2015年11月2日、日立製作所とイタリアのハイテク関連企業・フィンメカニカ社は、フィンメカニカ社傘下の鉄道車両製造部門であるアンサルドブレダ社の既受注案件と修理修繕事業など一部を除く事業、およびヨーロッパの鉄道信号分野の大手企業、アンサルドSTS社のフィンメカニカ社が保有する全株式(発行済み株式の約40%相当)を日立が買収するという契約(2015年2月24日締結)について、完全に成立したと発表した。
現在、ヨーロッパでは国境を超え、各国間の移動をよりスムーズにするために、各国の鉄道会社は相互運用性に注力しているが、その一つが信号システムの統一であった。これまで、各国で採用されていた信号システムは、各国が独自に開発したもので、国を跨いで直通運転するためには、必ず相手国の信号システムを備えていなければならなかった。
この問題を解決するために開発された、ヨーロッパ標準信号システムERTMS/ETCSは、地上設備が整えば、ヨーロッパ中どこでも直通運行可能となる画期的なシステムだが、アンサルドSTS社は、その信号システムメーカーの最大手企業の一つだ。個々の技術力としては高いはずの日本企業が、これまで海外への市場展開が弱かった部分の一つとして、車両は車両メーカーが、インフラはインフラ会社が、というように、分野によって完全分業制となっていたところが挙げられる。海外の大手企業、例えばヨーロッパのビッグ3と呼ばれる3社は、いずれも車両だけでなくインフラも含めて売り込んでいる。
今回、日立がアンサルドSTS社を取り込んだことは、ヨーロッパ標準信号システムのノウハウを得たことを意味し、これは今後、日立がヨーロッパで事業を展開していく上では、欠かすことができない重要なキーポイントであることは間違いない。
車両製造部門は、今後ヨーロッパで事業展開する上で重要な足掛かりになることは間違いない。日立は、英国の高速列車更新事業の案件を受注し、英国のニュートンエイクリフに新工場を建設したばかりだが、これから特にヨーロッパでの新規受注を目指すには、いずれさらなる製造拠点が必要となるし、特に大陸側に設けることの意義は大きい。
また、日立を含む日本企業や製品のブランドイメージは、きちんと納期を守るなど組織としてのきめ細やかな管理能力と、故障などのトラブルが少ない高い信頼性であるということは、ヨーロッパではよく知られており、日本のこうした企業風土で、イタリア特有の高い技術力をまとめ上げることができれば、非常に強力なタッグになると言えるかもしれない。