物忘れ 他人の名前が 出なくとも
反省と工夫が効けば 年のせい (4) By kinukototadao
〇 人の脳のメカニズムを知るのに、専門家はマウスの行動で測るの?
「アルツハイマー型認知症」の第一番目の症状は「記憶障害」だと未だに考えていて、その上、「アルツハイマー型認知症」を発病させる真犯人がアミロイド・ベータとかいうタンパク質だと思い込んでいる或る国立大学の研究者達が、マウスにホップのエキスを混ぜた水を飲ませたら、それらのマウスの記憶力が改善したとの研究成果が得られたとして、「ホップのエキスには、アルツハイマー病(正しくは、「アルツハイマー型認知症」) の発症や進行を抑える効果がある」と米国の或る科学誌に発表したと或る新聞紙が先月末に報道したのです。これでまたまた、市町村の保健師さんによる「アルツハイマー型認知症」の地域予防活動の全国的な展開を制度化する日が遠のいていくことになると危惧するのです。
そもそも「アルツハイマー型認知症」は、脳の司令塔の役割を担っている「前頭葉」の機能が異常なレベルに衰えてきたときから認知症の初期症状が発現してくるのです。発症後は、「前頭葉」の更なる異常な機能低下の進行とそれに付随した形で進行する「左脳」、「右脳」及び「運動の脳」の異常な機能低下とにより、私たちの定義により区分される「3つの段階」{そられは、「前頭葉」(前頭前野のことを言うものとする。以下、同じ)の機能レベルを含む脳全体としての脳の機能レベルなのですが}に対応する各機能レベルでの直接のアウト・プットが、3つの段階に区分される「アルツハイマー型認知症」の「段階的な症状」として発現するのが特徴なのです。アメリカ精神医学会が定める「アルツハイマー型認知症」の診断基準である「DSMー4」の規定により第一の要件とされている「記憶の障害」が「アルツハイマー型認知症」の本質をなす症状ではないのです。更に言うと、「DSM-4」の規定により第二の要件とされている「失語」や「失行」や「失認」の症状は、(私たちの区分で言う「重度認知症」の段階の中の更に終盤の所謂「末期の段階」の症状であって、脳の機能レベルとしての別の視点から言えば、「前頭葉」は殆ど機能しなくなっていて且つ「左脳と右脳の機能」が「MMS」の基準で一桁の点数になる末期の段階にならないと発現することがない程の極めて重度の症状だということを、認知症の専門家達は知っておいて欲しいのです(但し、この得点は、或る項目に一定の換算を施した「評価点」の点数なのですが)。
「前頭葉」を含む脳全体の機能レベルが原因となり、そのまま認知症の症状として発現してくる「アルツハイマー型認知症」は、その症状が進行していくにつれて「記憶の障害」の程度も進んでいくので、末期の段階にまで症状が進んでいくと、重度の記憶障害に起因する重度の症状が目についてくるようにはなるのですが、専門家達から見落とされているもっと軽い段階、とりわけ最初の段階であり私たちの区分で言う「軽度認知症」(小ボケ)の段階で確認される認知症の症状は、「前頭葉」の機能障害に直接起因する症状だけがそのまま「アルツハイマー型認知症」の症状となって発現してくるのです(「小ボケ」に始まる「アルツハイマー型認知症」の段階的な症状については、ここを「クリック」してください)。
(ここで、コーヒー・ブレイク)私達が「アルツハイマー型認知症」に特化して集積してきた「前頭葉」を含む脳の機能レベルとそれに直接リンクした認知症の症状についてのデータの解析によると、「アルツハイマー型認知症」の場合には、廃用性の機能低下を原因として脳の機能が衰えていくとき、その「衰え方」に以下に示す「4つの特徴」があることが分かるのです。
○ 最初に、「前頭葉」だけが廃用性の加速度的な機能低下を起こしてきて(使われる機会が極端に少ないことが直接の原因で、当該器官に備わっている本来の機能が異常なレベルに低下していくこと)異常なレベルに衰えていく結果、「社会生活」に支障を起こす症状が出てくるのです(軽度認知症「小ボケ」の段階:この間、左脳と右脳の機能は正常なレベルのままなのです);
