「兄弟の話」
この頃、読んだお経の中に、
つくづくなるほど~、と感心したものがある、
聞いてくれようか。
🌸☀️🌸☀️🌸☀️🌸
昔、ある国の長者が、うららかな天気の日に、二人の子を引き連れて、
香りのする花の咲き、柔らかな草の茂っている広野を、愉しげに遊行していた。
しばらくすると、
水は夏の初めのためにだいぶ涸れてはいたけれど、
なお清らかに流れて岸を洗っている大きな川に出逢った。
その川の中には、珠のような小石や銀のような砂でできている美しい洲があった。
それを見て、長者は嬉しくなり、
勢いに乗じて一尋(ひとひろ)ばかりの流れを無造作に飛び越えた。
そこで、あちこちを見廻せば、
洲の後面の方にも、また一尋(ひとひろ)ほどの流れで、陸と隔てられたる別世界がある。
まるで、浮世の生臭い土地とは、かけ離れた清浄の地であった。
そのまま一人、歓び喜んで踊躍していた。
しかし、後ろで、
渡ろうとしても渡り得ない二人の子供が、羨ましがって呼び叫ぶのを聴いた。
父は憐れに思い、
「おまえたちには、来ることのできない清浄の地であるが、
さほどに行きたくば渡らしてやる。
少し待っていよ。
見よ、見よ、
我が足下の小石は、一々蓮華の形をしている世にも珍しい小石だ。
我が眼の前のこの砂は、一々五金の光を持っている類(たぐい)まれなる砂だ」
と説き、示せば、
二人は遠目に、それを見て、いよいよ焦り渡ろうとする。
長者は、しずかに二人を制しながら、
洪水の時にでも根こそぎになった棕櫚(しゅろ)の樹の一尋(ひとひろ)余りを架け渡して、橋としてやった。
「我が先へ、おまえは後に」
と、兄弟争い鬩(せめ)いだ末、
兄は兄だけに力強く、弟をついに投げ伏せて、
自分が勝ったと誇り高ぶり、
急いでその橋を渡りかけた。
半ばまで、ようやくきたとき、
弟は起き上がり、悔しさに力を籠めて、すぐ橋を動かした。
すると、たちまち兄は水に落ちた。
苦しみもがいて洲に達したが、
このとき弟は、はや、その橋を難なく渡り超えようとしており、
それを見て、
兄もその橋の端を一揺り揺り動かした。
すると、もとより丸木の橋なので弟も堪らず水に落ち、
僅(わずか)に長者の立っいるところへ濡れ滴(したた)りて這(は)い上がった。
そのとき長者は嘆息して言った。
「おまえたちは、どう見る。
今、おまえたちが足を踏み入れた時より、
この洲は、たちまち前とは異なってしまった。
小石は黒く醜くなり、
砂は黄ばんだ普通の砂になった。
見よ見よ。如何に(どうだ)!」
と告げ知らせる父に、二人は驚き、
眼をみはって見れば、全く父の言葉通りの砂と小石。
「ああ、こんなものを取ろうとして可愛い弟を悩ませてしまった」
「ああ、こんなもののために尊き兄を溺れさせてしまった」
と、兄弟共に恥じ悲しみ、
弟の袂(たもと)を兄は絞り、兄の衣裾(もすそ)を弟は絞り、互いにいたわり慰めた。
父は、さきの橋をまた引っぱって来て、洲の後面の流れに打ちかけた。
「もはや、この洲には用はない。
さらに彼方に遊び歩く。
おまえたち、先にこれを渡れ」
と長者の言葉に、
兄弟は顔を見合いて、先刻には似ず、
「兄上、先にお渡りなされ」
「弟よ先に渡るがよい」
と譲り合い、
年順なればと兄が先づ渡る。
そのときに、
転びやすきを気遣い、弟は端を揺るがぬように確(しか)と抑える。
その次に、
弟渡れば、兄もまた揺るがぬように抑えてやった。
長者は苦なく飛び越えて、
三人ともに、いと長閑(のどけ)く、そぞろ歩く。
そんな中、
兄が図らず拾った石を、弟が見れば、美しい蓮華の形をなせる石。
弟が摘(つ)み上げたる砂を、兄が覗けば、眼も眩(まばゆ)く五金の光を放ってていた。
兄弟ともども、歓喜(よろこ)び楽しみ、
互いに得たる幸福を互い深く讃嘆し合っていた。
そのとき長者は、懐中(ふところ)より、
真実(まこと)の璧(たま)の蓮華を取り出し、
兄に与え、
弟にも真実(まこと)の砂金を袖より出して
大切にせよ、と与えたという。
🌸☀️🌸☀️🌸☀️🌸
話してしまえば、
子供だましのようじゃが
仏説☀️に虚言はない、
小児欺(こどもだま)しでは決してない、
噛みしめて見よ、味💕のある話ではないか。😄
(「五重塔」幸田露伴著より)
これは、深い話ですね。🍀🍀🍀
三回は読みたいですね。😄🌟
