韓国青瓦台報道官「日本の変化なしにGSOMIAの終了撤回はない」
2019年11月13日 00:00
統一日報
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韓国・ソウルの団地で、荷物を届けるパク・ジェヨルさん(2018年5月10日撮影)。(c)AFP PHOTO / Ed JONES
首都ソウルの住宅街の一角で、パクさんは段ボール箱でいっぱいになったカートを押してエレベーターに乗せる。
年老いた目を絶えず細めて住所が書かれた小さなラベルを確認するため、視力は相当悪くなっている。
パクさんはAFPの取材に対し「(今でも働き続ける)最大の理由は、お金だ」と語った。
パクさんは、公式に定められた60歳の定年を過ぎても働かざるを得ない韓国の高齢者数百万人の一人だ。
「先進国クラブ」と呼ばれる経済協力開発機構(OECD)に加盟しているにもかかわらず、高齢化が急速に進む韓国の社会的セーフティーネットは脆弱(ぜいじゃく)だ。
韓国の高齢者の45%以上は、平均世帯収入の半分に届かない「相対的貧困」状態にある。OECD全体の平均値が12.5%であるのに対し、この数字は突出しており、OECDで最高となっている。
食い止めるのは相当困難
韓国経済の先行き懸念が高まっている。
信号に例えれば、黄色から赤色に変わりつつある状況だろう。
特に無視できないのが、韓国経済を引っ張ってきたサムスン電子の急速な業績悪化だ。
同社は、世界的な半導体需要の低下に加え、メモリー価格の下落にも直面している。
短期間でこの状況が好転することは考えづらい。
当面、韓国の輸出には下押し圧力がかかるだろう。
輸出が増加しないと、韓国がGDP成長率を高めることは困難だ。
文大統領が経済の安定化を目指すにも、効果の見込める政策が見当たらない。
経済の減速・失速懸念の上昇とともに、韓国の政治不安定感は一段と高まる可能性が高い。
韓国経済には2つの特徴がある。
まず、韓国経済は財閥企業の業績に大きく依存している。
サムスン電子と現代自動車の売上高を合計すると、韓国GDPの20%程度に達する。
もう一つが貿易への依存度が高いことだ。
韓国の貿易依存度(GDPに占める輸出入の割合)は80%程度とかなり高い。
2016年半ばごろから、韓国経済は緩やかに持ち直した。
中国がインフラ投資に加え、省人化技術導入のために半導体を買い漁ったことが韓国の景気持ち直しに寄与した。
加えて、世界各国でデータセンターの設置が進んだことが、DRAM需要を押し上げた。
サムスン電子など韓国エレクトロニクス企業は、こうした需要を取り込んで業績の拡大を実現した。
一転して、昨年、米中貿易戦争の影響から、中国経済の減速が鮮明化した。
また、世界的にスマートフォン出荷台数も減少した。
サムスン電子は、半導体やメモリー需要の急減に直面し、業績は急速かつ大幅に悪化し始めた。
2019年第1四半期、サムスン電子の営業利益は、前年同期比60%も減少した。状況はかなり厳しい。
この結果、韓国経済は下り坂を転げ落ちるような勢いで減速している。
更に悪いことに、米アマゾンがサムスン電子製DRAMのリコールを求めたようだ。
サムスン電子にとって、半導体事業はスマートフォン発火問題を受けた業績悪化を食い止めた成長の要だ。
サムスン電子の業績悪化懸念は追加的に高まりやすい。
半導体輸出に急ブレーキがかかる中、文政権が経済の安定を目指すことは難しい。
米国と中国などの通商摩擦などを受けて、世界的に貿易取引は減少している。
中国がインフラ投資や減税によって景気刺激に取り組んでいることは、世界経済には相応のプラスの影響を与えるだろう。
ただ、それが、韓国の輸出持ち直しにつながるとは言いづらくなっている。
なぜなら、韓国にとって最大の輸出先である中国は、半導体の国内生産能力を高めようとしているからだ。
中国経済が持ち直したとしても、過去のようなペースで韓国の対中輸出が増えるとは考えづらい。
文政権が中国との関係を強化しようにも、習近平国家主席は韓国よりもわが国との関係強化を重視している。
そのしわ寄せとして、新卒者を中心に若年層の失業率は追加的に上昇するだろう。
これは、社会の不満を増大させ、政治不安を高める要因だ。
