、アイツと争う気はないからね”
と、かすかに微笑み車を高速へと走らせた

毎日蝉の声にうんざりする季節を迎えたころ
啓太から “みんなで海に遊びに行こう” と誘われた
妹の真理子ちゃんやそのお友達も来るということだった
啓太の友達の杉山くんや前田くん
その他何人か来ていた男の子たちは
みんなそれぞれになかなかのいい男っぷりで
高校生にしては大人びた雰囲気の子たちばかり
浜辺に来ていた見知らぬ彼女たちの視線が痛かった
海辺での遊びは楽しかった
幼いころに戻ったように走り回り日焼けすることも忘れて
帰ってから少し後悔したけど
それはそれでいい思い出になった
少し残念だったのは
真理子ちゃんが突然 行きたくないと言いだしたらしく
お友達だけがちょっと恥ずかしそうに来ていたということ
もしかすると、あの子・・・
少しだけ啓太に興味を持っていたかもしれない
啓太を見つめる目が
キラキラしているように思えたのは気のせいだったかな
同じようなメンバーで、花火大会にも行った
その帰り道二人きりになった時に
啓太から言われたことが
その後私の心の中に刻まれることになるとは
その時はあまり意識もしていなかった
“エリー もし30になってもひとりでいたら
僕のところへおいでよ 僕が引き受けてあげる”
そんな告白をしてくれたのは
啓太がまだ高校の2年生だった

そんな大事なことを言われた後も
変わらず同じような時を過ごし何年かを過ごしていた。
このままでは、身体だけの関係になりそうなので
少し距離を置こうかとも考えていた私だったが
啓太自身何かを悟ったようで
少し大人になったというのか
啓太も高校を卒業して、大学生になり
私の学生生活も残すところ1年となっていた
その頃には、啓太との関係にも少し変化があり
“心も体も安らげる”そんな関係に変わっていた。
でも、そんな関係が壊れたのは
いつだったのかな・・・・
それは、総一郎のせいではなかった。
それはもっと違う形の出来事で
啓太自身が壊れてしまうんじゃないかと思うほどの
衝撃的な出来事
そうあれは彼が大学3年生
夏の終わりが近い
暑い日だったと記憶している