きの書評

備忘録~いつか読んだ本(読書メーターに書ききれなかったもの)~

横暴旅行社 北へ II

2021-12-27 01:14:13 | 旅行

  さぁて、最初は樹木の観察ツアーだ。これに間に合うように朝早く出てきたんだ。むふふ。入り口で聞いたら(係)「奥の方です」 行ってみたら午後の部の案内しかない。市の職員みたいな作業着がいたので聞いたら(職員)「あの、あっちに見える端の方のドームの向こう側」

 

 敷地の反対側に走って行ってうろうろしていると(スタッフ)「アイヌの踊りを見てみませんか?」 (きの)「植物を見に来たんです」 (スタッフ)「このツアーが始まるまで時間がある。まだ間に合うから見てって!」 (きの)「えぇ?」 (スタッフ)「おーい。最終尾でーす」 奥の(スタッフB)「最終了解―!」 待って、まだ見るとは。(スタッフC)「ウェーイ」 真っ暗な舞台そでに引き込まれて手近なイスに座るとすぐに幻想的なステージが始まる。

 

 先住民族の文化や価値観には興味があるし、ここまでやって来ておいて言うのも何だが、小さいころからあの紺の模様が怖くてたまらない。どうしてか知らないが心がザワザワする。木彫りの民芸品やみっちりしたトーテムポールもダメだ。昔は都内の繁華街に北海道を模した居酒屋があったと思うが、その薄暗い山小屋のような内装が怖かったのかもしれない。それが急に前列の席で目の前いっぱいに出てきて踊るので、荒療治なのか、そのうち見慣れてきて多少大丈夫になってきた。

 

 見た目は、ネイティブ・アメリカンは胴体が分厚くて、見たらすぐわかるのに対して、現代のアイヌの人たちはそんなに彫りが深いわけでもない。多少ふくよかな女の人達がいるくらいで、そこらへんを歩いている人と変わらない。みんな大柄だなぁという印象も受けない。若い(女性)「私は食べることが大好きで、私のアイヌ名は『ホルモンを食べる女』という意味です」 どういった命名法だ?

 

 歌は、う~ん。なんというか、もっとネイティブ・アメリカンの酋長はウェ、ウェ言っていたような気がするな。似てないのかな。Łやフランス語のRのような特徴的な発音があるわけでもないような。(歌)「♪それから、それから・・・はいては、履いては、掃いては・・・ほろわー、フォロワー」 Follower? う~ん。今のところ何とも言えない。

 

 終わって急いで飛び出すと、植物案内の看板の前に蛍光ジャンパーを来た職員が立っていた。素早く合流。他に人影はない。(きの)「あの、案内がうまくいっていないと思いますよ。向こうに行ったらあっちに行けと言われたり」 (係)「改善します」 そんな状態ではもう来ないと判断したのか貸し切りの状態でスタート。

 

 案内役は、アイヌ名で小さいから「PON」さんだそうだ。悪口にはならないのだろうかと思ったが、ネイティブ文化圏にも「気にならなくなるまで私たちも愛情を込めてそう呼ぼう」という考え方があるから、一概には何とも言えないのかもね。(PON)「今からクイズを出しますからアイヌ語で答えて下さい」 急に難題を課してくる。

 

 最初は柳のクイズなどをしていたが、貸し切りをいいことに聞きたかったことを聞く。(きの)「20歳の時におばあちゃんに買って帰ったオンコとエンジュという木で作った茶筒が割れた。やはり本州の気候と合わなかったのだろうか。あれは一体どんな木だったのか。」 その木が生えてる場所まで連れて行ってくれることになった。(きの)「ほう、これがエンジュ。固そうですね。マメ科ですか」 (PON)「良くわかりましたね。ハハ」 うざい奴が来たと思っているだろう。

 

 そして最終的にオンコは(きの)「あ!これ知ってる。Juniper とか Yew ってやつでしょう」 アメリカのアパートの玄関横に生えていた針葉樹だ。手すりを作るとかで切られてしまったが、この赤い実覚えているぞ。そして(きの)「これ毒では?しかもまわりの実の方は食べれて中の種は毒っていう」 (PON)「そうです。腫瘍の薬を作ります」 話が合うじゃないか。しかし、そんな情報どこで知ったのだろう。いつ何で知ったのか忘れてしまった。日本名はイチイの木らしいが、オンコがこんな身近な植物だったとは。

 

 湖から流れ出す小川を覗くと小魚が。おぉこんなとこにも。先を争うようにしなやかな動きで水の中を泳いでいる。ウグイかな。ヤマベ(オイカワ)かな。大変満足して早めの昼食に向かい、混み合う前に店に入る。昼食はオハウ定食と決めてある。他の店のジビエは苦手。

 

 アメリカで、知り合いがハンティングで仕留めてきたという Deer のシチューを食べたことがある。煮込むとほろほろ崩れていく感じが牛肉に似ているが、食べている最中にアナウンスがあるのはその後の食欲に影響するので、早めにお知らせ願いたい。ここはやはりオハウ(鮭の鍋)だろう。というかもうこれしか食べれる自信がない。ただの鮭のポトフだろうし。

 

 中3~高1の頃、鮭に凝っていた。他にも中国、サボテン、ロウソク(家の中で火を焚く)など、当時興味のあることはたくさんあったが、食べ物ではサーモンと牛肉とオレンジジュースという輸入の代表格のようなものが好きだった。特に銀鮭はお茶漬けにするといちいち天を仰いで海の恵みに感謝するほど。鮭が登って来れないと聞いて本気でダムを憎んでいた。

 

 それを知ってか知らずか、父が会社の北海道旅行で荒巻鮭をまるごと1匹買ってきた。さっそく自分が包丁を持ち出し、お茶漬けに丁度いいように一切れずつ切り分けようと申し出た。ところが鮭の予想外の大きさに苦戦し脂がまいて思うように包丁が動かなくなり、調理場はもはや事件現場のようになって気分を害した母はどこかに立ち去った。

 

 そうしてできた固まりを一切れずつ大事に冷凍室に送りこみ、時間をかけて休日の朝などにじっくりと味わってみたが、そんなに天にも昇るような気持にはならなかった。なんか生臭い気がする。スーパーで売ってる銀鮭のサラッとした感じがあまりなく、なんというか・・・こう、保存食だからかもしれないが土の中から出てきたミイラのようなホコリ臭さがあった。オハウ定食を食べていて、ふとその時のことを思い出した。鮭は好きだが荒巻は好きではないと確信した。

 

 付け合わせのかぼちゃのサラダ?のようなものはおいしかった。スープの味付けも塩のみだし、野菜なんてほとんど皮もむいてないワイルドさだが、気にしない。しかし、箸休めの小魚! ねぇこれさっき泳いでなかった!? うそぉぉぉなんかすごいショック。高校生の時、飯能の名栗川で釣ってきた川魚を玄関に置いた120cmの水槽で飼っていたので、お友達を食べるようでものすごく抵抗がある。しかも3匹が大きさ不ぞろいでそこがまたいかにも近所で獲ってきたっぽい。

 

 あまり食べれない食べれないと騒いでも良くないし、残すのもますます良くないので、なるべく見ないようにしてそっと口に入れ、噛まないようにしてハスカップソーダで飲み下す。これはオイカワを食べた人ではなく、オイカワを飲んだ人だ。川に入れば間違って小魚が口に入ってしまうこともあったかもしれない。歯でガウガウ齧らなければ、あまり自らの意思で食べようとした風にはならないんじゃないか。数秒間の内に詭弁を用いて自らを納得させ、素早く完食して立ち去る。もうオハウの味なんて忘れた。

 

 次はコタン(村)の見学だ。4棟並んだ藁葺きの屋根に近づいて熱心に造りを見る。真ん中に長方形の囲炉裏があって、実際に火が燃えている側で民族衣装の男性が何かを小刀で削っている。奥の方の東側に祭壇と神聖な窓というのがあって、神様が来るから人間どもは気軽に外から覗かないようにという注意書きがあった。なるほど神道とは逆だが決まった方角があるのか。行こうとしてやめた慰霊施設も地図上ではあの窓の先だったな。

 

 床は板張りで、しかも住宅街のフローリングのよう。入り口に下駄箱があって集会場?その床がじんわり暖かいが、まさかこれ床暖房!?京町屋の一棟貸しや、合掌造りで知られる白川郷も床暖房になっていると聞いた。本物の伝統的家屋では冬場は居られないのはわかるが、ここにも観光地プロデュース的な合理性が押し寄せていようとは。

 

 祭壇がじっくり見たい。どうもあれは五月人形などに付いてくる足のある容れ物(櫃というのか)に似ている。意匠も全体に派手で、平安時代に日本にあったものをハワイとかの陽気な人々が再現したらこうなる、という感じがした。囲炉裏のおじさんに聞いてみた。(きの)「これらは写してもいいものか。だってこれ祭壇なのでしょう?」(民)「さぁ別にそれほどでも。ただ大事なもんとか置いてるだけだから」 だからそれを祭壇と言うんだろう。2枚ほど撮影。

 その内観光客が入ってきて、奥に吊るしてあった鮭の皮のクツについてからかうようなことを言い合って笑っていたが、その男性は黙って手を動かしていた。

 

 民族博物館の予約が迫っている。午後1時からの列に並び、中へ。服や食器、木を削いで作った祭礼の器具が並んでいる。ふぅん、神道の「幣」に似ているな。けど、本州のこれに似ているという評価は別に嬉しくないのかもしれない。資料映像のビデオを見ていると途中から車いすの婆様が押してもらいながらやってきて(婆)「このピンクのうちの爺さん」 えぇ!?関係者?中に三ツ星マークが描かれた服を着てる人がいる。あの老舗のお菓子屋さんも だった。

 

(婆)「これが最後のイオマンテ(クマ送り)。この時さすがに泣いたわー」 すごい証言だ。見てると村人が滑稽な動きでオモチャのような矢をやわやわと当てている。あれにはフグなどのしびれる毒が塗ってあるのだろうだから、本人(?)もわからないうちに気が遠くなっていっただけだろうと思う。うっかり子熊が獲れてしまった時の苦肉の策だから、怖がらせないように陽気な感じにしているのかもしれない。それほど闘牛的な感じではなかった。

 

 今回のこの新しい博物館を建てる時には、なんとアイヌ式の地鎮祭をやったそうだ。映像を見ると雪の中で藍染の木綿のような着物一枚で手足が出て寒そうなのだが。どうも南洋の島々の感じがする。さっきも植物案内で、PONさんがこれで服を作りますと言うから(きの)「防寒はどうなのでしょうか」と聞いたら、(PON)「これは暖かくはない。でも毛皮がありますから」とのことだった。

 

 女性が集まってワァワァ言いながら太鼓を叩いている歌は、非常にアメリカ先住民と似ていると思った。北米の居留地で行われるPowWowという、地元の大きな盆踊り大会のような祭りでは、伴奏は男性ボーカルで終始その高音は疲れるだろうと思っていたが、女性がやるのなら無理がない。

 

 博物館の後はコタンで講習だ。分刻みのスケジュール。途中ですれちがった係員に(きの)「この部屋はどこですか!」 (係)「あの建物です」 (きの)「ひぇぇ」 ブーツをつっかけたまま走る。何をそんなに真剣になっているんだろうという解せない表情で教えてくれたが、こっちは1日しかないんだ!

 

 博物館で土産を買いトイレに入ろうとしたらコートにカメムシが!そのまま出て入口へ向かう。(警備)「どうしましたか」 (きの)「カメムシが」 ドアの外の木に止まらせ戻ってくると(警備)「ありがとうございます」 自然界の代表かな。そういえば、さっき土産物店の人もファイルですき間に入った個体と戦っていた。

 

 伝統芸能とトークは、今日は天気がいいから屋外ステージでやるらしい。芝生に置いてあるパイプ椅子に座って待っていたら、武将の陣中羽織のような衣装の男性が現れて地名の紹介などをしていく。たまに前列の小学生にクイズを出したりしてデパート屋上のイベント感が増してくる。女性たちの踊りはさっきドームで見たので見慣れている。

 

 写真は写さないでおいた。ネイティブ・アメリカンの、特に年配者は写真を撮られるのを非常に嫌がる。魂が抜けるとは思っていないだろうが、興味本位の視線に晒されるのが嫌だということなのだろう。アイヌの人たちはどうか知らないが、もし嫌だったら困るので記憶に留めるだけにした。

 

 そのうちゆりかごを出してきて、ただものではないオーラの婆様が登場。抱えてきた小さい人形をゆりかごに寝かせ、そばに裸足でペタッと座って♪ホロロロロロという、どういう発声法かわからないがフクロウのような子守唄を聞かせてくれた。最後に(オジ)「この赤ちゃん人形は前の博物館の時から使ってる。彼は32歳。」よけいなこと言わんでよろしい。

 

 続いて、弓矢の実演。朝のカヌー実演も見たかったが時間が合わなかった。残念至極。民族っぽい輪っかのピアスをしたアイヌの若者が出てきて弓矢の説明をしてくれた。客の方に矢が向かないように配慮しながら実際にクマの絵を描いた板の狙った部分を撃って見せてくれる。

 

