「特定技能」東南アジアで受験熱 合格者、年内1000人超 送り出しルール整備に遅れ、来日は来春に
2019/11/12 11:00
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日本経済新聞 電子版
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日本人は誠実な国民です。日本で働きたい人の期待に応えます。
【マニラ=遠藤淳、ヤンゴン=新田裕一】
東南アジアで日本の新在留資格「特定技能」の受験熱が高まりつつある。
フィリピンでは日本式の介護も教える日本語学校が人気で、ミャンマーでは日系ホテルが宿泊業の受験指導を始めた。
試験の合格者は年内に千人超となりそうだが、日本政府の想定には届かない。
送り出しのルール整備の遅れも課題で、海外合格者の来日は2020年春ごろからになりそうだ。
「寝たきりの高齢者が直面する問題は次のうちどれでしょうか」。
10月中旬、フィリピンにある語学学校「マニラ国際アカデミー」では社会福祉士の福井淳一さんが、特定技能の試験を想定した問題を投げかけていた。
約60人の生徒は一斉に「1番の『筋力が低下する』です」と声を上げた。
教室には介護ベッドや車いすも備え、実技の授業もある。看護師資格を持つルズビミンダ・バティウさん(31)は
「何でも面倒を見るのがフィリピンの介護だけど、自立支援に重点を置くのが日本流ね」と話した。
この学校では日本の介護施設から資金支援を受け、生徒に無償で授業を提供する。
希望者は毎月300人ほど集まるが、面接などで20人に絞る。
受講を終えた約120人は11、12月の試験を受ける予定だ。
アリステオ・ビラヌエバ社長は「20年に200人、21年以降は毎年500人を合格させたい」と力を込める。
東南アジアでは近年、日本語の学習者数が伸びている。
国際交流基金によると、タイなど5カ国の日本語学習者は18年に約48万5千人と15年から5割増えた。
特定技能開始で、日本語に加えて、受験する業種の技能を学ぶ動きが広がっている。
宿泊業では国外で初めてとなる試験が10月末に行われたミャンマー。
ビジネスホテル大手のスーパーホテル(大阪市)は日本語とホテル業務を教える専門学校を9月に設け、受験指導に乗り出した。
運営責任者の須林穣さんは「客の目線に立って自発的に動ける人材を育てたい」と意気込む。
教室にはベッドを置き、日本人講師がベッドメーキングの仕方を実演する。
日本からも映像を通じてフロントでの接客方法を指導し、日本流のおもてなしをたたき込む。
メイ・ジン・アウンさん(23)は「父が定年を迎えるので私が家族を支えたい」と、受験に向けて気を引き締めていた。
特定技能は人手不足が深刻な14業種で外国人労働者の受け入れを増やそうと4月に新設された。
国外試験は4月のフィリピンの介護業を皮切りに始まり、9月までに約600人が合格した。
10月にはインドネシアやネパールでも試験があり、農業、外食業など業種も広がっている。
出入国在留管理庁によると、11月1日時点で818人が特定技能の在留資格を取得した。
技能実習を3年間修了すると無試験で移行できるため、大半は「元技能実習生」とみられる。
政府は5年間で最大約34万5千人の人材受け入れを目指している。
初年度となる20年3月までには3万~4万人を想定したが、遠く及ばないのが現状だ。
要因の一つが、海外からの受け入れが進んでいないことだ。
政府は9カ国(フィリピン、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴル、スリランカ、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ)と、悪質な仲介業者の排除などを掲げた協力覚書を交わした。
だが、試験実施が遅れたのに加えて、査証取得までの具体的な手続きなど送り出しに向けた各国のルールづくりが遅れている。
最も対応が進んでいるとみられるフィリピンでは、今月中にも雇用契約書のひな型が当局から示される見通し。
その後、試験の合格者や受け入れ施設が各種の申請手続きに入る。業界では「渡航できるのは早くて20年4月ごろになるのではないか」(マニラ国際アカデミーのビラヌエバ社長)との見方が出ている。