韓国文政権の寿命に新型肺炎「失策」で赤信号、元駐韓大使が解説
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
国際・中国 元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」
2020.2.28 5:35
文在寅韓国大統領
文在寅政権にとって新型肺炎は
優先課題ではなかった
文在寅政権にとって、今年は成し遂げなければならない2つの重要な課題があった。
それは、
(1)北朝鮮との関係改善をよりいっそう進め、南北平和共存を図るとともに、南北経済協力を進めること、
(2)4月15日に行われる国会議員選挙に勝利し、左派長期政権の基盤を固めることだ。
しかし、新型コロナウイルスによる肺炎(新型肺炎)のまん延によって、この2つには赤信号がともってしまった。
北朝鮮は国内に新型肺炎に感染した人はいないとしきりに否定しているが、既に原因不明の高熱を出した人がいると伝えられ、その人を銃殺して直ちに火葬したとの噂が広がっている。
また、新型肺炎対策の一環で中朝国境を閉鎖した影響で、北朝鮮の食糧・物資不足が加速している。
北朝鮮は金正恩政権の存続を確保することで手いっぱいであり、韓国との関係改善の余裕などないのが現実だろう。
もっとも、北朝鮮の状況については不明な点が多く、北朝鮮との関係については次回以降に譲り、本稿では韓国の状況に絞って論じていく。
韓国では2月27日夕方現在、感染者1766人、死者13人が確認されている。
感染者のうち、大邱・慶尚北道が1477人で、両地域が全体の約83%を占めており、集団感染が発生したことが被害を大きくしている。
既に感染者数は中国に次いで2番目の多さになっており、感染急拡大を招いた最大の要因は、文在寅政権の対応のマズさにあったといえる。
文政権は国会議員選挙で
勝つことを優先した
対応のマズさを端的に示したのは、政策の優先順位を誤ったことだった。
文大統領は13日、大企業のトップを招いた席で、「コロナは近く終息するだろう」として通常の企業活動を続けるよう求めた。
さらに21日には、消費業界関係者を招いた席でも「防疫と経済の2匹のウサギをどちらも捕らえなければならない」として、「ツートラック」戦略を改めて強調した。
文大統領の頭の中には、世界中のリーダーが考えている「防疫が最優先で経済はその次」という優先順位は存在しなかった。
これは4月の国会議員選挙において、文政権の経済運営が最も重要な争点になるとの意識があったからだろう。
その上で文大統領は、「一部のメディアが過度に恐怖や不安を大きくして経済心理や消費心理を極度に萎縮させている」とメディアへの批判を強めた。
政権幹部も新型肺炎に対する危機感のない発言や行動が目立った。
集団感染につながる懸念のある集団行事は延期すべきではないかとの専門家の警告にもかかわらず、
洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相は「外食産業(自営業者)を助ける気持ちで外部の食堂を利用せよ」とまで言ったと伝えられている。
また朴凌厚(パク・ヌンフ)保健福祉部長官は、数十人の感染者が確認された直後の19日夜、KBSとのインタビューで
「地域社会で感染が拡大する時期が来るということを“実は”予測していた」
「予想していたことなのでそれほど慌てていない」と語っていたと中央日報は報じている。
そのような予測をしていたのなら、大統領やその側近の発言や行動を、国民はどう読み取ればよかったのか。保健福祉部長官は事実を大統領に報告していなかったというのか。
青瓦台は感染者が少なかった時期から、前もってヘリコプターを動員して空中防疫していたし、青瓦台の進入路も徹底して防疫をしていたようだ。
こうした対策をより強化して、まん延を防ぐ努力をどうしてもっと続けなかったのだろうか。
文大統領が言うように「防疫は重要」で「経済も重要」であることは議論の余地がない。
特に文大統領にとって今年の国会議員選挙に勝つためには経済を犠牲にはできない。
しかし、そのため防疫がおろそかになって感染拡大が始まってしまうと、拡大を抑制するのはますます困難になる。
結果として経済の被る犠牲は、当初から防疫を最優先にするよりはるかに大きくなることをなぜ考えなかったのか。
