AKB48の旅

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西武ドームを振り返る

2012年10月02日 | AKB
谷村新司さんとの対談での、思いっきり誇張するけど秋元康の「狼狽えぶり」にいろいろ思うことがあったんで、ちょっと踏み込んだことを書いてみる。

秋元康は、なぜ西武ドーム2日目のデスマーチを止めなかったのか。そういう表現が言い過ぎなら、なぜああまでメンバーを追い込んだのか。"Show must go on"を見る限り、とりわけ前田さん、大島さん、高橋さんの三人に負荷を掛けすぎたのは明らかだろう。言うまでもなくAKBを支えてる最重要メンバーの三人に、最悪の事態も起こりうるまでの負荷を、なぜ掛けてしまったのか。6年という歳月と大金を投じて、ようやく育て上げ手にすることができたAKBの、その中でも最有力のカードを一気に失いかねない、そんな危険すぎる賭けを、秋元康はなぜやってしまったのか。

別に三人を指名とかしてないというのは関係ない。ああいうダメ出しをすれば、とりわけ高橋さんが責任を感じるのは必定だし、高橋さんが動けば48G全体が動くのも必定。そうなるとフロントランナーの前田さん、大島さんにのしかかるものがふくれあがるのも必定。48Gのことを誰よりも知る秋元康に、それが読めないわけがない。

これまでもギャンブラーとしての秋元康のことはちょくちょく取り上げてきたけど、AKBに関する限りその賭け方はむしろ慎重で、週刊誌などで報じられたカジノでの掛け方とは、明らかに違っていた。既述の繰り返しになるけど、目の前の現実を真摯に受け入れた上で、その一歩先のリスクを取りに行く、成功すればさらに一歩先のリスクを、失敗すれば、その失敗を完全に受け入れて潔く方向性をあらためる、そんな実直で慎重な舵取りになっていたと思う。

だからこそ、西武ドームが解せない。これまではどうしても秋元康が隠し持つ二面性、ある種「悪意」の存在を想定しなければ説明できなかったんだけれど、秋元康の狼狽(誇張してます)を目の当たりにして、ふと、もう一つの可能性に気づけたように思う。というか、秋元康を買いかぶりすぎてはいけないと、あらためて自重する必要を感じたというか、常に謎の答えはシンプルというか。

あれは、実は秋元康の焦りだったんじゃないか。焦り故の判断ミスだったんじゃないか。

今だからこそ分かることだけど、西武ドーム時点で、前田さんが近い将来AKBを卒業することを、秋元康は知っていた。最有力カードを一枚失うことを知っていた。その上での初日の「敗北」に、ここでも誇張表現を使うけど、秋元康は「恐怖」を覚え、焦りを感じたんじゃないか。ここまで築き上げてきたAKBという城が崩れ落ちる、そういう悪夢を見てしまったんじゃないか。

だからこそ、過剰な「ダメ出し」をしてしまった。あれは実は自分に対しての思いでもあったんだけど、人の心理とは面白いもので、そんな気持ちが近しい他者に向かってしまう。焦りのあまり、熟慮することなくそのまま、思いをメンバーにぶつけてしまった。それがデスマーチのスイッチを押してしまう行為だということに、思い至れなかった。

結果、高橋さんは秋元康の意向を「正しく」受け止め、共同体意識の代表として48G全員に「死ぬ気でやりましょう」と、以下の表現はすべて比喩的だよと念を押しておくけど、「突撃」を「玉砕」を「命令」した。さらに指摘するなら、その背景として東日本大震災が、そして被災地訪問が決定的に効いていたと思う。「死ぬ気」という表現がかつてなくリアルだった。

これが正解と言い張る気もないけど、秋元康の二面性あるいは「悪意」を想定するよりは、はるかに真実に近いんじゃないか。そして何よりも驚くべきことは、秋元康がこの危険極まりない大博打に勝ってしまったこと。最悪どころか後遺症の残るような損害を出すことなく、それどころかこの経験を通して大きくレベルアップに成功した。

そして、その成果を遺憾なく発揮したのが「風は吹いている」のパフォーマンスなのであり、私が決定的にAKBファンとなったが、正にその「風は吹いている」だったということになる。