映像撮影中
洞窟の入り口を撮影しながら、人が中へ入っていく。
男性の声:全部鬼のせいだ。鬼がいるからいけないんだ。(呼吸は荒い)絶対に許さない。
時々画像が乱れる。南京錠のかかった祠の前で道具を使って扉を開けると、中に祀られいる赤い布で包まれたものが見える。
男性の声:これは復讐だ。
布に手をかけようとしたとき何者かの陰が映し出され、男性の悲鳴と共に撮影は終了した。
青和大学 講義終了後(科目名は不明)
イヤホンを外す尚哉(青和大学文学部の新入生)神宮寺 勇太 の席の後ろで、男女が会話をしている。
女子学生:や、なにこれ。怖いぃ。
男子学生:やばくね、鬼だぜ、鬼。
尚哉(鬼?)、非日常な言葉に驚く。
難波(尚哉の同級生) - 須賀健太 たちに次の連休への旅行に誘われたが、用事があると断った。
スマホには母からの連休、帰ってくるよね。と通知が届いている。
以前、母との電話でお母さん、尚哉がいないと寂しくて。 と言われ、悲しい気分になったことが思い出される。
「悪いけど都合合わないから、ごめん。」と、返信するだけだ。
連休前とあって、皆はもう教室にはいない。
自分も帰ろうとしたとき、高槻から今度の連休バイトしない? という通知が入ってきた。
高槻の研究室
動画サイトに投稿された「酒井村 鬼を撮影」という、あの動画が再生されている。
動画にはテキストが追加されており、
「この動画は 洞窟で見つかった
カメラに残された映像を
編集したものである
このカメラの持ち主は
現在、消息不明 」
というテロップが表示されていた。
息をのむ尚哉に どぉっ?高槻が詰め寄る。どおっ?って。尚哉の返答に、高槻は声が歪んでいたかどうかを尋ねる。
歪んだ様子がなかったことを告げると、やっぱりこの動画は本当なんだ。すばらしい。と立ち上がった。
昨日、高槻が管理しているサイト「隣のハナシ」に投稿者不明のこの動画が送られてきて、この動画のせいで役場には問い合わせが来て困っていると、村役場の人間から相談があったそうだ。
酒井集落には、昔村を襲った鬼を退治し祀ったという伝承があるらしい。
尚哉:鬼って、角があって虎のパンツをはいているアレですか?
高槻:そう、それも鬼の一例だね。そもそも、「おに」というのは「おぬ」が転じて言われたもので、本来は見えないもの。この世ならざるものを指しているんだよ。
尚哉:見えないもの?
高槻:この動画の声が歪まないということは、世界に本当に鬼がいるのかもしれない。いゃ~心弾むね。ということで深町君、道案内よろしくねっ。
尚哉:えっ?
高槻:言っただろ、僕は極度の方向音痴で、初めて行った場所では必ずって言っていいほど迷子になる。断言してもいいよっ(キリッ)
尚哉:そんなこと断言されても。
高槻:もちろんバイト代ははずむし、きっと楽しいよ。
これ、もう行くパターンじゃん、はいはい。とばかりに、小さくうなずく尚哉だった。
オープニング
単線を列車が走るのどかな景色、境別駅に高槻と尚哉、そして生方(高槻の研究室に所属する大学院生) - 岡田結実 が降り立った。さすが田舎だけに空気がおいしい。生方が来るのなら、自分は来なくても良かったのでは?と伝えると、自分は調査担当で、道案内は大仏君の仕事よ。と生方に言われる。歩く気満々の二人の出で立ち。酒井村までは結構な距離があり、役場の人間が迎えに来てくれるというのを高槻は断ったらしい。早速見当違いの方向に歩き出す高槻を、生方の指示で尚哉が案内することに。
つり橋を一人だけ恐る恐る渡る尚哉。
尚哉:先生、そんな方向音痴ぶりで今までよく生きてこられましたね。
高槻:周りに親切な人が多かったんだよ。
生方:彰良先生は、完全記憶能力のせいで一度に入ってくる情報が多すぎるの。だから、簡素化された地図と目で見た情報が照合できないの。
高槻:一度歩いたことのある場所なら、必ず覚えているから大丈夫なんだけどね。
尚哉:それ、例えば何年か経って街の雰囲気が変わっちゃったら、どうなるんですか?
