この世界は「空間3次元+時間1次元」ではなく、11次元なのかもしれない 素粒子物理学者の考える驚愕の世界像
数から科学を読む研究会 現代ビジネス より 210210
◉重力理論と量子力学を統合した先の衝撃!『大栗先生の超弦理論入門』
この世界は11次元でできていると言われたら、みなさんはどう思われるでしょうか。人間が直感的に理解できる空間と時間を超えた「その他の次元」とはいったいどんなものなのか? そして、なぜ5次元でも6次元でもなく「11」次元なのでしょうか?
森羅万象を科学の数字から読み解いた『あっと驚く科学の数字』から、素粒子物理学者が考える驚愕の世界像をご紹介します。
◉この世には、小さく丸まった7次元空間が存在する?
私たち人間は長らく、この世は空間3次元と時間1次元からなる時空4次元世界だと考えてきた。しかしながら、「いやいや空間10次元、時間1次元の11次元だ」という人たちがいる。もちろん物理学者、それも素粒子物理学者の一群だ。
その源になっているのは「超弦理論」。すべての物質や力の素は、量子力学的な長さの最小単位といわれるプランク長さ程度(10のマイナス35乗メートル)の弦(ひも)だという理論だ。今の標準理論では素粒子とされている、クォークや電子などの「物質をつくる粒子」も、電磁気力を伝える光子などの「力を伝える粒子」も、同一の弦の振動の表れで、その違いは振動パターンの違いにすぎない、と考えている。
超弦理論では、光子は横振動(横波)の表れとされるが、特殊相対論と矛盾しないためには、質量がゼロでなければならない。これを量子力学の支配する極微の世界で満足させるためには、空間9次元が必要なことが数学的に明らかになっている。さらに、5種類示されていた超弦理論を統一する過程で1次元増えて、空間10次元となった。
そして、私たちが認識できる4次元を除いた7次元(余剰次元)の空間はものすごく小さく、プランク長さ程度に丸まっているので、見ることも、感じることもできないというのである。
プランク長さとはどのくらいの大きさなのか。仮にプランク長さを1メートルとすると、原子や分子程度の大きさを示す1ナノメートル(100万分の1ミリメートル)が100億光年と宇宙規模の大きさになってしまう。それほど小さいのだ。
◉余剰次元のいくつかは、大きく広がっているかも
じつは前世紀の終わりに、欧米の3人の研究者が、余剰の7次元すべてがプランク長さに丸まっているのではなく、いくつかはもっと大きく広がっている可能性があることを指摘した(ADDモデル)。
素粒子物理学では、宇宙には重力、電磁気力、弱い力(核変換を起こす力)、強い力(核力の源)の4つの力があり、宇宙の始めにはすべての力は同じ1つの力だったとされている(力の統一)。
ところが、重力だけ桁違いに小さい。たとえば、2個の電子の間に働く重力は、その電子の間に働く電磁気力の10の43乗分の1に過ぎず、43桁も違う。電磁気力と弱い力を統一する理論はすでにできているし、強い力を入れた3つの力の統一も何とかうまくいくのではないかと思われている。
◉重力は本当に逆2乗則に従っているのか?
