Q: 私は60歳になったばかりだというのに、67歳になる「アルツハイマー型認知症」の夫を抱えて自宅で介護をしています。認知症とはいえ夫は身体が丈夫なので、ちょっと目を離すと家の外に出て行き、そのまま徘徊してしまうのです。おまけに、昼夜の区別もつかないらしく、夜中にも何処かへ出かけようとすることがあります。私には、趣味や交友を楽しむ自由な時間は全くなく、介護に追われるだけの毎日です。
「アルツハイマー型認知症」の新薬が3種類も出て来るというので期待したのですが、それもつかの間のことでした。出てきたのは「治療薬」ではなくて、これまでの薬と同様に、症状の進行を遅らせる効果が期待できる可能性がある程度のものでしかないことがわかりました。私たち庶民には費用が高いので、病院にも施設にも預けることが出来ません。このままでは、私自身がまいってしまいそうです。
A: 雨降って、
転ぶと!
ボケが忍び寄る。
(撰者 松尾芭蕉布の講評) 足元がおぼつかない高齢のお年寄りが、雨が降って、何かの弾みに滑って転んで、複雑骨折をして、何カ月間か病院のベッドに伏せったままでいると、二つの問題を抱えることになります。1つは身体の問題で、脚の筋肉が廃用性の委縮を起こして歩行が困難になるのです。他の1つは脳の問題で、「前頭葉」(前頭前野のことを言うものとする。以下、同じ)が廃用性の機能低下を起こしてきて、認知症の症状(「小ボケ」の症状)が出てくることがよくあるのです。「アルツハイマー型認知症」発症のケースです。
「老人斑」ができたせいでも、「神経原線維変化」が起きてきたせいでもないのです。転んで、複雑骨折したことが「キッカケ」となって、何か月も病院のベッドに伏せったままで、ナイナイ尽くしの「単調な生活」が続き「前頭葉」の出番が極端に少ない日々を過ごしているうちに、「前頭葉」が老化を加速させ、機能が異常なレベルに衰えてきたせいなのです(「廃用性の機能低下」)。(ここを「クリック」してください)。
ところで、認知症にも種類がたくさんあるのをご存知でしょうか。その中でも大多数90%以上を占めているのが「アルツハイマー型認知症」というタイプの認知症です。ところが、「アルツハイマー型認知症」は、未だに発病の原因がわからないとされているのです。発病の原因については、老人斑を形成させるアミロイドベータが犯人とする「アミロイドベータ説」と神経原線維変化を起こさせるタウ蛋白が犯人とする「タウ蛋白説」とが足元が揺らぎながらも今のところ生き残っています。アミロイドベータやタウ蛋白の作用により神経細胞が侵され脱落していくという「仮説」なのです。「アルツハイマー型認知症」の場合は、「神経細胞」が脱落していくことにより、脳内での情報のやり取りに支障が起きてきて「記憶」に関わる脳の機能が重度に障害されると同時に、失語や失行や失認などの重い認知障害の症状が出てくること、この二つの要件の充足が確認されるという考え方のようです。
「アルツハイマー型認知症」の末期段階の症状(「重度認知症」のレベル)を何年間も呈していたお年寄りの解剖所見を基礎とする「仮説」に基づいて、「アルツハイマー型認知症」の診断基準が構築され、世界で最も権威があるとされる米国精神医学会の診断基準である「DSM-4」の規定にみられるように、「記憶障害」が診断の最も重要な(第一の要件)とされているのです。それを前提に、「失語」や「失行」や「失認」などの「重い症状」が認められることが(第二の要件)とされています。但し、この二つの要件を充足すると、「セルフケア」に支障が出て来るレベルになるので、日常生活に「介助」が不可欠になります(私たちの区分で言う「重度認知症」の段階であり、回復は困難)。(ここを「クリック」してください)。
注意すべきは、(第二の要件)の一番最後に、(失語、失行、失認又は実行機能の障害と言う位置づけで)「実行機能の障害」が挙げられている点です。「実行機能」とは、脳全体の司令塔である「前頭葉の機能」のことです。「アルツハイマー型認知症」の場合は、「前頭葉」の機能が最初に異常なレベルに衰えていくことで、「前頭葉の機能障害の症状」が最初に発現してくることが見逃されている(或いは、そのことを理解していない)のです。
