その日わたしは いつもより早い帰宅になった。
家にはおじさんの黒い自転車があって、
「もう来てるの…?」
といぶかしく思いながら家に入ると 居間には母の姿がなく
離れたところから話し声と
「うふふっ」
という母の笑う声が聞こえてくる。
それが浴室からだと気付いてわたしはあわてて家を飛び出した。
大変なところに居合わせてしまった
あれをどう考えていいのかわからなかった。
ぐるぐると頭の中にいろんな思いが交錯して あてもないまま ただ歩き続けた。
一時間ほどして家に帰ると 何事もなかったように いつもの二人がそこにいた。
その後もその日のことはずっとずっと頭から離れず
誰にも、もちろん姉や弟にも言えず
どんどん嫌悪感が膨らんでいった。
この頃から「早くこの家を出よう」
そう強く思うようになった。