高槻:それは意外と平気。建物が建て変わったり店が変わっても、道そのものが大きく変わらない限りは、どこかで整合性がとれるから。昔の写真と現在の風景写真とかを比べても、どことなく面影が残ってたりするじゃない。そんなかんじ。
それよりも鬼のことが気になるとばかり、高槻はつり橋を走り出す。
生方は、橋を怖がる尚哉が面白くて大仏君、考えるな。感じろってことよ。 高槻の後を追い一緒に走り出した。
へっぴり腰の尚哉は、やはり恐々とあとをついていくことになるのだった。
たどり着いた集落の向こうには、富士山が見える。(ぇ、山梨?)
来てよかったでしょ?と高槻に聞かれ、えぇ、まぁ。と尚哉は同意する。
はしゃいで歩き出す三人を、竹藪の中から猟銃をさげた老人:鬼頭正嗣(酒井村鬼頭家当主) - 久保酎吉 が見ていた。
集落の入り口で、酒井村役場観光課の山村肇(酒井村役場職員) - 冨田佳輔 が、名刺を手渡して挨拶をしてきた。サイトをみた上司が高槻に相談することを提案し、申し訳なさそうに詫びる。
高槻は、そんなことはない、鬼に会えるなら地球の裏側まで飛んでいきますよ。そういいながら、道端の小屋の軒下に魔よけの豆がつるしてあることに気が付く。この村では、節分のときは豆を撒くのではなく、北東の方角に豆を吊るして魔よけをするのだそうだ。節分が二月ではないのかと思っていた尚哉に、
高槻:節分とは、季節の分かれ目。立春・立夏・立秋・立冬の前の日を指すんだ。今日は丁度その立夏にあたる。節分の行事は、立春の前日に行うのが一般的だけど、ここでは年4回全てで節分の行事を行っているんだよ。面白いですね。
山村:はい。
生方:まぁ、それだけこの村の人たちが、鬼に対して畏怖の念を持っているのかも知れません。
尚哉:なるほど。
更に別の家の前の魔よけの豆が、何者かによって食い散らされたのを見かける。この家を含めて、豆を食い散らされたのは5件。妙な足跡もあるようだ。 足跡を見た生方は、昔鬼がいたという京都の大江山の足跡に似ているという。こちらは土の上だが、京都のものは岩にがっつりと足跡がついているというのだ。
豆のことはあとで調べるので、先に動画に出てくるという洞窟を案内して欲しいと高槻は希望する。
怖がる尚哉に、ここでは子供頃よくみんなで肝試しをしたという山村。もうここには若者は少なくなってしまっている。誰もこんな山奥の辺鄙な村、住みたいと思いませんよ。 そう答える山村だった。顔をしかめる尚哉に、高槻が気づく。
そのとき、洞窟の奥から叫び声がして 難波たちが転げ出てきた。
洞窟の奥に骸骨があり、鬼・・・というところまで聞くと、高槻とそれを追って生方が洞窟の奥へ駆け出していく。
洞窟の奥、動画に映っていた祠(ほこら)が倒れており、朝方の地震のせいではないかと山村が言う。
高槻の足元には、丁度額の部分に穴があいた骸骨が転がっていた。
赤い布に包まれて、祠に安置されていたようだ。頭蓋骨を手に取る高槻。
生方:何でしょう。その穴。
山村:これきっと骨の折れた後ですよ。伝承では、鬼は一本角だったということですから。そうだ、写真。
高槻:瑠璃子君、警察に連絡してもらえる?残念だけどこれ、人の骨だよ。
警察が来て、規制線が張られる。
かなり古そうだが人の骨が出てしまっては、呼ばないわけにはいかないと、尚哉に言う生方。
第一発見者とされる難波たちは、連休にバズっているという動画を見て面白がってやってきたらしい。
山村は、そろそろ豆の被害について高槻にヒアリングをして欲しいといい、高槻がそれについて伝えようとしていると
先ほどの竹藪の中にいた老人:鬼頭が「鬼神さまに何をする」と怒鳴り込んできた。後ろには子供を抱いた鬼頭の息子の嫁:美和子 - 奥村佳恵 がついてきている。鬼神様の骨(さっきの頭蓋骨)を戻せと息巻くが、警察官は人骨かどうか鑑定してからでなければ返さないと取り合わなかった。
