「嘱託殺人」、「安楽死」、森鴎外作の「高瀬舟」

今朝の新聞はどれも大きな見出しで「ALS患者を嘱託殺人」という記事が載っていた。全身の筋力が徐々に低下するという難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を発症した女性に頼まれ、薬物を投与してこの女性を死なせた二人の医師が逮捕された。
女性は11年にALSを発症しその後の苦しい状態を「屈辱的で惨めな毎日がずっと続く。… 安楽死させてください」と訴えていたという。

そもそも日本では「安楽死」は認められていない。しかしケースによっては、「安楽死は違法とはできない」(違法性の阻却)ケースも想定されているとのこと。これは、横浜地裁が1995年の判決で例示したのだそうだ。それは、「耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいる」「死期が迫っている」など4つの要件が提示されているのだとのことだが、今回のケースはこれには当たらないという記事だ。

私は安楽死、時には頼まれて「死なせる」という嘱託殺人については、場合によってはありではないか、という気持ちだが、この話を聞いてすぐに思い出したのは、森鴎外の短編小説の一つ「高瀬舟」だった。はるか昔、この小説を読んで「納得した」ような記憶がよみがえった。

ネットでも読みことができるから興味関心のある方は読まれたらいいと思うのだが、ちょっとの紹介を。

江戸中期(寛政のころ)、京都高瀬川で罪人を送る同心羽田庄兵衛はたまたまこの時の罪人喜助(30歳くらい)が罪所に送られるのに全く悲しげでもなくむしろ罪所(島)におくられることを喜んでいるように思える。そのわけを庄兵衛は喜助に訊く。

一緒に暮らしていた弟が病気で働けなくなった。兄に迷惑をかけて申し訳ないと思ったのか、短刀で自殺を図った。その時に帰宅した兄の喜助は「自分で死のうとしたが急所を刺すことに失敗して苦しんでいる。死なせて欲しい」と兄に頼むのだった。医者を呼ぶという兄に対して「この刺し損なった短刀を引き抜いてくれれば出血してすぐ死ねる」と息も絶え絶えに言う。
兄喜助は弟の頼みに応える形で刺されている短刀を引き抜いた。そして出血で弟は死んだ。
それが殺人ということで喜助は島流しになるのだが、同心の庄兵衛はこれは「罪」なのだろうか、と思い、上司のお奉行様に聞こうということで終わる。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「三国志演義」 4連休終わる »