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直感力②🌟一瞬にして回路をつなぐもの🌟

2018-01-25 15:10:11 | お話
②🌟一瞬にして回路をつなぐもの🌟


棋士は、若いときには計算する力、記憶力、反射神経のよさを前面に出して対局するが、

年齢を重ねるにつれ少しずつ直感、大局観にシフトして行くのが普通の流れだ。

直感や大局観は、1秒にも満たないような短い時間であっても自分の経験則と照らし合わせて使うものなので、

ある程度の実地経験を積んでからでないと使えないと思っている。

つまり、成功したり失敗したりした経験を消化して栄養となったものが大切な財産なのだ。

通常は、対局中に行うシミュレーションのほとんどが、自分にとって不利、または絶望的な局面だ。

それでも、ひたすら気持ちを切らさずに、細い細い隙間を辿っていく。

するといつの間にか光が射し、開けた道に出る。

もちろん、そうそう、うまくはいかないこともある。

将棋の世界も日進月歩。

近年では多くの定跡、戦型がずいぶんと研究されつくしている感もある。

したがって、基本的な発想自体は私も他の棋士と変わらないはずだ。

ただ、これでいけるだろうと判断する基準が、私の場合少し甘いらしい。

甘いというのでなければ、道幅を広く見てしまうのかもしれない。

相手の人が「通れない」と選択肢から外してしまうような道のほうに、

「こうすれば通れる」とか、

「こうやってつながっているだろう」

という、その先の大きな展開を感じて、その道を選んでしまうのだ。

そのコース選びがすなわち直感に基づくものである。

プロの世界においては、そんなことをすると十中八九、不利になる。

しかし、たとえ不利になろうとも、自分が実際にやってみることによって体得することは少なくない。

同じ種類の過ちを犯さなくなれば、1回ぐらい不利になってもたいしたことではない。

どのコースを行けばいいのか。

それを見極めるためには、記憶を駆使して、データに基づいてその局面での最善手を選んでいくことも必要だが、

ずっと同じ位置で、同じ視線で考え続けても、結局答えの見つからないことが多い。

さらに、よけいな情報を増やして、ーーたとえば相手の読みや棋風なとにまで考えを巡らせると、邪心が入ってしまう。

そして、策士策に溺れるがことく、自滅してしまう。

それよりも、その状況を理解するというのだろうか、

「ツボを押さえる」といった感覚が自分の中に出現するの待つことが大事なのではないかと思う。

その感覚を得るためには、まずは地を這うようなの読みと同時に、

その状況を一足飛びに天空から俯瞰して見るような大局観を備えもたなければならない。

そうした多面的な視野で臨むうちに、自然と何かが湧き上がってくる瞬間がある。

この形はこういう方向でやればいい、こういう方針で、こういう道順で行けばいいと、

瞬時のうちに腑に落ちるような感じとでもいうのだろうか。

考えを巡られることなく一番いい手、最善手が見つけられる。

その場から、突然ジャンプして最後の答えまで一気に行きつく道が見える。

ある瞬間から、突如回路がつながるのだ。

この自然と湧き上がり、一瞬にして回路をつなげたしまうものを直感という。

だから、本当に見えているときは答えが先に見えて、理論や確認は後からついてくるものなのだ。


(「直感力」羽生善治さんより)

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