高槻が名刺を出して鬼頭に挨拶をし、鬼の祠の伝承について調べていることを伝えても、よそ者に話すことはないと帰っていった。
怒って去っていった鬼頭の代わりに、美和子が高槻に伝承について話すと言ってくれた。
鬼頭家にて
かやぶき屋根にカマド、立てかけてある鹿打ちの猟銃と田舎の風情の残る鬼頭家。囲炉裏の前に座り立派な作りに感心している高槻たちに、山村が鬼頭の家は昔から金貸しをしているほど裕福で、年配の村人は「人喰い」と呼ぶこともあった。今は細々と野菜を売ったり息子からの仕送りで暮らしている。去年正嗣の妻が亡くなり、足の不自由な正嗣のために子供を連れて美和子が一緒に住んでいる。息子は会社経営が忙しくて、東京から離れられないようだ。と、鬼頭家の暮らしぶりを話す。この部屋に飾られた息子を含む家族の写真をながめる高槻。子供を寝かしつけた美和子が、高槻たちに伝承の説明をしてくれた。
村に伝わる伝承について
酒井村がまだ、境村と呼ばれていた頃。額に大きな角が一本生えた鬼が村を襲い、酒とご馳走を振舞ってこの家で鬼を歓待した鬼頭家の先祖が、寝入った鬼の角を石うすで折って弱らせ、首を刎ねて鬼を殺した。鬼が生き返るのを恐れた先祖は、丁度その時大きな地震が起きてできた洞窟に祠を建てて鬼の首を祀り、自分たちは「鬼頭」と名乗って生涯鬼の首を祀ると、鬼の首に誓った。鬼神さまを祀ってからというもの、鬼頭家はやることなすことすべてがうまくいき、その財産を村人たちに貸し与えたおかげで、村人たちは豊かになった。のだそうだ。
高槻が「人喰いの家」と呼ばれたことについて尋ねると、義父は金貸しをしていた頃に返せなかった村人の恨みをかったのだろうと言っていた。と美和子が答えていた。
高槻:なるほど、人をばりばり食べていたということではないのですね、それはちょっと残念です。
そんなことを言い出して、生方たちを慌てさせるのだった。
鬼頭家の外で
来たかいがあったと喜ぶ高槻に、山村はそろそろ村人へのヒアリングをして欲しいと頼むのだが、高槻はもう調査をやめましょう。残念ながら、豆を引きちぎったのは鬼ではありません。と言い出した。
驚く山村。豆を引きちぎったのは人間だという高槻。
高槻:そもそも豆には、魔よけという意味がある。そんなものを鬼が食べるでしょうか?まぁ、地域によっては豆を食べる鬼もいるのでしょうが。
山村:だったらこの酒井にだって・・・。
高槻:山村さん。問題は豆だけじゃないんです。大事なのは柊なんです。鬼は柊だけはダメなんです。尖った葉が目を潰すから。鬼は柊を避けるんですよ。でも、あの家には柊が植えてありました。よりによって、足跡はそのすぐそばにあった。怪異を演出するにしても、もう少し鬼について勉強するべきでしたね。
山村:私だってしっかり調べて・・・。
高槻:私だって・・・。あなたはさっき、こんな村なんか誰も住みたがらないと言っていました。でもあれは嘘ですね。きっとこの村のためだったんでしょう。本当はこの村が大好きで仕方がない。この村に人を呼び寄せるために、今回この騒ぎを起こしたんじゃないですか?でも、このやり方は逆効果ですよ。うそがバレれば、それこそこの村の印象は最悪になる。
山村は、今のままだと、あと10年もすればこの村はなくなってしまう。だから、人が集まってくれればなと。そんなとき、あの動画を見て今回の騒ぎを思いついたという。動画を上げたのが山村ではないと知り、高槻は驚く。
鬼頭家の囲炉裏の前では、生方と尚哉が茶わんを片付けている。美和子が恐縮して礼を述べる。生方は生まれたばかりと綺麗な奥さんを残して、旦那さんは気が気ではなくてしょっちゅう帰ってくるのでは?と尋ねる。
美和子;いえ、仕事が忙しいとかで今年に入ってまだ一度も家に帰ってきていません。
