2021年 睦月
都の北側からいつも乗らない系統のバスに乗ったら、どこで降りたものかわからなくなり、
こっちだと思う方向に曲がったら反対方向だったらしく、
そうと知らぬまましばらく歩いていると、遠くに城が見えてきた。
二条城だな。その手前の公園で一休み。
ずいぶん広い公園だ。こんな街中にこの広さはすごい。
向こうの方ではサッカーなどをしている。
よく見ると公園の半分に曲がりくねった小川が流れている。
自販機とベンチがあったので、よしここで生ハムのサンドイッチを食べよう。
早速 Ziplock のタッパーを出してきて食べる。
隣のベンチには、10代らしき若者が一人で座って考え込んでいる。
食後に散策していたら小さい社があった。
公園の外ではタクシーがいっぱい休んでいて、その近くの看板に
「鵺の池」と書いてある。もしかしてここは!
源のなんたら言う平安時代の四天王に数えられたもののふが、
妖怪が内裏に出て天皇を不眠にさせたからって、矢で撃ち落として切った刀を洗ったという、
あれか。
へーさすが京都。そんなの今でもあるんだ。ホントなんだ。
しばし感激してたたずみ、落ち着いて水源をたどってみる。
この川が池なのか?見たところ川しかないが。
ふう~んと思いながらたどっていくと、苔むして摩耗した古い石組みがあって、
そこから水が流れ出してきている。
(きの)「これ・・・もしかして井戸?」もうちょっとしたホラーだ。
のぞき込んでもいいのかな。それとものぞき込まない方がいいかな。
鵺の池のほとりで浮かれたランチを食べてしまった。この広い整備された近代的な公園がねえ??
一瞬、もしかして湧いている水は、小川を作り出すためのデモンストレーション用の噴水ではないのかと疑ったが、
しかし、じりじり近づいて行って覗いて見ると
水が湧き上がってくる泡というか、水面が盛り上がってくる場所が中心だったり、
端の方だったり、そうかと思うとふいに途絶えたりして一定ではない。
すごく天然水っぽい。
第一、こんな不気味な噴水があるだろうか。
地下水なのか、鵺の池というのは。
ここから湧き出した水が広範囲に溜まっていたのか。う~ん。
この水はきれいなのだろうか。
飲んでみたいとは思わないが、透明な器に入れて横からじっくり電気に当てて見てみたい。
さっき飲んだ炭酸のペットボトルは遥か遠くのフタつきゴミ箱に入れてしまった。
今さら戻ってガサガサあさる気にもなれない。
そうだ。サンドイッチを入れていた Ziplock の容器がやたらに大きいから、あれに入れよう。
一応トイレの洗面所に洗いに行くと、さっきのベンチの悩める若者はもういなかった。
懊悩からは解放されたのか。
戻ってきて、一旦よく考えてみる。
こんなとこの水を持ち帰る人っているだろうか?
