無線脳の視点

無線関係のモノ・ヒトに毒された日常を地味に書いてみる。

消防・救急無線のデジタル考(その2)

2016年01月30日 | 無線系全般
消防・救急無線のデジタル考のエントリーを長く引っ張りすぎた感があるので、今まで見聞きしたり調べたりして知り得た消防・救急無線のデジタル化に関係する事柄について、アレコレと少々強引にまとめてみる。

そもそも、なぜにデジタル化を行うのかについては、前にわーわー書いたエントリの冒頭に記述した、「消防・救急無線は、電波法令によりアナログ方式による150MHz帯周波数の使用期限が定められ、平成28年5月31日までに260MHz帯においてデジタル方式に移行することとなっている」と、主に「法的縛りがあるからしょーがないんだよね」という感じで書いたけど、内情はというと、一般人(無線マニア)やらマスコミ連中が無線聴いて現場に来たりしてうっとうしいし、どうせなら秘匿性の向上とか車両の動態も管理しちゃって、ついでにデータ通信も出来るようにしちゃえば、総務省的に言えば電波利用の高度化、電波の有効利用の大義名分が立つから、早いとこ補助金もらって移行しちゃおうぜ、という流れを作った訳だ。(異論はあるだろうがある程度妥当な解釈だろう)

現在のような全国で統一された方式で配備されるまで、通信機器メーカー同士でいろいろ紆余曲折があったことは容易に想像できる。数ある音声通信の肝であるコーデックはなぜ三菱が採用されたのかとか、なぜデジタル無線の方式が千葉の方式や東京の方式(多摩方式とか言うらしい)など乱立して配備されたのか、そして東京の方式が全国展開に至らなかった理由は何か?とか、そこにはいろんな大人の事情があったはず。AMBE2とかならどうにかすれば聴けたのに。
と言いながらも、あと数ヶ月でデジタルとアナログが混在する移行期間は終了し、アナログ電波は使用期限を迎える。

私の勝手な持論で、「緊急を要する場合に使用されるモノは、可能な限り、扱いがシンプルな方が良い」ということを前提に考えると、今般切り換えられる無線システムははたしてシンプルなものか?ということには少々疑問が残る。例えば、無線を中継するための中継局が多いとか、回線が光回線を使っているとかそういう類いのものも含まれる。
装備を軽く小さくするためにチャンネル表示や音量を電子式のものにしたら、消防側から「現場で手袋してる人間がこんなもの使えるか!」などと怒られたり、機器更新で、「これはファンクションキーを押してナントカカントカ…」という操作方法を教えようとしたら、「こんなめんどくせーモノ使うぐらいなら伝令走らせたほうがマシだ!持って帰れ!」という話があったとかなかったとか。
「メガネが無いと表示が(小さくて)見えない」という笑えない話にならなければいいなぁ。

そのニッポンのデジタル消防無線通信のキモである、にっくき(笑)M-CELP (三菱CELP方式)であるが、拾い集めた情報を基に規格を精査してみると、以下のような規格のようである。
AS500031A ←この単語をググってこのページにたどり着いた人はかなり怪しい人です。
・音声符号化方式:三菱CELP方式
・伝送容量:総合6.4kbps(音声3.45kbps+誤り訂正2.95kbps)
・音声帯域:300Hz~3400Hz
・誤り訂正能力:BER 7%(俗に言うメリット3)
・音声符号化機能:1系統(送信するときのエンコード用)
・音声復号化機能:2系統(受信するときのデコード用、上り下り分)
・PCMデータフォーマット:16bitリニア、8bit μ-law
・処理遅延:85ms以下

そんな規格が分かったとしても、一般人がチップを入手して扱えるようなシロモノではないのは周知の通り。
開発されたときからの時間経過、総務省消防庁の消防救急デジタル無線共通仕様書が作成された時期(平成21年9月)を考えると、いまこうして世の中の消防団体に無線機器が出回って全国的に運用が開始された時点で、既に陳腐化した技術であることは間違いが無いのだが、無線マニアたちの技術を結集させたとしても、復調するためのハードルはかなーり高いのは確かだ。
「そもそも、そんなよその人の通信なんか聴いてどうすんの?」というツッコミは無しで(笑)。

かつて、無線受信マニュアルの王道とも言えた三才ブックス発刊の雑誌「ラジオライフ」は、多様なデジタル通信機器の普及によって従来の手法では受信不可能な対象が増えていく中、どんな方向に進むのだろうか。無線系の記事が激減したら、単なるハッキング雑誌に成り下がっていっちゃうのかも。


消防デジタル受令機機種名まとめ(仮)
 エーオーアール AR-F50 AR-F100 AR-F400
 CSR C850ZD AX850 GX850
 日立 EMR-00JFV
 アイコム IC-R6000FD IC-R60FD
 アルインコ DJ-XF7 DR-XF7
機能性能比較表でも作るかな。

CS-R60FD CS-R6000FD ←この単語をググってこのページにたどり着いた人はかなり怪しい人です(その2)

聞いた話メモ
日立 EMR-00JFV・単1型アルカリ電池2本で使える時間は30分程度(短っ!)
・電池を使ってるときは外部に繋いでるスピーカーからは音が出ない
・最大128chメモリー(FL/FHペアで設定すると半分か?)
・デュアルワッチしてるみたい
 基地波と直接波の通信相手が同じ場合に、片側の音声をミュートする機能がある
 (やまびこミュートっていうんだとか)

