命運は尽きた…習氏、貿易戦争で“惨敗” 対米戦略は「歴史的な愚策」 食糧、資源、人材…決定的な“資源格差”を無視
国際投資アナリスト・大原浩氏緊急寄稿
米中貿易戦争
2018.9.10
いいとこなしの習近平氏(共同) いいとこなしの習近平氏(共同)
大原浩氏
中国との貿易戦争で22兆円強の制裁関税第3弾の発動に向けた手続きを終えた米トランプ政権。
残り約30兆円分を含む「全輸入品」への制裁も示唆するなど攻勢を強めている。
習近平政権も対抗措置を打ち出すが、「もはや命運は尽きた」とみるのは、中国経済や市場に詳しい国際投資アナリストの大原浩氏だ。
食糧や資源、人材などに決定的な格差があるにもかかわらず習政権が米国に刃向かったのは、「歴史的な愚策だ」と寄稿で指摘している。
米中貿易戦争
中国
米国でも日本でもトランプ大統領を批判する論調がいまだに根強いが、政権獲得以来、トランプ氏が行ってきた政策は、「35%の連邦法人税を21%に引き下げる(さらに20%への引き下げ提案も行っている)」など非常に的を射たものが多い。
この減税によって高い税金を嫌って海外に流出した企業が続々と戻ってきており、米国の力強い景気にも寄与している。
米国経済が活況を謳歌(おうか)しているのだから、中国に対していくらでも強気になれる。
米国は先進国なのに食糧を輸出できるほど大量に生産し、13億人を養う食糧が不足している中国などが大いに依存していることは、今回の米中貿易戦争で明らかになった。しかし、米国の強さはそれだけではない。
世界最大の産油国というとサウジアラビアを思い浮かべる読者が多いと思うが、現在はロシアであり、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2019年には米国が世界最大の産油国になる見込みだ。
近年のシェール・オイルの開発・増産が寄与しているのだが、世界の原油生産の増加は中国を含めて止まっており、2010年代の原油生産の伸びはほとんど米国によるものである。
イスラエルの米国大使館をエルサレムに移したことは暴挙とされたが、これもトランプ氏の考えと、経済的な背景があってのことだとみることもできる。
原油を完全に自国で賄い、輸出までできるようになった米国は、湾岸戦争の時のようにアラブ諸国に気を使う必要などなくなったといえる。
一方、中国の18年7月の原油の国内生産量は日量375万バレル。
それに対し税関発表の輸入量は同850万バレルと、自国生産量の2・3倍にのぼり、全体の約7割の原油を輸入に頼っている。
そのために今回の米国との貿易戦争においても、輸入原油を報復関税の対象リストに入れることができなかったのだ。
軍事力はもちろんのこと、食糧供給、エネルギー、頭脳(シリコンバレー他)など、どこをとっても世界最強国の一つである米国に、
エネルギーも食糧も自立できず、軍事力も張りぼての可能性があり、自国の優秀な頭脳はシリコンバレーに吸い上げられている中国が刃向かったのは、
とてつもなく愚かな行為であったと歴史に刻まれるであろう。
トランプ氏は大統領就任前に4度も破産を経験した不動産会社のオーナー社長であることはよく知られている。
日本でも、メガバンクのエリート行員が請われてオーナー系不動産会社の役員などになることがあるが、短期間で消え去る例が多い。エリートが得意げにしゃべる机上の空論などは社長から無視されるのが落ちだからだ。トランプ政権でもゴールドマン・サックスなどからやってきたエリートはすぐに辞めていった。
今トランプ政権に残っているのは人生経験豊富な「社長」の真意を理解し具体化できる、本当の意味で優秀な人物ばかりである。
それに対して習国家主席は、文化大革命当時に多少の苦労はしたとはいえ、
中国共産党幹部の2世「太子党」で、いわゆるボンボンである。
習氏が目指している毛沢東は問題の多い人物であったが、少なくとも何度も死線を越えたたたき上げの人物だ。
習氏が、毛沢東を目指した時点でその命運は尽きたといえよう。
■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。本文中のデータは人間経済科学研究所・研究パートナー、藤原相禅氏の「シェール開発進まない中国で原油生産が逓減」に基づく。