韓国が、経済の停滞懸念が政治不安に波及するという負の連鎖を止めることはかなり難しい。
文政権は、世論の不満に配慮し、対日強硬姿勢をとらざるを得ないはずだ。
それに加え、米韓関係もこじれている。
景気が一段と悪化するにつれ、国際社会の中で韓国の孤立感は高まる恐れがある。
日韓関係が悪化するなか、安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領が言葉を交わした。
「政治判断」で実現した11分間の会話だったが、事態は好転しなかった。
AERA 2019年11月18日号に掲載された記事を紹介する。
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韓国が、今月23日午前0時をもって破棄すると通告していた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)の延長を巡り、もがいている。
文在寅(ムンジェイン)大統領は11月4日、タイ・バンコク郊外で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議が開かれる前、控室にいた。
文氏は、遅れて入場した安倍晋三首相に近づくや、そばにあったソファに誘った。2人は通訳を交え、11分間会話した。
韓国大統領府は「会談は真摯な雰囲気だった」「文氏が高位級協議も可能と言及した」とアピールした。
目を引いたのが通訳と写真だった。文氏も安倍氏も随行していたのは英語通訳。
側近によれば、文氏が知っている日本語は「こんにちは」程度だ。
会談では文氏が話す言葉を韓国側通訳が英語に直し、それを日本側通訳が日本語に直すという手順で行われた。
日韓両政府関係者は「外交当局が事前に準備しなかった会談だからだ」と証言する。
事前に接触があると予想していれば、お互いに日本語と韓国語通訳を随行させる。
今回、安倍氏を待ち伏せしたのは文氏。
韓国大統領府の政治判断で実現した会談であったことは間違いない。
白いソファに座り、膝詰めで話す2人の首脳。真剣な表情だが、穏やかな雰囲気が感じ取れた。
控室への入場者は制限されていたが、長官級の鄭氏が写真を撮影したのは、どうしてもこの写真をアピールしたかった意図が感じられる。
事実、韓国メディアは一斉に翌日の朝刊で、会談を大きく報じた。特に、日本に厳しい論調を取る進歩系のハンギョレ新聞も「両国関係が転換点を迎えているという期待感も高まっている」と伝えた。
複数の日韓関係筋は「文政権はGSOMIA延長の名分を探している」と証言する。
文政権は従来、GSOMIA破棄の理由を日韓間の信頼関係が破壊されたからだとし、「日本が輸出管理規制措置の強化を撤回すれば、GSOMIA見直しも考える」としてきた。
だが、日本は譲らず、米国政府からも憂慮の声が相次いだ。
6日にはスティルウェル国務次官補がソウルで韓国政府当局者と相次ぎ会談し、GSOMIA延長を訴えた。
韓国政府元高官は「米韓関係が悪化したら、北朝鮮の脅威に対抗できない」と危ぶむ。
ただ、何もしないでGSOMIA延長を決めれば、文在寅政権の支持者が黙ってはいない。
下手をすれば来春の総選挙で敗北する。破棄を決めた韓国政府関係者の責任問題も発生するだろう。
日韓関係筋の一人によれば、文政権が探した名分は、文氏が4日に提案した「高位級協議」だったという。
日本が受け入れれば、「輸出問題で、今後の日本の善処に期待するとして延長する」としたかったのではないか。
だが、「大人の外交」を掲げる安倍政権には現在、「救命ブイを投げる雰囲気はない」(日韓関係筋)。
6日、スティルウェル氏と会談した韓国大統領府の金鉉宗(キムヒョンジョン)国家安保室第2次長は、「我々が譲歩しているのに、日本は何も反応しない」と不満をぶちまけたという。
今週にはエスパー米国防長官も米韓定例安保協議に出席するため、訪韓する。エスパー氏はGSOMIA延長に向け、最後の働きかけをするだろうが、厳しい展開が続きそうだ。
このまま、韓国がGSOMIA破棄で突っ走れば、北東アジアの安全保障に重大な影響を及ぼす。米政府関係者の一人はそう語った。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)
※AERA 2019年11月18日号