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米国の議会による行政機関の規則のチェック法(CRA)の運用の実態から見た新たな課題(その1)

2019-02-27 17:06:22 | 三権分立問題

 筆者は2016年11月2日付けブログで連邦通信委員会(FCC)がブロードバンド・インターネット・サービス・プロバイダー(BIAS provider)の顧客のプライバシー保護を監督・統治する立場を前提とする規則案を「規則制定提案告示(Notice of Proposed Rule Making(以下「NPRM」という)」として採択した旨を取り上げた。

 この問題は従来から連邦取引委員会(FTC)によるサービス・プロバイダーの監督・統治問題と大きくかかわってくる大きなかつ微妙な問題であり、その後、連邦議会の上院、下院が「1996年議会審査法(CRA)」(注1)に基づき共同の不承認決議を採択し、その結果、同規則を不承認としてトランプ大統領は署名した。

 その結果、(1)米国の各種プロバイダー監督・規制がどのように代わるのか、「ネットの中立性規制」のありかた等、業界との論争、その法的経緯も含めわが国で明確かつ細かに言及しているレポートは皆無である。また、(2)2017年4月以降CRAが連発された背景は、トランプ大統領によるオバマ大統領の最終段階で多発された規則制定の全面否定問題と如何に関連するのか、(3) CRA自体の適用の真の原因解析、多発の運用の背景と議会の行政機関の監視であるGAO運用実態、大統領の独断と議会のねじれ等を踏まえたCRAの運用課題は何か、等を整理する。(第1項と第2項については情報源が異なるため一部重複がある)

 この問題と複雑に関連して生じているのが、インターネット接続事業者の監督権限をめぐるFCCとFTCの縄張り問題である。この問題には、これまで連邦議会、通信業界等を巻き込んだ複雑な動きを展開しており、わが国内での本格的な解説も皆無といえよう。限られた情報源ではあるが、この問題についても、言及する。

 なお、この問題に関連して見えてきた米国ホワイトハウスの運用面での非常に重要な課題が見えてきた。簡単に言うと大統領を中核とするホワイトハウス政権の非連続性や大統領の人事権に振り回される連邦機関のトップの行動の非連続性である。簡単に問題点のみ整理する。

 最後に、本ブログの取材に絡んで、CRAが多用されている真の原因追及研究論文なども筆者なりにチェックした。米国のロースクールやシンクタンクでは多くの研究論文が見ることができた。しかし、本稿の対象とするにはなお時間がかかる問題であり、今回は論文のURLのみ挙げることとした。

 今回は3回に分けて掲載する

1.2017年6月4日の連邦議会調査局(CRS)の議会向け報告「CRS Reports & Analysis Legal Sidebar」の内容

 米国の科学者連盟(FAS) (注2)は、201764日の連邦議会調査局(CRS)の議会向け報告「CRS Reports & AnalysisLegal Sidebar(法的補足解説)」をBroadband Data Privacy and Security: Whats Net Neutrality Got to Do With It?として引用している。以下、その概要を仮訳する。

 2016年10月27日、FCCは、BIASプロバイダーによるデータの管理、収集、および開示を管理に関する最終規則(Protecting the Privacy of Customers of Broadband and Other Telecommunications Services)(一般に「ブロードバンド・プライバシー・オーダー(Broadband Privacy Order」という)を3-2で採択、11月2日公布した。しかし、それに対応して、2017年4月3日、トランプ大統領は、連邦通信委員会(FCC)による2016年11月2日公布のFCCオーダー(2016年プライバシー・オーダー)で定められた新しいブロードバンドおよび電気通信のプライバシー規則を廃止する議会の共同決議に合意、署名した。同規則の廃止は、議会が最近採択された政府機関の規則を取り消すことを可能にする議会審査法(CRA)の手続きを介して行われた。

 これにより、FCCが、今回承認されなかったものと実質的に同じ内容を持つ新しい規則を発布することは禁止される。ただし、”Broadband Privacy Order”の議会による不許可があっても、米国通信法に基づくBIASの電気通信サービスとしての分類区分は変わらない。したがって、FTCは、BIASプロバイダーのプライバシー慣行を規制するためのFTC法第5条に基づく権限を欠く。一方、FCCは、連邦現行法律集第Ⅱ編第222条および潜在的には通信法の他の規定に従って、”BIAS”のプライバシー慣行に対する権限を持つ。ただし、プライバシー規則を実施するFCCの権限の範囲は、”Broadband Privacy Order”に含まれる規則と実質的に同じである新しい規則の発布に対するCRAの禁止措置によって制限される可能性がある。 

 FCCの現在の委員長であるアジット・パイ(Ajit Pai ) (注3)とFTCの元委員長代理であるモーリーン・オールハウゼン(Maureen K.Ohlhausen) (注4)は、FTCがBIASプロバイダーのプライバシー慣行を監督するためのより優れた機関であり、それらの慣行に対する管轄権はFTCに返されるべきであると考えている。

 

