「この店はね、なんでも好きなものを出してくれる
イタリアンとかフレンチとかそう言うのにこだわらない
和食っぽいものが良ければ
それもありだよ ジャンルは問わないからね
無国籍料理とでも言うのかな、
とにかくいろんなものがあるんだよ
絵里子ちゃんは、まだ未成年だよね
まだお酒はだめだな・・・
あ、僕も今日は車だから飲まないけれど
お誕生日は何月?」
「八月です」
「そうかぁ まだ半年近くあるね」
「あの、森下さんは・・・」
「総一郎でいいよ」
「いえそんな・・・呼び捨ては出来ません」
「じゃぁ~そうちゃんとか?」
「それ、もっと変でしょう? それに・・・」
「何?名前で呼び合うような仲じゃないってことが言いたいの?」
「はい、そうです」
「んんんん・・・・君なかなか手ごわいねぇ」
「私、やっぱりまだ何となく訳がわからなくて
どうしてここにいるのかな?って」
「ちゃんとした理由が必要なんだね?
じゃあこの先僕と付き合ってくれる?
僕の彼女になってよ、ならばいいだろう?」
「いや・・・だから・・・私には一応・・・」
「高校生君だろ?
彼氏って言ったって、まさか将来を誓い合ったわけでもないだろうし
友達程度だろ?」
こんなこと、他の人に言われたら
私はきっとさっさと立ち上がり“失礼します!”
と店を出ているだろう
でも、なぜだかそれほど腹も立たない・・・・
どうしてだろう・・・
今日ここへ来るまでの出来事
考えてみれば総一郎のペースで振り回されていると言ってもいい
でもなぜだか?
拒否反応を起こしていない 啓太の時とよく似ている
彼にも最初のころは
彼のペースに乗せられていたような気がする
やはり、聞きたいことを聞いてみよう
「あの・・・森・・いえ、総一郎さん
聞きたいことがあるんです えっと、総一郎さんご兄弟は?」
「んっ? ああ 弟がひとり “総太郎”っていうんだ」
「おひとりだけですか?」
「そうだね~まぁもうひとり弟のようにかわいがっている
従弟がいるけどね、まだ高校生だよ
実弟の総太郎は、真面目でおとなしい性格
でも芯が強くて
下手したら僕よりしっかりしているかもしれないな
従弟は、人なつっこいやつでね、憎めないタイプ
父親方なんだけど
昔からうちの親父と叔父さんはあまり仲が良くなくてね
それでも家が近かったからしょっちゅう遊びに来てた
叔父さんは“仕事が命”みたいな人で、
あまり家に寄りつかない
だからうちの親父がそいつもまとめて良く遊んでくれた
僕とは年齢が10歳以上離れていたから
はっきり言って遊び相手にはならなかったよ
ちょろちょろしてて邪魔でね~
でもかわいいやつで
“いち兄ちゃん、そうた兄ちゃん”っていいながら
よく遊びに来てた そう言えば最近会ってないな、
どうしてるかな~啓太のやつ・・・」
やはり、思っていたことは当たっていた
“いとこか・・・”私は心臓が飛び出しそうなほど驚いた
どうしよう・・・
「で? 絵里子ちゃん、兄弟の話を聞いてどうしたいの?」
「あの・・・私 あなたとはお付き合い出来ません」
「なんだよ、やけにあっさり言うね
そんなに僕に事気に入らない? あ、そうか年齢かい?
学生じゃないし話が合わないとかって思ってる?」
「いいえ、そうではなくて・・・」
「じゃあなんだよ?
始めてみなきゃ分からないこともあるよ
まずは友達からでもいいからさ」
はぁ・・・・・・ 同じこと言ってる・・・・
どないしよ・・・・
「あの、そのお友達って話
同じこと言った人がいるんです。
高校生のその彼・・」
「おお、そうなんだ それで?
あ、ってことはやっぱり彼氏ってほどでもないじゃん」
「いえ・・・その・・・
友達からって言ったの、
たぶん貴方の従弟の “啓太くん” です」
総一郎の端正な顔からは、笑顔が消えて
考え込む顔に変わった