 それにしても、ずいぶん作りがしっかりしていないような。あんな小さなものでクマを倒せるのか?ふぐとかトリカブトの毒を塗るから威力は関係ないのか。今は勝手に弓矢を作るのは違法だそうだ。(若)「その代わり警察に届け出るんです。こういうの作ったら見せて、俺がやった!と」 堂々としている。毒を塗る猟も禁止されてしまったそうだ。

 

 コタンで口伝の語り。こちらも若者。親を亡くした兄弟が山奥に逃げて暮らす物語。なんとこの若者はテープに残っていた音声から学んだとか。そのテープに吹き込んだ声の主のお婆さんとは会ったこともない!しかもテープはこの話の途中までしかなく、兄弟がその後どうなったのか誰にもわからないらしい。そんな。太宰の絶筆を読んだ時ぐらいビックリした。

 

 そこへ(係)「あの、貴重品の入った荷物を全部下駄箱に置かれても私たちでは管理できませんので」 (きの)「えへへ」 なんかなじみの集会場的な感じがして、どうも。

 

 しばしベンチで休憩の後、意気揚々と上着を羽織って次の講習に向かおうとしたら(背中)「ビリィッッ」 (きの)「!!」 どうしたことかお気に入りのコートの裏地がビリビリに裂けてどうしようもない。なぜこんなことに。耐用年数が過ぎていたのか。15年ほどしか着てないのに。あれ?普通そんなに着ないのか。しかしね、寒冷地仕様なんだよ。L.L.Beanがメイン州とかのマイナス20℃の中でも快適に過ごせるって言うから買ったのに。やはり洗濯機で洗ったのが良くなかったのか。普通のコートが猫の耳の厚さなら、このコートは柴犬の耳なんだ!ああああもぅ。くそう。そぉっと腕を通してギクシャク歩きながら夕暮れのコタンに向かう。

 

 またしても子守唄。さっきの興行主のようなオジさんが(羽織)「あれ??さっきも・・・」という顔をしていた。いいじゃないか。何回聞いたって。夕日がまぶしくないように左側の太陽を背にした席に腰かけ、またホロロロロを聞く。終わって(羽織)「撮影もいいですよ」 観客と記念撮影している。アトラクションとかテーマパークという言葉が、ふと浮かぶ。

 

 婆様が近づいてきた幼児に(婆)「もっとこっちいらっしゃい」と言って呼び寄せていた。子供が好きなのか。その割にステージに上がろうとしたら(婆)「神聖な所だからだ~め」とやんわり断っていた。みんなで歌うわけにはいかないのか?

 

 さっきから辺りにコリアンダーの匂いがする。湖を渡る芳しい風だと思っていたが、よく考えたらさっきのカメムシだな。コリアンダーはメキシコ料理のサルサにも入っていて、自分は嫌いではないというかむしろ好きな方なので気にならないが、もしかしたらすれ違う人にカメムシ野郎呼ばわりされているかもしれない。カメムシ臭は遺伝で好き嫌いがすぐに決まってしまうらしいから、嫌いな人にとっては嫌なんだろうな。

 

 晩飯は白老牛。頼んでおいてフードコートのテラス席に出て荷物とリモコンのような機械を置いたまま奥の湖畔寄りの場所でオシャレなハーバー風の景色を盛んに写真に撮っていたら(アルバイト)「あの、これ・・・」 持ってきてくれた上に申し訳なさそうな顔で所在なげに立ち尽くしていた。礼を言ってトレーを受け取り、(きの)「外で食べてもいいの?」 (バイト)「・・・どうぞ?」 この寒いのに物好きなと言わんばかりにそそくさと中に入っていった。こっちは歩き回って暑いんじゃー。

 

 暮れていく夕陽を眺めながら食べる。さっきから遠くに見えてるあの原発みたいな台形のもの何でしょうか。しかもたまに湯気出てない!? 人工物なのか変な形をした山なのかわからない。最後の最後にシアターで「近代のアイヌ」という現代アートの映像を見る予定で、意気揚々と一番前の席に座り、途中からどうにも起きていられなくなり寝てしまった。何のためにスケジュールを組み時間まで調べて入って行ったのかわからない。

 

 その後も窓辺に火が灯るコタンに行ったり、しばらくベンチで夜景を眺めていたら日が完全に沈んだあたりから蚊が出てきた。こんなに寒いのに蚊?刺されることはないが、あきらかに飛び方がふらふらして蚊だ。北海道にはゴ〇ブリがいないと聞くが、これも蝦夷蚊などという本州とは違う種類なのだろうか。まだ閉館時間まで多少あったが、全ての物を見たので名残惜しいが早々にお暇することとしよう。

 

本当はもう影だけになった1本立ちの針葉樹をいつまでも見ていたいが。

 新しくできたチロル風の駅に戻り、切符を買う。ベンチに座って伝統模様の自販機などを見ていると、後ろで1人でゲームをやって奇声を発している人物がいる。駅員は、と見ると奥の方にいて気づいてない。非常に怪しいのでこの場を離れたい。しかし、改札は閉まっている。駅員に(きの)「ホームに出たい」 (駅)「ダメ。貨物列車も来るし。危ない」 山陽本線なんか毎分毎秒走りまくっているぞ。(駅)「頼むからここに居てください」 こんな危ないとこ居れるか!駅舎を飛び出し外へ。

 

 何だか知らんが規定通りにあの怪しいやつでも守っていやがれってんだ。出たはいいが、真っ暗で何もないしタクシーもいない。なぜか他に居たもう1人の会社員までついてきた。やはり気になるか。そのまま会社員は迷った挙句セブンイレブンの方角に消えた。ベンチで待つこと20分。改札が始まったという放送が流れてきたので構内に入って行って(きの)「今なら入っていいんですか!」 (駅)「向かいのホームです」 イライラ。なんなんだよ、もう。疲れているのかもしれない。

 

 ホテルに帰ってまた夜景を楽しむ。スマホで撮影しようとするが、 夜景はうまく写らない。早く寝たら早く起きたので早朝の街を撮影。今度はうまくいった。ヒマなので宿泊アンケートに記入する。(きの)「スモークサーモンなどの洋食を作る技術があるなら北寄貝でクラムチャウダー作ってよ!」 それなら食べれるかもしれない。

 

 アンケートに、さすが暖房はセントラルヒーティングと書こうとして確かめるために手をかざしたら、全く点いてないことが判明した。壁にあるリモコンの「運転」と書いてあるボタンを押したら、天井近くの通気口からブォ~ンと動き出した音がして風が送られてきた。旧式のリモコン画面に何か文字が表示されていたから、動いているのだとばかり思っていたが、オンにするにはここを押せということだったらしい。おとといから部屋に居て寒いと思ったこともなかったが、どうやって暮らしていたのだろう??これが噂に聞く2重窓の効果か。そもそも2重だろうか。コンコンやってみたがわからなかった。

 

 高校の友人は拝島近くの高層マンションに住んでいた。ひっきりなしに西武線が行き交う線路の真上で、何も騒音が聞こえてこないばかりか、12月に暖房もなしにソファーでうたたねしたと聞いて、自分は集合住宅では暮らしたことがなかったから、にわかに信じがたいなと思っていたが、高層ビルというものは気温が安定しているのかもしれない。

 

 

 朝食を終え、そういえば実家の電気料金の支払票に珍しい北海道のスタンプ押してほしい、というか期限が今日までなのを出かける前に発見し焦って持って来たのがあるので、コンビニを探して朝からうろつく。ホテルの横を歩いていたらさっそく見つけたぞ Yew! 発音は「い~ぅ」みたいな「いぇう」。辞書的なものにはユーと書いてあるが違う。Yen(円)を、「えん」じゃなくて「(いぇ)ん」みたいに読むあれだ。

 

(きの)「綺麗だなぁ」 下からジーっと見上げる。赤い実が鈍く透き通ってすりガラスみたいだ。あまりむしってもよくないから、大事に3個だけしかも下に落ちているのをもらってきた。どうやらあのウルシ似の街路樹はナナカマドという木らしい。ナナカマドという名前の店をよく見かけるが、何か重要な木なのだろうか。

 

 ホテルに戻ってチェックアウトし、売店が開いたので王子スモークサーモンとハスカップのジャムを買う。手術をしたばかりだというイトコにアイヌの不老長寿の妙薬を買って帰ってやろうではないか。そういうあやしい理由からではなく、ビタミンがブルーベリーの3~10倍らしいから実際に体にはいいだろう。ここのは併設レストラン御謹製で高品質らしい。

 

 普通のもあったから(きの)「どうちがうのですか」 (店)「原材料が3つだけ。果実とレモンと砂糖。普通はゲル化剤とか入れてジャムっぽくする」 皮が薄いからペクチンがないのかな。(きの)「朝食に出てた果実ソースは赤くてサラサラしていた。すると高品質の方だったのか。」 (店)「さぁ・・・私よく知らないので。すみません」 正直でよろしい。特製を2つと自分用には普通のを買ってみた。

 

 次は老舗の菓子屋「三つ星」だ。ホテルを出て製紙工場のエビのような煙突を見ながら駅に向かう。この辺にあるはず。あったあった。見えてきたが開店前なのでそこらをぶらつく。店の外の花壇にハスカップの苗木のようなものが植わっていた。(きの)「・・・地味」 思ったより地味。妙薬こんな地味??今は実も生ってないしネームタグがなければ雑草かと思う。何の特徴もない。枝はブルーベリーに似ているがこれが平原に生えてて見分けがつくのだろうか。もっと特別なベリーには特別な葉っぱがついてると思ってた。大ビンを買ってそそくさとバッグにしまいこむ。荷物はガラス製品でいっぱいだ。 北国の遅い朝日を背に駅へ。

 

 どうも荷物がガチャガチャして重いので駅の3階分の大階段を登る気になれずエレベーターに乗ってみた。降りたホールにホームレスが寝ていた。珍しく若者だ。ipodのようなもので音楽を聴いている。 駅の通路の壁のあちこちに描いてある苫小牧のマークは(きの)「なんだこれ?」 黒ずんだ二枚貝が舌を出しながら船のオールのようなものを持っている。メロン熊よりは怖くないが可愛くない。

 

まさか(きの)「ほっきー!?」 急に合点がいった。

 

 ここの名産はずっとキタヨリ貝と読むのだと思っていたが、ホッキ貝?だったら聞いたことがある。なるほど、アイスホッケーのHockey(ホッキー)と北寄をかけたのか。そういえば屋内スケート場もあった。

 

 札幌に向かうのでSuicaも使えるだろうと思い、券売機で特急券だけ買った。しかし、考えてみるとこの2つでどうやって自動改札機を通るのだろう。Suicaをピッとやって直後に続けざまに切符を入れる?機械は同一人物だと認識してくれるのか?それともただSuicaを当てた人と次の特急券だけを入れた別の人??駅員に聞いたら特急券にスタンプ押してくれた。乗って車掌が来たらカードと切符の両方を見せるようにと。

 

 改札の案内に沿ってホームに降りると、駅の雪かきアルバイト募集のチラシが。夜の11時~朝まで!?そうか、雪かきしていないと積もってしまうんだ。そして凍ったところに車輪のついたスーツケースごろごろの浮かれた観光客がやってきては次々と滑り、そこに貨物列車がゴオォーッ。確かに危ないな。暖地は草刈りしないと埋もれていってアンコールワットのようになってしまうが、北国も大変なんだな。

 

 特急すずらんの札幌行き1号車の1番前の席に座り、壁から出ていたミニテーブルに言われた通りSuicaと特急券を置いて沙汰を待つ。しばらくして後ろから車掌がやってきたが(車掌)「みなさんご利用ありがとう」 というようなことを言って一礼して去っていった。(きの)「せっかく用意したんだから見てほしい」 ぶつぶつ不平を述べていると(車掌)「ガラッ。今から切符を拝見」 わあぁぁ。今の「ため」は何だったんですか。

 

 よく考えてみると、ホームの行き来ができるのなら普通の切符を買って特急に乗り込む不埒な輩もいるのではないか。だから直前に改札を始めることにより防止しているのか。景色は何の変哲もない住宅街ばかり。昨日の北海道特有の牧場地帯の感じは全然ない。昨日写真でも撮っておけばよかったのかもしれないが、窓の外を見るので精いっぱいで写すの忘れた。しかもこの特急なぜか暴風雨にでも遭ったように窓に水滴の跡がいっぱい付いてて写しても窓の汚れにピントが合う。

 

 札幌に着いてタイヤぎゅゎぎゅゎの地下鉄南北線ですすきのへ。目指すはすすきの交差点。「探偵はBARにいる」の舞台だ。(きの)「おぉここが。ついに来た(感動)!」 大交差点ね。さぞかし賑わいのある喧騒のるつぼと言ったところか。期待を胸にNIKKAウィスキーの看板が出ているススキノビルディングの地下から上がって行ってみる。ここが(きの)「・・・うん?」 

 

なんか思ったよりも小さい。

 

 渋谷の交差点ぐらいあるのかと思ってたが。しかも車がいないのはどうしたことか。記念写真を撮ったらやたらに人間だけが大きく見えてガリバーみたいで納得できない。(きの)「まったく。時計台といい、これだから観光地は!」 わめきちらしながら不敵な顔で写っているその人コート破れてますから。

  

 二条市場へ。下関の唐戸市場のような近代的なドームだといいなっ。(きの)「・・・これは」 入り口の看板がなぜか紫に黒で漫画に出てくる幽霊のセリフのような書体で書かれているし、細い路地に積み上がる発泡スチロールの箱、箱、箱。本当に業者の人とかが買い付けに来る所ではないのか?どうにかこうにか店を見つけて入る。この店は夕方5時からと書いてあるのに中で飲んでる人がいる。(ドア)「ガラッ」 開けてみたら開いた。(きの)「この店やっているんですか?」 などという強烈に失礼な質問はしない。

 

 ここで海の幸を満喫しようと思って道中で魚は食べていない。海鮮丼と、注文の前に確認。(きの)「今日の味噌汁200円って何が入っているのですか?」 (店)「とろろ」 (きの)「へ?」 (店)「・・・・とろろ昆布」 (きの)「あぁ!じゃそれで(ヒソヒソ)トロロという魚がいるのかと思ったんだ」

 

 そのうち他のテーブルに(店)「すみませんねー材料の魚売り切れてしまって。150円でどうです?」と言ってまわってる。 違います。嫌味で言ったのでは。だってね、写真は何かの貝殻が味噌汁の両側から突き出てるし。今日は大サービス北の大地の大ぶりな牡蠣が!!とかね。ホラ、気になるじゃん? 素材は新鮮なのだろう。巨大なホッケの一夜干しが出てきて、イクラは大きくて頑丈でなかなか嚙み切れなかった。

 

 店のカウンターに飾ってある縦長の巻貝の貝殻(きの)「これは何ですか! これ何ていう名前の貝ですか?」 (店)「つぶ貝。つぶ。つぶ。」 ぶっきらぼうな店主が教えてくれた。店を出て市場をうろつく。毛ガニをいっぱい売っている。さっきのつぶ貝もあった。ここは苫小牧ではないが、もしかしたら北寄貝も(きの)「あんなに大きいの!?」 巨大な茶色いハマグリ。これが一面に乗った丼。ぜったい無理だ。食べれそうにない。貝殻は欲しいが。(娘)「昨日コンビニの駐車場に落ちてたよ」 なぜ??

