ChatGPTがカスタマーサービスに起こす大革命の可能性、その手法を提案する 人手不足・デジタル化遅れ解決の切り札か?
現代ビジネス より 230424 野口 悠紀雄
ChatGPTと自社のシステムを組み合わせることにより、カスタマーサービスの自動化を進めることができます。それは、人手不足を解決するとともに、日本におけるデジタル化の遅れを取り戻す突破口になる可能性があります。
【世界でAI開発停止要求、なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!]
⚫︎チャットボットやIVRで顧客対応を自動化しているが
企業では、顧客からの問い合わせに対応するため、顧客対応(カスタマーサポート)を行なっています。また、商業施設や公共施設では、インフォメーションカウンターにスタッフが常駐して道案内をしています。
人手不足に対処するために,こうしたサービスを自動化しようとする動きが進んでいます。
一つは、チャットボット(人工知能を活用した対話ロボット)の導入です。事前に情報を学習させておくと、顧客の質問に対する自動応答ができます。
もう一つは、電話でのIVRの活用です(IVRとは、Interactive Voice Response:対話式音声応答)。「〇〇に関するお問い合わせは1番をプッシュしてください」というような音声ガイダンスが流れ、応答するシステムです。
金融機関や地方自治体を始め、多くの企業で導入されています。「よくある問い合わせ」にIVRが自動応答することによって、電話業務の負担を減らすことが可能です。
さらに、申し込み手続きなどの場合、企業は、電話ではなくウェブで手続きを行なうよう要請して、人手の負担を減らそうとしています。
⚫︎人間のオペレーターと話したい
ただ、顧客としては、こうした動きに満足しているわけではありません。
できることなら人間のオペレーターに話したいと考えている人が多いでしょう。
IVRで何回も番号を押すのは嫌なものです。チャットボットも、融通が利かない、細かいことに答えてくれない、などの不満があります。
それに対して、人間との会話であれば、柔軟に対応してくれますし、分からない点は何度も聞き返せます。
ChatGPTを利用すれば、これまでより質の高い自動応答サービスを提供できるようになります。人間ほどでないとしても、それにかなり近い対応が可能になるでしょう。外国語での対話もできます。
これによって、コールセンターに人員を配置せずに、24時間稼働できるようになります。また、電話が繋がらず、長い順番待ちでイライラすることもなくなるでしょう。こうして、顧客の満足度が向上するでしょう。そして、従来のチャットボットを魅力的な情報源に変身させることもできるでしょう。
このように、 ChatGPTはカスタマーサービスに大きな変革を起こす可能性があると、企業は期待を寄せています。
しかし、ChatGPTは、一般的な学習データから推測して回答するだけです。このため、情報が古いという問題があります。また、実際とは違う情報を提供してしまうこともあります。
間違った情報を提供してしまうことは、企業にとって致命的です。ChatGPTをそのまま使うことは、リスクが大きいと言わざるをえません。
⚫︎企業ごとに学習して正確に対応
ところが、ChatGPTとAPI連携することによって、企業ごとの固有サービスとしてChat GPTを使うことができます(API:Application Programming Interfaceとは、ソフトウェアやプログラムなどの間をつなぐインターフェース)。
ChatGPT APIを使用すると、自社の商品情報などをAIに学習させてChatGPTを利用し、質問への応答などをすることができるのです。
この方法によれば、学習させた情報以外の情報で勝手に答えてしまうことはなく、正確な応答が可能になります。
ただし、自社でこうしたサービスを開発しようとすると、自社の製品情報などをChatGPTに組み込むために、高度の技術を持ったAIエンジニアが必要になり、高い費用がかかってしまいます。
そこで、そうしたサービスを企業向けに専門的に提供するスタートアップ企業が、いま急激に増えているのです。
今後は、より高度のサービスが開発されて差別化が進むでしょう。そして発注元企業の特性に合わせた柔軟なシステムを設計し、精度の高いサービスを提供できるChatGPT専門の企業が成長し、それらの間での競争が激化すると予想されます。
⚫︎取り扱い説明書に導入してほしい
自動対話サービスが求められるもう一つのものとして、取り扱い説明があります。
家庭電化製品やIT機器などの耐久消費財の取扱説明書は、ウェブに詳細なものがありますが、知りたいことがすぐには分からないという問題があります。そこに書いてあるのは一般的な事項なので、個々の場合の具体的な問題に必ずしも対応してくれないのです。
これを自動化してほしいものです。そうすれば,個々の場合の具体的な問題に適切な解決策を教えてくれるでしょう。そして,修理サービスの申し込みなどにも直結できるでしょう。
このようなサービスを導入した企業の製品に対する需要が高まるでしょう。
ハードウェアとしての性能は変わらなくても、カスタマーサービスというソフトウェアの違いによって、売上げが決まるといった事態が予想されます。
このため、企業は競ってこうしたサービスを導入するでしょう。
また、AIが顧客の問い合わせをデータとして分析し、顧客の需要に合わせた製品やサポート体制を自動的に構築することもできるでしょう。
⚫︎公官庁の窓口で導入してほしい
自動応答システムを導入してほしいもう一つのところは、公官庁の窓口です。手続き等でわからないところが多く、ウェブの説明を見てもよくわからない。こうしたものへの対応を、電話で自動的に行なってほしいものです。
ところが、日本政府は、こうした面への応用を考えていません。
4月9日公開の「イーロン・マスクですらこの危機感、世界でAI開発停止要求、なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!」で述べたように、自民党は、ChatGPTの活用を巡って、国会答弁の作成に利用するとしました。
河野太郎デジタル相は、4月7日の記者会見で「懸念がクリアされれば積極的に考えたい」と述べ、中央省庁での文書作成に生かせないかを検討するとしました。
また、松野博一官房長官は、10日午前の記者会見で、ChatGPTについて「懸念点が解消された場合、国家公務員の業務負担を軽減するための活用などの可能性を検討していきたい」と述べました。
しかし、前記の記事で述べたように、こうしたことによって行政の効率が上昇するとは考えられません。政府は、ChatGPTを国会答弁の作成などに使うのではなく、公官庁窓口業務の効率化にこそ活用してほしいものです。
⚫︎日本のデジタル化の突破口になるか?
ChatGPTは、今後深刻化していく労働力不足に対応する手段として、重要性を増していくでしょう。
それだけではありません。それは、デジタル化の遅れに悩む日本経済を活性化するための突破口にもなりうるでしょう。
日本でデジタル化が進まない基本的な理由は、デジタル人材が育っていないことです。
なぜ育たないのかといえば、日本の企業や官庁では、デジタル人材がその能力に見合った処遇を受けていないからです。
多くのデジタル人材は、多重下請け構造のなかで、きわめて不満足な処遇しか与えられていません。
しかし、上で述べたように、いま、新しいデジタルサービスへの需要が爆発的に成長しようとしています。デジタル人材の活躍場の出現です。
能力があれば、自分で起業し、あるいはスタートアップ企業で思う存分の活躍をできる機会が生まれているのです。
これを見て、多くの有能な若者が、こうした方面の技能を得ようとし、そして自分で創業するようになることが期待されます。
そうした動きこそが、日本のデジタル化の発火点になるでしょう。