むかし・むかしな。 今まで,見だごども、聞いだこともね ひでぇ、まま母がいであったど。
そのまま母にはな、前のおっかあの娘っこ「おりん」自分の娘っこの「おたつ」の二人の子どもがいであったと。
それでな、おりんという娘っこは、とても気立てのいい、めんけ子(かわいい)であったと。
んだどもな、おたつと言ったらな、これまた しょぽねわり(意地悪い)ただ者でない子であった。
ある日な、自分の本当の娘っこの おたつとおりんをわざと 昼過ぎに裏のさびし松林さ、まつぼくりを
拾わせにやったと。その頃の山の中はよ、冬が近いもんだから、柏の葉っぱも、栗の葉っぱも
すっかり地面に落ちてしまい、真っ黄色になってあったと。
おっ母は、お手玉で遊んでいた、おたつと、おりんを呼ばって、「おりん、おたつ。ちょっとけぇ。
ふたりして、この袋にな、松ぼくり、じっぱり(たくさん)拾ってこいや、冬の焚きものにするから」
こういってな、二人さ袋を一つずつ持たせたと。ところがな、おたつに持たせた袋と、
おりんに持たせた袋は、ちがってあったと。おたつの袋はな、底に穴の開いて無い 小さい袋で
おりんの袋には、底に穴の開いた大きな袋であったと。
二人とも、早く行って、松ぼくりを拾わないと、ばんげに(晩)になってしまうからな。
汗水流して松ぼくりを袋につめたと。 おたつの袋はすぐに、いっぱいになったと。
おりんの袋だば、なかなかはかどらなかった。 そうしているうちにな、だんだん日が暮れてきたと。
山の中も暗ぐなってきたもんだから おたつな、いっしょうけんめいに拾っている おりんに声かけたと。
「おりん、おら早く帰るよ。おっかあに ごしゃがえるもの(怒られる)」
「おたつ、待ってけれ、なんぼ拾ってもいっぱいにならね。」
「おら、しらねぇ」
おたつはよ、知らねふりして おりんどこ山さ残してな、とっとと家さ帰ったと。
そのあだりからはな、遠くの海なりの音、たまに泣く狐の声で、からだも縮む思いであったと。
それでもな、おりんは、おっかねぇもの我慢してな、ひとつひとつの松ぼくりを 穴あきの袋に
詰めでいたと。だけどな、袋にたまらねわけを知らせてくれる者もいねしな。
そしたらな、おりんな、オラは、狐にだまされているのだべか。と思ったと。
あまり空ばたらきしたもんだから、疲れて、疲れて 足腰動けなくなったと。どっかり地べたに
座ってしまったと。そして、暗くなったもんだから、大声出して泣いたと。
んだどもな、不思議なことあるもんだ。おりんな、背にしてのっかてだ(もたれかかっていた)
松の木のてっぺんさ、ぽつんと一つの灯っこ見えたとよ。まるで ほたるの光っこみだいであったと。
おりんには、ほんとにきれいに見えたと。その光っこ、つかみとりたくなったと。
そんな気持ちになっていたとき、その木のてっぺんから バタバタとカラスの親子が降りてきたと。
「さっきから、なして泣いているのだ」と、たずねるから
今までの訳を話したと。「んだか。よし。きっと仇をとってやるがら、心配すんな。ゆっくり 俺の羽根っこ着て寝れ。いいな」
そういったと思ったら、親子カラスは、いなぐなってしまったと。
それからっていうものな、親子からすにたたられて、おっ母と、おたつは、毎晩寝れねくて、ばかになってしまったと。
またな、村ではな、毎晩のように 誰かの家の屋根で、親子づれのカラス泣ぐのだって。
そしてな、毎月の八日の朝ってば、おりんと同じ声っこで、
「帯も えらね(いらない) まま母にくや(にくい) ガー。ガー。」とな。
それからというものはな、村の者の耳にも、いやな声っこ入るもんだから、
みんなして、おりんの祟りだと言って、おっかねがったと。(怖がった)
それだもんだから、この村さ、まま母になってきた者はな、先のおっ母のわらしを
いじめる者いねぐなったと。 とっぴんぱらりのぷう
楽しんでいただけたら うれしいです。
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