 

 市場からTV塔へ。川岸の木々を見ながら通って行こうと思ってスロープを降りて行ったらベンチにホームレスが2人いた。昨日からやけに多いと思うが、大都市の証のようなものなのか。しかし北国はさすらうには寒すぎる。ホームレス対策として街路樹を果樹にしたらどうか。よく熟れたクルミやパイナップルをもいで帰るといい。真に豊かな社会ならばできるはずだ。それか1回300円程で道を聞くとか。よく知ってると思うぞ。

 

 TV塔は、微妙に古そうで大阪の通天閣と同じ気配がした。札幌の街並みを空から眺めて次は時計台へ。地図を見て決めたこのコース。上から見たら時計台の位置が見えるかと思ったらビルばかりでどこだろう。売り場の人のいい姉ちゃんに聞いたらレジそっちのけで熱心に教えてくれて地図までくれたから、申し訳ないのでスナック菓子などを買い、荷物だらけになって市役所の裏へ。この列何だろうと思ったら今日は選挙だ。前に来たときは勝手知ったる友人が最短ルートで連れまわしてくれたので、微妙な位置関係がつかめていない。

 

 時計台は小さい。しかしここはやっぱり北海道の基礎なのでどのくらい小さいか実際に見ておかなければならない。屋根に赤い星があった。開拓のシンボルだそうな。同じ五芒星でも戦時中の弾避けとは違うのかな。裏に回るとジェラートの旗が出ていたので、ハスカップのアイスないかなと隣の複合店舗のような建物に入って行きイタリアンの店の入り口で(娘)「持ち帰りでアイスください。」 

 

 紙のメニューはさんざん時間をかけてそこらの引き出しを探し回った挙句、ないからって細長い店の奥の壁際に飾られた黒板のメニューを見に入ることになった。ほの暗い店内の遠く離れた壁際にかかった薄れた板にオシャレな文字で(きの)「ドルチェ、大人のプリン、メイプル紅茶のクレームブリュレ、イチジクの赤ワイン煮、氷点下の生チョコ、まじめなカタラ~ナ??・・・ああ、こっちね。ピーチください」 ものすごい凝ったアイスだと思ったら他のデザートの種類だった。アイスの分は横に小さく書いてあった。ドルチェって何だよ(怒) イタリア語はわからない。 時計台を裏から見ながらそこらへんの花壇の手すりに座ってアイスを食べる。枯れ葉に秋の深まりを感じる。

 

 次は親戚オススメの赤レンガ県庁。長期工事中だったはずが、オリンピックで急遽中断したらしい。内装なども見てみたかったが、時間がなく、このまま駅へ。ところがどこかで道を1本間違えたらしく、一向に駅に着かない。ビル街をさまよい、気づくと辺りのビルが低くなっている。これはおかしい。

 

 高架があった。電車が猛スピードで走って行く。(娘)「サッポロは主要駅だ。通過する電車はない。駅に停まろうかという時にあんな高速で突っ込んでくるわけない。あれは駅を出た電車では?」 ということは、駅を通り過ぎてしまったのか。あきらかにそっちの方向に向かっていて、あんなに大きい札幌駅に出会わないことなんてあるだろうか。

 

 荷物が重い。ペットボトルが2本とガラス瓶が4つ入っている。迷うと途端に気力を消耗する。針葉樹の街路樹を眺めながら高架をくぐり、(看板)「高島屋」 高島屋はだいたい駅ビルだ。高架をくぐり裏からビルに入る。どうも不思議だが、県庁を出た後メインの通りだと思っていた太い道路はただの入り口に向かうまでの脇道であった。それを間違えたために後が全部1本ずつずれて、絶妙な角度で駅をよけて回り込んでしまった。もう北海道広すぎるし、ビルばっかりで見えないんだよ!

 

 駅にやってきて気付いた。しまった。小枝ちゃんのよすがをスーツケースに移していない。昨日コタンに行って帰ってきて疲れて寝てしまった。こんなとこでスーツケースのヒモをほどいて開けて詰め替えたりできない。苦肉の策で土産物の中に入れることにした。なぜかは分からないが、検査場の人は業者が包んだようなものについては全般の信頼を置いているようだ。

 

 数年前久しぶりに飛行機に乗った際、ホテルでもらったミネラルウォーターの瓶を2本入れて帰りの羽田で検査に臨んだ。今考えれば液体は検査対象ということは分かるのだが、その時は久しく乗っていなかったので、そんなルールができたのも知らなかった。

 

 機械を通した(検査官)「ん?・・・これ液体ですよね」 (きの)「そうだ」 固体ではない。希少な黒部ダムの水を手ずから持って帰り家で待っているアカヒレにあげたい。(検査官)「しかも2本・・・まぁでも密封シールしてあるし」 解せない表情で返してくれた。持ち込むということは機内で全部飲むつもりだと思われていたのだろうか。例え密封シールがしてあっても下の方に穴を開けて入れ替えることだってできるのでは。まぁ旅行帰りに土産物満載でジャックする輩も珍しいとは思うが。

 

 なんとか3時前に駅に着き、飛行機の時間も迫ってきているので急いで改札へ。案内に空港行きと書いてあったのでそのままエスカレーターでホームに上がって行って(きの)「千歳空港ここでいい?」 (駅員)「ちがうちがう。小樽空港に行っちゃうよ!」 わぁぁん。まぎらわしい!また下がって上がる。なんとか乗り込みひと段落。着いて1時間もあればキャラメルも買えるだろう。

 

 着いたらどうしたことか大混雑。土産物屋に人があふれデパートのバーゲンセールのような殺気でジャガイモなどを買いあさっている。それを手で下げて持って帰るのか? 1周しただけで嫌になり、手近な店ではキャラメルも骨付きソーセージも売ってない。出発時刻が迫る。表示板を見ると「最終案内」となっていた。あれ?まずいかも。慌ててチェックイン。さてと、保安検査場はどこかな。

 

 幼い頃、お盆に離陸予定を15分も過ぎて飛び込んでくるサラリーマンの姿をよく見かけた。この休みにご苦労なことだとは思ったが、あれがバブル時代の企業戦士というやつだったのだろう。おそらくチェックインさえしてしまえば乗せてくれるという目算があったが、しかし昨今の冷たい航空会社ではどうだろうか。考えながら走る。

 

 アナウンスでは、優しい口調であと5分以内に保安検査を通過しないと乗せてあげませんよというようなことを言って脅してくる。係員に場所を聞いて走り込んだところまたもやブーツを脱いでくださいときた。(きの)「いいい今っ?」 疲れもあってか般若のような顔で振り向く。ブーツで一体何をするというのか。振り回して小突いてやろうか。と、どこ吹く風の(職員A)「一律」 くそっ。

 

 放送で名前を呼んでいる。(きの)「嗚呼、呼ばれてしまったよ。」 打ちひしがれたボクサーのような気分で出されたパイプイスに座る。(職員B)「じゃあ、こうしましょう(検査証)ピッ。これで大丈夫です」 ありがたいがまだ何も見ていないじゃないか。ただのブーツを脱いだだけの人だ。

 

 かすかな希望を頼りに気を取り直してゲートに進み、最後の仕上げが濃紺の包装紙に包まれた四角い箱が並んだ透明の袋を手渡す。(きの)「これグラスです(笑顔)」 (職員C)「ひぇぇ割れ物注意です」 (職員D)「割れ物でーす」 (職員)「割れ物ー」 中身はアイヌ模様の土産コップだが、全体の下から1/3ほどの所に手を添えて渡しただけで、別に小樽・北一硝子の高級ワイングラスセットだとか言ってないよ。

 

 おかげで中身などもはやどうでもよく、割れるかどうかが最大の関心事となり、横倒しにして詳しく調べられることなく無事通過。しかしね、ガラスを持って乗る客もかなり怪しいと思うぞ。割れば鋭利な刃物だ。ブーツよりはな!!

 

 続いて横暴旅行社が持っていたペットボトルが問題になり(係)「開いていますね。調べてもいいでしょうか」 (娘)「はぁ」 一口飲んでみるのか?と思いきや横にあった機械にセットし、光を当てて(係)「ピッ・・・ハイ大丈夫です」 今ので何が分かったんだ?光でどこまで詳しくわかるのだろう。可燃物かどうか?透過率なのか。ドロドロのミネストローネなどはどうだろう。検査の結果ウーロンチャですねとか言われたらすごい。

 

 帰りもANAだが、往きの機体と違ってなんだか手狭な2列の席にギュウギュウに押し込まれ外も見えずに大層不満。暑い。息苦しい。夕方だし、みんな大阪に帰るのだろうか。だったら大型機を出してくればいいだろうに。途中で近くの席の男の子がトイレに入ったまま出てこなくなり、乗務員同士でメモや身振りでドアを両側から叩くパフォーマンスを見せてくれた。なんだろう。と思っている内に伊丹に到着し、夜ご飯を食べてバスに乗ろうかという時に救急車が来ていたが、どうしたのか。

 

暗い中をひた走り二条駅に着いてバスから降り、京都のとろろ芋のような湿った空気を浴びて(娘)「あー北海道に帰りたい」

 

??

 

 

 

 翌日イチイの実を食べてみた。手近な紙に包んでポケットに入れてきたが、つぶれて赤い汁が染みていた。こんなものを持って乗ってくる人の方がよっぽど危険だ。この麻の実のような小さな種5個前後が致死量なのでシキミよりもすごい。

 

 期待した果肉のお味は特においしいとも思わなかった。ねちゃねちゃして種からうまく外れないところもすっきりしなくて嫌だし、あの魅力的なフチがグミのような口当たりだと勝手に想像していたが、別にそうでもなかった。植木鉢に植えて発芽の機会を待つ。小さな赤いベルがたくさんついた木が生えてくるといいな。

 

 返す刀で今度は西国へと赴き、西へ東へ忙しい。宮沢賢治みたいだ。11月だというのに暑い日差しに照らされて、庭の雑木を切りまくり日焼けする。知人が山ほど実ったからとくれたレモンやドラゴンフルーツの実を抱えて、北の大地のソーダ水のような澄んだ空気を思い出す。

 

もうすぐクリスマスだ。

 

そして、時々あの駅で聞いた君が代のようなメロディーが頭に甦ってくる。

コメント

横暴旅行社 北へ ~ブラキストン・ラインを越えてどこまでも行く~ Oct.29, 2021

2021-12-27 01:01:08 | 旅行

 娘がなにやら北海道に用事があるそうで、

そのつきそいで非公式に同行。

というか勝手についていった人?