と何故かうそをついた。
寂しくないかという生方の問いかけに、あの人は自分と子供のことを一番に考えてくれているのは分かっているから、平気だ。というのだった。ではなぜ、正臣(正嗣の息子) - 黒木俊穂 が
今年はまだ帰ってきていないとウソをついたのだろうか?尚哉は不審に思うのだった。
家の中に入ってきた高槻は、美和子に正臣の東京での連絡先を教えて欲しいと頼む。
鬼頭家の敷地を離れる高槻・尚哉・生方の三人。
高槻は、二人に山村は嘘の鬼の話を使って町おこしを考えていたことを話したらしい。
生方には、小さい頃鬼を見たことがあるらしいという正臣の様子を見に行ってくれるよう頼む。
怖がった村人には、山村から謝ると言っていたそうで、これで庭先に鬼が現れた話は終わりそうだ。
尚哉は、先ほどの美和子の様子が気になって後ろ髪をひかれている様子だ。
鬼の祠のある洞窟で
鬼頭が手を合わせてお参りをしていた。
青和大学で
難波が尚哉に駆け寄ってくる。洞窟での騒ぎを詫びてきて、いつも一人だった尚哉が楽しそうな様子だったから安心したという。屈託のない難波の声はあまり歪むことはなく、面倒ではあるものの、なんとなく気が置けなくなりそうな予感がする。
研究室で大仏柄のカップ越しに、高槻をガン見する尚哉。それに気づいた高槻は、今生方が正臣のところに行っているのでどういう報告がくるのかを楽しみにしている。授業さえなければ、自分が行きたかったとソワソワした様子だ。
そこへ 健司(警視庁捜査一課の刑事・高槻の幼なじみ) - 吉沢悠 がやってくる。洞窟で見つかった骨の鑑定結果を伝えるためだ。わざわざそんなことを伝えに来るなんて「刑事って暇なんですか?」という尚哉の問いかけに、健司はムッとする。あの骨は人骨だった。およそ200年ほど前のもので、額の穴は鈍器のようなもので殴られてできたらしい。現代の話なら殺人事件だが、江戸時代では何もできず骨も村に返すということになったそうだ。
生方からは、マサオミの会社はマサオミが不在でドアに鍵がかかっており、ビルのオーナーによると正臣の会社は破産寸前だったらしい。一か月前から消息が不明である。 という報告が高槻に伝えられる。
健司が帰ったあと、尚哉は高槻に美和子のうそについて話をした。
高槻は、記憶の中からあの村での様子を思い出している。
高槻:だとすると、正臣さんに会うにはもう一度酒井に行った方が良さそうだ。
佐々倉古書店
花江(健司の母) - 和泉ちぬ にお弁当を用意してもらい健司を運転手に、もう一度酒井村に行くらしい。
やっぱり刑事って、暇なんですか?と言い出す尚哉に、担当していた事件が検察に送致されたから、有休を消化するためだとオラつく健司。花江は、尚哉が高槻と仲良くなっていることに、健司がやきもちをやいていると思っているらしい。
健司の用意した車で酒井村に向かう。
三人は洞窟の入り口にきた。
健司は高槻に頼まれて、近所の農家でスチール製の脚立を借りており、高槻は棒で地面の軟らかさを確認している。
上から何かをみたい様子だったが、地面が軟らかくて危ないため下から脚立で確認したいことがあるらしい。
健司は上司からの電話が入りその場を離れ、高槻と尚哉の二人で洞窟に入ることにする。
やっぱりそうか上着を尚哉に渡し、高槻は下から脚立を立てかけて竪穴状態になっている洞窟の口というか縁を見ようとしている。足元が平らでない場所に脚立をたてて登ることに心配する尚哉に、健ちゃんから護身術習ってるから、体力には自信があるんだ と妙なことを言い出す。否、今護身術関係ないでしょ!と慌てる尚哉。
そのとき、猟銃の音に驚いて鳥が羽ばたいていった。
天神さまの鳥居の手前で、カラスが飛び立った時
両目が青く光り、鳥が苦手なんだと身をかがめていた高槻を尚哉は思い出して、声をかけた
先生っ
