老化抑制や若返り…カロリー制限やNMNサプリ摂取など努力次第で「寿命の壁」は越えられる【エイジング革命②】
JBpress 240507 早野 元詞
⚫︎ 健康寿命は努力次第
「いつまでも若く美しく、元気でありたい」…いつの世でも人類はそう願ってきた。その夢が、ここにきて現実のものになりつつある。
老化はどこまでコントロール可能なのか。
老化研究の第一人者、慶應義塾大学の早野元詞氏が3回に分けて解説する。
第2回は、近年の研究で明らかになっている細胞を若い状態に保つ具体的な方法を紹介する。(JBpress)
(早野 元詞:慶應義塾大学医学部特任講師)
※この記事は、『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)から一部抜粋・編集したものです。
【連載】
【エイジング革命①】シワ・シミ・白髪・ハゲ…老化はコントロールできるのか?遺伝より後天的な要素が8割
⚫︎老化抑制から若返りまで
人間の身体には、約37兆個もの細胞があります。
このぼう大な数の細胞が正常でいてくれるからこそ、健康でいられる。歳を重ねてもそれなりの老化で済むのも、細胞の新陳代謝が正常に執り行われているからです。
仮に肌の細胞のどこかに異常が起きれば、それはシミやソバカスとなって現れるでしょう。あるいは、何かの原因で細胞分裂が暴走し始めると、がんなどの病気を発症します。
細胞が正常な状態を保っていれば、それもできれば若い頃の状態が維持されていれば、「老化の抑止」は可能です。それを目指して、世界の研究者が日夜研究しているといっても過言ではありません。
では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
早野 元詞(はやの・もとし) 慶應義塾大学医学部特任講師 熊本県生まれ。
第2回は、近年の研究で明らかになっている細胞を若い状態に保つ具体的な方法を紹介する。(JBpress)
(早野 元詞:慶應義塾大学医学部特任講師)
※この記事は、『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)から一部抜粋・編集したものです。
【連載】
【エイジング革命①】シワ・シミ・白髪・ハゲ…老化はコントロールできるのか?遺伝より後天的な要素が8割
⚫︎老化抑制から若返りまで
人間の身体には、約37兆個もの細胞があります。
このぼう大な数の細胞が正常でいてくれるからこそ、健康でいられる。歳を重ねてもそれなりの老化で済むのも、細胞の新陳代謝が正常に執り行われているからです。
仮に肌の細胞のどこかに異常が起きれば、それはシミやソバカスとなって現れるでしょう。あるいは、何かの原因で細胞分裂が暴走し始めると、がんなどの病気を発症します。
細胞が正常な状態を保っていれば、それもできれば若い頃の状態が維持されていれば、「老化の抑止」は可能です。それを目指して、世界の研究者が日夜研究しているといっても過言ではありません。
では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
早野 元詞(はやの・もとし) 慶應義塾大学医学部特任講師 熊本県生まれ。
2005年熊本大学理学部卒業、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科にて博士号(生命科学)を取得。2010年より東京都医学総合研究所所員、日本学術振興会海外特別研究員、Human Frontier Science Program (HFSP) Long-term Fellow、ハーバード大学医学部客員研究員などを経て、2017年から現職。(株)坪田ラボでChief Science Officerを務める。2023年より(株)Flox Bio共同創業者、One Genomics.Inc co-founder。一般社団法人ASG-Keio代表理事、特定非営利活動法人ケイロン・イニシアチブ理事、一般社団法人海外日本人研究者ネットワーク理事、UJA.Inc(NPO in USA)board memberを務め、若手研究者の支援にも力を入れている。
早野研究室HP: https://www.hayano-aging-lab.com/
X(旧Twitter): @HayanoMotoshi
近年の研究において、細胞を若い状態に保つ方法がいくつか明らかにされています。
早野研究室HP: https://www.hayano-aging-lab.com/
X(旧Twitter): @HayanoMotoshi
近年の研究において、細胞を若い状態に保つ方法がいくつか明らかにされています。
よく知られているのが、「カロリー制限」です。マウスレベルはもとより、ヒトに近いアカゲザルを使った長期の観察研究により、カロリー制限には長寿効果があることが確認されています。それによって、カロリー制限のメカニズムがヒトの健康にも応用できる可能性が高いと示されているのです。
さらに、糖尿病の薬「メトホルミン」の老化抑止効果も報告されています。
さらに、糖尿病の薬「メトホルミン」の老化抑止効果も報告されています。
1957年、フランスの医師ジャン・スターン氏がメトホルミンの抗高血糖作用を探究し、糖尿病治療への応用を初めて報告しました。それ以来メトホルミンは、ヨーロッパで糖尿病治療に広く使用され、アメリカでも1995年に導入されるなど、現在では2型糖尿病(T2D)治療の第一選択薬となっています。
⚫︎人気の「NMN」サプリとは?
そして近年、さまざまな細胞株やモデル生物を用いた多くの研究により、老化に関連する主要分子を標的にするメトホルミンの働きが老化を遅らせ、それに連なる疾患を緩和させる可能性を持つことが明らかになっています。
あるいは、ここ数年で人気を高めている「NMN」というサプリメントもあります。「NMN」とは、「ニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide)」の略で、ビタミンB3の中に含まれる成分の一つです。
⚫︎人気の「NMN」サプリとは?