帰りの飛行機をまず予約されてしまった。

 

今回のこちらの目的は、

  1. 伊丹空港の克服
  2. 愛猫小枝ちゃんの散歩
  3. アイヌの言葉はネイティブ・アメリカンと似ているのか知りたい

 

  1. 伊丹空港という名前は、どうしても関東の人間にとって恐ろしく近づきがたい感じがしていたが、とうとう乗る機会がやってきた。ちょうどいい時間帯の関西空港発の便はない。神戸は良く知らない。小さい頃からJALはなじみがない。きっと行ってみれば普通の地方空港だろうと思う。

 

  1. 北海道は、小枝ちゃんの故郷アイダホと緯度が同じなので気候も似ているだろう。とっくの昔に死んでしまった本人(?)が今さらどう思うか知れないが、少し名残りを連れて行ってみよう。飛行機に持ち込む手荷物はよく調べるが、預ける荷物はそうでもないので、乗る時はそちらに遺骨を忍ばせる。 妙案が浮かんで黒の市松模様のスーツケースの留め具のチャックをまとめて紫の飾り紐であげ巻き結びにしてやった。骨董の茶壺の箱と同じで、これをほどいたら結び方を知らない人には直せないから、開けたかどうだかがすぐにわかる。しかも見た目がなんだか京の古式の呪いがかかっていそうで、あまり触りたくない感じだ。開けないでほしい。そして誰も持って行かないでくれと切に願う。

 

  1. そのアイダホの大学時代に、卒業単位には全く関係がないが興味があってネイティブ・アメリカン語の授業を受けてみた。教えてくれる先生はそこの部族のチーフの3つ編みの爺さん。近くに居留地があるのでクラスメイトの大半が3つ編みだった。そんな中、1人で参加しようという意欲はどこから湧いてくるのか知らないが、提供されている以上何の授業を取ろうがこっちの自由だ。謎の異邦人はさも当然といった顔でテキスト片手に末席に連なる。そこでチーフの喋る言葉を直接この耳で聞いた。その記憶と直感的につながるものがあるだろうか。アイヌ民族博物館(ウポポイ)で、ぜひ検証してみたい。決してゴールデンカムイの観すぎだからではない。

 

 

 

 ところが出発一週間前になって、思い付きで大阪の万博公園にある世界の民族博物館へ行き、熱心にジロジロ観てまわったら木彫りの仮面や古い竹細工などから発せられる古着屋のような匂いでノドがイガイガしてきて、次の日左の扁桃腺が腫れてダウン。弱しだ。こんなに繊細なカナリアちゃんだったとは。それが治らない。

 

 いつまで経っても高熱が出るわけでもなく、36.8℃とかいう中途半端な微熱と共にただ扁桃腺が痛いだけ。普段カゼを引いても扁桃腺は腫れない。まろやかに重度の全身症状になっていくだけだ。今回は扁桃腺だけ。あの微粒子がそんなにダメだったのか。

 

そういえばツタンカーメンの呪いってのがあったな。

 

 不吉なことを思い出してしまった。太古の呪いのメカニズムについて考え出すときりがない。とうとう前日まで違和感が残った。熱はないのだが、駅でバス乗り場はどこかなと首を曲げたら、やはり左に少し違和感があった。その前に腹ごしらえだ。八条口の辺にマックあんの知ってんだ。ヘヘヘヘ。地下鉄から上がって行ったらやっぱりあったので、水分補給用にドリンク(大)を買い、ハンバーガーにかぶりつく。

 

 京都駅から専用のバスに乗ったら伊丹空港に着くらしい。ロータリーを渡り、なか卯の隣のすさんだ券売機で切符を買う。列に並んで待っていると地上の係員が(バス)「空港には停留所が2箇所ある。航空会社によって別々。降り間違い防止のために荷物を入れる貨物スペースを分けたい。どこの会社か教えてくれ。」 ほぅ、賢いな。

 

 並んでいる(客)「ANA、じゃるじゃる、アイベックス・・・ハイ、私はANAで~っす♥」 (きの)「全日空だ」 後ろの老夫婦の(団体)「全日空、わしらも全日空(笑顔)・・・」 ほらみろ。全日空は全日空だろう。アナて何だ。そんなこじゃれた女王みたいな名前ではないわ!

 

 後ろの方の席に座り、さてと・・・飲み物がない!しまった。さっきの券売機のとこだ。バスの中で好きだけじゅうじゅう啜ろうと思ってほとんど飲んでない。そしてまだ早いからトイレにも行っとこうかな。(きの)「すいませ~ん」 (バス)「はぁ?もう出るよ?」 (きの)「何で?」 (バス)「・・・それはあなたが1つ前のに乗ったからだ!」 おぉそうだったか。

 

 すでに券はちぎってしまったとのこと。ご厚意で、地上の係員が覚えてて次のバスに託してあげようか?という提案もあったが、せっかく乗ったので(きの)「じゃあ、飲み物だけ取りに行っていい?」 (バス)「どこに??」 (きの)「あそこ」 (係)「・・・よし、行ってこい」 (きの)「びよん。ダダダダ」 飛び降りて病み上がりが走らされる。

 

 走って戻り定刻通りに出発。せっかくなのでこれ見よがしにコーラを飲みまくる。最初は混んでいたが、その内高速道路のようなものに入ってなめらかになった。外を見ていたら大きな(顔)「チラリ」 あぁ!!あれは太陽の塔だ!先週も見たぞ。また会ったな。ということは近くなのか。

 

 空港に誰よりも先に着いてしまい、だいぶ時間があるので敷地内をうろつきまわる。関西空港の近代的で誰も寄せ付けないようなガラス建築と違って、伊丹空港は日本中にある地方空港をちょっと大きくしたようなものだった。成田と羽田の関係のようなものか。

 

 いつからチェックインしていいのかわからないが、とりあえずやってみるとしよう。(きの)「早すぎるかな?」 フェイスシールドの案内(係)「機械でやってくれ」 そこはかとなく対応が冷たい。コロナで非接触を心がけているだけなのだろうけど。いいじゃないか。聞きに来た人ぐらい対面でやってあげても。機械にうとい婆さんとか見えない人にもそう言うのか?

 

 手続きを終えて奥に進むと、妙にシャレた食べ物屋がいっぱいあって屋上にハイセンスな家具屋もあったが、空港で家具を買ってどうするのだろう。広い展望デッキもあった。全日本空輸はどこかな。おぉいたいた。最新の飛行機は輪郭がシャープだね。やはり青と白の有田焼のような色合いが素敵だ。

 

 バスの案内では、うやうやしくこちらの空港には南ウィングと北ウィングがございますなどといったような80年代風の気取った姿勢が垣間見えたが、よく見てみればこの空港にメインの滑走路は1本しかない。貨物かもっと小さい空港に行く便かわからないが、小型のプロペラ機がびゅんびゅん飛び立って行くのが見えて楽しい。なぜこうも空港に来ると気がはやるのだろう。飛行機大好き。

 

 Dean&Delucaのスタンドがあったので飲みものを買おう。デッキの日なたでうっかり長時間過ごしてしまった。そして氷をガリガリやって頭の温度を冷やす。今だけ売り出し中のジャスミンなんたらレモネードというメニューがあったので、これだ!とばかりに頼んだ。写真では深紅のラズベリーが添えてあるのかと思っていたが、赤いひしゃげたドライフラワーが乗っていた。まずそうだ。

 

 人々の行き交いを眺めながらジュースを一気に飲んでしまい、氷を食べようとするのだが、さっきつついた時にバラバラになった花びらが入ってきてこの上なく不味い。何の花だろう。この大きな菊のようなものはマーガレットだろうか。食べていけないことはないだろうが美味しくない。なんだか口のまわりが仏壇を思わせるような心地になった頃、問題の保安検査場に向かう。

 

(立て札)「37.5℃以上の人は搭乗できません」か。そんなにないな。検温センサーの前をすんなり通過。ここを通ればもうこっちのもんだ。スキップで通り抜けようとしたが検査場の(係)「ブーツを脱いでください」 ウポポイはほぼ野外だと聞いたから履いてきた特製の対北海道仕様のブーツを(きの)「はぁ?ここで?」

 

 驚いて思わず聞き返しただけだが、可愛らしい係のねえちゃんは言うだけ言って柱の陰に逃げてしまった。呆然としていると見かねた別の係員がイスを持ってきて(係)「こちらをお使いください」 そんな親切いらんわ!と立ったまま脱ごうとしてよろけてコンベアに乗っていきそうになり、大人しく座る。

 

 待合室に着いたら、混雑を避けるために窓際の席の客から先に搭乗しろというアナウンスが始まったので、そのまま歩いていって流れるように通過し一番乗りで機内に入る。通りがかりに見たがずいぶん大きなエンジンだった。国際線のジャンボジェットではないから2個も付ける必要はないだろうが、つるりとした中型の機体の薄い羽根に1個だけ不釣り合いなほど大きな輪っかが付いているのは、長靴をはいた猫みたいでアンバランスな感じがした。ボーイングの787シリーズだと思うが(787-8?)、最近の流行りだろうか。

 

 飛行機はしずしずと誘導路を外れ滑走路へ向かう。なぁんだ、やっぱり普通の空港だった。むしろリニューアルしたらしく小ぎれいな部類だ。離れていく建物の壁面に古臭い文字が残っているのが見えた。「大 阪 国 際 空 港」 ここ国際空港だったの??関西空港ができる前は、そういえばここが大阪の唯一の空港だったんだ。黒い明朝体のタイルに、ロッキード事件のニュース映像のような昭和感が漂う。トレンディーな(死語)屋上デッキからは見えなかったが、まるであの文字だけが昔を覚えているといいたげに整然とそこにあった。

 

 なぜ新しくしないのか。はっきり言ってちょっと不気味なのだが、誰もあれに違和感を覚えないようだ。そうこうするうちスルっと飛び立ってしまった。すぐに小さくなる滑走路。住宅街に近すぎでは? あ!あれは太陽の塔(顔)「ギギッ」 あっという間に遠ざかっていく。行ってきまーす。(塔)「フハハハハ」 見送ってくれた。先週お守りも買ったしね。

 

 機内では救命具の説明をモニターで上映している。歌舞伎の親子はそれはそれで面白いが、スチュワーデスさんのライブパフォーマンスを観る場でもあると思っている。出発時の舞いとでもいうのか、あの儀式を経てからでないと無事に飛べないような気がする。

 

 窓の下には大きな湖。ひょうたんの真ん中でつながって、これ琵琶湖? とすると、その向こうの馬のひづめに囲まれるようにしてコチャコチャと繁栄しているあれが山城の国か。その向こうにも住宅街らしき大阪の白いコチャコチャが遠く広がっている。どうした訳か京都の人間は山は生垣とでも思っているのか、そこにだんだん家を建てて登って行って向こう側の人たちと繋がりたいとは思っていないらしく、どんなに混んでてもあの内側からは出ないで、山並みだけはいつまでもそのままの形で残っている。琵琶湖も離れていった。 おぉっと翼の動きはどうかな。忙しい。

 

 他に空席もあったのに、メカ的な動きを見るためにわざわざうるさい翼の後ろの席を取ったのだ。ほう、そこまでエラを出すか。今、真ん中のフラップがベロっと下がったのにはどんな意味があるのか。前のスクリーンで全部解説してほしい。飛行機がトランスフォーマーだったらいいのにな。それか「うしおととら」のフスマ現れないかな。あれは翼にかかってくる雲のたなびきが元になっているのかななどと考えながら、心地よく窓の外の景色を眺める。途中の山には早くも白い粉砂糖のようなものが降りかかっている。雪だ。飛騨山脈か。

 

 反対側の列の窓に1カ所だけ青い窓がある。なんだろう。あそこだけ割れたからって臨時で違うの嵌めたかのような。まさかね。そういえば、この飛行機窓につきもののシェードがない。手元の何段階かあるようなボタン何だろう。(きの)「ポチポチ・・・」 押してみた。窓がだんだん青くなっていった。(きの)「おぉ!」 感動して何度も色を変えて遊ぶ。青Maxの状態で外は見えるが寝れるほど眩しくないという訳か。へ~~。ずいぶん自然に青くなっていくが、ライトが点灯している様子はない。どういうしくみになってるんだろう。ポチポチ・・・ポチポチ。子供か。

 

 この機体の羽根の先端は薄くてとてもしなやかだ。こんなに速いスピードで飛んでいるのに折れもせず(当たり前だ)、余裕でビワンビワンたわんでいる。いつか流行ったステンレスのブレードをふりまわす健康器具のようだ。昔のライト兄弟のような飛行機と違って翼の形は平行ではなく、どちらかというと三角形のものが寸詰まりの胴体にがっちりと付いている。逆に根元は太い。エイというか、何に一番近いかと言われたらフカヒレ?銀色だし。大きかったエンジンも後方は幅の広い翼に隠れて見えない。

 

 最近の機体は風を切る目的か羽根の一番先が90°上に折れ曲がっている。LCCなどは「これが最新!」とばかりに誇らしげに尖ったものが突き出て攻撃的な感じがするが、この機体の羽根は、先の方が飛行中の空気抵抗で控えめにひるがえっているだけ。それがまた深海の有機生命体みたいで、美しい。

 

 いつまでも左側から暮れない夕日が差している。飲み物のワゴンが来たのでそこらの客とアップルジュースを奪い合い、お代わりまでもらいながら持って来たサラダ煎餅をバリバリと食べる。今日はアップルジュースが大人気だ。家を出る時に直前で思いついて持ってきたポテトチップ(小)の袋がバッグの中で気圧で張りつめている。

 

 標高の高いレイク・タホに登っていった時以来の張りつめようだ。ん?破裂はしないだろうか。上空で突然破裂音がしたらすごく事情を聞かれそうだ。その他残り少ない巨大カリントウなど旅行中の遭難を意識したつもりだったが(ポテチとこれと雪で最適な血中濃度が得られると思った)、よく考えたらどうしても機内に持ち込まなければならないものでもない。こんな鞄を横倒しにしてX線でじっくり見た検査場の人もご苦労なことだ。

 

