この投稿文章は筆者がかつて経験した教材作成業務の一端をご紹介するもので、現在では組織の名称、根拠となる法、教材作成方法等についても変更や改定されていることをお断りしたい。職業訓練をご理解していただくために当時書いた文章(1979年4月技能と技術誌)を、あまり手を加えずに掲載します。
1 はじめに
いつの時代にも、後継者の育成は、文教政策・労働政策等の政策として、ある時は華やかに、ある時は地道に、我が国の社会の近代化に適応する人材の育成として行われてきた。
明治以来現在に至るまでに、多くの先人が経験し、体得した困難な内外の条件は、現在も形が変わっても本質は殆ど変わっていない。職業訓練は技術・技能・知識の教育訓練であり、一生涯に及ぶ社会生活の羅針盤とも言うべき位置づけであるといえる。これらについて後継者にどのようにして伝授し、後継者自身の物にするか、そして育んでいくか、このテーマは永遠のテーマであり、関係者ばかりでなく、誰しも無感心でいるわけにはいかない。
職業訓練が教育の営みを持つ以上、過去の遺産を継承し、それを礎として創造性を附与させることであるから、継承させる内容が的確に伝わり、理解させなければならない。このために教科書・教材は一定の教育目的を達成するために、また学習に適するように編成されている。しかし、作成側と使用側では、教科書・教材の目的・使用方法等に意思疎通を欠く面がある。
そこで今回、専修訓練課程左官科の教科者作成を担当してみて、少しでもギャップを埋めることができればと考え、執筆した次第である。本文では、まず教材使用側のニーズと作成する側の対応が、現在の職業訓練の場で果たして満足できる物であり、役割として完成しているかどうかを問題の糸口としてとらえ、現在の訓練体系の中で、使用されている教材の在り方と作成側の意図を明確に示したいと思う。(次回へ続きます)