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尚哉からは見えないがあの時と同じように両目が青く光り、その後気を失ってそのまま脚立から落ちる高槻。
岩場で尚哉が高槻の身体を受け止め一緒に倒れ込む。
額にけがをして気を失った高槻、上から雫が落ちて足場の悪い洞窟を、尚哉は高槻を背負って懸命に歩く。洞窟の出口に来たところで健司が二人の様子に気づき駆け寄ってくる。
背負っていた高槻を尚哉の背中から降ろし、何があったのかを尋ねる健司。
高槻が脚立に上がって岩をよじ登ろうとしたとき、落ちてきたことを説明し、傾斜のある出口を健司が尚哉の代わりに背負って出て行こうとしたとき、尚哉は洞窟の雫で濡れた高槻のシャツから、背中に大きな2本の傷のようなものがあるのを目にしてしまった。
驚く尚哉に、無言で健司は自分の上着を高槻に被せる。
おい、よそ者が何をしている。
そこには、猟銃を下げた鬼頭がいた。
尚哉:先生が銃声に驚いて飛び立った鳥に驚いて、岩から落ちたんです。
鬼頭:うちに運べ。
気を失った高槻を、二人は鬼頭家へ連れていくのだった。
鬼頭家で
お医者様を呼ばなくても大丈夫かと心配する美和子から、薬箱とタオルを受け取って健司は奥の部屋へ入る。
囲炉裏の前で尚哉が鬼頭に詫びると、自分が銃を撃ったせいだから泊まっていっても構わないという鬼頭。
奥の部屋へ、高槻の様子を見に行く尚哉。
尚哉:こういうことって度々あるんですか、先生前にも言ってたんです。鳥が苦手だって。
それにさっきの背中の傷は一体・・・。
健司:お前、それを聞いてどうするつもりだ。
尚哉:えっ。
健司:世の中には、単なる好奇心で聞いていいことと、そうじゃないことがあることくらいわかるよな。てか、やめとけ。聞いても面白い話でもない。お前が(傷を)見たことも彰良には言うな。
尚哉:はい。
朝になり、二人はそのまま高槻の布団の脇でうとうとしていると、どうやら高槻は目が覚めていたらしい。
よく覚えてはいないけど、迷惑をかけちゃったみたいだね。そう詫びる高槻に、本当ですよ、危ないって言ったじゃないですか。というのが精いっぱいの尚哉だった。
生方から高槻のスマホにメールが届いており、内容は
正臣さん、酒井集落の鬼伝説をモチーフにしたスマホゲームを開発したみたいです。それさえ売れれば会社も持ち直すと。だからゲームの宣伝になるようにいろいろやってたみたいです。 と書かれていた。
高槻:残念だけど、そう簡単に本物の怪異とは出会えないみたいだ。
健司が起きたら、一緒に鬼退治に行くという高槻。鬼頭家の軒先では、正嗣が降る雨を見つめていた。
近寄って礼を述べる高槻。元気になったのならさっさと帰れという正嗣に、帰る前に洞窟の祠にある鬼神さまの正体についてお話したいという高槻。
鬼頭;正体も何も、鬼神様は鬼神様だ。
高槻:六部ですね、鬼神様として祀られていたのは。
六部=ウィキより引用
六部とは、六十六部の略で、六十六回写経した法華経を持って六十六箇所の霊場をめぐり、一部ずつ奉納して回る巡礼僧のこと。
尚哉;六部?
高槻:巡礼の僧侶のことだよ。六部は全国を周るため路銀を持っていた。そんな六部をもてなし隙を見て殺害し、金品を奪う。六部殺しというのは、昔話の類型のひとつなんだ。わりとあちこちの村であったと思うんです、貧しい村で。よそ者を殺して金品を奪うということ自体が。今ならすぐに警察に捕まるでしょうが、それこそ江戸時代全国を周っている旅人が一人いなくなっても誰も気づかない。ましてやそれが、盗賊やならず者なら尚更だ。集落の外からやってくるのは、村に災いをもたらすよそ者。つまり鬼、だから殺していい。鬼頭家がその財産で村を救っていたにも関わらず、人喰いだと忌み嫌われていたのは、よそ者殺しを請け負っていたからではないですか?