京都は東山のあたりなど、綺麗な水を汲んで帰ってお茶を点てたりするらしいが、
鵺の水では人に勧めにくい。
じゃあ花瓶にでも入れるかと言うと、わざわざ汲みに来てまで花にやりたいだろうか。
水道水の可能性も捨てきれていないので、「あの人公園の水持ち帰ってはるで~」
などとみやびな口調で笑われてしまったりしたらどうしよう。
しばらく迷って、側にあった巨大なすべり台で滑ってみる。
この石造りのすべり台はとてもなめらかで、脇に小さい子用のコースも備わっていて、
設計者の優しさを感じる。
後ろ側にはまっている岩も丸くて、有難い仏像の螺髪のような美しいフォルムをしている。
家の近くの公園の滑り台は、ガサツで岩も尖って大根おろし器みたいだ。
設計する人によって違うのか。
すべり台に満足して戻ってくると、向こう側で遊んでいた親子がすべり台に興味を持ったらしく、
やってきて滑り始めたが、子供が階段を上がりに周って来るたびに、
見られているような気がして躊躇する。
が、あまり長い時間、真剣な表情で井戸を眺めたりしていても良くないので、
その女の子がシャーっと滑って向こう側に消えた瞬間、
ジャボッとすくってサッと蓋をして何食わぬ顔で立ち去る。
そういえば、図書館に行こうと思っていたんだった。
迷った挙句に公園を発見して一生懸命水汲みをしてしまったが、
大きい図書館に行ってみたいと思っていたんだった。
たぶん二条城が向こうに見えたのなら下に来過ぎた。
もっと地図上で左上を目指さなくては。
気を取り直して歩き出す。
ライヤー旅行社(娘)からの情報によるとパン屋の近くにあるらしいが、そこら中にパン屋がある。
大きな通りに出たら、渡った先の方にあった。
さっきバスを降りて自然に左に行ってしまったが、右に曲がれば良かっただけだった。
図書館には、小さめの博物館が併設されていた。
見せてくれる題材は、昔、京都の御所がもうちょっと左の方にあった時の巨大ジオラマとか、
どこかの寺の今はない8角形の塔や平安時代の食べ物など、面白い展示がいっぱいだった。
見ていると、ボランティアらしいお婆さんが寄ってきて、
次のイベントは節分だから吉田神社に行けとか説明してくれる。
8角形の塔は、今の東寺よりも高い中華風の綺麗な建物だったようだが、
度重なる落雷で焼失したらしい。そりゃそうだろうと思う。
何もない所にあれだけ出てたら、雷も好んで落ちようってもんだ。
避雷針もないし。あったとしても塔の上から燃えたら消せない。
今はどうだろう。東寺は。しかし、東寺より高い建物があるから大丈夫なのか。
もしかして、そのために京都タワーは建てられたのかな。
千本通り(朱雀大路)の上の方に内裏があって、そのまま更に真っすぐ行くと船岡山で、
真下に下がると羅生門で、かなり向こうの城南宮に着くということがわかった。
貴族の屋敷は上から見て大きさがわかるくらい広かったんだな。
(きの)「このそれぞれの庭に書いてある∞や◎や、~こんなマークは何でしょうか」
(婆)「池です」なるほど。
鴨川から水を引いていたらしい。その鴨川は今よりも浅く、蛇行した幾筋もの川がよりあわさったものだった。
しかも橋は無しで、みんな飛び石で渡っていたというから意外だ。
今も飛び石がたまにあるが、その名残か。
中央図書館は確かに規模は大きいみたいだ。
本は多いし殺菌する機械などもあり、複数階の建物まるまる1個が全部図書館だった。
喫茶室もあって普通の食べ物を出していた。
せっかくだから平安時代のご飯食べさしてくれればいいのにさ。
あの、どうやって食べるのか知らない、てんこ盛りのお米とか。
干したアワビとか。変な腐った牛乳の蘇?だっけ。デザートはあれを一口。
その後、図書館を出て朱雀大路を歩き続け、ブランデーチョコの製菓材料を探しながら
商店街の店で大きなカブ(聖護院?)の煮物を買った。
京都の伝統野菜はどうしてこうも大きいのかな。
賀茂茄子も。有名な堀川ゴボウなんてブッシュ・ド・ノエルみたいだ。
てっきり京子町風などと言って、小さいほど良しとされる気がするが。
途中のスーパーでタコスのようなものを買い、挙句の果ては船岡山に登っていく。
頂上で暮れていく夕陽を眺めながら食べた惣菜の美味しかったこと。
家に帰ったら、もう真っ暗だった。
帰って袋から(きの)「これがぬえの水(ずるり)。」
取り出すと(娘)「!!!」
なぜかタッパーが白濁している。どうしたのだろう。
発酵?汚濁?石灰質?太古の呪いなど様々な可能性が瞬時に頭をかすめたが、よく考えたら生ハムサンドの脂分が洗っても落ちてなくて、水を入れて長時間振り回して歩いたので撹拌されて油の分子が細かくなったのだろうというまともな結論に達する。
もしも有害だったら困るが、せっかくだからエビ水槽にはスプーン1杯ほどあげた。