○ 次いで、「前頭葉」が廃用性の加速度的な機能低下を更に継続していく中で、同時且つ付随的に、「左脳」と「右脳」までもが廃用性の加速度的な機能低下を起こしてきて異常なレベルに衰えていく結果、「家庭生活」にも支障を起こす症状が出てくるようになるのです(中等度認知症「中ボケ」の段階);
○そして終には、「前頭葉」並びに「左脳、右脳及び運動の脳」の機能が廃用性の更なる加速度的な機能低下を同時進行させていく結果、「セルフケア」にも支障を起こす症状が出てくるようになるのです(重度認知症「大ボケ」の段階)。
○ そしてもう一つ重要な特徴として、「MMS」で測定される「下位項目」の機能には衰えていく順番に明確な「規則性」が認められるのです(「下位項目」が出来なくなっていく順番とそのパターンの「規則性」)。
〇意識的な世界を支配し、コントロールする「前頭葉」の働きとそのメカニズム
額のところにある「前頭葉」は、脳の最高次の機能です。運動の脳、左脳及び右脳を統括し、「脳全体の司令塔の役割」を担っています。「左脳」が「デジタルな情報の処理」を実行するときも、「右脳」が「アナログな情報の処理」を実行するときも、「運動の脳」が「身体を動かす」指令を出すときも、三頭立ての馬車(左脳、右脳、運動の脳の三頭の馬)の御者の役割をしている「前頭葉」の全般的なコントロールと指示なしには、勝手には働かない仕組みになっているのです。三頭の馬のどれかが働くときには、必ず「前頭葉」による、支配、関与、判断とその指示があるのです。言い換えると、「前頭葉」が三頭の馬を主導し、コントロールしつつ、同時に協働して働くというのが、意識的な思考や行為の下で人間の脳が働くときのメカニズムなのです。
ところで、脳の司令塔の役割を担う「前頭葉」には人間に特有な数多くの高度な機能が備わっています。その「諸機能」とは、興味、関心、観察、分析、考察、洞察、推理、理解、発想、企画、計画、工夫、創造、予見、シミュレーション、整理、機転、抑制、忍耐、感動及び判断等の認知機能(A)並びにそれらの認知機能を発揮する上での「機能発揮度」の基礎となる「三本柱」の機能ともいうべき「意欲」、「注意集中力」及び「注意分配力」の機能(B)及びそれらに加えて最終的な実行内容を選択し決定する上で不可欠な機能である「評価の物差し」としての「評価の機能」(C)などに区分されます。
「脳を使う」ということは、私たちが意識的に何かの「テーマ」を実行することを意味します。意識的に何かの「テーマ」を実行する際の「脳の機能レベル」(働き具合)を考えるには、「前頭葉」の(A)、(B)及び(C)の機能が常に協同しつつ、「左脳」、「右脳」及び「運動の脳」をコントロールしながら働いていることに注意を向ける必要があります。脳の機能レベルが「症状」として発現してくる程度或いは態様は、(Bに下支えされたA及びCの機能の働き具合)としての「前頭葉」の各認知機能と「左脳、右脳及び運動の脳」の各々との協働による「相乗効果」としての脳全体の機能レベルに直結したもの、リンクしたものとなるからです。「前頭葉」を含む「脳の機能レベル」が正常であれば、そのアウト・プットは置かれた状況に照らして適切或いは的確な「言動」や「行動」となり、「脳の機能レベル」が異常であれば、そのアウト・プットは置かれた状況に照らして不適切或いは異常な「言動」や「行動」(「アルツハイマー型認知症の症状」)となるのです。
