「加齢による脳の老化」が「アルツハイマー型認知症」を発病する第一の要因だと言いました(A-26)。それでは、年をとると誰でも「アルツハイマー型認知症」を発病するのかと言えば、そうでないことは皆さんご承知の通りです。回転が速い人はお気づきのように、「加齢による脳の老化」以外の要因があるはずということになりますね。「アルツハイマー型認知症」を発病する「第二の要因」は、実は、日々の脳の使い方としての「生活習慣」と密接な関係があるのです。
「前頭葉」は、自分の置かれている状況を判断して、テーマの内容を企画し、その実施結果をシミュレーションした上で、どのような内容の行為をどのように実行するのかを選択し、最終的な実行内容を決定する「評価の物差し」の働きも持っています。「アルツハイマー型認知症」になるお年寄りの年代ごとの割合に、地域差が認められないということは、「何が重要かを判断する評価、価値尺度にも、地域差がない」ことを意味しています。
仕事に対する評価と趣味や遊びや人付き合いを楽しむことに対する評価、言い換えれば、どのような脳の使い方(「生活習慣」)を重視するのかということに関しても、私たち日本人の考え方は、日本全国ほとんど同じで地域差がないのです。価値観、生き方、日常生活での脳の使い方(生活習慣)が、皆ほとんど同じなのです。「アルツハイマー型認知症」の高率での発病と密接な関係がある「生活習慣」とは、どんなものなのか、ここで想像してみてください。第二の人生が始まって、早々とアルツハイマー型認知症を発病するお年寄りの姿を見ていると、気づくことがあるでしょう。
「左脳」は仕事や勉強をするための脳、「右脳」は趣味や遊びや人づきあいを楽しむための脳、「運動」の脳は身体を動かすための脳だと言いました。(N-24)を読み返してみてください。最近の若者の考え方は、相当変化してきているのではないかと思いますが、戦後の復興期からほんの最近まで、いわゆる「お年寄り」世代は、その人達が第一の人生を送るとき、脳の使い方が「左脳偏重」の人が多かったのです。つまり、「仕事偏重」の生き方をする人が多かったのです。
「企業戦士」とか「滅私奉公」とかの言葉がマスコミでもてはやされ、仕事に命をかける、家庭を忘れて仕事に全ての時間を費やす、会社に生涯を捧げることをよしとする考え、そうした風潮が日本人の社会的な「評価の物差し」となっていたのです。それが、敗戦後の日本の復興を支えてきた人達が作り上げた「社会規範」だったと言ってもいいでしょう。その社会規範の中で企業戦士として働き続けてきた夫たち(働く夫を支えてきた妻たち)が、夫の定年退職その他を契機にして、第一の人生で築きあげた評価の物差しのままで、第二の人生に入っていったのです。これは、企業に勤めた人を例として分かり易く説明しただけです。働いた先が、企業であれ、学校であれ、病院であれ、自治体や国であれ、農業や林業や漁業や商業に従事したのであれ、現在第二の人生を送っているお年寄りたち皆に共通して言えることなのです。「第一の人生」ではそれが必要だったのですが、「第二の人生」ではそれが逆効果となって現れてくるのです。
「仕事一筋」の生き方、「左脳偏重」の生活習慣を疑うこともなく、社会的な規範として抵抗もなく受け入れて第一の人生を送ってきた人達は、第二の人生に入っていくと、仕事以外のことには価値を見出し難いのです。第一の人生での体験が少ないことも一因なのですが、趣味とか遊びとか運動とかに価値がおけなくて、熱中することが出来ないのです。年をとった自分がそうしたことに熱中することに評価がおけないし、恥ずかしいことと考える人達も少なくないのです。若い者が働いているのに、年寄りが遊んでなんかいられないと公言するのです。その上、日本人は、相互に家に呼びあうような「密な人づきあい」は余りしません。こうした価値観を変えることが出来ない人達は、第二の人生が始まり、生きていく上での「生きがい」や「喜び」や「目標」を与えてくれていた「仕事」がなくなったとき、「仕事以外のテーマ」をどのように持って、どのように毎日を過ごしだらいいのか分からないのです。生きがいや喜びを与えてくれるもの、目標となるものもなく、時間をもてあますのです。生き甲斐なく、趣味なく、交遊なく、運動もせず、目標もない、ナイナイ尽くしの「単調な毎日」を過ごすことになるのです。北海道から九州まで、そうしたお年寄りの姿をたくさん、私たちは見てきました。
このような生き方、脳の使い方としての「生活習慣」が、「アルツハイマー型認知症」の発病と密接な関わりがあることについては、(N-30)で詳しく説明する予定です。
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