新型肺炎の抑制は「危機管理」の問題であり、選挙対策より優先されるべき問題であるはずだ。
国会議員選挙に意識があるにしても、まず新型肺炎を落ち着かせた後、経済の回復を図るべきである。
順序が逆になったところに現在の悲惨な状況がある。
中国への遠慮が
感染拡大を招く
国内での感染拡大を防ぐ対策が生ぬるいのと同様に、海外からの流入を防ぐ対策についても、有効な手は打てていない。
文政権は日本に追随し、中国武漢市及び湖北省からの外国人の入国を規制した。
だが、大韓医師協会などは規制する対象者を中国全体からの入国に広げるべきだと主張し、それに同調する70万人以上の人々が要望書を提出した。
しかし、青瓦台はこれを拒否している。
入管行政の責任者である秋美愛法務部長官は19日、「国際社会は韓国の感染病拡散遮断について、効果的だと評価している」と自画自賛した。
しかし、この発言が行われた日に韓国の感染者はそれまで30人程度と安定していたのが一気に20人増えて50人となり、翌20日には100人を超えた。
24日にも、金剛立(キム・ガンニプ)中央事故収拾本部副本部長(保健福祉部次官)は「現在としてはこの水準で維持するのが妥当だと思う」と述べた。
また、丁世均(チョン・セギュン)首相も「韓国人も中国に出入りしなければならないため、われわれが何らかの措置を取れば相互主義のようなものも働くかもしれない」として否定的な見方を示した。
しかし、中国から韓国に留学している学生のうち、冬休みで中国に帰っていた留学生3万8000人が、新学期を前に今週にも韓国に戻ってくる。
高麗大学の予防医学教室のチェ・ジェウク教授は、このうち少なくとも69人、多ければ813人が『感染危険群』と推計される」と指摘し、「入国禁止措置を急がなければならない」と警告している。
韓国に戻る中国人学生への対応を誤れば、韓国国内の新型肺炎はますますまん延するだろう。
入国を拒否するのか、二週間程度隔離するのか決断すべき時が迫っているが、韓国政府は何ら決断を下していない。
そんな韓国の、中国の反発を恐れた優柔不断な態度を知ってか知らずか、中国は「新型コロナウイルスが韓国から逆流入するのを遮断」するとして、一部の国際空港では韓国発の航空機に対する防疫強化を始めている。
一体、何のために中国に気を使っているのだろうか。
宗教団体に責任を
押し付ける文政権
感染者数の激増に直面している文政権は、責任を感じて対策に本腰を入れるどころか、他人に責任を転嫁しようと躍起になっている。
そもそも、文政権は発足当初から責任転嫁が多かった。
経済政策と不動産政策の失敗など、他者へ責任転嫁した例は数え切れない。今回の新型肺炎についても、新興宗教団体「新天地イエス教会」に責任を転嫁している。
文大統領は23日、新型肺炎の危機段階を「警戒」から「深刻」に引き上げた。
文大統領は、「新天地イエス教会集団感染前と後では全く状況が異なる」として同教会について七回言及し、「信者たちに対して特段の対策を取っている」と述べた。
だが、政府の初期対応の失敗については言及せず、謝罪もしなかった。
その間に新型肺炎の感染拡大は進行しており、教会ばかりでなく、国会の休会や裁判所の休廷、慶尚北道亀尾市の工業団地内のサムスンやLGなどの企業の操業停止など、政治、経済、社会活動にも影響を及ぼしてきている。
韓国で最大の感染経路となった「新天地イエス教会」は、1月に教組の兄の葬儀を清道テナム病院で行ったが、この時、新天地の中国支部(武漢)から来た人も参列したといわれており、感染を広めた31番目の患者を含め多数がここで感染したようである。
感染が広がったのは、31番目の感染者が「新天地イエス教の大邱教会」の礼拝に参加した後、10人の感染者が確認された時からといわれ、この女性は検査を拒否しながら4回ミサに参加したようだ。また、病院内での感染も広がっている。
韓国政府は同教会から信者の名簿を入手し、ハイリスク群の信者から調査するとしているが、信者は全体で21万人に及ぶといわれており、同教会から新型肺炎を締め出すことは容易ではない。
さらに、8~16日に行われた天主教慶尚北道安東教区信者のイスラエル聖地巡礼から帰国した中からも、多くの感染者が判明した。