「意識的な世界」におけるこうした脳の働き方のメカニズムに着眼して、「二段階方式」と呼称する精緻な神経心理機能テストを活用して、「前頭葉」を含む脳全体の機能レベルと直結した症状について極めて多数で且つ精緻な脳機能データを私たちは集積してきたのです。そうしたデータの解析により、「前頭葉」の機能レベルが異常なレベルに衰えてきたときは、たとえ「左脳」、「右脳」及び「運動の脳」のすべてが正常な機能レベルにあろうとも、それらの機能レベルの総体としてのアウト・プットである思考や、言動や行為や行動のすべてがもはや正常なものではありえないことを確忍しているのです。「意識的な思考や行為の世界」では、すべての思考、行為、言動及び行動、或いは身体の動静が、脳全体の司令塔である「前頭葉」がコントロールしているので、その働き具合(「前頭葉」の機能レベル)をそのままに反映したアウト・プットになるということなのです。
私たちが定義し区分している「軽度認知症」(小ボケ)の段階では、「左脳」、「右脳」及び「運動の脳」のすべてが正常な機能レベルにあるが、「前頭葉」の機能レベルだけが異常なレベルにあるのです(ここを「クリック」してください)。私たちは、「前頭葉」の機能レベルを精緻に判定しつつ(私たちが開発した「かなひろいテスト」を使用)並びに「左脳」及び「右脳」の機能レベルも同時に精緻に判定して(「MMS」を活用。但し、或る特定の項目についてはテストの粗点ではなくて、一定の基準に基づき換算を実施した後の「評価点」を使用している)、この段階を「アルツハイマー型認知症」の最初の段階、「軽度認知症」(小ボケ)の段階として定義し、且つ当該脳の機能レベルの直接のアウト・プットである症状を整理し定型化し、判定の物差しとして体系化しているのです。
これまでに何度もこのブログで指摘してきているように、60歳を超えた年齢の「高齢者」がナイナイ尽くしの「単調な生活」(生き甲斐なく、趣味なく、交友なく、運動もせず、目標もない生活のことを私たちはこのように表現しています)を継続している限りは、今回出てきたホップのエキスを混ぜた水を含むどんな種類の「薬」を飲ませようとも(或いは、どこかの食品メーカーが研究しているとか言う栄養補助食品を摂取しようとも)、「アルツハイマー型認知症」の症状の進行を抑えたり、治したりといった治療効果も、或いは発病の予防効果も期待できるはずがないというのが私たちの考えです。私たちが、20年間にわたる市町村での「地域予防活動」で実践してきたその成果としての極めて多数の「脳機能データ」により確認できているように、「アルツハイマー型認知症」の本質は、廃用症候群に属する単なる「生活習慣病」だからです(脳の使い方という視点からいう生活習慣病)。
60才を超える年齢の「高齢者」であること(私たちが定義する「第一の要件」)とナイナイ尽くしの「単調な生活」の継続(私たちが定義する「第二の要件」)との相乗効果により、「前頭葉」を含む脳の機能が異常なレベルに衰えてくることを直接の原因として「アルツハイマー型認知症」を発病するのであって、老人斑に関わりがあるアミロイド・ベータとか(アミロイド・ベータ説)、神経原繊維変化に関わりがあるタウ蛋白とか(タウ蛋白説)、脳の委縮とか(脳の委縮説)が、「アルツハイマー型認知症」を発病させる直接の原因ではない(以前のこのブログで指摘し問題提起したように、それらのいづれもが「副産物」である)と考えているのです。
「前頭葉」は言うに及ばず「左脳」さえも備わっていない動物の、更に言えばその中でも下等なクラスの動物である「マウス」とやらではなくて、生きた人間に飲ませて、その服用が「アルツハイマー型認知症」の発症の予防や回復に直接効くことを確認し、その因果関係を立証した上で発表して欲しいのです。これまでに、こうした「仮説」に私たちは惑わされ振り回わされてきているのですから。
○ 加齢とともに進行する「物忘れ」が意味するものとは
ところで、加齢とともに症状が頻発するようになり、その程度も重く、その態様がより複雑なものとなるのが、みなさんが日々体験中のあの「物忘れ」なのです。そもそも、そうした物忘れはどうして起きてくるようになるのでしょうか。そのメカニズムを無視して(或いは、知らないで?)、マウスなどにホップのエキスを混ぜた水を飲ませて、箱の中を走らせてみた程度のことで、「アルツハイマー型認知症」の発症を抑えられるとか言って騒ぐなど(新たな「仮説」を主張する)、胸を張って発表する程のものなのでしょうか。
