石造美術紀行

石造美術の探訪記

奈良県山辺郡 山添村大西 極楽寺五輪塔

2007-01-12 21:03:43 | 五輪塔

奈良県山辺郡 山添村大西 極楽寺五輪塔

Dscf1027 名阪国道山添インター降りてすぐ東、集落の南手の小高い丘の上に極楽寺がある。道路からは少し分かりにくい場所にある。見たところ無住で小さい一堂があるだけの小寺院で、会所のようになっている。本堂向かって左手裏、小さい墓地の入口に五輪塔が建っている。壇上積式の基壇(高さ約50cm、1辺約130cm)の中央に4弁の複弁反花座を据え、その上に5尺の五輪塔を載せている。高さ154cm(※2)。地輪は高さが低く安定感があり、一面中央付近に小さめの文字で「大願□一結衆/正中2年(1325年)乙丑4月日/念仏衆敬白」(※1)の銘があるらしいが摩滅して肉眼では確認しづらい。水輪は現在上下逆に積まれているが、やや下すぼまり形。火輪は軒先が少し欠損しているところがあり、軒反りはやや弱い。空風輪の曲線に直線的なところはなく、空風輪接合部分のくびれにも弱いところは見られない。空輪の宝珠型は重心が低く美しい曲線を描く。各輪とも種子は見られない。紀年銘や造立者を示す銘文があることに加え、立派な壇上積基壇を備え、全体のバランスがとれた美しい五輪塔で、保存状態も良好。傍らに立つ案内看板によれば昭和41年に村の文化財に指定されているようである。 壇上積式の基壇は、側面の中央を束石で2分割しており、羽目石と束石はそれぞれ1組づつ一体整形となっている。格狭間はない。周囲をコンクリートで固めてあり、4つの切石からなる地覆石は5cmほど覗いているだけで以下は埋まっている。反花座の下には空間があって陶製の甕が据えてある(※2)という。葛石は大小2枚の長方形の板状切石で、五輪塔の重心は大きい方の葛石にあるため、小さい方を可動式にして、隙間を広げて塔下に火葬骨を納入できるようにしてあったものと推定できる。小さい方の葛石の一部が打ち欠いてあるのは、恐らく動かしやすいようにした工夫と思われる。惣供養塔として一結念仏講衆により造立され、結縁のため塔下に自分達の火葬骨を納めたものであろう。

なお、正和2年(1313年)銘ある五輪塔と文保元年(1317年)銘のある宝篋印塔がある不動院は隣の字である春日にあり、ここからわずか数百メートルの距離にある。あわせて探訪されることをお勧めしたい。

参考

※1 清水俊明『奈良県史』第7巻 石造美術 332~333ページ

※2 設楽博己、村木二郎、村木志伸『奈良県山辺郡・宇陀郡の五輪塔調査』 国立歴史民族博物館研究報告第111集 182ページ


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