この飛行機に乗務した大韓航空の客室乗務員にも感染が確認され、その後この乗務員は米ロサンゼルス便にも乗務していることが判明した。
2次感染、3次感染は起きないのだろうか。
宗教関係者に広がった感染は、韓国軍内部にも及んでおり、陸海空軍と海兵隊の将校クラスを含め13人の感染者が出ている。
これを受けて韓国軍は7500人の将兵・軍務員を隔離する措置を講じるとともに、全国で野外演習を中止すると決めた。
サムスンとLGも大邱から通勤している人、確定患者と接触した人など2400人を自宅隔離や事務所立ち入り禁止にした。
大邱最大の伝統市場では、2月25日から3月1日まで全面休場とすることを決定したが、これはSARSやMERSの時にもなかったことである。
韓国政府が責任を新天地イエス教会に押し付け、有効な対策を講じないまま、新型肺炎は次々と新しい集団を侵そうとしている。
韓国政府が自ら責任を取り、思い切った施策を講じなければ、対策が後手に回ることになるだろう。
政府の各部署や民間に対応を任せるのではなく、青瓦台が確固たるイニシアチブをとるべきである。
それはあくまでも感染防止を最優先課題としたものでなければならず、選挙や中国への配慮はひとまず横に置くべきである。
文在寅大統領は、野党時代に朴槿恵政権を批判していた時に朴大統領が犯した同じ過ちを犯そうとしている。
このことを、韓国国民はどう見ているだろうか。文大統領弾劾の請願が25日までで20万人を超え、その後2日で100万人に達した。ただ、これに対抗して、文在寅応援の請願も50万人となり、再び対立が激化している。
韓国人締め出しの動き
世界各国に広がる
世界各国は、韓国人や韓国から来た外国人の入国規制を広げている。
24日現在、イスラエルやバーレーン、ヨルダンなど6カ国が入国禁止。
英国、カザフスタンなど9カ国が別の場所で検査するなど、様々な入国制限措置を講じている。25日には香港が入境禁止措置を取り、台湾も14日間の義務隔離とした。
米国も不要不急の韓国訪問を自制するよう国民に求めている。
さらに日本も26日に、大邱と慶尚北道に滞在歴のある外国人の入国を拒否する対象に加える方針と伝えられている。
特に、イスラエルは先月、聖地巡礼でイスラエルを訪問した韓国人一行から多くの陽性反応が出たことを重く受け止め、22日に韓国から到着した170人をそのまま韓国に送り返した。
さらに同国は、短期滞在している韓国人を、イスラエル側が手配したチャーター機で帰国してほしいという要請を出した。
またモーリシャスは、一部に発熱があるという理由で韓国人の新婚夫婦の入国を保留した上で、保護施設や病院などに隔離した。
中国滞在外国人の入国禁止に一線を画すなど政府の対応が甘いといわれる中、各国の韓国人入国規制への対応の陣頭指揮を取るべき康京和外交部長官が、スイス・ジュネーブの国連人権委員会と軍縮会議に出席していることが批判されている。
康長官は各国の外相と会い、「韓国国民が不利な待遇を受けないよう説得している」という。
また、国連人権委員会における演説の中で「最近報告されているコロナ感染出身者に対する嫌悪および憎悪事件、差別的な出入国統制措置および恣意的な本国送還に対して深く懸念している」と述べた。
さらに、患者急増の背景として新天地イエス教会があるとして政府の対応策を紹介した。
「文在寅の謀略」 武藤正敏著、悟空出版刊(3月10日発売)
しかし、各国とも韓国の現状を憂慮して入国規制しているわけであり、康長官の言葉による説得で方針を変えるはずがない。
ましてや韓国政府が新天地イエス教会に責任を押し付けても、各国がそれに納得するはずがない。
あくまでも韓国政府が責任をもって有効な対策を取り、結果を出す以外に、現在の状況を改善する方法はない。
韓国政府のこれまでの国内でのやり方は国際的には通用しないものだ。
文政権がやっていることは、国内向けに努力していると見せかけるだけで、外交的成果は得られないし、ほとんど意味がない。
外交は内政の延長でもある。内政がうまくいっていないときに外交で取り戻そうとしても限界があるのだ。
文政権はまず国内の新型コロナウイルス対策をしっかりやることが基本である。
康長官は言葉を弄(ろう)するよりも、入国拒否に遭い、困っている国民をいかに支援するかが役割ではないだろうか。
