(画像お借りしました)
息子が結婚して家を出る時(今から12年前)に、私から息子へのはなむけの言葉として持たせた「息子へ」という一冊の小冊子。そこから抜粋した、今回は第14話(諦めないこと)をご紹介します。
少々長いので、どうかお時間のある時にご覧ください。
私は高校を卒業してすぐに就職した。
実は密かに
アナウンサーになりたいという夢があり 笑
(高校3年間放送部所属。高校野球甲子園の地区予選では
広島市民球場でウグイス嬢をやったりもした。
おまえは信じなかったけど本当だ。)
それで大学に進学したかったけど
その夢は叶わなかった。
だから
おまえが進んだ専門学校とやらのしくみが
どんなものなのか
私にとっては未知の世界だった。
数ヶ月に一度「コース変更」というのがあり、
おまえがいつも「税理士・会計士コース」を
選択していたことくらいは
私も知っていたよ。
だけど私にとっては、おまえが
楽しそうに勉強している姿を見るのが嬉しくて
それ以外のことは
余り深く考えていなかったというのが
本当のところだった。
周りのみんなが
そろそろ就職活動を始めようとした頃、
「オレ、税理士になりたい。
だから就活しない。
卒業したらバイトしながら
税理士免許とりたいと思ってる。」
おまえは鼻息荒くそう言ったよね。
・・・・・・・・・・・うぅ・・・うそ。
私が知らない間に
そんなことになってしまっていたのか。
生まれて初めての「本気の勉強」が
予想以上に旨くいって
いつの間にかおまえは
そんな大きな夢を持ってしまっていたのか。
おまえの決意に水を差したくはないが、
会計士や税理士免許は、
片手間に勉強して取れる資格ではないんだよ。
もちろん
専門学校を卒業して、
独学で資格をとる人も中にはいる。
しかし、
生活のためにアルバイトをしながら
片手間に勉強して
目指せるような簡単な資格じゃないんだよ、たぶん。
お世話になった若い税理士さんが言っていた。
「1日15時間以上勉強するんです。
それを丸2年やりました。
親の財力がなかったら、
僕なんか税理士免許は取れなかったですよ。
特別優秀な人は別として、
みんな殆どそんな感じでしたね。」
現実がそうだということを
私は人から見聞きして知っていた。
だけど
余りにも真剣で前向きなおまえに
その事を言ってやることが出来なかった。
自分に財力の無いことが
おまえの夢を阻んでいるという現実を
おまえに受け入れさせることが
嫌だったのかもしれない。
確かに勉強したからといって
誰もが取れる資格ではないだろう。
だけど
土俵に上がらせてやることさえできないことが
私はとても悔しかった。
15年前のあの時、
パパと別れていなければ
少なくとも今よりは
おまえを、おまえの望む道に
進ませてやれたかもしれない・・・。
いつもの私らしくも無く
そんな愚にもつかないことまで
考えてしまったよ。
何度も別れてくれと言ったパパが
どうしても首を縦に振らない私に
「わかった。オレは今も彼女のこと一番愛してるけど
おまえと夫婦、やってくよ。
世の中に愛情の無い夫婦なんてたくさんいるだろ。
子供にとってそんなに
実の両親が必要だって言うんなら
オレたちもそんな夫婦やればいいじゃないか。
そうしよう。それでいいだろ。」
パパとの別れを決意した、
あのパパの言葉を
また、思い出し
やっぱり愚にもつかないことじゃないかと
自分を笑った。
その内、仲の良い友達が
一人二人と就職を決めていったよね。
おまえが浮かない顔をし始めたのも
その頃だった。
「税理士免許、やっぱ、働きながら
取れる仕事に就けないかな・・・。
会計事務所や税理士事務所に
就職できたらいいんだけどな。
でもそういう所ってみんなが行きたがる割に
求人すごく少ないんだよね。
しかもオレ、就活かなり出遅れちゃったからさ。
こんなこと言ってももう遅いよね。
何でもっと早く、思いつかなかったんだろう・・・
何やってんだろうね、オレ。」
結局のところ
どうしておまえがあの時期になって
就職したいと言い出したのかは
未だにわからない。
生半可な勉強で取れる資格ではないと
おまえなりに理解したのか、
それとも単に
友達の進路が決まっていくのを見て
やはり
おまえなりに焦っただけだったのか。
「おまえ、本当に
税理士事務所か会計事務所に就職したいの?」
「うん、したいよ」
「そっか・・・。
なら、すればいいじゃん」
その日から私は都内近郊の
会計事務所・税理士事務所情報を
片っ端から調べ始めた。
インターネットという
この上ない便利なものを使わない手は無い。
「はい、これリストね。
明日から1件ずつ電話してみな」
「何で?だってこれって
求人広告出してる訳じゃないんだよね。
なのに何て電話すんの?」
「ばーか。だからおまえはバカなんだよ。
わざわざ求人広告出すほどではないけど、
まぁ、別に人を入れてもいいか・・・って
考えてる会社は
実は意外とたくさんあるんだよ。
一流企業は別として、
小さな会社なんて
現実はそういうものなんだ。
とにかく、騙されたと思って、電話してみな。
これぞ正に“ローラー作戦”よ」
「う・・・うん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今日は何件電話した?」
「えっと・・・、5件くらいかな。
でも、やっぱり全部ダメだったよ」
「はっ!?おまえ、何寝ぼけてんの?