上の図は、「前頭葉」によるコントロールの下で協働しながら働く「脳の働き」の衰え方を、「二段階方式」に基づく「神経心理機能テスト」を使って調べた結果を示しています。「社会生活」が支障なくできていた脳の働きが、ナイナイ尽くしの「単調な生活」の継続により老化が加速されることで、正常な老化の域を超えて「異常な機能レベル」に加速度的に脳の機能が衰えていくとき、「衰え方の順序がある」のです。上述したように、最初に「社会生活」に支障が出てきて、次いで「家庭生活」に支障が出てきて、終いには「セルフケア」に支障が出てくるようになるのです。そうした「段階的な症状」が発現する直接の原因である「脳の機能の衰え方に順序がある」こと及び脳の機能の衰えの段階ごとに「特有の症状がある」ことが分かるのです。脳全体の司令塔の役割をしている「前頭葉」が先に衰えていきます。次いで、「前頭葉」と相互に情報のやり取りをしている「左脳」と「右脳」が、そして最後に「運動の脳」が衰えていくのです。私たちの重要なノウハウとなっているので、ここでその詳細を記述するのは避けますが、大まかにいうと、以下に述べるような「左脳及び右脳についても機能低下の明確な規則性がある」のです。
私たちがこれまでに集積してきた15000例に上る「前頭葉」機能を含む脳機能データの解析によると、「アルツハイマー型認知症」の場合は、上述した「脳機能の衰え方の順序」に加えて、「MMS」で測定される左脳及び右脳の機能についても、[MMS下位項目]の衰え方に明確な順序がある、言い換えると規則性があることが分かるのです。「アルツハイマー型認知症」の発病原因について、アミロイド・ベータであるとか、タウ淡白であるとか、脳の萎縮であるとかの「仮説」を主張されている人達は、この「衰え方の明確な規則性」の存在をどのように説明できると言うのでしょうか。更にもうひとつ重要なことがあります。ナイナイ尽くしの「単調な生活」が継続されている中で、「前頭葉」の働きが衰えてきてその働き具合が「異常なレベル」になっている人達、言い換えると「アルツハイマー型認知症」の症状を発現している人達は、脳の働き具合とそれに対応した特有な症状のレベル及び回復の可能性という視点から区分すると、軽いほうから「軽度認知症」(小ボケ:社会生活に支障:回復させることが容易)、「中等度認知症」(中ボケ:家庭生活に支障:回復させることが未だ可能)及び「重度認知症」(大ボケ:セルフケアに支障:回復させることが困難)の「三つの段階」に区分されるのです。
なお、私たちが主張し実践に活用している「回復させる方法」とは、脳のリハビリ(本人の過去の体験、趣味や遊びの傾向、その価値観、おかれた周囲の環境等を考慮したうえで、本人の意欲が出てきて、注意の集中力が高まり、注意の分配力が回復することを直接企図したテーマの実践、言い換えると脳の使い方という視点での「生活習慣」の改善)を言うものであり、何かの薬とか栄養補助食品とかを飲ませたり摂取させたりするような考えとは根本的に異なるものなのです(脳を活性化させる生活習慣については、ここを「クリック」してください)。
本当の意味での「早期の段階」である「小ボケ」と「中ボケ」とは、上述した「脳リハビリ」により回復させることが可能なのですが、末期の段階である「大ボケ」の段階になると回復させることが困難になるのです。世間では 「アルツハイマー型認知症」の専門家と言われながらもその人達は、こうしたことも知らないで(そうしたデータさえも持ち合わせていないで)、定義内容(基準)自体に重大な誤りがある「DSMー4」の規定に依拠した基準で診断する結果、末期の段階である「大ボケ」の段階でしか「アルツハイマー型認知症」を見つけられないでいるのです。