(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)
武藤正敏:元・在韓国特命全権大使
国際・中国 元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」
2020.2.28 5:35
文在寅韓国大統領
文在寅政権にとって新型肺炎は
優先課題ではなかった
文在寅政権にとって、今年は成し遂げなければならない2つの重要な課題があった。
それは、
(1)北朝鮮との関係改善をよりいっそう進め、南北平和共存を図るとともに、南北経済協力を進めること、
(2)4月15日に行われる国会議員選挙に勝利し、左派長期政権の基盤を固めることだ。
しかし、新型コロナウイルスによる肺炎(新型肺炎)のまん延によって、この2つには赤信号がともってしまった。
北朝鮮は国内に新型肺炎に感染した人はいないとしきりに否定しているが、既に原因不明の高熱を出した人がいると伝えられ、その人を銃殺して直ちに火葬したとの噂が広がっている。
また、新型肺炎対策の一環で中朝国境を閉鎖した影響で、北朝鮮の食糧・物資不足が加速している。
北朝鮮は金正恩政権の存続を確保することで手いっぱいであり、韓国との関係改善の余裕などないのが現実だろう。
もっとも、北朝鮮の状況については不明な点が多く、北朝鮮との関係については次回以降に譲り、本稿では韓国の状況に絞って論じていく。
韓国では2月27日夕方現在、感染者1766人、死者13人が確認されている。
感染者のうち、大邱・慶尚北道が1477人で、両地域が全体の約83%を占めており、集団感染が発生したことが被害を大きくしている。
既に感染者数は中国に次いで2番目の多さになっており、感染急拡大を招いた最大の要因は、文在寅政権の対応のマズさにあったといえる。
文政権は国会議員選挙で
勝つことを優先した
対応のマズさを端的に示したのは、政策の優先順位を誤ったことだった。
文大統領は13日、大企業のトップを招いた席で、「コロナは近く終息するだろう」として通常の企業活動を続けるよう求めた。
さらに21日には、消費業界関係者を招いた席でも「防疫と経済の2匹のウサギをどちらも捕らえなければならない」として、「ツートラック」戦略を改めて強調した。
文大統領の頭の中には、世界中のリーダーが考えている「防疫が最優先で経済はその次」という優先順位は存在しなかった。
これは4月の国会議員選挙において、文政権の経済運営が最も重要な争点になるとの意識があったからだろう。
その上で文大統領は、「一部のメディアが過度に恐怖や不安を大きくして経済心理や消費心理を極度に萎縮させている」とメディアへの批判を強めた。
政権幹部も新型肺炎に対する危機感のない発言や行動が目立った。
集団感染につながる懸念のある集団行事は延期すべきではないかとの専門家の警告にもかかわらず、
洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相は「外食産業(自営業者)を助ける気持ちで外部の食堂を利用せよ」とまで言ったと伝えられている。
また朴凌厚(パク・ヌンフ)保健福祉部長官は、数十人の感染者が確認された直後の19日夜、KBSとのインタビューで
「地域社会で感染が拡大する時期が来るということを“実は”予測していた」
「予想していたことなのでそれほど慌てていない」と語っていたと中央日報は報じている。
そのような予測をしていたのなら、大統領やその側近の発言や行動を、国民はどう読み取ればよかったのか。保健福祉部長官は事実を大統領に報告していなかったというのか。
青瓦台は感染者が少なかった時期から、前もってヘリコプターを動員して空中防疫していたし、青瓦台の進入路も徹底して防疫をしていたようだ。
こうした対策をより強化して、まん延を防ぐ努力をどうしてもっと続けなかったのだろうか。
文大統領が言うように「防疫は重要」で「経済も重要」であることは議論の余地がない。
特に文大統領にとって今年の国会議員選挙に勝つためには経済を犠牲にはできない。
しかし、そのため防疫がおろそかになって感染拡大が始まってしまうと、拡大を抑制するのはますます困難になる。
結果として経済の被る犠牲は、当初から防疫を最優先にするよりはるかに大きくなることをなぜ考えなかったのか。
