加谷珪一(経済評論家)
韓国に迫る経済危機、日本が教訓に
韓国と日本の政府は現在、関係が良好ではない。
韓国にとって今、とりわけ重要な経済的教訓を日本から得られる機会なのに残念だ。
韓国の9月のコア消費者物価指数(CPI)は前年同月比わずか0.6%上昇と過去20年ほどで最も低い伸びにとどまった。
国内総生産(GDP)も減速している。
韓国のこうした現状や危険な水準に蓄積された民間債務は、1990年代の隣国の轍(てつ)を踏むリスクを高めている。
韓国の非金融企業の債務はここ10年、対GDP比100%に近い水準でおおむね推移している。
一方、家計債務は大幅に増え、2019年1-3月期(第1四半期)は対GDP比92%と世界的な金融危機以来20ポイント上昇した。
日本は1990年代、「バランスシート不況」として知られる泥沼に陥った。
あらゆる経済セクターが一斉に債務返済に乗り出し、経済停滞を招いた。
日経平均株価は89年末から急降下を始め、その後の10カ月で40%以上も暴落。
その直後に地価も急落した。こうした下落に絡んだ金融危機は比較的浅かった。
当初は破綻する銀行はほとんどなく、日本の山積みになった不良債権のほとんどが顕在化したのは資産バブル崩壊から数年後の90年代半ばだった。
時がたつにつれ、デフレと成長停滞が常態化。
債務返済を一層困難にし、銀行のバランスシートを悪化させた。
その結果、97~98年にかけて日本は90~91年よりもはるかに深刻な金融危機に見舞われた。
韓国も必ずしも金融危機に陥るとは限らないものの、同様の厄介な経済力学が働く可能性をはらんでいる。
世界貿易の混乱による成長停滞とインフレ率の低迷に中国の経済減速が相まって――韓国が今まさに目にしている状況だ――不況がもたらされる可能性は十分ある。
生産者物価指数(PPI)はCPIを上回るペースで下がり、9月のPPIは前年同月比1.9%低下した。経済環境の抑圧が影響している証拠だ。
日本の失われた数十年の原因は、危機そのものへの対応だけでなく、バブル崩壊への対応のもたつきにある。
金融緩和のペースはあまりにも遅く、財政刺激策は一貫性に欠け、銀行のバランスシート浄化は紆余(うよ)曲折で大幅に遅れた。
韓国の政策当局者は同じ過ちを犯すことを警戒しているはずだ。2020年度歳出の9.3%増加など、有望な先手を打っている。
中国の景気減速は管理されているものの依然として続いており、世界貿易も成長の兆しが見えないため、韓国が必要としている最後の起爆剤は得られそうにない。
政策当局者は向こう数年、日本の不況を常に念頭に置いておくべきだ。
I write about economic and social trends in China. @johannylander
勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2019-11-24 05:00:00
韓国、「敗北感充満」GSOMIA継続、日本から確約得られず「焦燥」
テーマ:ブログ
GSOMIA(日韓軍事情報包括的保護協定)破棄が、土壇場で回避された韓国国内では、複雑な心境のようである。
反日不買運動を続ける中で、GSOMIA破棄を「一時停止」ということが納得できない市民は昨晩、ソウル市内で反対集会を開き気勢を上げた。
一方では賛成派も集会を開くなど、異なる受取り方をしている。
韓国は、日本の半導体3素材の輸入手続き強化について、WTO(世界貿易機関)規則違反手続きを中断すると日本に申入れ、日本がそれを受入れて事務当局の話合いを開始する。
これが、日韓両国で決まったことを受けて、韓国はGSOMIA破棄を一時停止するというのが表面的な動きである。
韓国国内ではこれを不満としており、日本からさらなる譲歩を引き出すべきであった、いうのが「不満派」の言い分である。
これは、きわめて皮相的な見方である。
日韓両国は、韓国国会の文議長による「1+1+α」なる、日韓の企業・個人の寄付金による徴用工賠償金支払い案について、一定の理解が生まれている。
韓国では、不毛な歴史問題での争いを根絶すべく今後、一定期間内の賠償問題をこの方式で解決する方向性を打ち出している。
日本側も日韓議員連盟の副会長が、秘かに渡韓して、韓国側と意見調整していた事実が浮かび上がってきた。
韓国が、あれだけ大々的に反日運動をやった手前、WTO提訴手続き中断、GSOMIA破棄の一時停止と譲歩の連続をするはずがない。
