- 旗艦モスクワ沈没に慌てふためくロシアと中国
対艦ミサイル1発が中国の台湾侵攻阻止
4月13日、ロシア海軍ミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」に攻撃され、沈没した。
ウクライナはミサイル攻撃を認め、米国国防省も対艦ミサイルが命中したことを確認したという。
だが、ロシア軍は、モスクワにミサイル攻撃されたことを認めず、火災が発生したからだと言った。
過去、旧ソ連海軍時代から今まで、大型戦闘艦艇(潜水艦を除く)が、火災を起こして沈没したことを聞いたことがない。
しかし、ロシア軍も内心は認めている。なぜなら、そのことに怒り、報復のために、キーウをミサイル攻撃したからだ。
一方で、中国は、露ウ(ウクライナ)戦争を、これまでは高みの見物だった。
だが、ロシア巡洋艦がミサイル1~2発に攻撃されて、それを破壊できずに命中弾を受け、沈没したのを見た。中国は、大変肝を冷やしたことだろう。
その理由について説明する。
1.モスクワ沈没に肝冷やした中国海軍
中国はロシア海軍艦艇を模倣し、いくらかの改良を加えて自国の軍艦を建造してきた。自分たちが建造してきた軍艦に大きな欠陥が見え始めた。
そうなると、台湾侵攻の際に使用する大型揚陸艦、これらを守る駆逐艦が、たった1発の台湾の対艦ミサイルに撃沈されることが予想される。
中国軍による台湾上陸侵攻は、予期せぬ形で危ぶまれることになった。
2.機能しなかったロシア海軍防空システム
黒海艦隊の旗艦である「モスクワ」が沈められた。黒海艦隊の主力艦は6隻であり、巡洋艦1隻のほか、駆逐艦1隻、フリゲート艦4隻である。
艦隊は、基本的に合同で防空システムを構成している。
艦によって、防空能力、対艦攻撃能力、対地攻撃能力、対潜作戦、それぞれ別個に能力が高いのである。日本の場合、さらに、ミサイル防衛能力を保有している。
艦隊は、それぞれを組み合わせて作戦を行う。旗艦は艦隊作戦を指示命令するし、今回の作戦の場合は、地上攻撃の役割も担っていたと思われる。
さらに、各艦は、CIWS(シウス:Close In Weapon System)を装備していて、対艦ミサイルや戦闘機を至近距離で撃墜する兵器を装備している。
巡洋艦モスクワも ガトリング砲(30mm口径6砲身)3基を備えている。
現実に、メディアが、ロシアミサイル巡洋艦を紹介する時に、主砲とCIWSを射撃している映像を流している。
本来は、このCIWSが飛翔してくるミサイルに弾幕射撃を行い、撃破することになっているはずだ。
だが、モスクワは、ウクライナのネプチューンミサイルを撃破することなく、命中させてしまった。
ウクライナ軍が2発発射したために、1発は打ち落としたのかもしれないが、1発は命中したのだろう。
巡洋艦モスクワは、各種機能を有する軍艦だったのに、防空レーダー、防空ミサイル、CIWSシステムなどを合わせた防空システムに、致命的な弱点を露呈してしまったのだ。
これは、兵器技術の問題もあるが、ロシア軍兵士の油断もあったかもしれない。
3.中国軍艦はロシア軍艦と運命共同体
中国は、空母、駆逐艦、潜水艦など、旧ソ連が建造した艦を購入している。
空母「遼寧」はもともと旧ソ連が建造し、ソ連邦崩壊後にウクライナが中国に売却したものだ。
ロシア海軍はかつて、ソブレメンヌイ級とウダロイ級の2種類の駆逐艦を保有していた。中国の杭州級・現代級ミサイル駆逐艦は、ソブレメンヌイ級駆逐艦として使用していたものを購入したものだ。
また、ロシア海軍は各種攻撃型潜水艦を保有していたが、中国は潜行時に音が静かな「キロ級」潜水艦を購入した。
中国は、これらの空母、駆逐艦、潜水艦を購入して、それらを模造あるいは改良したものを建造しているのが、実態である。
つまり、中国海軍の軍艦は大型で、周辺各国に対して、その威容を見せつけ、威圧しているのだが、実は、ロシアの軍艦と同様に対艦ミサイルに極めて脆弱だということである。
このことを見ていた米国、日本、台湾、東南アジア諸国は、ロシアや中国軍の軍艦がミサイル対応能力に欠陥があることが分かり、米国や日本製の対艦ミサイルを装備し、その数を増加させることになるであろう。
中国は今頃、ロシア海軍艦艇の模倣、改良型を使用していることから、軍事力整備に問題があると、気付いたに違いない。
4.中国海軍の台湾上陸能力に重大な影響
中国は近年、台湾侵攻や南シナ海の人工島の防衛のために、大型揚陸艦を建造している。
中国海軍は、台湾海峡など狭い海域で大型揚陸艦が必要なのか。対艦ミサイルの射程内で、その射撃目標となりやすい大型艦を運用することに疑問が持たれていた。
中国海軍は、モスクワが撃沈させられて、改めてその誤りに気付くことになる。
中国海軍は、大型の揚陸艦(上陸のために兵員を輸送する艦)を建造している。
ドック型輸送艦(LPD)の4万トンクラス8隻と2万5000トンクラス8隻の合計16隻建造の予定で、現在8隻が就役している。
1隻で、4万トンクラスが兵員1600人または戦車35両、2万5000トンクラスが600~800人または戦車20両を輸送できる。
戦車揚陸艦LST(約4500トン)は28隻就役させている。兵員200~250人または戦車約10両を輸送できる。
ウクライナ軍に爆破されたタピール級揚陸艦「オルスク」(約4500トン)と同じクラスの揚陸艦だ。
台湾海峡の幅は平均的に200キロで、ここに大型艦が行動すれば、間違いなく台湾の対艦ミサイルの格好の目標になる。
1発命中すれば、沈没するのだ。4万トンクラスであれば、陸戦隊兵1600人を失うことになる。
ドック型揚陸艦と戦車揚陸艦合わせて44隻は、台湾軍のたったの50発以下の対艦ミサイルで撃沈させられてしまうのだ。
これらの揚陸艦で輸送できる海兵隊約3万5000人を、簡単に沈めてしまうことが可能になる。
5.中国の海洋進出阻止に対艦ミサイル有用
中国の海洋進出の脅威を受けているアジア各国、例えば台湾、南シナ海に接するフィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシアは、ウクライナでのロシア艦撃沈を見て、中国の海洋進出を止めるには、対艦ミサイルが大きな役割を果たすと感じ取ったことだろう。
対艦ミサイルは、日本の南西諸島や、台湾に向かう中国軍艦に対しても脅威を与えることができる。
ただ、中国海軍の脅威になる対艦ミサイルは、中国弾道ミサイルの攻撃目標にもなることから、島内に、平時からそのための射撃陣地を構築しておくことが重要だ。
中国の大型揚陸艦に対しては射程200キロ前後の対艦ミサイルを、小型揚陸艇には射程10キロ未満の対舟艇(対戦車ロケットと同じもの)を保有すれば、上陸侵攻を食い止めることができる。
たったロシア海軍軍艦1隻の撃沈が、中国を取り囲む国々の防衛戦闘に重要な示唆と自信を与えてくれた。