洞窟の入り口にあった無数の塚は、殺された人たちの供養のために建てられたものですね。
尚哉:じゃあ、あの下に人の骨がまだ・・・。
鬼頭:昔、日照りで村が困窮した頃のことだ、2百年以上前のな。今更罪を問われる者も、問う者もおりゃせん。
高槻:確かに遠い昔の話です。でも塚の中に一つだけ、真新しい建てられたばかりの塚がありました。
そのとき、健司が洞窟からあるものを持ってきた。どうやら高槻が脚立に乗って取ろうとしていたものだったらしい。
それは正臣の眼鏡だと高槻がいう。正臣の眼鏡は同じ部分が欠けているというのだ、(瞬間記憶能力を持つ)自分に限って見間違いはない。この眼鏡は、囲炉裏の部屋に飾ってある写真に写る正臣の眼鏡と同じものであると。
尚哉は写真と見比べ同じであることを確認する。
今年に入って、正臣が一度も酒井村に帰ってきていないと聞いて、記憶を巻き戻してみた。洞窟の裂け目に違和感があり、そこには眼鏡があった。これは、正臣があの裂け目から下に落ちたということですねと、正嗣に問いかけた。
どうやら、正嗣が手を合わせていたのは、正臣の塚だったらしい。
後ろで食器の割れる音がする。美和子が話をきいていたのだ。
正嗣は猟銃のある場所に飛び出していく。自ら命を絶つつもりだ。
鬼頭:あんたの言うとおりだ、正臣は死んだ。私が正臣を殺したんだ。あいつは私にこの家を捨てろと言った。あれはもうよそ者だ。だから私が正臣を殺した。殺したんだ。 その落とし前はつける。
高槻:鬼頭さん・・・。
尚哉:嘘だ。あなたは正臣さんを殺してなんかいない。あなたは死ぬ必要なんかないんだ。
一瞬の隙を見て、高槻が猟銃を取り上げようとして発砲が起きる。鬼頭は頬にかすり傷を負いながらも、なぜ死なせてくれないのかと言う。健司は高槻から素早く銃を受け取る。尚哉の言う通り、正嗣には死ぬ理由がないからだ。正臣は自分で足を滑らせて亡くなったのではないか。彼がいた洞窟の上になんの痕跡もなかった。正嗣が使っている杖の痕もない、あの場所には行っていない、だから正臣を突き落として殺すこともできないのだと。正臣は自分が開発したゲームの宣伝のために動画を撮影していたが、誤って洞窟から転落してしまった。正嗣は鬼神様を拝みに行ったところ、亡くなっている正臣をみつけた。すぐに警察に連絡することもできたが、美和子が悲しむと思い遺体を隠して生きていることを偽装した、それが美和子のためになると思ってと言う高槻。しかし、それを正嗣は否定した。自分が息子をよそ者と罵ってしまったのだ。鬼頭家はよそ者を殺す。だから私も死ぬべきなのだと。
美和子:勝手なことを言わないで、一度まさやを寝かしつけたときに誰かがお父さんを訪ねたことに気が付いてました。お父さんすぐに追い返したけど、もしかして正臣さんなんじゃないかって・・・。その後、正臣さんからの連絡がなくなり、それから義父さんの様子もおかしくなって、でも義父さんを追い詰めたのは私だったんですね。
高槻は、どんなに悲しい真実でも目を背けてはダメだ、そうしないと自分で自分を呪い続けることになると二人に告げるのだった。
佐々倉古書店
高槻と尚哉が待っていると、健司が帰ってくる。例の新しい塚から正臣の遺体は見つかったらしい。
尚哉があの動画について高槻に尋ねると、あれは正臣が自分のゲームの宣伝のために作ったフェイクであるらしいと言う。生方の追加調査によると、正臣は父親を東京に連れ出そうとしていたらしく、正嗣は鬼神様を理由にそれを拒み続けていた。先祖が罪を犯したのは2百年前、先祖が犯した過去の罪が2百年もの間鬼頭家を縛り続けていた。鬼への復讐っていうのも、案外正臣の本心だったのではないかと、高槻は言うのだった。
尚哉:だから動画にあった正臣さんの声は・・・(歪まなかったのか)
健司:声がどうかしたのか。
尚哉:いえ、なんでもないです。
健司:そうか、それにしても俺はてっきり、あの父親か嫁さんが殺したと思ってたんだが・・・。
高槻:それが判ったのも深町君のおかげだよ。二人の言葉に惑わされず、真実を掬い取ってくれたから。
健司:ふ~ん、こんな青っちょろいガキがね。
高槻:今回の深町君はかっこよかったよ、ありがと。
尚哉はまんざらでもない顔で笑った。
尚哉のアパートで
機嫌よく部屋に戻る尚哉。こんな自分でも、うまくやっていけるのではないかと。
しかし、部屋にあがったとたん頭を押さえ、ベットまでたどり着くことなく倒れてしまうのだった。
第3話終了
第3話
鬼頭正嗣(酒井村鬼頭家当主) - 久保酎吉
鬼頭美和子(正嗣の息子の妻) - 奥村佳恵
山村肇(酒井村役場職員) - 冨田佳輔