6年くらい前、趣味で庭のソテツの下を掘って岩をゴロゴロどかしていたら、銅製の錆びた円盤が出てきた。緑青の合間に文字が見えたので、何だろうと思って土をどけて洗って仏間の引き出しに入れておいた。
数年前、娘が京都の茶道のミュージアムに行ってきたというので、パンフレットを見せてもらった。
(娘)「その人は御釜師。釜を作ってるんだって。その界隈では名の知れたスーパー御釜師なんだってさ。そして、その通りには同じ職業の人がいっぱいいるんだっ!」
(きの)「はぁ。」
世の中にはいろんな職業があるものだ。冊子をパラパラとめくっていて、
ん?
うちのあの煤けた円盤はフタでは?
それじゃあ、仏間に置いてあるヘンな壷は茶道具だったのか。
あれは、自分が日本に来た時に離れで発見して、面白いからって持ってきて仏間に飾っておいたものだった。ということは、6年前から1mの範囲内にいたのか。
フタが落ちていた場所を考えると、なんとなく経緯がわかった気がした。
昭和の初めに、離れに親戚が住んでいた。そこのお嫁さんは嫁入り道具に色々と持ってきていた。
その人がお茶をやろうとして湯を沸かし、茶会後にお湯が余ったのでもったいないからソテツの下に持って行って撒いた。その時にフタをひょっとそこらの枝の上に置き、すっかり忘れて釜をしまい、引っ越して行った。フタはソテツの株元に落ちて土が降り積もり、そのまま60年が経過した。
満を持して、(きの)「コトッ」乗せてみる。あんまりしっくりこない感じがしたが、数か月後に見た時には最初からそうであったようにちゃんと乗っていた。不思議なものだ。
あれで湯を沸かしたら、しゃらしゃらという風が松の梢を渡るような音が聞こえるのだろうか。