共産党にそれ程興味はなかったのですが、予想以上に面白かったのは、過去に政治モノを書いて読者をひきつけて
きた著者の力量があるのでしょう。本書は平成25年参院選の共産党候補・吉良よし子の選挙戦から始まる。参院選
の東京選挙区は大激戦区だ。そこに原発問題、雇用問題を掲げ、登場した吉良よし子に勝手連的に集まった「キラ
キラサポーターズ」はSNSを駆使し、遊説ではコールを上げ、賑やかに楽し気な選挙運動を盛り上げた。吉良の演
説中は「原発のない日本をつくりましょう!」ドコドン。「ブラック企業は許しません!」ドコドン。と合いの手
の楽器が鳴り、支持者たちは「こんなに楽しい選挙はなかった!」と口をそろえて言っていたという。
この平成25年夏の参院選で共産党は比例代表選で「五議席確保」の目標を達成し、三つの選挙区で勝利し、改選前
三議席から八議席へ大躍進した。その勢いのまま本書は書かれているので、「自共対決」の構図を中心に、原発再
稼働反対、ブラック企業告発、平和憲法堅持」の共産党が政権を担う日と帯にあるが、今、現在その情勢は変わっ
てきている。党幹部を批判した党員を除名処分したのも悪い印象を国民に与えることになった。
勿論、政党の理念は大事だ。その時々によってコロコロ変わるようでは、国民の信頼を勝ち得ない。しかし、状況
は常に変化する。国内外の様々な局面に、しっかり議論を重ね、大多数の人びとが概ね納得出来る論理的な政策を
繰り出すことが出来なければ、政党として長く支持を得ることは出来ない。憲法一つとっても一字一句変えること
は一切まかりならんは通用しない。私は今の自民党を中心とした勢力の拙速な「改憲」を全く支持しないが、平和
憲法を守るための議論は必要だし、アメリカ頼みの軍事力には懐疑的だ。
非常に読みやすく日本共産党の今の姿を的確にとらえていると思う。残念なのは政治、経済モノは少し時間が経つ
とどうしても現状にそぐわないものになってしまう。本書が出版されたときに読んでいれば、大いに納得できたは
ずだが、今のものではない。それでも読んで知っておいて損はない。
日本共産党の深層 大下英治 イースト新書