締め切りの日、私が1日100件以上の電話
取ってるの知ってるだろ?
過呼吸で頭がぼーっとするくらいだよ。
明日はリストのここからここまで・・・50件くらいか?
何があっても必ず電話しろよ。
帰ったら結果報告聞くからな。全部メモしとけ。」
それからおまえは
毎日数十件の会計事務所に電話を掛け捲った。
そしてその内、
「履歴書を送ってください」という事務所を
いくつか拾い出した。
ところがこれが大難関。
小さい頃から
「字は綺麗に、丁寧に書くように。
大人になってから困るのはおまえなんだからね」と
口が酸っぱくなるほど言っていたのに
未だにおまえの字は
まるで頭の悪そ~な小学生並み。
果たして「履歴書」を見て
面接まで漕ぎ着けることが出来るのか・・・。
(正直言って私なら、間違いなく書類選考で落とします。
気の毒だとは思うけど。)
ローラー作戦を始めてから
どれくらい経った頃だろう。
珍しく仕事中に私の携帯電話が鳴った。
「あ、オレ。
面接、決まったよ。
ありがとう。あなたのお陰だよ。
絶対合格して見せるからね。
ホント、ホントにありがとう・・・」
「そっか。よかった。
面接決まればこっちのもんよ。
がんばれよ。」
面接当日。
流石の私も緊張したよ。
だけど結果は後日だよね。
気に入らなくったって
その場はニコニコ送り帰すもんだ。
おまえも体よく送り帰されてしまったのか。
面接から数時間後、
携帯電話が鳴った。
「就職、決まりました。
念願の会計事務所です。
オレ、頑張ります。
本当にありがとうございました。」
怒鳴られてばかりいたけど
よくがんばった。
中身はともかく
見た目は爽やか兄ちゃんで
ハキハキと元気のいいおまえのことだ。
うまくやったんだろう。
「・・・・・おめでとう。
ね?
なりたいと思ったら、なれただろ?
一番怖いのは、諦めること。ちゃんと覚えておけよ。
おまえなら絶対やれる。
頑張って働くんだよ。」
私からおまえへのお祝いは
TAKEO-KIKUCHIの
パリッとした
スーツだった。
ちょっと照れるけど、
あれはおまえに
とても似合っていたよ。
結局、会計事務所で10年間修行をさせて頂き、その後一般企業に転職した息子。夢だった税理士にはなれませんでしたが、その技能のお陰で、今は経理部の責任者として、毎日頑張っているようです。数字を追いかけて、帳尻を合わせる仕事は、やはり息子に合っていたようでした。
既投稿の記事を貼ってみました。宜しかったらご覧ください。
「息子へ」第1話 (偶然の幸運)
「息子へ」第2話 (ザルで水を汲む如し)
「息子へ」第3話 (たこ食った事件)
「息子へ」第4話 (目から鱗)
「息子へ」第5話 (父親みたいな人)
「息子へ」第6話 (忘れてはならないこと)
「息子へ」第7話 (思春期の困惑)
「息子へ」第9話 (高校生活)
「息子へ」第11話 (勉強の楽しさ)
「息子へ」第12話 (愚かな母)
「息子へ」第13話 (不思議なえにし)
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