 機内のおしぼりは温めた布ではなく、簡易的な使い捨てのものになっていた。あぁ飛行機の醍醐味が。昔は良かった。などと懐かしみながら向こうまで広がる雲海を見ていたら、手前に1か所だけ雲が妙に盛り上がっている所を発見した。何だろう。トゲトゲのサザエみたいな三角で、横から小さな龍の頭のようなものが出ている。怒ったメレンゲ?中の方が黒い。気流が乱れているのか。下にあれだけの規模の何があるんだろう。さっきそろそろ着陸するとか言ってた。ということは青森の(きの)「あの、恐山が・・・」 (娘)「何?ファンなの?」 せっかくの気象トークが台なしだ。

 

 そろそろ着陸態勢に入った。下には湿原とやたらに派手な紅葉が見えてくる。それにしても静かだ。エンジンの音もしない。最近の飛行機ってすごいなあ。あの細長い港の形はホテルを探している時にグーグルマップで見た。苫小牧? ということはやはり大阪→琵琶湖→日本海→青森を突っ切って太平洋側から北海道に入ったか。

 

 なぜ最近の飛行機はみんなして日本海に出ていこうとするのか。大阪湾から太平洋に出て富士山でも見ながらそのまま落ち着いて自然に右側から入ればいいのに。しかし、成田のあたりは国際線の飛行機がうようよしているのか。う~む。どうもS字の航路は好きではない。

 

 だんだん建物の字が読めるくらい大きくなってきた。そろそろ空港だ。さぁ、見せてもらおうか、最新のランディングを。

(機)「コォォォォォ (着陸)ストン・・・・・・・ (翼)バキャァッッ!!」 そう来たか。 翼の後ろ半分があちこち逆立ってミノカサゴのような状態に。傀儡(くぐつ)の崩壊とでも呼ぼうか。

 

 エンジンの蓋が外れる以外に羽根がどうにかなるしかないのかもしれないが、やっていることは数十年変わらない。もっと、こう光線を出すとか重力を制御するとか、そういう未来の技術を期待したのに。あの羽根の下でエンジンもどうにかなっていたのか。見えないので何とも言えない。そんなんだったらもう鶴みたいに降りて翼畳んだら?

 

 どうも自分は数万円払ってヒコーキという名のアトラクションを楽しんでいるだけなのだなと思いながら、忙しそうな背広の方々と一緒になって降りる。ベルトコンベアの先頭に陣取り、スーツケースを無事引き出して足早で出口に向かう。近年は出口に立って荷物のタグをいちいち確認してくれる優しいお姉さんはいない。それではいっていらっしゃいと笑顔で声をかけてもらってこその旅行だ。それぞれつかんで勝手に出て行けとは心もとない。そこらのトランクを持てるだけ持って空港から走り出て行く不心得者などはいないのだろうか。

 

 ホテルの食事はホームページで3つもあるレストランのメニューを見てみたがどれも琴線にふれるものがなく、だったら空港でラーメンでも食べた方がマシという結論に達した。名産の北寄貝というのが気になったが、うに丼やイクラ丼のように一面に貝を広げた北寄丼というのは、どんな味かわからない以上注文する勇気がない。1片ぐらいなら食べれると思うのだが。

 

 ラーメンは札幌を20年前に訪れた際、まだ基本も押さえていないのにアメリカで知り合ったかの地の友人が意気込んで地元の通が好むような逸品を紹介してくれて、なにで出汁を取ったのかわからないがツナ缶?の味がする白濁した麺を狭い路地で強引に食べさせられた記憶がある。あれは何だったのだろう。普通の札幌ラーメンが食べたかっただけなのに。コーンの乗ったやつ?うちの叔父さんが言ってたけど毛ガニ1匹ラーメンは観光客用なんでしょ?ハハハハという軽い質問が何かのスイッチを入れてしまったのか。とにかく、北海道らしいラーメンないかな。

 

 この空港はだだっ広い。見まわしたところ1階には出入り口しかなくホテルのチェックインまで時間がない。案内所で聞いてみた。(きの)「ラーメンはどこですか?」 (案内)「道場ですね?」 どういう会話だ。(案内)「左手を真っすぐ進むと奥の引っ込んだところにエレベーターがあります。乗って4階で降り、薄暗い廊下を進みます。」そんな説明でいいのか?左の方に延々歩いて行ってみた。どこだ??何もないじゃないか。その辺のドアから出てきた掃除の人に聞くと左上のような暗がりを指さす。行ってみると示した方向の奥にあった。無意味に大きくて古い殺伐とした業務エレベーターに乗って降りると、廊下は確かに薄暗かった。

 

「ラーメン道場」まで行くのは面倒くさかったのでエレベーターを出たところの千歳ラーメンと書いてある店で鮭のラーメンという澄んだスープのを頼んだ。ラーメンに鮭て。これこそが観光客向けではないのか。しょっぱい。塩味が濃い。しかしこれが寒い中で食べるとちょうど良いに違いない。ズルズル。何が鮭ラーメンなのだろう。鮭でダシを取ったのかな?なぜかピンクの餃子が3つ入っていた。その餃子の中身が鮭!しかもふんだんなほぐし身がギュウギュウに詰まっている。もう斬新でどうしたのだろう。驚きでいっぱいだが、こんなものを食べたと言ったらまた友人に選りすぐりのひねりの利いたものを出してこられそうで、ほくそ笑みつつ汁をすする。

 

 満足して南千歳行きの電車に乗る。一旦そこで乗り換えて苫小牧に向かうらしい。駅に着いて苫小牧行きは向こう側のホームという放送の通りに階段を登る。停車している電車に乗ったら表示が「空港行き」 なぜ!? 今空港から来たのにまた戻ってどうする。わけがわからないまま発車数秒前にスーツケースを引きずって飛び降りる。なんなんだここは。こんなことをしていてはいつまでたってもたどり着けない。落ち着いてホテルに電話し、遅れることを告げる。(きの)「南千歳までは来てるんです。」(ホテル)「あともう少しです」 そこからがむずかしいんだ!

 

 駅の向こうに白樺の林がある。さすが北海道。叔父が生まれた時に転勤で北海道に住んでいて、そこの庭に生えてた白樺を東京に持って帰って植えたが何度目かの引っ越しで枯れてしまったらしい。気候が合わなかったのか。幼いころ、新宿の家に遊びに行って2階の寝室の窓から見えたひょろ長い2本の枝に、桑の実のような花がぶら下がっていたのを思い出す。あれと同じ白い幹だ。そして、それがこんなに大量に生き生きと生い茂っている。

 

 さっきからホームで大音量で鳴っている終末を感じさせるこの淋しげな3音のメロディーは何だろう。やってきた千歳線に恐る恐る乗る。そして、なかなか次の駅に着かないまま高速で走り続ける。これは山手線の1駅ではない。山陽本線の1駅だ。そして、みなさんなぜ薄着?よく観察すると前の大学生男はTシャツにデニムのシャツを羽織っただけ。さっき空港で降りた時に冷蔵庫を開けたような冷気に包まれたが、良くない。これは良くない。繊細なカナリーは召されてしまう。

 

 ネズミ色のパーカーボウズが横にいる友人と(ネヅミ)「これから飲みに行って終電逃したらどうしようなっワハハハハ」 何が楽しいんだ。死活問題ではないのか。翌日の晩飯に白老と隣の駅の中間にある牧場のファミレスのようなところで骨付きソーセージなど酪農王国の恵みを享受しようと思っていたが、止めた方が良さそうだ。予約してなくてよかった。事前に地図を見ながら(きの)「タクシーあるでしょ。それとも健康のために1駅歩けば~?」 やれるものならやってみろってんだ。北海道を舐めていた。

 

 

 ホテルは、行く前にグーグルマップを見ていて札幌と白老の中間で立地の割に名前が変に怪しいからここに決めた。その名も(HP)「グランドHotelニュー王子」 王子様!? 何がNewなのか。プリンスホテル系列?どうも漢字で書くと雑然とした繁華街を思わせるネーミングだが、来てみて驚いた。街の中心にひと際高くそびえ立ち辺りを睥睨するような構えだ。こんな街一番のきらびやかなホテルなら何か由来があってのことだろう。

 

 王子製紙。 あぁ!そうでしたか。そういえば大王とか王子とか、そんなティッシュの会社がありましたねと。ここが発祥なんだ。ホテルの後ろの方に製紙工場の赤と白の高いエントツが見える。アイダホの故郷の街にも製紙工場があり風向きによって硫化水素の匂い(腐ゆで卵)が漂ってきて気になったが、ここはそうでもないな。余程浄化しているのか。海風のせいか。

 

 用事を済ませホテルに向かう。入り口どこだろ?高層の建物は見えているのだが下に付属施設のようなものがいくつかあって、どこから入ればいいのやら。この体育館のような屋根はスケート場?の隣の駐車場の隅からえいやっと鎖をまたいで入って行ったら裏口のような所で普段着の女の人が守衛に挨拶して(看板)「午後9時以降の入館は用紙に名前を記入し・・・」 病院? そういえば病院が地図上で近くににあったが。ではもっと右か。暗がりを手探りで進むと芝生に日本食レストランなどの看板が出ていたからここだろう。細い露地から入ると裏口だったようで遠くにフロントがあった。

 

 チェックインして古めかしいタグの付いたカギを受け取り、エレベーターへ。ここのエレベーターはフロントから見えない裏口の近くにある。関係者以外が入り放題だなとか、そういうことだけはすぐに思いつく。

 

 20年前、日本の政策でイランからの出稼ぎ労働者が増えたことがあった。真面目に働いていた人もいたが、目立っていたのは上野あたりにたむろし偽造したテレフォンカードなどを売る人たちだった。日本に帰った折に、夜に家のそばの自販機にコーラを買いに行って狭いアパートの1室に10人以上の外国人が集まって窓を開けて喋っているのを見てびっくりした記憶がある。後日知り合いに聞いたら、契約するのはその中の1人で、あとはズルズルとパーティーをやっているうちに寝てしまったという方便で実質大勢で住んでいるらしい。

 

 日本は物価が高いからかもしれないが、世の中には思いもつかぬことをする人がいるものだと感心した。こののんびりとしたホテルはそういう些細なことは気にしないのかもれないし、そもそも製紙会社の関係者が主に使っているのかも。そういうことをしそうな人は、こんなシャンデリアじゃりじゃりの無駄に豪華なしつらえの所には来ない。

 

 建物内部の部屋割は、真ん中のエレベーターホールを囲むように四方にちらばり、どの部屋も等分に夜景が楽しめるようになっている。非常時には逃げやすいシンプルな造りだ。1泊朝食付7,000円という、今だけかもしれないが高くない値段で良心的ではある。HPでも団体で予約を取るのはやめてくれとか書いてあったから、それなりに感染予防に気を遣っているのだろう。その他2階の宴会場が予防接種会場になっていると書いてあり、このご時世で大変気概のあるホテルだと思ったが、地元企業なら自然とそういう姿勢が求められるのかもしれない。

 

 13階まで登る。予約の時点で、備考欄にきれいな夜景とか海が見たいなぁ~という漠然とした希望を書いておいたら、夜景と海がぎりぎり両方見える夜景方向の一番海側の角部屋にしてくれていた。お気遣いありがとう。内装は、とにかく広い。待望のコーヒーテーブルもあり、バスルームはすべてのものが遠くにあるような感覚がした。

 

 壁紙は今どき珍しい「布」でできている。壁紙のことを内装屋さんはクロスと呼ぶが、これは交差しているCrossではなくCloth(布)から来ている。今はアメリカでも紙やビニール素材が多いが、古い家は布張りで、それが劣化すると破れて無惨に糸がほつれてリアルハロウィンみたいで本当に怖い。

 

 シャワーはお湯と水が3秒に1回入れ替わるような不可思議なスタイルだ。これはどこかで見た。出雲だ。あのホテルも昔に建った豪華な建物だった。もしかしてこのホテルも外観ほど最新ではないのかもしれない。しかし、むしろ30年前にこの規模のものを予見した事の方が今建てるよりすごかったのかもね。

 

 夜の街に出てみよう。北海道にしかないセイコーマートというコンビニに入ってみる。カツゲンという謎の飲料を売っている。おとなりのドラッグストアには、なるほど北海道限定で高品質なトイレットペーパーが豊富に取り揃えてある。そのまま海の方向と思われる方に向かった。家の造りががっしりしていて玄関が奥に引っ込んでいる。雪よけのためか。

 

 街路樹が針葉樹だ。モミの木、カエデにマロニエも! 柑橘など1本もない。西日本では考えられない。北海道と本州の間にはブラキストン線という生物学上の境界があって、そこから植生が全然違うのだそうだ。歩きながら人んちの庭先をジロジロ見て勝手に感動する。

 

どうかな、懐かしいかな。

 

 レトロなペンキ塗りの消火栓を見ていて、ふと、大学からの帰り道を思い出した。マロニエの大きな葉の向こうに輪郭のはっきりした月が出て、トゲトゲの実を小枝ちゃんへのお土産に拾って帰ろうとしてリスと争ってサイドウォークを探った。中には栗のような大きな実が詰まっていて、よくそれで深夜にサッカーをして遊んだ。 このまま角を曲がれば、家で待っているような気がした。

 

鼻先に触れる澄んだ空気と、同じ樹や月もあるのに、ずいぶん遠くなってしまった。

 

 