エーオーアール AR-F50 / AR-F100 / AR-F400
・12ch×9バンクの108chメモリー(FL/FHペア,デジ簡,アナログ波,それぞれで1ch)、最大216波
・アルカリ単3電池を4本か6本入れて使えるけど、使える時間は1時間未満
・外装を抜き取ると1DINマウントのネジ穴が出現してカーステのように設置できる
・電源を喪失させるとパスワード(ダイヤル1~12を4桁)を要求され、スリーアウトで「不正コード」だぞてめぇと怒られて画面がブラックアウト
・受令機の中では液晶画面が大きいからショートメッセージが見やすいかも

CSR AX850
・最大128chメモリー(FL/FHペアだと64波)
 活動波50ch(100ch)、主運用波9ch(18ch)、統制波5ch(10ch)の最大128ch
・チャンネル表示、タグ表示(全角6文字or半角12文字)
・ショートメッセージは表示できない
・イヤホン端子が付いてる
・パスワードを3回連続で入力ミスをすると本体がロックして文鎮化「Pass: エラー」って出る
(パスワードの入力は正面の4つの機能ボタンを決めた順番で押して解除するが、スリーアウト後はメーカー送り)
・バースタ業務機の電池パックと似てるけど形状が異なり、互換性は無い

電池パック CBP501LI(HX575UJDのデジ簡とかと同じ品番だけど、VX-D591とか VX-581,VX-582用の FNB-87Li、モトローラ GDR3500 用の MLB-001 バッテリーとは嵌合ツメの位置、形状そのものが違う。

参考まで、モトローラのMLB-001はVX-581,VX-582には流用できるが、バースタのFNB-87LiはモトローラのGDR3500には流用が出来ない。(金属製のツメの形状が違う)
じゃぁジャンクのバースタ機のツメを持ってきてMot機に移植すれば・・・と思ったら金属ツメの幅が2mmぐらい違った(泣)



このままじゃ悔しいのでバースタのFNB-87Li電池パックのほうを削ってやったぜぃ。

CSR GX850
姿形と音声出力がデカイだけで、機能はAX850と似たり寄ったりって感じかな

CSR C850ZD
・最大100chメモリー
 活動波80ch、主運用波用として10ch、統制波用として10ch
(不思議なch割り当てだけど、LEDのチャンネル表示しかないからは01~80、P0~P9、C0~C9となる)

アルインコ DR-XF5/7
・筐体がデカい割に画面とツマミが小さく、手袋付けてると操作しにくい(ハンディと部品共用か?)
・デジ簡を内蔵することもできるけどアンテナコネクタはまさかのSMA。マニアじゃないと操作性には問題あり。(別々の方が使いやすくないか?)

アイコム IC-R6000FD IC-R60FD
・うーん、身近に納入している事例が無いので情報が無いのよね

日立や富士通、NEC製なんかの無線機の形をしている受令機
・送信機能を殺して銘板を貼り替えてマイクコネクタを塞いだだけで「ワタシ受令機なんですよね」と変身はしてみたものの、中身は無線機と変わらないらしい
(そういえばアナログの卓上受令機も車載機のマイクコネクタの所を塞いだだけの感じだった)

アナログ運用が終了したは良いが、デジタル無線に切り換えたばかりの消防本部で起きているであろう運用上のトラブル(注:俺様目線でのあくまでも想像で)
・設置納入した業者も工期がパンパンだったから、業者がユーザーにろくに使い方を教えてない
・適当に局名選択画面を押されて、選択呼び出しで用も無いのに突然呼ばれて「不在着信」とか表示されまくる移動局
・通話テストするのに、ちゃんと「本日は晴天なり」と言わず「あ~あ~テストテスト、試験中試験中、フーフー!聞こえた聞こえた、なんだずいぶん遅れて聞こえるなあ」とか言っちゃう
・基地局がプレストークを押しっぱなしで通信(同時通話)出来てるのに「どうぞ」とか言っちゃう
・定時通話試験で、音声頭切れ局が大量発生
「メリット5!」と伝えたいのに、PTT押してすぐしゃべるもんだから「ト5!」しか聞こえない
・自分がしゃべった音声が折り返しで自局で受信して「ヒャッヒャッヒャ~」ってハウリング起こして慌てる
・セレコール通信(選択呼び出しモード)でヨソに聞かれないと思って軽く雑談なんかしちゃったりして
・定時通話試験で、そこらにある無線機で代返したのがバレて怒られる(デジタルなので発信局名の表示が出る)
・指令のショートメールが来ても文字が小さくて読めないからいちいち見ない
・現在地を訊かれてもウソつけない(※配備された機材にもよる)
・本部側がプレストークを押しっぱなしで現場移動局と通話しちゃって、移動局側からの基地局折り返しが聞こえず、他の移動局へ移動局からの現場情報が伝わらない事象が発生
(デジタルの車載無線機は基地局側音量つまみと直接通信音量つまみが独立しているので(一部、富士通製などは違うが)直接通信側の音量を絞ってると基地局側の片通話しか聞こえなくなる)
・無線で移動局側への情報伝達もれを減らすには、本部側がPTT押しっぱなしにして個別通信せず、従来通りの単信通信方式で「基地局折り返し」(中継通信)を活用したほうがいい(←けっこう重要)

ここでいう基地局折り返し通信と移動局関係のイメージは↓こんな感じ。

FH側しか受信設定していない受令機や、現場から遠くにいる移動局なんかだと、本部側がPTTを押しっぱなしにすると、FL波の移動局側の音声をFH波に折り返ししてくれないので、移動局側の通信内容が聞こえないのだ。
逆に、FL側のみで単信のはずの消防団波に、+9MHzのFH側を設定してしまって、どこかの受令波がカブってクレームが入ったという事例もあるらしい。

現場の人に、「消防デジタルあるあるネタ」を取材しておこうか。