「前頭葉」を含む脳の機能は、(60才を超えた年齢の高齢者であろうとも)しっかり使ってやる「テーマ」を実践する生活(趣味や遊びや人付き合いや運動を自分なりに楽しむ生活)を継続することで出番を増やしてやれば、機能レベルが改善してくるし、使ってやることが極端に少ないナイナイ尽くしの「単調な生活」が継続していると、廃用性の機能低下により異常なレベルに加速度的に衰えていくものだということに、脳(アルツハイマー型認知症)の専門家と言われる人達が早く気付いてほしいと切に願うのです。なお、インターネットで「早期診断」と銘打っている医療機関の客寄せブログがたくさんありますが、そこで言う早期とは「小ボケ」や「中ボケ」の段階のことではなくて、「大ボケ」の段階の中での比較的早期のことを言っているに過ぎないので注意が必要です。
〇 「物忘れ」が起きてくるメカニズムとは? 「アルツハイマー型認知症」の初期の段階の症状(最初の段階である「軽度認知症」の段階の症状)の中核となるものは、「物忘れ」ではないのですが、そのことはさておいて、上述の研究(新たな「仮説」)でもターゲットにされていて、みなさんも日ごろ気にしている物忘れ、言い換えると「記憶の障害」のメカニズムについて、少し詳しい説明をしておきましょう。
ところで実態面から見た時、「アルツハイマー型認知症」を発病する対象者は、(極めて僅かな例外を除き)60歳を超える年齢の「高齢者」ばかりなのです。上述したように「加齢による脳の老化」が発病の「第一の要件」だからです(マウスではなくて、或いは「アルツハイマー型認知症」を患った後に死んだ人達の脳を解剖した「解剖所見」に基づく仮説ではなくて、生きた人間の脳の機能レベルとそれに直接リンクした症状の分析に基づく私たちの定義なのですが)。実は、「記憶」に関わる脳の機能障害(「前頭葉」の「老化」による「物忘れ」の症状の発現)自体は60歳を超えるどころか、30代という若い年齢で既に始まっているのです。その「記憶に関わる脳の機能の老化」のメカニズムの中核にあるのが、脳の司令塔の役割を担っている「前頭葉」という機能、その中でも各種認知機能を発揮する上でその基礎となる機能とも言うべき「3本柱」の機能である「意欲」、「注意の集中力」及び「注意の分配力」の機能の老化なのです。とりわけ「注意の分配力」という機能の老化が、早々と30歳代の若さでさえ「物忘れ」の症状が発現する主たる原因なのです。
ここで「注意の分配力」の機能というのは、「異なった2つ以上のテーマ」を同時に遂行する上で不可欠の機能のことなのです。例えば、「A」というテーマを遂行しつつ、同時進行的に「B」や「C」のテーマをも遂行するために必要不可欠な脳の機能であり、「前頭葉」の3本柱の機能の一角を占めている基礎的な機能なのです。 車を運転するあなたなら日常的に体験されているはずの状況を例にとって具体的に説明してみましょう。あなたは今、大好きなMariah CareyのアルバムをBGMにかけて、助手席に乗せているお友達と共通の別のお友達の噂話をしながら、休日で繰り出した人達の車で混んでいる道を車を運転しているのです。だからといって、それほど運転技術が良いわけでもないのに事故を起こすこともなく、トンチンカンではなくそれなりの受け応えをしながら噂話に乗りまくりながら、時にはBGMで聞こえてくるMariah Careyの歌声をも楽しみながら、いま車を安全運転できているのです。この状態を脳の機能面から説明すると、あなたの「注意の分配機能」がちゃんと働いてくれているおかげということになるのです。上述したように、この「注意の分配力」の機能の加齢による老化が実は、高齢者である皆さんに日常的な「物忘れ」を起こさせている「主犯格」ということなのです。ここで主犯格と言ったのは、記銘、保持及び想起という記憶の工程に関わる機能について、想起の機能が加齢とともに最初に衰えていくという私たちの脳機能データから、物忘れを起こすことについては、想起の機能の衰えが「従犯」の地位を占めるという要素が加わるからなのです。
○ 加齢による「前頭葉」機能の老化の進行