 それにしても、こうも人がいないのはなぜだろう。こんなビルだらけの街なのに、8:30を過ぎると車は時おり通るが歩行者が誰一人としていないのは、昨今の事情のせいなのか。たまに帰ってきて遠い駐車場に停めた車から突然降りてくる人がいるが、こっちも(きの)「わぁ人だ!」 向こうも(住民)「何かいる!」 互いに驚き相容れない。

 

 アメリカ並みに路駐を見込んだ余裕の2車線の横断歩道を渡ると、渡っている間に信号がチカチカする。広い。広すぎる。夜の海が見たかったのだが、一体どこにあるのだろう。地図で見たらすぐ近くだったような。もう少しで着くと思われる幹線道路の向こうは行き止まりの入り組んだ住宅が連なり、初めて行った寒冷地で夜に迷うのは得策ではないと判断しホテルに戻る。

 

 途中で洋菓子店があった。すでに閉まって真っ暗だったが、時短営業かな。ここにもハスカップのジャムあるかな。このド派手なピンクの電飾を施した建物は何だろう。パチンコ屋にしか見えないが信用金庫と書いてある。駅前にも重厚な煉瓦でピンクのネオンが光り輝く建物があった。こちらの計り知れない寒冷地仕様なのか。

 

 部屋に帰って電気を消し、さっきドラッグストアで買った特選ルイボスティーと家から持って来た残り少ない特大カリントウを片手に窓辺から夜景を眺める。高い所から景色を眺めるのが好きだが、ドラマやアニメでは悪役がよくそんな構図でたたずんでいるな。しかし、おそらく悪役はカリントウは食べない。北海道は道路が真っすぐだから視界がすっきりして良い。窓は大きいが開くようにはなっていない。夜なのにガラスが曇りもしないし結露がないのはなぜだろう。

 

 

 朝起きて、朝食会場である最上階に上がっていくと展望ラウンジとなっている。街並みは部屋からよく見えたから海が見たい。案内の係にそう告げて一番端っこの方の影になったようなソファーに陣取って港を見下ろす。総勢5人ぐらいの他のみなさんは街並みの方に座っていらっしゃる。食べ物もそのあたりにいっぱいある。

 

 きっとこんなにそびえ立つホテルには、さぞかし 良い品が揃っているだろう。ししし。 楽しみにして行ってみるとやはりあった。柿とヨーグルト&ハスカップソース。鮭にオクラ、目玉焼にとろろ芋! 他にスープカレーやジンギスカン、魚介の何かやラーメンのような観光メニューもあったが、あまり興味がなかったので目もくれず自分の食べたいもの「だけ」を食べる。これがビュッフェの王道だ。

 

 朝食時には、やはりオレンジジュースが飲みたい。牛乳やトマトジュースはおしゃれなピッチャーに入っていたが、それ以外は最新のコーヒーマシンのような機械で入れてくれということらしい。オレンジジュースを押そうとして、ふと、横のレモンジュースに目が留まった。パネルをタッチしてくわしく見てみる。食品表示の法律では、果汁は100%の場合しか切り口の絵を描いてはならないんじゃなかったっけかな。オレンジが100%ならレモンも100%なのかな。そんなの飲める人はいないだろうけど、もしかしたら紅茶に入れるレモンってこと?ってことは押して1杯分ジャーっと入ってしまったら困るから、押してる間だけ出る仕掛けなのか。

 

 などと考えていたら、慇懃なベストを着けたやる気満々の(従業員)「どうしました」とやってきたので、このレモン果汁は何%ですかなどと聞いたら朝から非常にうるさい人間だと思われそうだから(きの)「オレンジが飲みたい」 (店)「そちらはオレンジではございません。」 わかってるわ!(店)「(機械)ピッ。ピッ。このボタンを押して」 (きの)「ジャッ・・・出ませんが」 (店)「もっと押して!」 (きの)「ジャーーゴホゴホ。やっぱり出ません」 (店)「おかしいな。原液がないのかも。後ですぐお席までお持ちしましょう」 と言うから席に着いて待っていたが、いつまで経っても持って来ない。

 

 安定のソーセージとご飯を詰め込んで、もう何も飲むものがない。どうしたんだろう。苦しい。 向こうの方を悠然と歩きまわっているベストが見えるが、すっかり忘れているのか。それともこんな端に座っている客がいると思わず、もう帰ってしまったと思ったのか。ただののん気なやつか。 窓の外を眺める。あの海にはどのくらい塩があるのかなどと考えてみたが埒が明かないので、もういい自分で持ってくる。 押してみたら普通に出た。入れ替えたのか。

 

 そろそろお茶漬けの時間だ。お湯と緑茶のティーパックとスプーンを携えてしずしずと戻ってきて席で誂えて(きの)「Oops!ジャバッ」 飲んでいたらご飯にかかってしまったという設定で横の塩鮭とともにおいしくいただく。やはり北海道は鮭が豊富だ。

 

 食べたらウポポイだ! 駅に急ぐ。ロータリーでは南海バスと書いたサビだらけの車体がギシギシと通り過ぎて行った。あれで走るの?雪国の機械はちゃんとしといた方がいいんじゃないのか。切符を買い自動改札を通る。(駅員)「今からだとずいぶんある。特急にしたら?」 戻って券売機で特急券を買う。(駅員)「来たら呼ぶから、そこの待合室で待たれよ」 さすが雪国。地元のオジサンたちとイスに座って待つ。

 

  電車が来たという放送が流れると、そこらの人がみんな立ち上がりぞろぞろと改札に吸い込まれていく。(きの)「さっき入ったけどまた出ました」 不慣れな観光客はわけのわからないことを堂々と主張して特急券にスタンプを押してもらう。 ホームに降りると昨日も聞いたが、この「♪さ~ざ~れ~」みたいな爆音のオルゴールは何だろう。上野の停車場の雑踏みたいなもの哀しさを感じる。ここにはこれが一日中流れているのか。 そういえば、すっかり扁桃腺は治った。何だったんだろう。あの冷蔵庫のような空気が良かったのか。それとも菊のドライフラワーか。

 

 

(後記:後で調べたら、寂しさを表現しているのではなく盲動鈴というものらしい)

 

 

 特急の窓から見える景色はほぼ穀倉地帯だった。たまにサイロの付いた三角屋根の上の方の角度を緩くしたような Barn(納屋)風の家がある。ぐるぐる巻いた牧草もあり、見慣れた風景だ。草は牛の冬の食料にする。サイレージはオレンジの匂いがするらしい。稲ワラには元から納豆菌が付いているのではなかったか。そんな食料を冬中食べるのは嫌だろうから、あそこに見えている牧草は全部麦のワラなのだろうなぁ(うっとり)。

 

 山の紅葉がはっきりしている。赤が濃い。以前泊めてくれた札幌の知人の母上様は、真冬の自宅の玄関前に細々と植えてあった数株のパンジーの色が濃いですねと褒めたら、寒暖の差が大きいと色が濃くなるんだと言っていた。あの赤い木は何の木だろう。街中にも植えられていて葉っぱや種の形からするとハゼやウルシではないかと思うのだが、触るとかぶれるウルシを街じゅうに植えるだろうか?? 車内放送で白老とウポポイについて説明がある。(放送)「日本語、英語、中国語、#$%&〇▼・・・今のはアイヌ語の解説でした」 公用語だそうだ。

 

 駅に着いてからが長い。入り口までも長いし、入ってからも遠い。さすがに最近は直行できる高架をかけたそうだが、前は駅の反対側に回り込んでから、さらに歩いたのか。郵便局のポストが紺色で伝統的な模様が描いてある。だんだん自治区に入っていくようだ。 少し離れた慰霊施設に行ってから展示を見ようかと思っていたが、警備員のおじさんに(警)「この先徒歩で40分。歩道がない。危ない。しかも閉まってる」 諭されて断念。ちっ。先に祈ってからでないと見れませんなどと意気込んで来たが、しょうがない。次回にしよう。

 

 アイヌの口承に学術的な興味がある。先住民族に敬意を払い、「共に歌う」という施設の名前の通り相互に理解を深めよう。ゲートを通り(係)「それでは行ってらっしゃい。イランカラプテ~」 (きの)「わーい。アシリパさんと同じ恰好をした人が何人もいる~~!!ダダダダ」 テンションMAXで駆け回る。

 

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柑橘&オランジェット覚え書き2

2021-12-20 20:42:30 | きのたんと大自然

覚え書き1の方に足してきたが長くなってきりがなく、

試した種類もますます増えてきたので新たに項目を作る。

 

Rangpur Lime (ラングプール ライム)

 GOOD NATURE STATION という、高島屋の裏に近年オープンした意識の高さで新風館と争うようなショッピングモールで手に入れた。余談だが以前に訪れた時、2階の黒を基調とした薄暗い店はバリ風エステだろうとばかり思っていたが、今回よく見たら高級ステーキ屋だった。そんな。じゃあ、あのピンクの細長いベッドのような写真は?・・・近づいて行ったら肉だった。表示ははっきりしよう。

 

その柑橘は、下の食料品店で売っていた。姫レモンという名前で流通しているそうだ。小さなレモン形でオレンジ色。

切り口はオレンジ色で部屋数が少なく、丸い小さな種が多く入っている。皮は薄めで果肉はみかんの匂いがするが酸っぱくてそのまま食べられず。

 皮の匂いはちょっと山椒。ミカンの皮の匂いの他にピリッとしてツンとくる山椒の匂いがうっすらするが、不快ではない。山椒の匂いにジキルとハイドのような側面があったとして、こちらはジキル博士の方だ。静謐で善良な粉山椒の匂いで、ふんふんと嗅いでしまう。これは自分にとって良い匂いなのではないか。

また東大和の庭に咲いていた沈丁花のことも思い出したから、花良治の要素もあるのかな。

 果汁を砂糖と混ぜてみたら非常に美味しかった。しかし通常の倍ぐらい砂糖を入れたような気がする。余程酸っぱいのか。少し入れた皮の山椒の匂いがアクセントになり、キリッとしたミカンはひときわ特別なものであるような印象。ヨーグルトにかけたり炭酸で割ると美味。

 

植えるんだったら自分が気に入った匂いのを植えた方がいいと思う。

 マイヤーレモンの強烈なチモール臭や、セトカの山椒ハイド臭(湿った木質/吸い物の新芽を間違って食べた時のような芋虫のピース)、西海のフナなど、人は誰しも嫌な臭いほど嗅いでしまうが後で落ち着いた気分になれない。

 

逆に、違う人が嗅いだら、姫レモンはちょっと・・・となるのかもしれない。

 他の人が嗅ぐとスパイシーでSavory(燻したよう)な匂い、となるらしいから人によって違う上にネットからは匂いが漂ってこないので、こればかりはいくら通販全盛の時代でもどうしようもない。

種はとりあえず植木鉢に蒔いといた。

 

 皮がもったいなので、1/3シロップに入れ、1/3干して、1/3肥料にしよう。乾いてもいい匂いなので陳皮のようにして七味に入れたり、紅茶に入れてアールグレイや通のオレンジ・チャイのようなことにならないかななどと思って干しておいた1/3を、う~んいい匂いとばかりにベッドサイドのテーブルに置いて寝たら布団でめちゃくちゃにし、朝起きたら全部床の上にちらばっていた。

 

 無惨にも野望が打ち砕かれ悔しさでいっぱいだが、やったのは自分なので静かに現実を受け止めるしかない。肥料用の傷がある大きめのをちぎって流用するとしよう。負けない。

オレンジピール(皮の砂糖煮):それを煮た。非常に香り高く素晴らしい食べ物であった。

オランジェット(チョコレートがけ):まだやってないうちにピールを全部食べてしまった。味見のしすぎ。

 マイヤーレモンはみかん×レモンだそうだが、こちらはみかん×シトロンだそうで、さらにもう一段階原始に還ってしまっている。せっかく人はえぐみのある匂いを避けるために改良して改良して温州ミカンにしたのに、

また戻してどうする。

 

 

年末年始の柑橘あれこれ

仏手柑:暮れの京都の商店街で、生け花で言うところの草月流のような草花ばかり売っているエキセントリックな花屋の店先で購入。ガラス戸の向こうで(仏手)「クワアァァッ」よく開いてこちらをつかもうとしている。喉から手が出そうだったが、値札などはない。これは売り物なのか、ただのディスプレイなのか。よくわからないまま用事があったので前日は通り過ぎた。

 翌日に見ると昨日5個だったのが10個ぐらいに増えていた。小さいテーブルの上を占拠し這いまわる黄色いハンド達。これが装飾だとしたら随分思い切ったセンスだ。(きの)「ガラッすいません。これ売り物ですか?」満を持しての入店。(店)「えぇ、こちらが値札で・・・」物陰から小さいプレートを出してきた。うほほほ。どこかの道の駅で飾り物を見たことがあるだけで、手にしたことはなかった。

 (娘)「・・・これを買ってどうするの?」いい質問だ。(きの)「匂いを嗅いだり触ったり、最終的には食べてみたいと思っている(興奮)!」こんな人、東京喰種にいたな。(きの)「これはシトロンの変種で木が未熟なうちは指はあまり開かない。だんだんと成熟してくるにつれてこう・・・パファアァと」聞かれてもいない説明を早口でまくしたてる。早く包んでくれないかな。