しかし、重力だけは、その小ささから、統一をはかる試みは暗礁に乗り上げており、先がまったく見えていない。ところが、余剰次元のいくつかが広がっているとすると、話は変わってくる。
2つの物体の間に働く重力は、その距離が10分の1になると、3次元空間では距離の2乗に反比例(逆2乗則)するので100倍になる。これが、余剰次元の内の1つが広がって4次元空間になっているとすると1000倍になる。さらに、もう1つが広がって5次元空間になっているとすると、10000倍になる。
数学的に考えると、n次元空間では重力は「n−1」乗に反比例するからだ。つまり、空間次元が増えれば、距離が短くなるにつれ、重力は桁違いに大きくなり、他の3つの力とあまり違いがなくなる可能性が高い。ADDモデルでは、余剰次元の2つがミリメートル程度まで広がっているとすると、重力の弱さを矛盾なく説明できるとしている。
このように、余剰次元のいくつかの広がりは、素粒子物理学の難題、「重力を含めた力の統一」を解決に導くものだ。ADDモデルではその広がりについて、大きい場合はミリメートル単位としているが、これに根拠はない。
同時に、超弦理論では、10のマイナス35乗メートルのプランク長さ程度に丸まっているとしていたが、これにも根拠がないことが明らかになっている。今のところ、余剰次元が広がっているのかどうか、広がっているとすればどのくらいなのか、についてはまったくわかっていない。しかし、ある程度広がっていれば、その存在を現在の観測・測定技術で見出すことができる。今、その試みが進行中だ。
◉余剰次元の存在をどうやって知るか
ひとつの方法は、ヒッグス粒子の発見で名をとどろかせた、欧州原子核研究機構(CERN)の加速器LHCを使う観測実験だ。もし余剰次元がある程度広がっていれば、LHCの実験でミニブラックホールの生成を観測できるかもしれない。ミニブラックホールはすぐに蒸発し、この世に何の影響も及ぼさないので心配はないが、その痕跡を膨大な雑音信号から探し出すのは非常に難しい。
また、4つの力のうち、重力だけがこの4次元空間にとどまらず、他の次元に流れ出ることができると超弦理論では考えられている。だとすれば、重力が他の次元に漏れてしまい、エネルギー保存則が成立しないといった現象が見つかるかもしれない。さらに、新しい粒子、「カルツァ‐クライン粒子」をLHCで捕まえることができるかもしれない。これは広がっている余剰次元の方向に振動する小さな弦の表れだ。
もうひとつの方法は、非常に近接している2個の物体間に働く重力を直接測ることだ。こういうと、「なんだ、そんな単純なことか」と思うかもしれないが、これが大変なのだ。
ニュートンが万有引力を発見してから約350年、この間、人類は遠く離れた物体の間に働く重力に関しては、測定の精度をめざましく向上させてきた。たとえば、月と地球の間の重力は、10のマイナス11乗という高精度で距離の逆2乗則に合致していることが明らかになっている。
ところが、非常に距離の近い物体間の重力の測定はほとんど手付かずで、前世紀末までに逆2乗則が成り立つことが高精度で確かめられたのは、数ミリメートルという範囲だった。ナノテク時代に不思議な話だが、それほど測定が難しいのである。
◉測定方法としては、18世紀末に英国のキャベンディッシュが考案した「ねじれ秤」が基本だ。
秤の両端に重りをとりつけ、近くに重力源の物体を置き、重りと物体の間に重力が働いた結果のねじれを測定する。そこから求められた重力の値と、逆2乗則から理論的に求められた値を比較する。このとき有意にずれていれば、逆2乗則が破れていることになる。
わずかなねじれを測定する非常に微妙な実験なので、周囲からのさまざまな影響を排除するために、真空容器に入れるのはもちろんのこと、いろいろと工夫が凝らされている。現在、欧米日のさまざまなグループがこの実験を進めている。
2007年に米国ワシントン大学(シアトル)のグループが、0.055ミリメートルの距離での重力が0.01%という高精度で逆2乗則に従う測定結果を出している。
◉極小距離での超精密な重力測定に挑む
まったく新しい方法で、なんと原子サイズの1000分の1という極小距離間の逆2乗則がどうなっているのかを検出しようとしているグループが日本にある。立教大学の村田次郎教授たちだ。
この極小距離をねらう新たな実験方法では、原子核を重力源に、電子をジャイロスコープに見立てる。負の電荷を持つ電子は、電磁気力によって正の電荷を持つ原子核に引き寄せられ、まわりをぐるりと回ってきた方向に戻る。
このとき、余剰次元が原子の大きさにまで広がっていれば、原子核のまわりの重力の強さは逆2乗則の場合より強くなり、時空の歪みが大きくなる。その結果、電子のスピン(自転)の向きが通常より大きくずれる。このずれを高精度で測定しようというのだ。重力が周囲の時空を歪ませるのは、一般相対論の根幹だ。
村田教授は、別のテーマでの実験で、微妙なスピンの向きのずれの高精度な測定に携わってきたので、その測定技術は世界のトップをいく。カナダ国立素粒子・原子核物理学研究所と協力して、2012年から新しい実験を開始している。
たとえば0.001ミリメートルでの逆2乗則の破れを探るのは、40TeVのエネルギー、LHCの約3倍のエネルギーを持つ加速器で、ミニブラックホールやカルツァ‐クライン粒子を探るのに等しい。このような状況を考えると、村田教授たちの原子サイズの1000分の1を対象とする実験の結果は、画期的な意味をもっている。
(本記事は『あっと驚く科学の数字』の内容を再編集したものです)
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