そして近年、さまざまな細胞株やモデル生物を用いた多くの研究により、老化に関連する主要分子を標的にするメトホルミンの働きが老化を遅らせ、それに連なる疾患を緩和させる可能性を持つことが明らかになっています。
あるいは、ここ数年で人気を高めている「NMN」というサプリメントもあります。「NMN」とは、「ニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide)」の略で、ビタミンB3の中に含まれる成分の一つです。
マウスレベルの実験では、筋力や炎症、認知機能など広く老化の抑制効果があることが明らかになっています。
📗『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(早野元詞著、朝日新書)
📗『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(早野元詞著、朝日新書)
私が留学した先の恩師でロールモデルでもあるデビッド・A・シンクレア教授(ハーバード大学医学大学院)や、「NAD World 2.0」の提唱などで老化制御のトップランナーである今井眞一郎教授(ワシントン大学)が活発に研究されてきた食品にも含まれている物質です。
しかも、こうした抑制手段だけでなく、アメリカではさらに進んで「若返り(リジュビネーション)」の研究が盛んになっています。
たとえば、80歳になってしまったアラブの大富豪が30歳くらいに若返りたい―そんな願望から巨額の研究資金が設けられたりしているのです。もしかすると20年先の近未来では、「老化を防ぐ」のはもとより「老化した人が若返ったり」、さらには望めば誰もが「老化しないまま生涯を過ごせる」ような世界が実現しているかもしれません。
もちろん、私はそれを信じている一人です。
⚫︎老衰の壁は越えられる?
現代に戻りましょう。
歳を取ると、いずれ身体は弱り衰えるもの。
これが「老衰」と呼ばれる現象であり、老衰の壁は誰にも越えられない。たとえどんなに健康でも、いずれ老衰で生涯の幕は閉じられる。誰もがそう思っているはずです。
しかし、この壁はどこまで確かなものでしょうか。
(図:『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)より)
たとえばそれは、日本人の平均寿命がこの100年ほどでどれだけ延びたか調べてみるだけでも見えてきます。そう、決して強固な壁ではないのです。
日本は世界でも最高レベルの長寿国です。厚生労働省のデータによれば、2022(令和4)年の時点で、男性の平均寿命は81. 05歳、女性は87.09歳でした(厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」より)。
この平均寿命が、70年ほど前の1955年にはどうであったか。
たとえばそれは、日本人の平均寿命がこの100年ほどでどれだけ延びたか調べてみるだけでも見えてきます。そう、決して強固な壁ではないのです。
日本は世界でも最高レベルの長寿国です。厚生労働省のデータによれば、2022(令和4)年の時点で、男性の平均寿命は81. 05歳、女性は87.09歳でした(厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」より)。
この平均寿命が、70年ほど前の1955年にはどうであったか。
見れば、男性が63.60歳、女性は67.75歳です。
つまり日本人の平均寿命は、この70年ぐらいで20年ほども延びているのです(厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書―令和時代の社会保障と働き方を考える―平均寿命の推移」より)。
もっとも平均寿命が延びた理由の一つに、乳児死亡率の大幅な低下があります。
もっとも平均寿命が延びた理由の一つに、乳児死亡率の大幅な低下があります。
ですから、単純にヒトの寿命が延びたわけではありません。
ですが、こうして70年間に20年近く延びたのなら、1年平均では20÷70=0.28(約100日)ほど延びたことになります。
この調子で寿命が延びていけば、現在40 歳の人の平均寿命が90歳を超える日も、そう遠くはないかもしれません。
しかも、30年前の60歳と今の60歳とを比べてみれば、現代の60歳のほうが平均的に若々しく見えるといっていいでしょう。明らかに、“老化が鈍化”しています。
しかも、30年前の60歳と今の60歳とを比べてみれば、現代の60歳のほうが平均的に若々しく見えるといっていいでしょう。明らかに、“老化が鈍化”しています。
少なくとも、人々の健康への意識と行動が、この変化に寄与していることは間違いありません。いわば、後天的な要因が寿命の延びに影響しているということです。
⚫︎健康寿命は自分次第
さらに注目すべきは、単なる平均寿命ではなく、健康寿命でしょう。健康寿命、すなわち「健康状態で生活できると期待できる平均期間」を示す指標です。
⚫︎健康寿命は自分次第
さらに注目すべきは、単なる平均寿命ではなく、健康寿命でしょう。健康寿命、すなわち「健康状態で生活できると期待できる平均期間」を示す指標です。
実際、これは平均寿命よりも短く、2019(令和元)年で男性が72.68歳、女性が75.38歳です(厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」より)。
ご存じの通り、個人差が大きく、決して平等ではないのが健康寿命の特徴です。ですが逆にいえば、自分の知識と努力次第で、いかようにでも延ばせる寿命でもあるわけです。
要は、平均寿命も、健康寿命も、現行の数字が生物学的に定められたものではないということです。ゆえに、いくつになっても健康に生きる手段を、科学的な見地から開拓することに意義があるのです。
ご存じの通り、個人差が大きく、決して平等ではないのが健康寿命の特徴です。ですが逆にいえば、自分の知識と努力次第で、いかようにでも延ばせる寿命でもあるわけです。
要は、平均寿命も、健康寿命も、現行の数字が生物学的に定められたものではないということです。ゆえに、いくつになっても健康に生きる手段を、科学的な見地から開拓することに意義があるのです。