(きの)「しかも、切っても中に実はない。」(娘)「???」(きの)「そして!もしかしてこれはシトロンの変種ではなくてこちらが原種だったのではないか。それがだんだんまとまって行ってシトロンになったのでは?う~~ん。昔これを森の奥で最初に見つけた人はどう思っただろう。」さっきから何をそんなにお釣りをベラベラと数えているのだ。いつまでも蘊蓄をたれるウザい客になってしまうではないか。

 やっとのことで白い高級紙にぐるぐるになったものを抱え、飛ぶように家に帰り(きの)「フンフンフン・・・さぁ?」特に何の匂いもしない。ザラザラしている。(きの)「いいことを思いついた!」だいたいろくでもない。

 

(きの)「これで輪飾りを作ろう。」

 

 大丈夫だ。まだ飲んでない。一回年末の集まりで作ったことがある。確か藁(まっすぐ)と柑橘(常緑)とシダ(裏白)があれば。(娘)「全部違くない?」(きの)「もしイスラエルで新年が迎えたくなったらどうするか。ユダヤ教徒のところへ行ってエトログを分けてもらってくるんだ。」はぁそうですかとしか言いようがない。そのままそのタコの足のようなものをつかんで紙袋に入れ大雪で遅れた新幹線に乗って一路博多へ。

 今回は飛行機でなくて良かった。どうせタコの足の先が折れたら嫌だとか言い出して手荷物で持って入ろうとして空港の(検査)「これは何ですか?」(きの)「いい質問だ!」もうAnnoying(迷惑)という言葉しか思い浮かばない。

 

 博多に着いて大宰府に寄りお礼参りをして梅干しを買う。年越しの中州の店の軒先にぶらさがる輪飾りを参考にしよう。

 (きの)「・・あれ?なんか違くない?」カーテンのようなものが真ん中ピラッと開いてる。「輪」は?輪っかで仲良しっていう、それが一番重要なところではないの?初めて見た。あまりのことにホテルの人に(きの)「輪は?」聞いてみた。(ホテル)「えっそんなに珍しい?」本州の他の地域も全部ああだと思っていたようだ。

 もういい。自分の記憶を頼りに、確か家の庭にシダ植物が生えていたはずだ。それと山からツタを引っ張ってきて丸めブッシュ柑を固定。和風なモチの木もあるといいだろう。紙垂を添えて、静かに新年を迎える。(親戚)「あら、素敵なリースねぇ」(イトコ)「お花?」(通行人)「・・・??」何だろうあれはという顔をして通り過ぎて行った。

斬新すぎて誰もわかってくれなかった。

 正月も過ぎ、パラレルワールドの輪飾りも解体し、有効に活用したブッシュ柑を食す時がやってきた。これは1本1本切り離した方がいいのだろうか。イトコにオランジェットを食べさせたいが、悪魔の指のようなものを出されたら嫌だろうか。細長いものと細切れを用意してみた。包丁で切っている間、どうもタコの足を調理しているような気がしたが。

 花屋で売ってるものは食品ではないだろうから農薬がかかっているかもしれない。しかし、あの店の口ぶりでは(店)「寒さでちょっとやられた」と言っていたので、ご自宅の木になったものではあるまいか。大きさもバラバラで、確かに一か所白っぽい霜焼けのような部分がある。

(娘)「それはペットの立ち位置じゃなかったの?あなたはウーパールーパーを買って来たら最後食べるんですか!」やりにくい。お正月の橙を最後ただ捨てるだけならうまいこと料理して食べたらいいじゃないかと思うのだが。

 煮てみた。にがい。レモンの匂いがする。みずみずしかったので毎日段々砂糖をまぶして雪だるまのようにしていったら最後の方は甘いだけの固まりになった。しかし噛んでいるとやっぱり最後の方はニガい。こんなに砂糖があって尚にがいとは。さすが原種。ここまで苦労してちょっとレモン似の強烈に苦い果肉もないような指を食べる必要があるのか。

 

「縁起物だから」

 

この一言でどんなに奇矯な風習も許される。

 京都に戻り、夜にきどった花屋の店先を通ったら、入り口の上に飾ってあった!やっぱり同じことを考えるやからがいるんだ。仏手柑の向きは真横一文字で、左が取っ手で丸まった足が右側だった。尾頭付きの鯛のようなものか。ウチは斜めからサーッと裾をはらうブローチとか礼装のサッシュのイメージだった。橙やミカンは丸いので左右の向きはない。上か下かぐらいだ。

 そういえばエトログ(シトロン)の使用方法はどうなんだろう。Youtubeでラビが仮庵の祭具について説明しているのを見てみたが、ヤシ(まっすぐ)に、マートル(3つ葉が対生/3本)、柳(互生/葉っぱの裏白いね)2本はちょっと低めに束ねて市松模様の繊維状のもので包み、根元にエトログ(常緑)を足して部屋の四隅で振るらしい。葉っぱが左で柳が右だそうだが、これは自分から見てであって、正面はこれと逆か。エトログも本来実がなる時の方向(すなわち上下逆)か。橘の家紋のような状態だな。ふむふむ。Oneness とtogetherness とharmony を現しているそうだ。ふぅん。門松と輪飾りとお祓いを兼ねている。

 

 

マドンナ:プレミアムみかんだそうな。暮れに隣人から贈答品用のを2つもらったが、ホームセンターで知り合いの知り合いの店員から個人的に店の台車を借りて家までレンガを運んでこっそり返す時にお礼として渡してしまったから食べてない。少し固そうな小ハッサク?白いあみあみの入れ物に一つずつ入っていた。

 

スィートスプリング:次の日、裏隣りの隣人から2つもらった。ミカンは出て行きもするがまたやってくる。話に聞いていたが食べるのは初めてだ。手で剥きにくい。酸っぱい。青い内でも食べれると言っていたがうそだ。上に一段輪っかがある。ハッサクとの違いがわからない。内皮の実離れも悪い。

 

まるみ金柑:これも裏隣りから。琵琶のような形。なんだろうこれは。金柑にしては大きい。食べてみたら皮が甘かった。うちの種ばかりの原種のような金柑とは大違いだ。取っ手のような茎が付いていてつまんで玄関でアイスのように食べていたらクロネコヤマトが来たのでそのまま出たら若いドライバーが「何だろう?」という感じで見ていた。ミカンの皮を齧る家というイメージがついてしまったか。

 

本ユズ:これももらった。では他は何ユズなのか。傷だらけで痛みやすく、皮が実と離れている。果汁はある。丸い大きな種がたくさん。香りが良いらしいが、そんなに際立つほどでもなかった。

 

 

父の幼馴染のおじさんのミカン畑:

 もう今は夫妻とも死んで次世代は他県にいるので、誰も世話をしに来る人はいない。夏に見たらツタにまみれていた中から何かのオレンジ色の実がなっているのが遠くから見えた。あれは何の種類だろう。十数年前に種の多い文旦をもらったことがあったが、その木はどれだったのだろう。冬の草が少ない時期に入って行って地面から伸びて幹にからみついている太いツタを何本か切ってまわった。そのついでに落ちていたミカンを拾って食べてみた。法的には「地域のあぜ道近くの環境保全活動のかたわらゴミ拾い」と。決して拾得物の横領ではない。

いよかん。小ぶりなオレンジ色。皮を剥いてみたら匂いがいよかん。普通に食べれた。ただし売ってるのほど皮が厚くない。黒い点々があって見栄えも良くない。

安政柑?黄色い姫レモンのような真円に近い皮の張り。剥いてみたら緑!?どう見ても中身がライムのように緑がかっていると思うのだがどうしてだろう。そして案の定写真には黄色っぽく写る。自分は色覚に自信があったが、少し揺らぐ。しかしよく熟していたと思う。緑・・・。

不明のみかん?皮の薄いはっさく?橙?扁平ではない。特に何の匂いもしない。強いて言うならうっすらピーマン臭。よく熟していると思われるが酸味が抜ける気配はなし。酸っぱくてそのままでは食べれない。皮は貼り付いているが薄皮は実離れが良いので砂糖をまぶして食べると普通のみかん。橘はこんなに大きくない。果汁多め。しわしわした種が数個。

ハンドボール大の文旦 種が多かったやつはこれだろうと思う木はあったが、実はなってなかった。ひたすら葛と格闘。

 

結論:

 みかんは落ちているのが一番おいしいという事実に行きあたった。落ちているものは食べれる状態なのだろうけど(法律的にではなくready to eat の意)、いくら完熟でもそんなものを集めたビジネスが成り立つとも思えない。木の近くに居る人だけの、傷だらけの超プレミアムみかんだ。

 ついでに他の知り合いの独居老人の放棄地の雑木も切っておいた。正月だというのに通りかかる地元民もいない。誰か通りかかって「ご精が出ますね」とかねぎらってほしい。

おーい、ここに人がいますよー。あまりに寂しいからって大声を出してイノシシが来たりすると良くないので早々に引き上げる。

おじさん、またね。

 

 

マイヤー再び:

 知人の知人がくれた。(きの)「フンフン・・・これはマイヤーです!」高らかに宣言。ゼッタイそう。このほんのり防腐剤のような黒カビ・チモール臭。恐ろしいことに最近は慣れてきた。(知人)「は?まいやー?」何?興味がある?知っている限りの説明をまくしたてておいた。

 後日、(知人)「あれ、なんとかっていう・・・向こうに伝えたら喜んでましたよ」わかってくれる人がいたー!という心境か。(知人)「酒にしぼるといいですね。食べてみたら少し甘い」(きの)「えぇ、それレモンとミカンの中間ですから。」なぜ食べようと思ったのか。一応レモンだぞ。

 砂糖で煮てみた。マイヤーレモンの匂いがするオレンジピールのようなものができた。もう自分の中では珍しくも何ともない。安定の墨汁液だ。

 ついでに他のも煮てみた。おじさんの畑にあった正体不明のミカンは、搾って三ツ矢サイダーで割ってみたら橙の匂いがした。橙だったのか。輪飾りに最適なのが近くにあった。生で食べれるとは思っていなかったが畑に長期間置いておくと酸味がほんの少し和らぐようだ。

 しかし、皮は薄く、煮てみたが柔らかくはならない。そして、グニグニ噛んでいると世にも苦手なあのフナのような匂いがしてきた。これってもしかして、古い油の匂いなんじゃないのか。畑に長時間置いておくと表皮の油が酸化するのでは。だったら、セトカや西海プリンセスはそのものが元からそんな匂いではなく、木にいつまでもぶら下げておいたから甘いのか。

 

タンゴ:

 トルコ産だそうだ。皮の橙色が濃いところといい、固そうなところといい、これはタンジェリンだ。いよかんのような照りもある。名前のタンゴももしかしたらタンゴールから来ているのかもしれない。

 2月に売ってた。種はなく、ほんのちょっとの酸味と、あとは水分の多くない甘味。むきやすい。内皮は薄くはない。普通のみかんのような多少しっかりした白。小さい。

 

河内晩柑:

 隣のおばさんが「これ何だろう」と言いながらくれた。どっかの畑に生えてて持ち主の本人も知らないらしい。もう少し銘柄に関心を持とうよ!

 尖っている。黄色い。大きい。中身はオレンジ。皮が薄くスィートスプリングなんかよりよっぽど実ばなれがいい。皮の匂いは・・・ん?どうも柑橘の木に付く常世様のツノの匂いがほんのり。まぁエッセンスを凝縮したということで納得しよう。

 

 

瀬戸内柑橘王国にて

黄金柑:パール柑だったっけ?この黄色い柑橘は1ジャンルあるが特にそんなに大好きでもない。すっきりとした、苦くないグレープフルーツ。

(きの)「このシリーズで湘南ゴールドというのもある。」イトコが前に送ってくれた。(娘)「湘南?」ギラギラした氣志團のような連中のことではない。あの辺りが柑橘栽培の北限だろう。

 

タロッコ:中身にところどころ赤いスジ。パサパサして別に美味しとも思わなかった。

普通のスーパーに売っていた。他にも「はまさき」「アンコール」など名前を聞いたことしかない品種がゴロゴロ。

探求のし甲斐がある。

 

木頭ゆず:旅の途中で見かけたシリーズ①ホットで甘い飲料を飲んだ。ユズはユズだが、その地域のものは品質が良いらしい。買ってホテルの部屋に持ち帰るときに、サラッと漂ってきた匂いはいい匂いだった。

 

ゆこう:②柚香と書く。徳島の土産物屋で絞った果汁を売っているのを見た。ユズと橙の交雑したものらしい。まだ味わってはいない。

 

すずか:③ユズとスダチの雑種。ホテルのデザートで出てきた。悪くはないが特徴的な香りもないような。夏に収穫できるのかな。

 

 

宇和ゴールド:さっぱりしているのだろうなと思って買ったら、これは河内晩柑ではないのか??この形。この色。皮をむいた時のほのかなアオムシ臭。

 

 

瀬戸内柑橘王国II(瀬戸内海には向こう岸もあるのだよ)

百年樹:なじみのスーパーで売ってた。見るなりスムーズなしぐさでカゴに入れ後のものは適当につかんでレジへ。

品種的には普通のネーブルだが、100年以上年経た木になったものをいう。プレミアムみかんの一種だろう。味は普通より甘いらしいが、たとえ多少酸っぱかったとしても、同じ木を100年維持してきた心意気に敬意を払い、やはり買うだろうと思う。

産業樹木は数十年で伐採したりするから、どんなに希少か考えてみただけでも夢が膨らむ。以前はよく売っていて、これを見てから柑橘の探求というか、タンジェリンへの偏執が始まった。帰ってさっそく皮を剥き、みごとな薄皮にうなりながら一句詠む。

百年樹 値段も見ないで 買うミカン 

 

 

ひょうかん:

 オープンしたての意識の高そうなスーパーで買った。ヒョウタンのような柑橘という意味らしい。長い。最初レモンを売っているのかと思った。弓削ひょうかんと書いてあった。産地だろうか。台湾から来たそうだ。文旦の一種なのだろうな。

 剥いてみた。何か一瞬独特の匂いがして、その後グレープフルーツの匂いに変わった。何の匂いだろう。柑橘と全く関係のない何かの匂い。例えばスペアミントの最初の方に人参の種のようなアニスシード臭がするような感じだ。どうしても思い出せない。

クッキー?