新型肺炎の抑制は「危機管理」の問題であり、選挙対策より優先されるべき問題であるはずだ。
国会議員選挙に意識があるにしても、まず新型肺炎を落ち着かせた後、経済の回復を図るべきである。
順序が逆になったところに現在の悲惨な状況がある。
中国への遠慮が
感染拡大を招く
国内での感染拡大を防ぐ対策が生ぬるいのと同様に、海外からの流入を防ぐ対策についても、有効な手は打てていない。
文政権は日本に追随し、中国武漢市及び湖北省からの外国人の入国を規制した。
だが、大韓医師協会などは規制する対象者を中国全体からの入国に広げるべきだと主張し、それに同調する70万人以上の人々が要望書を提出した。
しかし、青瓦台はこれを拒否している。
入管行政の責任者である秋美愛法務部長官は19日、「国際社会は韓国の感染病拡散遮断について、効果的だと評価している」と自画自賛した。
しかし、この発言が行われた日に韓国の感染者はそれまで30人程度と安定していたのが一気に20人増えて50人となり、翌20日には100人を超えた。
24日にも、金剛立(キム・ガンニプ)中央事故収拾本部副本部長(保健福祉部次官)は「現在としてはこの水準で維持するのが妥当だと思う」と述べた。
また、丁世均(チョン・セギュン)首相も「韓国人も中国に出入りしなければならないため、われわれが何らかの措置を取れば相互主義のようなものも働くかもしれない」として否定的な見方を示した。
しかし、中国から韓国に留学している学生のうち、冬休みで中国に帰っていた留学生3万8000人が、新学期を前に今週にも韓国に戻ってくる。
高麗大学の予防医学教室のチェ・ジェウク教授は、このうち少なくとも69人、多ければ813人が『感染危険群』と推計される」と指摘し、「入国禁止措置を急がなければならない」と警告している。
韓国に戻る中国人学生への対応を誤れば、韓国国内の新型肺炎はますますまん延するだろう。
入国を拒否するのか、二週間程度隔離するのか決断すべき時が迫っているが、韓国政府は何ら決断を下していない。
そんな韓国の、中国の反発を恐れた優柔不断な態度を知ってか知らずか、中国は「新型コロナウイルスが韓国から逆流入するのを遮断」するとして、一部の国際空港では韓国発の航空機に対する防疫強化を始めている。
一体、何のために中国に気を使っているのだろうか。
宗教団体に責任を
押し付ける文政権
感染者数の激増に直面している文政権は、責任を感じて対策に本腰を入れるどころか、他人に責任を転嫁しようと躍起になっている。
そもそも、文政権は発足当初から責任転嫁が多かった。
経済政策と不動産政策の失敗など、他者へ責任転嫁した例は数え切れない。今回の新型肺炎についても、新興宗教団体「新天地イエス教会」に責任を転嫁している。
文大統領は23日、新型肺炎の危機段階を「警戒」から「深刻」に引き上げた。
文大統領は、「新天地イエス教会集団感染前と後では全く状況が異なる」として同教会について七回言及し、「信者たちに対して特段の対策を取っている」と述べた。
だが、政府の初期対応の失敗については言及せず、謝罪もしなかった。
その間に新型肺炎の感染拡大は進行しており、教会ばかりでなく、国会の休会や裁判所の休廷、慶尚北道亀尾市の工業団地内のサムスンやLGなどの企業の操業停止など、政治、経済、社会活動にも影響を及ぼしてきている。
韓国で最大の感染経路となった「新天地イエス教会」は、1月に教組の兄の葬儀を清道テナム病院で行ったが、この時、新天地の中国支部(武漢)から来た人も参列したといわれており、感染を広めた31番目の患者を含め多数がここで感染したようである。
感染が広がったのは、31番目の感染者が「新天地イエス教の大邱教会」の礼拝に参加した後、10人の感染者が確認された時からといわれ、この女性は検査を拒否しながら4回ミサに参加したようだ。また、病院内での感染も広がっている。
韓国政府は同教会から信者の名簿を入手し、ハイリスク群の信者から調査するとしているが、信者は全体で21万人に及ぶといわれており、同教会から新型肺炎を締め出すことは容易ではない。
さらに、8~16日に行われた天主教慶尚北道安東教区信者のイスラエル聖地巡礼から帰国した中からも、多くの感染者が判明した。
この飛行機に乗務した大韓航空の客室乗務員にも感染が確認され、その後この乗務員は米ロサンゼルス便にも乗務していることが判明した。
