60年近く前に理論的に予言された「FFLO超伝導状態」、京大が酸化物から発見
マイナビニュース より 220425 波留久泉
●60年近く前に予言されるも見つかっていなかった「FFLO超伝導状態」
京都大学(京大)は4月22日、60年近く前に理論的に予言されていながらも、これまで直接的な証拠が見つかっていなかった空間変調する特殊な「FFLO超伝導状態」を、層状ルテニウム酸化物超伝導体「Sr2RuO4」にて発見したと発表した。
同成果は、京大 理学研究科の金城克樹大学院生、同・真砂全宏大学院生(現・島根大学 総合理工学部 助教)、同・毛志強博士研究員(現・ペンシルベニア州立大教授)、同・北川俊作助教、同・米澤進吾准教授、同・前野悦輝教授(現・京大 高等研究院 豊田理研‐京大連携拠点 教授)、同・石田憲二教授らの研究チームによるもの。詳細は、米科学誌「Science」に掲載された。
110年以上前に発見された超伝導は、1950年代後半に登場したBCS理論によって関連現象が説明され、現在でも標準理論とされている。同理論では2つの電子で作られる対状態は、スピンや運動量を持たないことが仮定されている(BCS超伝導状態)が、1960年代半ばに2つの電子の運動量がゼロでないとするFFLO超伝導状態が、独立した2つの研究チームから予言された。
通常、超伝導は磁場中で消失するが、この運動量がゼロでない対であるFFLO超伝導状態の方が、対を部分的に壊しスピン分極が可能となり、エネルギー的に得となるため、超伝導が高磁場まで生き残れる可能性が指摘され、このとき超伝導はゼロでない運動量を持つため、その定在波として超伝導を特徴づける超伝導ギャップは空間振動をすることになり、空間変調する超伝導状態となるとされた。
このようにして予言されたFFLO超伝導状態は、その後、現在に至るまで60年近くにわたって探索されてきたが、これまでその候補となる超伝導体が報告されることはあっても、その同定には至っていなかったという。
そこで研究チームは今回、Sr2RuO4の酸素(O)を核磁気共鳴(NMR)可能な同位体である17O核に置換した純良単結晶において、磁場を層に平行に印加した上で、17O核のNMR測定を実施することにしたという。
●1.3T程度の低磁場でFFLO超伝導状態が実現されていることが判明
FFLO超伝導状態に特徴的な超伝導の空間分布は、超伝導が部分的に壊されたスピン分極の空間分布から把握することが可能であり、この状態のNMRスペクトルは、特徴的な形状(Double-horn型)を示すことが、これまで岡山大学の市岡教授、町田教授(当時)らの理論研究により示されていた。
それを受けて今回は、超伝導臨界磁場(Hc2)近傍の磁場領域で詳細に17O核のNMR実験が行われ、限られた磁場-温度領域でこの特徴的なNMRスペクトルが見られることを解明し、空間分布を持った超伝導状態の存在が示されたとする。また、今回のNMRの結果を基にして、Sr2RuO4におけるFFLO超伝導の相図が作成されたところ、同物質ではFFLO超伝導状態は1.3T程度の低磁場で実現していることが判明したという。
Sr2RuO4におけるFFLO状態のイメージ図。超伝導の強さが周期的に変化するスピン・スメクティック性の観測に成功した (出所:京大プレスリリースPDF)
これまで、FFLO超伝導の候補物質では10Tを超える高磁場実験から報告されていたが、Sr2RuO4のFFLO超伝導状態は1.3T程度と、1桁近く低い磁場で実現していることから、FFLO超伝導状態を解明するための走査型顕微鏡による実空間イメージングなど、さまざまな測定が可能となると研究チームでは説明しており、FFLO超伝導状態の研究が今後に進むことが期待されるとしている。
これまで、FFLO超伝導の候補物質では10Tを超える高磁場実験から報告されていたが、Sr2RuO4のFFLO超伝導状態は1.3T程度と、1桁近く低い磁場で実現していることから、FFLO超伝導状態を解明するための走査型顕微鏡による実空間イメージングなど、さまざまな測定が可能となると研究チームでは説明しており、FFLO超伝導状態の研究が今後に進むことが期待されるとしている。
(a)Sr2RuO4の結晶構造。(b)FFLO状態のイメージ図。色の濃さは超伝導の強さが示されている。(c)実際の酸素17(17O)核のNMRスペクトル。超伝導が壊れる寸前の磁場領域で特徴的なNMRスペクトル分裂(Double-horn型)をしていることが確認できる (出所:京大プレスリリースPDF)