上に掲げる左端の図は、「前頭葉」の3本柱の機能である「意欲」、「注意の集中力」及び「注意の分配力」の機能が加齢とともに衰えていくカーブを示しています。20歳半ばころがピークで、30歳代に入ると早くも衰え始めて、60歳代の半ばになるとピーク時の半分程度に衰えてきて、70歳代、80歳代、90歳代と更に年を取るにつれて、緩やかなカーブを描きつつも、どんどん低空飛行の状態になっていくのです。これこそが、「前頭葉」の3本柱の機能に潜む、本質的に内在する性質、「正常老化」の性質(私たち独自の命名)なのです。ナイナイ尽くしの単調な生活ではなくてというか、それなりに「前頭葉」の出番がある生活習慣の下で日々を暮していても、加齢とともに「前頭葉」の働き具合が衰えていくのです(内在的な性質として「前頭葉」の機能レベル自体が低下していく)。但し、それは正常な機能レベルを保ちつつ徐々に機能レベルが衰えていくだけなので、そのアウト・プットは認知症の症状ではなくて「老化現象」に過ぎないのです。上述したように「アルツハイマー型認知症」の症状が発現するには、「前頭葉」の機能レベル自体が異常なレベルに衰えてくることが必要条件だからです。置かれている自分の状況を判断して、自分なりにそれなりの適切な対応を工夫できているのであれば、「前頭葉」が正常なレベルで機能していることを意味します。つまり、物忘れが気になるほどの頻度で起きていようとも、「物忘れ、反省と工夫が効けば、年のせい」なのです。物忘れがひどすぎて日常生活面で支障があるのなら、大事なことはメモしておくようにすればいいのです(反省に基づく、自分なりの工夫が実行できることが必要となる)。
ところで高齢者である皆さんが日々の生活体験の中で気にされている「物忘れ」は、「記憶の機能の障害」が原因で発現してくる症状なのです。その「記憶」は、記銘して、保持して、想起するという3つの機能の段階により構成されています。思い出せない(想起ができない)ということは、覚えていられない(保持ができていない)ことを意味し、そのそもそもの原因は、きちんと記銘できていない(覚え込めていない)ことと深い関係があるのです。この「記銘」の段階を分かりやすく説明すると、新品の印鑑を使うと苗字が鮮明に映るのに対し、使い古した印鑑を使うと不鮮明で苗字を読み取り難くなるでしょう。加齢による「前頭葉」機能の老化のせいで記憶の最初の段階である「記銘」の記銘度自体が低いと、「保持」されにくくなり、「想起」も出来にくくなるのです。 その「記銘」する時の、意欲、注意の集中力及び注意の分配力の関わり方、発揮の程度により、「記名度」自体が左右され、そのことが「保持」及び「想起」にも大きく影響してくることになるのです。このことは、私たちが集積してきた極めて多数の脳機能データに関する「MMS下位項目」の項目分析の結果により確認されているのです。
これが、加齢とともに「物忘れ」の症状の程度や態様や頻度が重くなってくることの原因、脳のメカニズムなのです。つまり、加齢とともに物忘れの症状が重くなっていく(頻度、程度及び態様が次第に重くなっていく)原因は、「前頭葉」の「3本柱」の機能である「意欲」、「注意の集中力」及び「注意の分配力」の機能に「正常老化」の性質が内在していることと直接の関係があるということなのです。「高齢者」であるあなたの場合、脳が壊れてもいないのに(脳梗塞や脳出血、或いは脳の変性疾患等が確認されないのに)、物忘れの症状が多発するときは、「前頭葉」の廃用性の機能障害を疑う必要があります。その背後には、必ず、ナイナイ尽くしの「単調な生活」の継続があるはずなのです。「前頭葉」の機能レベルが正常であるかどうか及び何かを「キッカケ」として、ナイナイ尽くしの「単調な生活」が始まり、そうした単調な生活が継続する生活環境に陥っていないかをチェックしてもらうことをお勧めします。但し、「前頭葉」の機能レベルは、CTやMRIでは精緻な判定ができないことを念のため付言しておきますので、注意してください。