「記憶の障害」の問題ではなくて、「前頭葉の諸機能」の障害すなわち、色々な認知機能を発揮する上での基礎となる三本柱の意欲、注意集中及び注意分配機能の障害並びに発想、企画、構成、計画、観察、分析、理解、把握、考察、洞察、推理、予見、シミュレーション、抑制、忍耐、創意、工夫、修正、機転、関心、興味、創造、感動、判断及び決断等の機能の障害、更にそれらに加えて最終的な実行内容を選択する上で不可欠な機能である「評価の物差し」としての評価機能の障害という「各種の前頭葉機能の障害」のアウトプットによる「症状」が最初に発現してくることを見落としているのです(この最初の段階が回復容易な「軽度認知症」であり、この段階では、記憶の障害に起因する症状は全く認められないのです)。(ここを「クリック」してください)
「アルツハイマー型認知症」の場合は、最初に「前頭葉の機能」だけが異常なレベルに衰えてくるのです(「軽度認知症」の段階)。最初の「軽度認知症」(小ボケ)の段階では、「社会生活面」に種々の支障が起きてくるようになります。次いで「高次機能」も異常なレベルに入ってくる「中等度認知症」(中ボケ)の段階では、「家庭生活面」にも支障が起きてくるようになります。最後の末期段階の「重度認知症」(大ボケ)の段階になると、「セルフケアの面」にも支障が起きてきて、日常生活に介助が必要になるのです。(ここを「クリック」してください)。
(kinukototadao からの説明) このブログで何度も指摘してきたように、最初の段階、脳の司令塔の「前頭葉」の働きだけが異常なレベルに衰えてきて、左脳も右脳も運動の脳も未だ働きが正常なレベルにある段階で発現してくる症状は、「アルツハイマー型認知症」の症状なのです。認知症の専門家たちの間で「不活発病」とか「軽度認知障害」等の名前で呼ばれていて、何等の注意の換気も対策も施されないで放置されているだけなのです。ところがこの段階(「軽度認知症」)が3年も続くと、私達の区分で言う「中等度認知症」(中ボケ)の段階に進んでしまうのです。そのことに「米国精神医学会」でさえ気づいていないということなのです。(ここを「クリック」してください)。
「重度の記憶障害」の症状が出ていて、且つ「失語」とか「失行」とか「失認」とかの末期段階に見られる症状が出てくる「重度認知症」(大ボケ)の段階になって初めて認知症と診断(「DSMー4」の診断基準)していたのでは「遅すぎる」のです。せっかく見つけても「アルツハイマー型認知症は、原因も分からないし、治らない」病気にされてしまうのです。「軽度認知症」(小ボケ)は回復容易で、「中等度認知症」(中ボケ)は回復可能で、「重度認知症」(大ボケ)になると回復は困難になるのです。
「アルツハイマー型認知症」の場合は、「前頭葉」を含む脳の機能の衰え方にリンクして、脳の機能レベルが「症状」として発現してくるのです。アミロイドベータ説やタウ蛋白説を唱える人達が言うように、神経線維の脱落による脳内での「情報の連絡」の不具合が、「記憶障害」を中核として「アルツハイマー型認知症」の症状を発現してくる訳ではないのです。そもそも、外観から目に付きやすい「記憶障害」の症状が「アルツハイマー型認知症」診断の第一の要件であるとの誤解が、発病のメカニズムに気づかない、或いは気づくことから遠ざけている根本の問題なのです。第一の要件は、記憶障害ではなくて、(廃用性の加速度的で異常な機能低下に起因する)「前頭葉」の機能障害なのです。
「記憶障害」をメインターゲットとすることが誤りであることについて、 分かりやすい例で説明しましょう。自転車のチューブに空気を入れる「空気ポンプ」という機器があります。「アルツハイマー型認知症」は、空気をチューブに運ぶ紐状のゴム管の部分(脳で言えば、情報を伝達する神経線維)に支障が起きてくることが症状発現の原因だというのが、アミロイドベータ説やタウ蛋白説の考え方です。この考えに立脚しているので、ゴム管を繕って空気が漏れる量を少しでも抑える効果を期待できるとされているのが現在販売されている4種類の薬ということなのです(治療薬ではなくて、「症状」の進行を遅らせる効果を狙うだけのもの)。