2次感染、3次感染は起きないのだろうか。
宗教関係者に広がった感染は、韓国軍内部にも及んでおり、陸海空軍と海兵隊の将校クラスを含め13人の感染者が出ている。
これを受けて韓国軍は7500人の将兵・軍務員を隔離する措置を講じるとともに、全国で野外演習を中止すると決めた。
サムスンとLGも大邱から通勤している人、確定患者と接触した人など2400人を自宅隔離や事務所立ち入り禁止にした。
大邱最大の伝統市場では、2月25日から3月1日まで全面休場とすることを決定したが、これはSARSやMERSの時にもなかったことである。
韓国政府が責任を新天地イエス教会に押し付け、有効な対策を講じないまま、新型肺炎は次々と新しい集団を侵そうとしている。
韓国政府が自ら責任を取り、思い切った施策を講じなければ、対策が後手に回ることになるだろう。
政府の各部署や民間に対応を任せるのではなく、青瓦台が確固たるイニシアチブをとるべきである。
それはあくまでも感染防止を最優先課題としたものでなければならず、選挙や中国への配慮はひとまず横に置くべきである。
文在寅大統領は、野党時代に朴槿恵政権を批判していた時に朴大統領が犯した同じ過ちを犯そうとしている。
このことを、韓国国民はどう見ているだろうか。文大統領弾劾の請願が25日までで20万人を超え、その後2日で100万人に達した。ただ、これに対抗して、文在寅応援の請願も50万人となり、再び対立が激化している。
韓国人締め出しの動き
世界各国に広がる
世界各国は、韓国人や韓国から来た外国人の入国規制を広げている。
24日現在、イスラエルやバーレーン、ヨルダンなど6カ国が入国禁止。
英国、カザフスタンなど9カ国が別の場所で検査するなど、様々な入国制限措置を講じている。25日には香港が入境禁止措置を取り、台湾も14日間の義務隔離とした。
米国も不要不急の韓国訪問を自制するよう国民に求めている。
さらに日本も26日に、大邱と慶尚北道に滞在歴のある外国人の入国を拒否する対象に加える方針と伝えられている。
特に、イスラエルは先月、聖地巡礼でイスラエルを訪問した韓国人一行から多くの陽性反応が出たことを重く受け止め、22日に韓国から到着した170人をそのまま韓国に送り返した。
さらに同国は、短期滞在している韓国人を、イスラエル側が手配したチャーター機で帰国してほしいという要請を出した。
またモーリシャスは、一部に発熱があるという理由で韓国人の新婚夫婦の入国を保留した上で、保護施設や病院などに隔離した。
中国滞在外国人の入国禁止に一線を画すなど政府の対応が甘いといわれる中、各国の韓国人入国規制への対応の陣頭指揮を取るべき康京和外交部長官が、スイス・ジュネーブの国連人権委員会と軍縮会議に出席していることが批判されている。
康長官は各国の外相と会い、「韓国国民が不利な待遇を受けないよう説得している」という。
また、国連人権委員会における演説の中で「最近報告されているコロナ感染出身者に対する嫌悪および憎悪事件、差別的な出入国統制措置および恣意的な本国送還に対して深く懸念している」と述べた。
さらに、患者急増の背景として新天地イエス教会があるとして政府の対応策を紹介した。
「文在寅の謀略」 武藤正敏著、悟空出版刊(3月10日発売)
しかし、各国とも韓国の現状を憂慮して入国規制しているわけであり、康長官の言葉による説得で方針を変えるはずがない。
ましてや韓国政府が新天地イエス教会に責任を押し付けても、各国がそれに納得するはずがない。
あくまでも韓国政府が責任をもって有効な対策を取り、結果を出す以外に、現在の状況を改善する方法はない。
韓国政府のこれまでの国内でのやり方は国際的には通用しないものだ。
文政権がやっていることは、国内向けに努力していると見せかけるだけで、外交的成果は得られないし、ほとんど意味がない。
外交は内政の延長でもある。内政がうまくいっていないときに外交で取り戻そうとしても限界があるのだ。
文政権はまず国内の新型コロナウイルス対策をしっかりやることが基本である。
康長官は言葉を弄(ろう)するよりも、入国拒否に遭い、困っている国民をいかに支援するかが役割ではないだろうか。
(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)