この頃、読んだお経の中に、
つくづくなるほど~、と感心したものがある、
聞いてくれようか。
🌸☀️🌸☀️🌸☀️🌸
昔、ある国の長者が、うららかな天気の日に、二人の子を引き連れて、
香りのする花の咲き、柔らかな草の茂っている広野を、愉しげに遊行していた。
しばらくすると、
水は夏の初めのためにだいぶ涸れてはいたけれど、
なお清らかに流れて岸を洗っている大きな川に出逢った。
その川の中には、珠のような小石や銀のような砂でできている美しい洲があった。
それを見て、長者は嬉しくなり、
勢いに乗じて一尋(ひとひろ)ばかりの流れを無造作に飛び越えた。
そこで、あちこちを見廻せば、
洲の後面の方にも、また一尋(ひとひろ)ほどの流れで、陸と隔てられたる別世界がある。
まるで、浮世の生臭い土地とは、かけ離れた清浄の地であった。
そのまま一人、歓び喜んで踊躍していた。
しかし、後ろで、
渡ろうとしても渡り得ない二人の子供が、羨ましがって呼び叫ぶのを聴いた。
父は憐れに思い、
「おまえたちには、来ることのできない清浄の地であるが、
さほどに行きたくば渡らしてやる。
少し待っていよ。
見よ、見よ、
我が足下の小石は、一々蓮華の形をしている世にも珍しい小石だ。
我が眼の前のこの砂は、一々五金の光を持っている類(たぐい)まれなる砂だ」
と説き、示せば、
二人は遠目に、それを見て、いよいよ焦り渡ろうとする。
長者は、しずかに二人を制しながら、
洪水の時にでも根こそぎになった棕櫚(しゅろ)の樹の一尋(ひとひろ)余りを架け渡して、橋としてやった。
「我が先へ、おまえは後に」
と、兄弟争い鬩(せめ)いだ末、
兄は兄だけに力強く、弟をついに投げ伏せて、
自分が勝ったと誇り高ぶり、
急いでその橋を渡りかけた。
半ばまで、ようやくきたとき、
弟は起き上がり、悔しさに力を籠めて、すぐ橋を動かした。
すると、たちまち兄は水に落ちた。
苦しみもがいて洲に達したが、
このとき弟は、はや、その橋を難なく渡り超えようとしており、
それを見て、
兄もその橋の端を一揺り揺り動かした。
すると、もとより丸木の橋なので弟も堪らず水に落ち、
僅(わずか)に長者の立っいるところへ濡れ滴(したた)りて這(は)い上がった。
そのとき長者は嘆息して言った。
「おまえたちは、どう見る。
今、おまえたちが足を踏み入れた時より、
この洲は、たちまち前とは異なってしまった。
小石は黒く醜くなり、
砂は黄ばんだ普通の砂になった。
見よ見よ。如何に(どうだ)!」
と告げ知らせる父に、二人は驚き、
眼をみはって見れば、全く父の言葉通りの砂と小石。
「ああ、こんなものを取ろうとして可愛い弟を悩ませてしまった」
「ああ、こんなもののために尊き兄を溺れさせてしまった」
と、兄弟共に恥じ悲しみ、
弟の袂(たもと)を兄は絞り、兄の衣裾(もすそ)を弟は絞り、互いにいたわり慰めた。
父は、さきの橋をまた引っぱって来て、洲の後面の流れに打ちかけた。
「もはや、この洲には用はない。
さらに彼方に遊び歩く。
おまえたち、先にこれを渡れ」
と長者の言葉に、
兄弟は顔を見合いて、先刻には似ず、
「兄上、先にお渡りなされ」
「弟よ先に渡るがよい」
と譲り合い、
年順なればと兄が先づ渡る。
そのときに、
転びやすきを気遣い、弟は端を揺るがぬように確(しか)と抑える。
その次に、
弟渡れば、兄もまた揺るがぬように抑えてやった。
長者は苦なく飛び越えて、
三人ともに、いと長閑(のどけ)く、そぞろ歩く。
そんな中、
兄が図らず拾った石を、弟が見れば、美しい蓮華の形をなせる石。
弟が摘(つ)み上げたる砂を、兄が覗けば、眼も眩(まばゆ)く五金の光を放ってていた。
兄弟ともども、歓喜(よろこ)び楽しみ、
互いに得たる幸福を互い深く讃嘆し合っていた。
そのとき長者は、懐中(ふところ)より、
真実(まこと)の璧(たま)の蓮華を取り出し、
兄に与え、
弟にも真実(まこと)の砂金を袖より出して
大切にせよ、と与えたという。
🌸☀️🌸☀️🌸☀️🌸
話してしまえば、
子供だましのようじゃが
仏説☀️に虚言はない、
小児欺(こどもだま)しでは決してない、
噛みしめて見よ、味💕のある話ではないか。😄
(「五重塔」幸田露伴著より)
これは、深い話ですね。🍀🍀🍀
三回は読みたいですね。😄🌟