私達は(廃用性の機能低下説)、ゴム管の部分に支障があるからではなくて、ポンプを押して空気を押し出してやる部分(脳で言えば、情報を処理・発信してやる前頭葉等の機能)に支障が起きてきて(「廃用性の機能低下」)、脳が正常に働かなくなったことが「症状」発現の原因だと考えているのです(私達が集積してきたデータは、前頭葉を含む脳全体の機能レベルのアウトプットが症状だということを示している)。いくらゴム管を繕っても(神経細胞の修復)、そもそもポンプを押す作業をしない限り(脳の機能がちゃんと働かないのでは)、空気は流れない(情報の処理も発信もない)のです。
ところで、アミロイドベータ説やタウ蛋白説の考え方の人達が開発を目指している「アルツハイマー型認知症」の「治療薬」とは、異常なレベルに機能が衰えている「前頭葉」を含む脳の機能レベルを、飲むだけで(貼るだけで)、正常なレベルに引き戻すことが出来る薬と言うことになります。
意識的な行為の世界をコントロールしている、脳全体の司令塔の前頭葉の機能とそのメカニズムから考えたとき、そのような効能を持った薬が開発できるとは考えられない(あり得ない)のです。「重度認知症」(大ボケ)のお年寄りを抱えて介護に追われる家族の精神的、経済的負担は筆舌に尽くし難いほど大きいので、治療効果がある新薬への期待はとても大きいのです。とわ言え、そこに現実の市場は存在しないのです。治療薬の開発は、非現実だからです。
飲むだけで(貼るだけで)正常レベルに回復させることがあたかも可能であるかのような「新薬開発」の言葉がマスコミの記事で踊る度に、市町村による「予防」活動への取り組みが遠のいていくことになるのです。日本全体での高齢化率が30%を超えた時、取り返しのつかない状態がくるのです。予防は、啓蒙活動だけでは足りないからです。早期診断の窓口と小規模単位集落ごとの「地域予防活動」の実践とが不可欠だからです。(ここを「クリック」してください)。
「アルツハイマー型認知症」発病のメカニズムは、「前頭葉」を含む脳の「廃用性の機能低下」により異常なレベルに働きが衰えてくる結果として、「症状」が発現してくる(脳の機能レベルのアウトプットが症状)ということなのです。従って、「アルツハイマー型認知症」を治療する方法とは、衰えた脳の働きを正常なレベルに引き戻すことなのです。その為には、日常生活のいろんな場面で、「前頭葉」の出番が増えるようなテーマ、「趣味」や「遊び」や「人づきあい」や「運動」或いは「社会活動」等を自分なりのやり方で楽しみ「生活習慣」化すること、自分なりの目標や生き甲斐がある生活を送ることで、「前頭葉」の出番を増やしてやる(しっかり使ってやる)ことしか方法はないと言うのが、データと実践に裏付けられた私達の考えなのです。但し、「重度認知症」の段階にまで脳の機能が衰えてしまったら、使おうとすることさえしなくなり、その先にはできなくなるのです(回復させることは、もはや期待できなくなる)。
(コーヒー・ブレイク) 繰り返しになりますが、 「アルツハイマー型認知症」の各段階(小ボケ、中ボケ、大ボケ)で発現してくる個別の「症状」は、「廃用性の機能低下」というメカニズムにより、そこまで衰えた「前頭葉」を含む脳全体の機能レベルの単なるアウト・プットに過ぎないのです。アミロイド・ベータやタウ蛋白による神経線維の脱落が原因で「症状」が発現している訳ではないのです。
注)本著作物(このブログA-59に記載され表現された内容)に係る著作権は、(有)エイジングライフ研究所に帰属しています。
エイジングライフ研究所のHP(ここをクリックしてください)
脳機能からみた認知症の初期の見わけ方(IEでないとうまく表示されません)
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