あのクリスマスに食べるレモンのアイシングがかかった・・・レモン?甘いレモンの匂い?

 

 古い柑橘ほど由来が不明で判明しないらしい。そういう時に鼻のいい人を連れてきてかいでもらい、ヒントを探るのはどうだろう。そんな方式でやるなら橘の片方の親はピーマンだ。

 

夏津海(なつみ):

 その意識高スーパーで次の週に行ったら売ってた。名前は聞いたことあったが、どうせ温州みかんの一種だろうと思って今まで特に注目もしていなかった。しかし、変なフルーツばかり食べるユーチューバーの青年は、日本の夏津海が一番おいしかったと言っていた。

 見たところ、普通のミカンのようだが。とりあえず買ってみた。むいてみたら、うん、これはタンジェリンだ。中の薄皮も、味の濃さも、ほんのり赤みがかったオレンジ色も。カラマンダリンとポンカンか。言われてみるとカラマンダリンのくすんだ外皮にそっくりだ。古くなったら姫レモンのようなエスニックな雰囲気がした。

なつみ・・・かんとは関係がないのか。夏に食べれるタンジェリン。

 

 この人は日本の名前が付いているが、外国の方だと思う。確かにおいしい。が、しかし彼女の個性と名前がマッチしていない。ラボで理論で作られたようなカラマンダリンと元々外国産の品種のポンカンでは、夏津海と名乗れるだけの由来も歴史もない。ドーベルマンに太郎と名付けるようなものだ。そういえば、うちの愛猫もそうだった・・・。う~~ん。ミスマッチ。ミスマッチなのか。別の問題が浮上して悩み始める。

 

 

 

ひょうかん&夏みかんオランジェット

 夏みかんは裏の方に住んでる旧知のおばさんがくれた。甘夏だとか言ってたけど、この黄色いゴツゴツの表皮!これは真正夏みかんではあるまいか。さっそく皮を煮てみた。あっという間に透き通った。なぜ昔から人々は夏みかんの皮を加工しようと思うのかわかる気がした。

 

 ユズの次ぐらいに早く煮える。あんなに分厚くて固そうなのに。そして、甘い。生の時の酸っぱいだけの味が、砂糖と混ざるとこうも香り高いデザートに変わるとは。

 

 ひょうかんジェットは苦かった。こんなことをしてみたら匂いが際立って最初に何の匂いがしたのかわかるかもしれないと思ったが、ただのグレープフルーツの砂糖煮だ。

 

ジャンドゥーヤ(チョコとナッツとカラメルと)

 まず、始まりは高知の黄金生姜だった。豚の生姜焼きにした後、余ったショウガをジロジロ見ていた。何かに使えないかと画策していたところ、オランジェットの残りの砂糖汁が目に留まった。

 

ショウガの砂糖漬けもいけるな。

 

 しめしめとばかりにスライスして煮始めて、ショウガは固いのでどこまで煮たら柔らかくなるのかもわからず、焦げてもいけないので数日かけて15分沸騰させたり冷蔵庫で冷やしたりを繰り返したらどうにかなるかもしれないと思い、気長に作っていた。ある日、また出してきて沸騰させている間にちょっと冷蔵庫の中をあさっていて、振り返ったら茶色い泡が吹いていた。

 

 しまった。水分が臨界点を突破し、飴化を通り越してカラメル化してしまった。急いでショウガを取り出したが、こりゃ何だろう??というものが出来上がった。さすがに焦げ臭いまではいかないが、香ばしいベッコウ飴に包まれ、絶妙な角度で体をひねったショウガ達・・・。ガリガリする。

こんなお菓子あるだろうか。しかし昔からの名産ですとか言いながら堂々とアイスのてっぺんに挿したらどうだろう。ジャリジャリ。

 

 そして、どうするこの残った大量のカラメル。そうだ!ジャンドゥーヤを作ろう(良からぬことを思いついてしまった)。どちらかとうとプラリネかな。どこかにピーナッツがあったはず。ガサガサ探し出してきて全部ぶち込んで、うん!チョコレートも入れるといい。パンに塗るやつを1瓶投入。まぜてみた。

 

あれ?

 

 なんか全体がうまくまとまらなくて個別の曇った麦チョコみたいになった。何だろう、この豆菓子は。まあいい。むしゃむしゃ。後は鍋のフチにこびりついた残骸に牛乳を入れて溶かしホテルでもらったインスタントコーヒーを足し(きの)「キヤラメルマキアーートぉぉ!!」オレンジのエキスとキャラメルと、チョコにナッツの複雑なフレーバーだ。

気持ち悪い。

 

ココア飲みすぎた時みたいな感じになった。おぇぇ。

 

負けない。次!

 

夏みかんのマーマレード

 性懲りもなくまた創作料理を始める。だって国産無農薬の夏みかんは昨今なかなか手に入らない。大丈夫だ。作り方は知ってる。前に叔母に教えてもらった。同量の砂糖を入れればいい。叔母は見た目で大体同じ感じの砂糖を袋から手でつかんで入れていた。糖分が50%を超えると細菌は繁殖できないらしい。

 煮てみた。中の薄皮が苦そうなので、中身をしぼって果汁だけ入れた。薄皮を入れないとペクチンがなくて固まらないそうだが、どうせ絞った中ににじみ出ているだろう。表皮も数枚薄切りにして入れた。おおっと種も入った。前に作った時は砂糖を入れて七輪の弱火でかき混ぜたが、最初から砂糖を入れたら焦げるのではないか。

 だったら果汁だけ濃縮しておいて後で砂糖を加えたらダメなのか。グラグラ煮て1/3以下になったところで砂糖を投入し、しばらく弱火で恐る恐る煮てみる(何を恐れているのか)。搾った当時はうす黄色であった液体が煮詰まってくると赤みがかった濃いオレンジ色になってきた。おぉ!これが橙色だ。夏みかんの正式名称は「夏代々」。夏にも食べれるダイダイ。萩藩の武士が維新後もいつまでも家が続くようにと願って植えたダイダイ。実に奥深い。

 そもそも、最初に同量入れて煮詰めたら糖分80%とかのジャムができるのではないか?もはや砂糖汁に夏みかんフレーバーを付けただけの強烈に甘い代物ができあがるだろうな。くひひ。ぺろり・・・(きの)「なにこれ!にがっ!!」なんだこの苦渋に満ちた液体は。おかしい。前はあんなに簡単にできたのに。

 それは家庭科の教師が横で監視していたからではないのか。もっと砂糖を入れればいいのか?もう散々入れたと思うが。オランジェットの端から剥がれ落ちた余りの砂糖を足してみる。萩の人たちはどうやって作っているのだろう。これは体にいいのか悪いのか。

 

 そして固まらない。なぜだ。全然できない。こうやってはダメという失敗例をことごとく踏襲したのか。今さらだけど、前は実を全部むいてから入れたような気がしてきた。出来上がりも粒々だったような。それではペクチンが足りないかもしれないと叔母が言い出して、煮ている途中で薄皮の塊を1つ入れて後で引き上げて回収していた気がする。やはり搾ったら苦みも一緒に出てしまうのか。しばらく冷蔵庫で寝かしてみたがサラサラしている。こんなんではトーストから流れ落ちる。

 もう一度煮てみよう。低温でもはや温めるに近い状態で30分以上放置。上からのぞき込んだらあったかい夏みかんの匂いがした。30年前にかいだ匂いだ。できたのかもしれない。水分も飛んでいい感じ。しかし、まだ苦い。もう上から追加のスティックシュガーをかけまくる。

 そのまま置いておいたら砂糖が下に落ちないで表面で固まっている。液体は熱いのに。急にペクチンが効いてきたのか。まとまった時間煮なければ作動しないようだな。ふうん。今何%だろう。もう夏みかん飴のようなものだろうか。いや、考えない方が良い。

明日の朝これを食べるのだから。

 

胃酸グミ

 夏みかんのゼリーを作ろうと思った。前にどっかの菓子屋で売っていたのを買ったら、シャリシャリして不思議な食感であった。うん、あれがいい。ゼラチンを買ってきて作ってみた。

 嫌な予感がしたが、案の定固まらない。タンパク質分解酵素はオレンジにもあるのかな?酸は・・・煮たからってどうにかなるものでもなさそうだ。原液ではさすがにと思って全部で250mlになるようにして水で薄めたのに。ゼラチンは沸騰させたらダメと書いてあったからグツグツしなかったのがいけなかったのか。もう1回煮て激しくかきまぜてみたが、固まらないものは固まらない。炭酸で割って飲んだ。

 では、次はすごく煮た上で、どうしたんだっけ?あ、そうだ。2倍のゼラチンを入れて作ったら固まった!ホラ見ろできるじゃないか。ぶにんぶにんに固まった奴をナイフで切って一口(きの)「あ!」砂糖入れるの忘れた。固まるかどうかばかり考えてた。

 ものすごい味だが固まった。へー。貯蔵してある夏みかんシロップをかけたら不思議なあん蜜みたいになった。でも最後の方(きの)「ぎゅにゅぅ~」顔がゆがんでいく音。こんな安らかな顔で食べれないデザートはダメだ。

 

次。

 

 ちゃんと薄めて、ちゃんと煮て、砂糖を入れたら(きの)「パラアアァァーッ!!」完成した。おいしい。これは普通のゼリーだ。しかし、前に店で売ってたのはもっとスプーンで削ったらシャリシャリと崩れてきた。ゼラチンではないのかな。アガーとか、もしかして寒天?

 

結局、三ツ矢サイダーに搾って入れるのが一番おいしいということがわかった。

 

あとこの1箱ある夏みかんをどうやって消費したらいいんだろう。

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聊斎志異(りょうさい しい)~中国の昔話~

2021-12-08 00:42:10 | 書評

大昔の小話全集のようなもの。
中国の話は、急に突き放してくるような行き先の読めなさ加減が楽しい。

時と場所によってこうも価値観が違うのか。
荒唐無稽な話は、ほとんど酔っぱらいの幻覚ではないのかと思う。

前に図書館でパラリとめくった中国の昔話でも、

「奥さんが亡くなって悲しみのあまりそのまま家に火を点け、

どこへともなく立ち去った」と書いてあったが、どんな弔い方だ。

ダイナミックすぎる。

 

北斗の拳のレイだっけ?南斗水鳥拳の使い手、あの人の最期もそうだった。

わりと普通の埋葬方法??

奥さんが暮らしていた時のままの部屋を保持して、そこに留まり一生菩提を弔うとかの方が、大多数の人が共感できる気がするが。

「捜神記」では、死人が生き返った話が結構載ってて、

何十年も経ってから生き返って前の王朝の暮らしを覚えてて聞かせてくれたり、

中途半端に生き返って寝たきりとか妙にリアルっぽい。

そして、特にオチがない。教訓もないし、勧善懲悪でないこともある。


例えば今回のこの聊斎志異の中の「義理堅い仙人の話」では、
主人公が川の精と酒を飲んでいたところ、今日で終わりだと告げられた。

なんでも、頑張りが認められてどっかの守り神に昇格するらしい。

近くまで来たら寄るようにと言い残し、川の精は赴任していった。
主人公は本当に訪ねて行くことにした。

たどり着いたら近隣の人たちの夢でお告げがあって、

知り合いが来るからもてなしてくれとのお達し。

滞在中、元川の精は自分は忙しいからと会わず、主人公はとうとう帰ることに。

帰ろうとしたら風が吹いてきて、主人公のまわりをぐるぐる回る。

 

おわり。

 

は?だからどうした。

川の精だった時よりも神格?が上がったのに姿も見せられないとは。

せっかく会いに来たのにどこが律儀なのか。

 


好きな表現もあった。
気が合う人に向かって言う「もっと早くに会いたかった」というセリフや、

帰ってほしくない人には着物のソデを引っぱって引き留めるところ。
役人の試験に疲れた浪人生が夢の中で、黒衣隊に欠員が出たぞ!と聞いてカラスに変身し、え?と思いながらも羽根を広げて見ながら廟から出てきて、

他の後について慌てて飛び上がるシーンや、

観光客が投げてくれる魚をキャッチし満足して枝に止まるところが何とも微笑ましい。

だいたい黒衣隊って何だよ?

 

いつか読んだ雨月物語(これは日本)のコイに変身して琵琶湖で遊ぶ話も、

基本的に動物の暮らしが楽しそうだという姿勢で書かれている話は、

読んでいて気持ちがやすらぐ。

 

まだまだ中国昔話の探求は続く。

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