その裏には、まだ公表できない日韓の動きがあるからこそ決断したはずである。物事は、表だけを見ていては分らない。まだ、見えにくい「底流」を読むべきだろう。
『韓国経済新聞』(11月23日付)は、「GSOMIA破局を避けたのは幸い、問題はこれから」と題する社説を掲載した。
韓日の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了期限(23日0時)を目前にして韓国政府が猶予決定を下した。
韓日対立局面の中、政府が8月に出した終了決定を自ら保留した。
「終了通知効力停止」という表現を使用しながら、いつでもGSOMIAを終了させることができるという前提を付けたが、破局はひとまず避けたということだ。
GSOMIA終了による韓米同盟の深刻な亀裂と韓日米安保協力への支障を防ぎ、問題解決のための時間を持つことになった点では幸いだ。
(1)
「この時点で過去数カ月間の混乱を冷静に振り返り、教訓にしなければいけない。8月に実務部処の慎重論と専門家の強い懸念にもかかわらず、GSOMIA破棄を決めた政府が今になって一歩引き下がる姿になった。
政府の強硬姿勢で何を得たのかという声が出てくるしかない。日本の不当な輸出規制に対抗する措置だとしても、現実はGSOMIAを対応カードとして取り出した政府の意図通りにはならなかった。強硬一辺倒の未熟な対応策が表した限界だ」
GSOMIA破棄は、韓国による強硬一辺倒の外交がもたらした失敗であると指摘している。
進歩派が、感情論で突き進んだことによって引き起こされた混乱であった。「86世代」の未熟さがもたらした失敗である。
(2)
「日本の立場の変化を引き出した部分もそれほど大きくない。
日本は輸出規制(日本の表現では輸出管理)を正当だと主張して2国間協議を拒否してきたが、今後、局長級の協議を実施することにした程度だ。
それも韓国が日本の措置を世界貿易機関(WTO)に提訴するのを中断したからだ」
GSOMIA問題は、韓国の「自作自演」であり、幕引きも自らやらざるを得なかった。
米国の圧力は、政府・議会と総力を挙げたもので過去に経験したことがないものだったという。
米国は、現状が米中冷戦下という認識である。GSOMIA破棄は、利敵行為に映ったのである。
(3)
「半面、韓国がこれまで支払った費用は決して少なくなかった。特に韓米同盟の信頼に傷を残したのはあまりにも大きい。
韓米防衛費分担交渉など目の前の難題を、今回のGSOMIA波紋を教訓にして賢く解決する必要がある。GSOMIA破棄をめぐる賛否で分裂した国民世論をまとめるのも課題だ」
今回の騒ぎは、韓国の国際情勢認識の欠如がもたらしたものだ。
文政権が、これまで依拠してきた「親中朝・反日米」基調は、根本から粉砕されたはずだ。
中朝への秋波は、たちどころに米国からのリアクションを招くことを知ったであろう。
アマチュア政権である韓国政府にとって、外交とは何かを知ったに違いない。感情論でなく理性であるのだ。
(4)
「破局は防いだが、問題が終わったわけではない。
輸出規制問題めぐる両国の隔たりを狭め、韓日葛藤の根本原因となった強制徴用問題の解決策を見いだすという宿題が残っている。
もう相手の立場の変化だけを待つのではなく、速やかに解決することが求められる。
日本側は文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が訪日中に提示した韓日企業の自発的出捐と国民の寄付による基金設立の中に関心を見せているという。
訴訟を起こした強制動員被害者と国民世論を共に満足させることができる案を急いで用意し、これに基づいて日本と協議して妥協点を見いだすのがよい」
ここでも、文議長の提案を歓迎している。
日韓での歴史問題の争いは不毛である。
74年も経った昔の日韓併合時代を、共同の価値尺度でなく韓国の一方的な価値観で糾弾しても何も生まれない。
憎しみを増すだけだ。争いを鎮める方法を見つける段階である。今回のGSOMIA紛争は、そのきっかけを与えるであろう。
弁護士だけでは食えぬ 法律事務所が探るコンサルの道
編集委員 渋谷高弘
2019/11/27 11:30
- 情報元
日本経済新聞 電子版

弁護士や公認会計士が10年前に比べて6割増える中、隣接分野での競争が激化している。
