更新期間が終了する日における年齢が、70歳以上の免許保有者が免許証を更新しようとするときには、更新時講習の代わりに、免許証の有効期間前6か月以内に、高齢者講習を受けなければならない。この場合、75歳以上となる者は、認知症検査を受け、その結果の点数で、高齢者講習を受けることになる。この検査は、事前に現住所を管轄する県公安委員会からはがきで連絡が来る。認知機能検査受検通知書である。この検査を受託する地域の自動車教習所の一覧が書かれていて、直接本人が、教習所に連絡し、予約を取る。教習所が混雑している場合があるため、通知書が届いたら早急に予約を取るべきであろう。
認知機能検査は時間にして30分足らずであるが、日付、時間を書く検査、複数のイラストを記憶し、思い出して書く検査、指定された時刻の時計を描く検査である。イラストは4種16個のうち、1種16個を記憶するが、当日どの種類が提示するかは教習所によって異なっている。インターネットや問題集として提示されているのは64イラストである。回答書には、イラスト提示後すぐに思い出すのではなく、数分間のタイムラグが設けられているため、16イラストを思い出すのは容易ではない。大筋の検査は同じと思われるが、新たに各自がブックレットのような電子機器の導入が予定されていて、回答書も、電子データとなるようである。
数週間後に公安委員会から郵送される葉書には、検査の結果が明示され、点数によって、高齢者講習受講時間が異なり、点数が低い者は、場合によっては認知症と判断されると、免許の停止または取り消しとなる。主治医等の診断書によっては、認知症ではないとの判断によって、高齢者講習時間が通常2時間のところ3時間必要となる。
75歳以上で、一定の違反行為がある者においては、臨時高齢者講習として、別枠の臨時高齢者講習を受けることになる。この場合、認知機能検査の点数によっては教習料金も異なっている。無事故無違反者では最低料金でも5100円が必要である。
講習内容は、ビデオの放映、実車指導等がある。講習後には講習修了証が発出され、それを持って、最寄りの警察署で、免許更新手続きを行い。申請書に、2500円分の証紙を添付し、既定の大きさの写真とともに申請する。約1か月後に免許証が出来上がるので、直接受け取りに行くか、郵送してもらう。
認知機能検査の通知をもらってから受け取りまでにはゴールド免許所持者であっても、約3ケ月を要し、その費用たるや、最低で、1万円弱。今日のインターネットや、電子データ流通時代に、なんと非効率な手続きなのか唖然とする。それぞれの段階は、行政上必要不可欠と言われても、なぜか釈然としない。警察組織が持つ、融通性の欠如やそれこそ改善の余地が全くないのか疑問に思う3ケ月であった。
高齢者と呼ばれる年齢に近づくと自らの年齢がそのように呼ばれる範疇に入ることに驚くとともに、身体ばかりでなく、精神面においても、もう戻ることができない年齢の加算を恨むようになる。やり残した仕事は定年退職した時点で、整理がついたと思っていたので、ことさら執着はないが、これから生きる年月の目標というか、今世間で言われている終活への道標すら心もとない。
いつの時点で、認知症検査が免許更新に必須となったのかは記憶にないが、そう古いことではないであろう。最近、新聞紙上をにぎわす高年齢者が引き起こす交通事故の原因の多くは、認知症によるものと言われている。アクセルとブレーキを踏み間違えることによる運転操作ミスは、人身事故を引き起こし、関係者を奈落の底に突き落とす。病気と判断され、危険運転の事故は、従来言われてきた水泳や自転車運転などの身体が覚える技能の限界が見えてきたようでもある。技術上の危険運転防止には、人工知能を使った自動運転や、自動ブレーキシステムなどの他、タイムレコード等による体調管理、視野を広げるセンサー類等幅広い改善や工夫が行われている。しかし、どれだけ技術が向上しても、人間が運転するということ自体は、変えようがない。
昔、よく話題になったケアレスミスなどの累積が、危険予知活動として、多くの職場で取り入れられた。300:30:1と言われ、重大事故の発生に至る前には30の中程度の予兆があり、その前には、300件の小規模なケアレスミス、別の表現では、ヒヤリ、ハッした経験があるというものである。これらの予兆を見逃すことなく、原因を入念に調査するとともに、原因を明らかにして、改善に努め、事故の発生を未然に防ぐことが求められる。
そこで、認知症検査は、記憶力の低下を未然に発見し、症状に応じた対策が始動しているといえるが、明らかに気づくことは、運転免許を返納する者を増やす方向性が強調され始めている。つまり、健常者に於いても、運転する機会をできるだけ減少させ、運転が生活上他の代替え手段がある場合には他の公共交通手段や、タクシー等を利用することも選択肢として考慮する必要があろう。このベクトルは現状の痛ましい交通事故を鑑みれば、当然の選択といえる。しかし、便利さに慣れた運転者が、そう簡単に代替え手段に切り替えられるかという悩ましい問題もあり、十分に解決できていない段階では、行政も含め、何らかの手段も必要と思われる(例えば、病院の外来には、病院自体が送迎を行う等、市町村では、通学、買い物や銀行へ行く機会に定期的にマイクロバスを提供する等)。また、運転者においても、自分が認知症であるとの認識は、受け入れられない問題もあり、強制的な免許更新時の認知症検査は有用であろう。