ヤフオクを見ていて(まだ続くのかいな) 美しい淡青の石が出ていた。「杉石」とある。え? スギライトって赤紫でしょ? 国産のものは淡黄緑に褐色が混じった、mindat いわく「薄汚ねえ」色だったはず。(そうは言ってないって)
出品者さんいわく、「瀬戸内の岩城島の杉石です。この岩城島へは20年程前に京都地学会の採集会で行ったその時の標本です。今では採集できなくなった珍品の岩城島の杉石標本です。」
面白そうだったから入札しておいたら呆気なく落札。
ネットで調べたら、そっくりな石が売られていて、説明には「この標本は、愛媛県が天然記念物に指定し現在採集は出来ません。昭和40年代に某鉱物同友会の採集会で許可を得て採集したものになります」とある。
おやおや、また天然記念物かよ。
「愛媛県指定天然記念物」のサイトには「エジル石閃長岩 越智郡上島町岩城暮坂」というのがあって、次のように説明されている。
《岩城島北東部にある暮坂山山頂を中心とした半径50m以内の地域に、我国では他にほとんど例をみないエジル石閃長岩(火成岩の一種)の小岩体が花崗岩を貫いて、露出している。曹長石が大部分で石英を含まないアルカリ岩であり、所々に小孔がある。黒や緑の小斑点はエジル石であり、アルカリ輝石の一種である。珪灰石にナトリウムの入ったソーダ珪灰石ユーディアライト様の鉱物を伴っている。》
さらにサイト「鉱物の庭」さんの「杉石と片山石」にも、似たような石が掲載されていて、
《杉石と片山石 -愛媛県越智郡岩城村船越産(杉石は灰褐緑色/片山石は白色粒、蛍光して青色/黒色はエジリン/へき開のある白色粒は曹長石)
この標本を暗所で紫外線に当てると、母岩が暗赤色に蛍光する。その中に青く光る小さな粒が散らばっている。昼光下では白色で、母岩と見分けのつかないこの部分が、もうひとつの新鉱物、片山石だ。》
Katayamalite は KLi3Ca7Ti2(SiO3)12(OH)2。けっこう複雑。
あれ、何かえらいことになってきたな。
さらにさらに、山口大学のサイト「新鉱物フェロフェリホルムキスト閃石の発見」というのも出てきた。
《山口大学大学院創成科学研究科の永嶌真理子若手先進教授……らの共同研究グループは、リチウムを含む新鉱物を愛媛県上島町岩城島から発見しました。
新鉱物は2022年6月2日付で国際鉱物学連合 (IMA)の新鉱物・命名・分類委員会により新種として承認され、「Ferro-ferri-holmquistite」(フェロフェリホルムキスト閃石)と命名されました。
愛媛県上島町岩城島には特異なリチウムに富むアルビタイト(かつて「エジル石閃長岩」とよばれていた)が分布することが知られており、Liに富む多様な鉱物が産します。これまでこの岩石から3種類のリチウムに富む新鉱物が発見されています。
・1976年 新鉱物「杉石」(発見者:村上允英 山口大学名誉教授ら)
・1983年 新鉱物「片山石」(発見者:村上允英 山口大学名誉教授ら)
・2016年 新鉱物「村上石」(発見者:今岡照喜 山口大学名誉教授ら)
今回発見された新鉱物「フェロフェリホルムキスト閃石」は岩城島から発見された4種目の新鉱物で、美しい青色の針状結晶として産します。この新鉱物の詳細は今後論文として公表される予定です。》
ありゃりゃんりゃん。すげーね。
要するにこの石は、岩城島産アルビタイト(曹長岩)。アルビタイトというのは、アルバイト=曹長石中心の岩石ということですな。旧名エジル石閃長岩はエジリンを含んだ角閃石含有長石岩。何か同語反復っぽい。アルバイト・エジリン混合石といった方がわかりやすい。
さて、杉石、片山石は入っているのか。さすがにフェなんとか(こら)はないでしょうけど。
「鉱物の庭」さんの説明に教わって、観察してみる。
杉石は……ううむ。ぼわっとした灰青色の部分かな。自信を持ってこれだとは言えない。劈開面のある曹長石も似たような色をしているからわかりにくい。黒っぽいのはエジリンでしょう。
UVライト。
母岩はえらく鮮やかな赤に蛍光する。リチウムのせいですかな。で、確かに青く輝く細粒があちこちにある。片山石なのかな。
まあ、はっきりとしたことは言えません。「だったらいいな」程度。
けど、そういう稀少石が入っていなくても、この岩石はとても美しい。アルバイトの白が何とも言えない柔らかさと輝きを見せている。
しかし「花崗岩を貫いてエジル石閃長岩が露出している」というのはどういうことなのか。花崗岩が固まりかけたところ、あるいは亀裂に、ほとんどシリカを含まない特殊なマグマが嵌入し、固化したということ? リチウム、エジリン、アルバイトからなるマグマとは何? どこからやってきた?
君は一体誰なんだね。
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