国内大手法律事務所のTMI総合法律事務所(東京・港)は12月、「総合コンサルティング事務所」への変身に乗り出す。
専門職として孤高の存在だった弁護士だが、顧客企業がデータビジネスに移行する。伝統的な法律業務に閉じこもっていてはビジネス機会を得られない。
9月10日、司法試験に1502人が合格し、11月15日には公認会計士試験に1337人が合格した。
両試験とも年間合格者は一時より減少しているものの、総数は弁護士4万人超、公認会計士3万1000人超でともに10年前と比べて6割程度増えている。
TMI総合は11月1日時点で弁護士417人を擁する、国内「五大法律事務所」のひとつ。
12月3日、業界初とされるベンチャーキャピタル(VC)を創設する。同時にグループで起業したスタートアップにVCを通じて5千万円を投融資する。法律事務所としては異例の動きだ。
スタートアップはTMIに所属する弁護士ら5人で設立する。今、企業から熱い注目を浴びる「個人データを扱う際のプライバシーとセキュリティーに関するコンサルティング」を提供する。
数年内に技術者を10人単位で採用する方針で、小さいながら「専門コンサル会社」に育てる意向だ。
それだけではない。
TMIは9月、事業アイデアを競う初の所内コンペを開いた。人工知能(AI)を使う契約チェック・監修、内部通報システム整備、社内不正調査など約20件の新事業が提案された。
「有望ならVCを通じて次々と事業化する」(代表弁護士の田中克郎氏)計画だ。
つまりTMIが目指すのは、グループとして「法律業務を中核とした総合コンサル事務所」に変身することにある。
これまでは弁護士法で独占する法律業務だけで十分に潤ってきたが、近年の環境変化で法律事務所も仕事を広げざるを得なくなっているのだ。
変化の第1は、弁護士の増加だ。
司法制度改革で司法試験合格者が増え、18年に弁護士は計4万人を突破し、10年前の1.6倍になった。
しかし規制緩和で紛争が増えるとの読みがはずれ、大手事務所でさえ若手・中堅の弁護士に魅力的な仕事が行き渡らなくなった。
変化の第2は、大手国際監査法人系グループの法律業務への参入だ。
13年にアーンスト・アンド・ヤング(EY)が、14年にプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、15年にデロイト・トウシュ・トーマツが、それぞれ日本で弁護士法人を開設した。
各監査法人系に所属する弁護士は10~20人と、まだ規模は小さい。とはいえ、M&A(合併・買収)に伴って契約書を作成したり監査したりする法務デューデリジェンスという、大手法律事務所が金城湯池としてきた業務に参入を図っている。
監査法人系は経営コンサル、M&Aコンサル、税務、不正調査といったサービスをグループ内に取りそろえる。
国内で会計監査業務が伸び悩んだ2010年代に多角化に取り組んだ結果、「企業が直面する悩みにワンストップで応じる体制になっている」(鹿島章PwCジャパン・マネージングパートナー)
だからM&Aやリスク管理、経営・システム改革、節税など様々な切り口から企業との取引に入っていける。
一方、法律事務所は株主総会や訴訟など企業との接点が限られる。「このままでは監査法人系に総取りされてしまう」(TMIの田中代表弁護士)と危機感が高まっていた。
変化の第3は、AIやデータの活用で経営を抜本的に変えるデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が企業と事務所に押し寄せていることだ。
企業には各国の個人情報保護ルールやサイバーセキュリティーへの対応など様々な課題が発生している。法律業務だけではこうしたビジネス機会を取り込めない。
法律事務所のコンサル志向は高まっている。
大手の森・浜田松本法律事務所(東京・千代田)は近年、税理士や弁理士の採用を進め、「企業の税務や知的財産戦略への関与を強めている」(松村祐土パートナー)。中堅事務所でもIT分野のベンチャーを立ち上げる例が出てきている。
日本の法律事務所の陣容は大手でも1千人程度で、監査法人系グループの10分の1程度にとどまる。
監査法人系は巨大な国際ネットワークも持つ強敵だ。
ただ、個人事務所を中心に孤立・完結してきた日本の弁護士が総合コンサルを志向するのは劇的な変化。選択肢が増える日本の企業にとっても、意味は大きい。