FCC Chirman :Ajit Pai

 

FCC :Maureen K.Ohlhausen

FTC Chairman:Joseph J. Simons(2018.5.1 就任)

 2017年5月18日、FCCはそのプロセスの最初のステップとして、BIASを情報サービスとして再分類することを提案しているNPRMの承認に投票した。再分類はBIASプロバイダーの一般的な通信事業者の地位を終了させ、FTC法第5条に基づくBIASプロバイダーのプライバシー慣行を監督するFTCの権限が再開される。 確かに、NPRMは明示的に「インターネット・サービス・プロバイダーのプライバシー慣行に対する管轄権をFTCに戻すことを提案する」と記している。

 FCCがBIASを情報サービス業者として再分類すると仮定すると、別の法的問題が発生する。2016年に、第9巡回区連邦控訴裁判所(以下「第9巡回区」という)の3人の裁判官合議体が「FTC対AT&Tモビリティー事件」につき決定した。裁判所に提示された問題は、FTC法からの電気通信事業者(common carrier)の適用除外(exemption)がステータス・ベース(すなわち、電気通信事業者のステータスにより事業体に適用される)か、または活動ベース(すなわち、事業体は、電気通信事業者サービスの範囲のみ適用される)で行われるかであった。

 同裁判所は、適用除外はステータスに基づいていると判断した。言い換えれば、会社が通信法の下で共通の運送業者のステータスを得ている場合、FTC法はFTCが当該事業者に対して第5条を執行することを禁じることになる。 

 同裁判所は、事業体が電気通信事業者のステータスを得るために必要な電気通信事業者の活動の程度を未解決のまま残した。しかし、AT&Tが事業のかなりの部分で通信事業者の活動に従事しており、それが通信事業者としてのステータスを付与するのに十分なものであったことについては、議論の余地はなかった。2017年5月9日、第9巡回区は事件の再審理の有効性を認め、したがって巡回規則(Circuit Rulesの下で、3名の裁判官による判決は、合議体判決が裁判所によって採択される場合を除き、第9巡回区内での先例として引用されてはならない。

  第9巡回裁判所大法廷が合議体の推論を採用する場合、一部のBIASプロバイダーのプライバシー実務慣行を監督することはFTCの権限に影響を与える可能性がある。合議体の決定に基づき、BIASプロバイダーが通常の有線および無線電話サービスなどの電気通信サービス、およびその他のサービスも提供するかどうかであるが、プロバイダの事業の大部分を占めるため、BIASプロバイダーのサービスがFTC法第5条に準拠していない可能性がある。したがって、これらのプロバイダーは、BIASのような一般的でない通信事業者サービスを提供する場合でも、FTC法の適用を受けない場合がある。そのような結果は、FCC(最近のNPRMで提案されているように、もはやBIASを電気通信サービスとして扱わないことを選択した場合)もFTCにもBIAS以外の電気通信サービスが事業の大部分を占めるBIASプロバイダーのプライバシー慣行を監視する権限がないことを意味する。

 いずれにせよ、連邦議会は、規制当局がBIASプロバイダーを監督する不確実性を排除するための法律を制定することにより、BIASプロバイダーの規制上の地位を明確にすることができるはずでる。

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(注1) CRAにつき連邦議会調査局が2016.11.17「The Congressional Review Act: Frequently Asked Questions」で詳しく解説している。

 議会審査法の骨子は、連邦政府機関が策定する主要規則(注1-2)に対して、連邦議会両院が不同意の合同決議を可決し、大統領もそれに署名すれば規則は発効しない(又は失効する)、というものであり、合同決議には公法番号が付与される。

(注1-2) 主要規則とは、①経済に対する年間1 億ドルの影響、②消費者、個別産業、政府機関又はある地域への費用又は価格の大幅な上昇、③競争、雇用、投資、生産性、技術革新又は外国企業との競争能力への著しい悪影響を生じたか又は生じるであろうと認められる規則と定義される(第804 条)。(国会図書館・外国の立法「【アメリカ】議会審査法による連邦規則の廃止」から一部抜粋

(注2) 米国科学者連盟(Federation of American Scientists(FAS))。第二次大戦後の1945年、マンハッタン計画に参加した原子力科学者を中心に米国の核科学者たちが集まって結成された非政府組織(NGO)。科学者の立場から軍備競争の中止、核兵器の使用禁止などを訴える。事務局はワシントンにある。

 (注3) FCC 委員長であるアジット・パイ氏は2012年から共和党を代表する委員として、FCCの構成メンバー(委員長を含め5人)を務めてきた。市場競争を重視する規制緩和派として知られる。パイ氏は20日に退任した民主党選出のトム・ウィーラー前委員長と主だった議案で常に対立。インターネット接続業者に対して、ネット上を流れる情報をすべて平等に扱うことを求めた規制「ネットの中立性」の導入などに強く反対した(2017/1/24日経新聞記事から抜粋)

(注4) FTC Chairman:Joseph Simonsの写真を併せて載せた。

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