上述した「前頭葉」の機能に内在する「正常老化の性質」の問題に加えて、記銘するときの「置かれている状況」の問題が、これから説明する「注意の分配力」の機能の関与の仕方や程度が「物忘れ」の症状の発現に与える影響の問題なのです。「記銘」するときの状況の中で「注意の分配力」がどの程度に、どのように関与していたのかが、その時の「記銘度」自体を決定づけるので、そのことがその後の「保持」及び「想起」に直接影響するという問題です。そのことを、具体的に例示する状況設定により分かり易く説明してみましょう。みなさんに分かり易くと言うか、(あなただけでなく、60歳代以降の年齢の高齢者は愚か、50歳代の人でさえ誰でもが日常的に体験していることなのですが)日々の生活の中で頻繁に体験している事例を取り上げてそのメカニズムを分かりやすく解説してみることにします。
1つの条件は、あなたが自動車を運転できるということ、もう1つの条件は、あなたに「重大な心配ごと」があって、そのことがいつもあなたの心を占めている状況にあると考えてください。
今日は久方ぶりに天気の良い日曜日なのです。20分そこらで行ける近くのスーパーに、あなたは、いつもの通りなれた道を車で買い物に出かけたのです。狭い道を抜けて三叉路の大きな通りに出て、その後何度か交差点で赤信号や青信号に会い、右や左に曲がって行って、事故を起こすこともなくスムーズに目的地に着いたのです。目的地についた時、あなたはふと我に返って思うのです。狭い坂道を登ったところにあるあの交差点を右折して、どうやって交通量が多い広い道に出たのか全く覚えていないのです。信号機は有るもののその交差点は、上下両方からの交通量が多くて、いつも危ない怖い思いをする交差点なのです。今日は日曜日で交通量が多かったはずなのに、どうやってその交差点を安全に出たのか全く覚えていないと言うか、思い出すことができないのです。或る程度年を取った年齢の人なら誰でもこんな経験をお持ちのはずなのです。この体験を起こさせている主犯格が、「注意の分配力」という機能の、さらに言えば、その機能の加齢に伴う「老化」の問題なのです。 或る特定の「重大なテーマ」に気持ちがいつも関わっている(注意力が主に分配されている)状態の下では、それ以外の他のテーマには十分な注意力が分配されない、言い換えると「上の空状態になる」のです。 「心ここにあらざれば、見れども見えず、聞けども聞こえず」と言うでしょう。年をとればとるほど、「注意の分配力」の機能の老化現象として、この傾向が顕著に現れてくることになるのです。
ここで私たちの意識的な行為の世界を、今日のあなた自身の心の状況を元にして分析してみましょう。今日は久方の天気の良い日曜日を、それなりに楽しく過ごせたはずなのです。ああ、それなのに。目の中に入れても痛くない程に可愛がっているあなたの孫息子が今日は中学の受験の日なのです。今日が第一希望の学校の受験日なのです。今朝目覚めてからというもの、あなた自身がまるで自分が受験生であるかのように、いやそれ以上に、今日の受験のことで頭がいっぱいなのです。気が気でないのです。何をしていても何時もそのことが脳裏にこびりついていて、なんにも手がつかないというか、気持ちが他のことに回らない状態なのです。
そんな気持ちのままに、近くのスーパーに車を運転して、買い物に来たところ。それが今のあなたなのです。車の運転をしている最中にも、上り坂の狭い道から交通量の多い広い道に出る信号待ちをしている時にも、受験している孫息子のことが脳裏にこびりついていて、常にあなたの心をいっぱいに占めていて、そのこと以外のテーマには十分な注意を分配できる心の余裕がないというか、なかったのです。
それでも、赤信号なのに飛び出て事故を起こすこともなく、道で反対車線の車と衝突することもなく、脱輪することもなく、スーパーの敷地内で人を撥ねることもなく、あなたが運転する車が無事にスーパーの店先に着くことができたのです。孫息子の受験というテーマに心が目一杯占められていようとも、あなたの「前頭葉」は正常な機能レベルにあるので、他のテーマにもそれなりに必要となる程度の注意を分配できていて、信号も確認できているし、対抗車線の車も確認できているし、スーパーの敷地内での人の行き来も確認できていたのです。ただ、他のテーマに対する注意の分配の程度が低いために、それらにかかわる「記銘の程度」が低くなっていたということなのです(そのテーマに対する都度の対応はできているが、後で想い出すことができない程度の注意の分配だった)。加齢とともに注意の分配機能は衰えていきます。例示したような状況やテーマでなくて、ちょっとした特定のテーマに心が奪われる(気持ちが拠る)場面で、何か他のテーマをやっていたり、やろうとしていると、そのことを後で思い出せない現象(物忘れ)が、たびたび起きてくるようになります。これこそが、加齢に伴う「前頭葉の正常老化」という原因により、日常的に発生してくるようになる物忘れの症状なのです。こうした「記憶障害」の症状は、アミロイドベータやタウ蛋白や脳の委縮が原因で起きてくるわけではないのです。
「注意の分配」機能自体に加齢による「正常老化」の性質が内在していることから、こうした現象は、加齢が進むほどその頻度や程度や態様が重症化していくことになるのです。それでも、「前頭葉」が正常な機能レベルにある限りは、そうした症状は認知症の症状ではなくて、「老化現象」に過ぎないのです。外観的にそうした症状を観察するだけでは、そうした「老化現象」と「アルツハイマー型認知症」の初期症状とを見分けることは、認知症の専門家にとっても難しいことなのです。的確な判定(診断)を行うには、私たちが開発した「二段階方式」に代表される精緻な神経心理機能テストの活用により、「前頭葉」の機能レベルが正常であるかどうかを測定し判定することが不可欠になるのです。
「アルツハイマー型認知症」の場合は、「前頭葉」を含む脳の機能レベルのアウト・プットそれ自体が「認知症の症状」として発現してくるのです(「アルツハイマー型認知症」の発病のメカニズムについては、ここを「クリック」してください)。「前頭葉」が正常な機能レベルにある限り、そのアウト・プットは正常なのであり、「前頭葉」の機能が異常なレベルにある限り左脳や右脳や運動の脳のすべての機能レベルが正常であっても、そのアウト・プットは異常なもの、「アルツハイマー型認知症」の症状そのものなのです。
気になって仕方がない程の程度と態様と頻度で物忘れが発現していようとも、「前頭葉」の機能が正常なレベルにある限り、その物忘れは「アルツハイマー型認知症」の症状ではないのです。その根拠は、「アルツハイマー型認知症」の場合は、上述したように脳が衰えていく明確な順番があるからなのです。
物忘れに限らず、私たちが定義し区分する「軽度認知症」(小ボケ)の症状は、表面的な症状だけを見ていると、「老化現象」と間違い易いのです。認知症の専門家とされる人たちは、「前頭葉」の働き具合を調べることをしないで、CTやMRIなどの機器を使って脳の形だけを調べてみたり、或いは「MMS」という神経心理機能テストで左脳と右脳の働き具合を調べることはあっても、肝心の「前頭葉」の働き具合を精緻なレベルで調べる手段を持たないので、「前頭葉」の機能が正常なレベルを保っている中で発現してくる「老化現象」と異常なレベルに衰えてきたことにより発現してくる「アルツハイマー型認知症」の初期症状(私たちの区分で言う「軽度認知症」及び「中等度認知症」の段階の症状)との厳密な差異が分からないのです。
注)本著作物(このブログB-04に記載され表現された内容)に係る著作権は、(有)エイジングライフ研究所に帰属しています。
エイジングライフ研究所のHP(を「クリック」してください)
脳機能からみた認知症(IEでないとうまく表示されません
http://blog.goo.ne.jp/quantum_pianist
http://blog.goo.ne.jp/kuru0214/e/d4801838dd9872301e0d491cd8900f1a